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リアクション
◆第2章 レスキュー到着!◆
遺跡の通路を重い足音が響き、地面が微かに揺れる。清泉 北都(いずみ・ほくと)は角から微かに顔を出し、ガーディアンが通り過ぎたことを確認する。
「よ〜し、通り過ぎたみたいだね」
「よかった、せっかく近くまで来たのに戦闘で時間を取られるわけにはいかないものね」
隣で五寧 祝詞(ごねい・のりと)が安堵の息をつく。緊張のためか、汗で額に張り付いてしまった銀の前髪を手で直していた。
「清泉さん、何か聞こえた?」
「うん・・・・・・ちょっと待って」
北都の頭についた獣耳がぴこぴこと動く。鋭どくなった感覚で、周囲の音や臭いを探っているのだ
「聞こえる・・・・・・十人から二十人くらいかなぁ。少しだけど血の臭いが混じっているから、怪我をした人もいるみたい、だね」
負傷者が居ないことを願っていたものの、やはりほとんど一般人で構成された先行調査隊ではモンスターから無傷で逃げることは叶わなかったようだ。それなら、彼らのやることは1つ。
「これ以上、怪我人を増やさないようにしないといけないわ」
祝詞の言葉に、北都が頷く。彼が手にしている銃型HCには査隊が作成した遺跡内の地図が映されていた。完全とまではいかないものの、これで大幅に時間を短縮することが出来たのだ。
「北都、この周辺に罠はないみたいです。敵の影もありませんから、先に進みましょう」
「このすぐ近くに崩壊の少ない部屋があった。あそこなら状況の確認や治療が安全に出来
やるだろう。手分けしている他のメンバーにも位置情報を送信しておく」
足音を忍ばせ戻ってきたのはクナイ・アヤシ(くない・あやし)と百目鬼 腕(どうめき・かいな)。周囲の状況を確認していたのだ。
「うん、ありがとうクナイ。怪我人が居るみたいだから、合流したら手当てをしてあげて欲しいな」
「分かりました。祝詞さんも手伝ってくれますか?」
「私に出来ることなら、何でも手伝うわ」
「よーし、じゃあいこうか」
エネルギーが不安定に増大しているのか、ときおり揺れる遺跡の中を北都はいつもと変わらぬ様子で進む。その様子を見て祝詞は「すごいな」と感嘆するのだった。もし今より力を付け、自分に出来ることが増えれば、彼のようになれるのだろうか。そんなパートナーに、腕は声をかける。
「焦ることはない、祝詞」
「・・・・・・うん、“君は君のままあればいい”でしょ? ありがとう」
そんな二人の様子を、クナイは微笑ましげに見ていた。
ほどなくして、遺跡の小部屋へと一行は到着する。
「皆さん、救助に来ました! 他にも沢山の仲間が来ていますから、落ち着いて行動しましょう! まず怪我を負っている人への治療を行います!」
祝詞は努めて明るく、はきはきと声を出す。
「コイツが大蜘蛛に足を噛まれたんだ! 毒は無いと思うんだが・・・・・・」
「分かりました。見せて頂けますか? ・・・・・・あぁ、大丈夫です。すぐに治療しますから、動かないでくださいね」
すぐさまクナイが治療を開始する。北都と腕は周囲の警戒、祝詞はこの場に居ない隊員たちのことを聞いて、他の仲間へ連絡する。
誰もが、「自分に出来ること」を精一杯やっていた。その様子に、最初は不安そうだった調査員たちの顔にも落ち着きが戻ってゆく。祝詞からの連絡を受けた仲間たちも合流しつつあった。
「ここから直ぐ先に、もう少し安全な場所を見つけてあるわ。一度そこに移動して、今後の方針を決めましょう!」
* * *
ダァンッ ダァンッ
二丁の拳銃が火を噴き、天井から降り立った大蜘蛛が撃ち抜かれる。
「ホント、キリがないわねコレ!」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は柱や天井に張り付いてこちらを窺うモンスターへと牽制射撃を加える。その傍らではセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が怪我をした隊員の治療を行っていた。
仲間と手分けして調査隊の救助にあたっていた彼女たちは、モンスターから逃れるうちに本隊とはぐれてしまった隊員たちを発見したのだ。
「これで大丈夫。セレン、治療終了!」
「オーケイ、セレアナ。敵も少し退いたみたいだし、移動を始めようと思うんだけど。みんな、打ち合わせの通りで良いわね?」
セレンの言葉に、隊員たちは頷く。二人が現われた当初は「なぜ水着の女性が二人!?」という顔をしていた彼らだが、彼女たちの迅速な行動を目の当たりにして、その眼差しは信頼へと変わっていた。本隊が待つ部屋へと一旦合流し、遺跡から脱出するか封印を手伝うかを決めよう、という手筈になっている。
「じゃあ、移動を始めるわ……って、全体連絡?」
「なにか進展があったのかも。私が周囲警戒をしてるから、セレンは連絡を確認して」
端末を開いたセレンからやや離れ、セレアナは槍を構えて周囲を警戒する。セレンも隊員たちを庇える位置をキープしつつ端末を開いた。
それは、外部で遺跡について調査していたチームからの連絡だった。遺跡の正体が分かった、ということである。
「……ッ」
送られて来た情報、この遺跡に封じられているものを見て、さすがのセレンも一瞬息をのむ。
(どうしたの? セレン)
(……この遺跡の正体に見当がついたみたい。ここを建てたの、大昔の鏖殺寺院なのね。そして、奥のあるのは闇龍の欠片、らしいわ)
(闇龍……!?)
警戒を解かず、二人はテレパシーで情報を確認する。いずれ伝えなければならないことだが、無用な混乱を生まないためだ。微かに眉根を寄せた相棒に、セレンは笑う。
(だからって、私たちのやることは変わらないわ。そうでしょ?)
(……そうね)
無言で視線を交す二人の様子に、隊員の一人が声をあげる。
「な、なにか大変なことでもあったんですか?」
「移動して落ち着いたら話すから、今は待ってて。焦ってもどうしようもないじゃない? ……運が悪けりゃ、死ぬだけよ」
「し……」
さらりと言って笑うセレンに、一瞬だけ動揺が広がる。しかし不思議なことに彼女が口にすると、その言葉には妙な説得力があった。何度も死線を潜った者の言葉だから、だろうか。
(まったく、もう少し上手い励まし方もあるでしょうに)
セレアナは思わす苦笑する。彼女の恋人はいつもこうだ。いい加減で、大雑把で、強引で……けれど、“自分のすべきこと”を見失わないから、周囲は不思議と安心できる。
「……そうだな、もうジタバタしたって仕方ない。シャーレットさん、早く本隊と合流しよう」
「そうそう、その意気よ!」
二人は隊員たちを守るフォーメーションで移動を開始する。
隊員たちは皆、“覚悟を決めた”のだ。目の前の二人のように、自分たちのすべきことをすると。
* * *