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悪魔の鏡

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悪魔の鏡
悪魔の鏡 悪魔の鏡

リアクション

「オッス! オラ、レティシア・ブルーウォーター! 強ぇ奴を求めて、空京へとやってきたんだ! 何だか知らないが、すっげぇワクワクしてきたぞ!」
 さて、ここは空京の繁華街。日中人々が行きかう広場の真ん中に、一人の異様な少女が姿を現していた。
 茶髪のポニーテイルに、存在感抜群の胸。蒼空学園の女子制服を身に纏ってはいるのだが、両肩から先の袖は千切れており、ギザギザのノースリーブ状態になっている。背中にはどういうわけか、『界玉』と描かれた刺繍が縫い付けてあり、強敵に飢えた戦闘人種を模しているように思えた。
 集まってきたヤジ馬たちが物珍しげに眺める中、レティシア・ブルーウォーターは、何かに気づいたように正面を向いたまま不敵な笑みを浮かべる。
「……来たな。怖気づいて逃げ出したのかと思っていたぞ、ミッコロ……、いや、ミスティ」
 彼女の背後から、もう一人の少女が音もなく姿を現していたのだ。
 蒼空学園の制服の上からマントを羽織り、値札のついたターバンを頭に巻いている。恐らく、どこぞの店舗から奪い取ってきたもののようだが、緑のショートヘアにとても似合っていた。遠くの星からやってきた緑の人みたいだった。
「ふん……、貴様なぞの手を煩わせるまでもない。『ブルーザ』ごとき、この俺様一人で粉々に砕いてやるぜ」
 唇の端を歪めて答えたのは、レティシア・ブルーウォーターの相棒のミスティ・シューティスだった。
 二人は敵同士として激しく戦った間柄だった。だが、宇宙一の破壊王ブルーザの脅威を打ち破るために一時的に共同戦線を張っているのだ。……まあ、多分。
「行くぞ、ミッコロ」
「ああ。足を引っ張るなよ」
 二人は並んで歩き出した。舞空術……もとい、“オリジナル”が空飛ぶスキルを装備していないため、彼女らも使えない。徒歩で行くしかないのだ。
 広場で見物していた人たちがざわめいている。
「ママ……、なにあれ……?」
 広場で遊んでいた幼い子供が二人を見て指差している。
「しっ、見ちゃいけません!」
 母親が子供を引っ張って逃げていった。すぐに噂話になるだろう……。
「……」
 レティシア・ブルーウォーターミスティ・シューティスは、ややあって立ち止まる。
 人ごみを掻き分けて、ブルーザがやってきたのだ。
「ふふふ……虫けらが。一息に殺してあげましょう。……ユウーボンさん、ロンドリアさん。やっておしまいなさい」
 レティシア・ブルーウォーターミスティ・シューティスを蹴散らすために両脇にいる手下(?)に命じたのは、『ブルーザ』ことリアトリス・ブルーウォーターだった。肌が白いのは白粉でも塗っているのだろうか。そして頭だけ紫、というか青髪。目つきが吊り上がっていて尋常ではないことになっていた。早くも完全形態らしい。
「私の戦闘力は120万以上です」
 ブルーザは高らかに宣言する。
「げははははは、死ね!」
「息の根を止めてあげましょう!」
 ブルーザの手下のユウキ・ブルーウォータースプリングロンド・ヨシュアが襲い掛かってくる。迎え撃つレティシア・ブルーウォーターミスティ・シューティス。両者のスキルが炸裂し、辺り一面で爆発した。
「ぎゃああああああっっ!?」
「わあああああっっ!」
 野次馬たちが逃げ惑う。
「ふはははは……、死になさい!」
 と……。
「あほですかぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
 彼方からすごい勢いでブルーザたちに駆け寄ってくる少女がいた。広場でドッペルゲンガーが騒いるのを発見したレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、血相を変えてスキルを編み上げる。
「なんてことをしてくれているんですか、あんたたちはぁぁぁぁ!」
 ドオオオオオオオ!
 レティシアの渾身の必殺技が、ドッペルゲンガーを巻き込んだ。ブルーザもろとも吹き飛ばす。
「くっ……、ブルーリボン軍の人造兵器かっ!」
 すぐさま体勢を立て直したレティシア・ブルーウォーターは、レティシアと対峙する。
「なんですかぁ、ブルーリボン軍って!? しかも、人造人間っぽいのはあんたたちなのですぅ!」
 レティシアは、ドッペルゲンカーをビシリと指差す。もうマジ切れだった。イメージを損なわないためにも迅速に捕獲を目指していたのだが、こんなことになっていようとは……。浮気性の旦那を見たくもないと思っていたのだが、想定の範囲外だろう。ブルーザ? なにそれ……。キャラ崩壊ってレベルじゃなかった。
「20倍界玉拳!」
 と、レティシア・ブルーウォーターは力をため始めた。
「いい加減にしなさいぃぃぃぃっ! 何が20倍ですかぁぁぁっ!」
 レティシアはドッペルゲンガーと戦い始めた。能力的には同じなので、容易に勝負はつきそうにない。
「お願いだからやめて、そういうの!」
 レティシアのパートナーのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は、マントにターバン姿の謎の少女、通称(?)ミッコロが戦闘に参加する前に割って入った。
「……引っ込んでろ、地球人!」
「あなたこそ地球外へ退出しなさい! 町を歩けなくなったらどうするのよ!?」
 ミスティは、こちらを見つめる見物客の痛い視線をひしひしと感じながら戦わざるを得なくなった。敵も自分と同じスキルを放ってくるので戦いにくい。
「よくもやってくれたなぁ! もう少しで死ぬところだったぞ!」
 ブルーザが激怒しながら起き上がってきた。髪の毛が逆立ち、筋肉が盛り上がった。みちみち……、と衣装がパンパンに膨れ上がり、美貌が台無しだ。
「100%の恐怖を味わうがいい!」
「100%滅びろよ!」
 ブルーザの背後から、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)がすっとんできた。とても優しい笑顔を浮かべたまま――人間激しく怒るとこんな顔になるのだ――攻撃を仕掛ける。
「ぐあああああっっ!?」
 怒号を上げながら、ブルーザは倒れた。が、すぐに立ち上がって、反撃してくる。
「くくく……、私を怒らせた罪は重い」
「僕を怒らせた罪の方が重いよ!」
 普段は優しいリアトリスも今回ばかりは容赦はしない。よくもまあ、ここまで色モノが出来上がったものだ。なにが、『ブルーザ』なんだか……。完全に消滅させないと大変なことになる。ただのコスプレでした、で誤魔化せる範疇を越えていた。
 フラメンコを踊りながら敵の攻撃を避け、【龍の波動】を拳に纏わせて腹部にボディブロウを叩き込み……。
 敵のブルーザも真似をしてきた。ドガガ! と相打ちになる。
「ぐぐぐ……」
 自分と同じパワーでダメージを食らったリアトリスは、怯むことなく、特製武器の【スイートピースライサー】で【レジェンドストライク】で攻撃し、【サイドワインダー】でブルーザを違う敵に蹴り飛ばす。
「おのれぇぇぇぇぇぇ!」
 ブルーザは叫び声をあげながら、ロンドリアさんとして戦っていたスプリングロンド・ヨシュアに激突する。
「だめだこいつら。早く何とかしないと……」
【疾風迅雷】のスキルで駆けつけてきたスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)は、自分のドッペルゲンガーの姿を見て、舌打ちした。
「【しびれ粉】!」
「……なっ!?」
 敵が先にスキルを使ってきて、スプリングロンドは慌てて飛びのく。コピーはオリジナルと同じ能力。自分が使えるスキルは相手も使えると言うことだ。
「だが、同じ技でも錬度が違うのだよ!」
 スプリングロンドも【しびれ粉】のスキルを放った。出現したてのコピーとは戦闘経験が違った。
「……ぐあ!?」
 スプリングロンドのドッペルゲンガーは、正面から技を食らってよろめいた。その動きが見る見る遅くなっていく。
「ここまでだな、ニセモノよ。お前の負けは下っ端役で登場した時点ですでに決まっていた」
「自分で言っていて残念にならない? まあ、ボクのもそうなんだけどさ」
 リアトリスと共にドッペルゲンガーの捕獲にやってきていたユウキ・ブルーウォーター(ゆうき・ぶるーうぉーたー)は、スプリングロンドと連携して攻撃を繰り出す。
「パパやママほどキャラ崩壊していなくて良かった。それでも好き勝手にさせておくわけにはいかないんだけどさ」
 ユウキは、まだ自分のコピー相手に悪戦苦闘しているリアトリスやレティシアにチラリと視線を投げかけながら小さく呟いた。
 彼女は、何だかよくわからないが悪の配下として出現していた自分のコピーに、【爆炎波】と【ソニックブレード】を組み合わせた技を叩き込む。優雅にフラメンコを踊りながら翻弄してくるユウキについていけなくなり、ドッペルゲンガーは痛烈な攻撃を食らっていた。
「雷嵐神楽・焔(らいらんかぐら・ほむら)!」
「おぶぶぶぶ!」
「変な声出さないでよ! みんなこっちを見てるじゃない!」
 ユウキは、派手なアクションで倒れたコピーを人目から隠すように押さえ込んだ。相手の頭の上から衣装の上着を被せて見えなくしておく。
「……とはいえ、自分の手で殺す(?)のも気分がよくないんだけど」
「鏡が見つかって破壊されるまで、確保しておこう」
 スプリングロンドは、予め用意してあった20mロープで動けなくなったドッペルゲンガーを縛り上げ、野次馬の好奇の目から遮るために物陰へと連れ込んだ。
「オレは鏡探しを続ける。ここでがっぷりと四つに組んでろ」
 彼は、連れて来ていたアフリカ像の獣人である【獣人力士】にドッペルゲンガーを組み付かせると、まだ戦っているリアトリスたちに視線をやる。
「何を手こずっているんだが……。こちらは鏡探しを続けるから、先に行くぞ」
「ちょっとひどいじゃない。宇宙戦闘民族のドッペルゲンガーを見るなり他人のフリをするなんて。キワモノには関わりたくないってこと?」
 自分のドッペルゲンガーを確保し終えたユウキは、ヤジ馬たちに混ざって心配げな表情で遠巻きにこちらの様子を眺めていた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)に向き直る。
「い、いや……、状況に引いていたわけじゃないんだ。俺たちだって他人事じゃないんだからな。悪いが、こちらも手助けできそうにない……」
 リアトリスやレティシアたちと共にやってきていた忍はそう答える。彼は、おかしな格好をしたリアトリスたちのコピーを避けていたわけでも、戦闘の協力を嫌がって隠れていたわけでもなかった。
 彼女らが戦っている間に、忍も自分たちのニセモノを見つけてしまったのだ。
「“アレ”をね、どうしてくれようかと考えていたところだったんだ。一人で行くべきか、皆と行くべきか……。さすがにシャレにならない」
 彼は、広場から良く見える大通りを指差した。そこではすでに、激しい戦闘が繰り広げられている。
 戦っているのは、忍のパートナーの織田 信長(おだ・のぶなが)だ。その相手は信長にそっくりの少女なのだが、どこから持ってきたのか毒々しいピンク色の化粧を全身に塗りたくっている。禍々しいオーラを纏い出現したピンクの少女が町で乱暴を働いているのを信長が目ざとく見つけ、抹消すべく真っ先に挑みかかって行ったのだが……。
「私の姿で悪さをしようなどとは、許してはおけぬ! おまえ、何者じゃ!?」
 能力が全く同じ敵に、信長は真剣に問いかける。これは、早くとめないと危険だ。
「……魔人・ノブウ」
 信長のドッペルゲンガーは短く答えた。
「……レティたちのところだけかと思ったら、こっちもそうだった。どこをどう間違えたら、あんな事態になるんだ……?」
 どう収拾つけるんだ、これ……? 忍は呆れた様子でため息をつく。
「あの人たち私やしーちゃんや信長さんに似てますね」
 忍の呟きに、傍にいたパートナーの桜葉 香奈(さくらば・かな)は、今ひとつ理解できていない口調で言う。
「とりあえず、俺はあの応援しているだけのミスター・アフロをボコっとく。香奈の相手は、あっちの昆虫っぽい甲冑を着た奴かな」
 忍は、自分にそっくりの若者も近くにいるのに気づいて面倒くさそうに指を鳴らした。どうして、自分のドッペルゲンガーだけアフロで浅黒い肌のザコっぽい風貌なんだろう……。彼は文句を言うつもりもなかった。
「私の名は”せるかな?”だ。私は世界など興味は無い。人々が苦しむ姿を見るのが楽しみだ……!」
 緑色に黒い斑点の昆虫っぽい甲冑を身に着けた香奈のニセモノが、ビシリと指差しながら宣言してくる。
「本来の名前の”せる”に”かな”をくっつけてみたが、疑問文みたいな響きになるのが弱点だ。それ以外に死角は無い! さあ、かかって来い。貴様も取り込んでやろう。そして私はパワーを吸収して完全体になるのだ!」
「は、はい……?」
 香奈は、どう返事をしていいのかわからずにその場で固まる。
「どうするんだ、香奈? あれ、説得できるのか……? もうなんだか、総合的に見てダメだろう……」
 忍は半眼になりながら香奈に言う。
「死ね、虫けらども!」
 せるかな? は無差別にスキルを放ち始めた。香奈とまったく同じ能力。【無量光】、【神威の矢】、【サイドワインダー】……などを装着しているため非常に危険な存在だった。
「あ、あわわわ……。こんな事はやめてください! 皆さん迷惑しています!」
 我に返った香奈は、大慌てでドッペルゲンガーたちに駆け寄っていく。香奈のコピーはガン無視で、場所を移動しながら攻撃を始める。
「ははは……、いいぞ。皆殺しだ!」
「【子守唄】」
 香奈は、敵を眠らせようとする。ドッペルゲンガーとは違い、スキルの使い方も優しい性格に見合ったものだ。
「くくく……、無駄無駄ぁ!」
 香奈のニセモノは気合を入れてスキルを抵抗した。
「いい加減にしなさい! 故郷のお母さんは泣いてますよ!?」
 香奈は、本当にお母さんの子守唄を歌い始める。美しい旋律が響き渡った。その歌声は、聴く者に幼少の故郷を思い起こさせるものだった。
「ふっ、愚かな。この私にお母さんなど……。……。……うう、お母さん、ごめんなさい……」
 香奈のドッペルゲンガーは、故郷の母親を思い出したのか、しくしくと泣き始めた。
「……お母さん、いたのか……」
 忍は、ちょっとほろりとしながらも香奈に視線を向ける。
「……お母さん……」
 香奈もつられて、忍と出会う前の故郷を思い出し一緒にうるうるする。よくわからないが、まあそんなこともあるのだろう。
「さて、こちらは、と……」
 忍は、自分のコピーに向き直る。比較的無害そうだが、ほうっておくわけには行かない。
「じゃあ、やるか! ……覚悟しろよ」
「今日のところはこの辺で勘弁しておいてやる! 覚えていろよ!」
 忍の気迫を感じ取ったドッペルゲンガーは、捨て台詞を吐いて逃げ出した。見かけどおり(?)の小心者らしい。
「【神威の矢】!」
 自分のドッペルゲンガーを捕まえ終えた香奈が、振り向きざまスキルを放つ。
「【グラビティコントロール】!」
 信長の放ったスキルが、忍のドッペルゲンガーを押しつぶしていた。ぐはぁ! と悲鳴を上げて倒れ伏したコピーは、そのまま動かなくなった。 
「……楽でいいけど。どれだけザコ扱いなんだよ、俺のコピー……」
 忍は、ミスター・アフロこと自分のドッペルゲンガーを捕獲した。とりあえず、ぐるぐるに縛って動けなくしておこう。
「……我ながら(?)、よく戦ったな魔人ノブウとやら! じゃが、本物の第六天魔王には敵わぬ。安らかに眠るがいい!」
 戦闘を続けていた信長は、自分のドッペルゲンガーの弱点と隙を巧みに突き、致命傷を負わせた。
「ブウゥゥゥ……!」
 叫び声を上げながら、魔人ノブウは倒れた。
「ふう……、面倒をかけおって。……さて、向こうは……?」
 信長は、広場で戦うレティシアたちに視線をやった。
「世界中のみんな! オラに力を分けてくれ!」
 苦境に立たされたレティシアのドッペルゲンガーは空に向けて両手を伸ばす。だが、誰も力を貸してはくれなかった。
「……」
 レティシアは、隙だらけになったドッペルゲンガーを無言で蹴り倒した。
「強えぇな、おめえ……。オラわくわくしてきたぞ……」
 ぐはっ、とレティシアのコピーもとうとう力尽きる。
「とりあえず、あちきのイメージが崩れずにすんでよかったですぅ……」
 レティシアは、敵を倒すとほっとして額の汗をぬぐった。いい勝負だった。
「いや、すでに手遅れっぽいから……」
 リアトリスが困った笑顔を浮かべながら、レティシアの肩をぽんと叩く。
 こちらもブルーザとか名乗るニセモノを倒したのだが、広場に集まってきていた見物客の好奇の視線と戸惑いのざわめきは広がるばかりだ。
「おまえら、なにをじろじろと見ておる! 騒ぎは終わりじゃ、散れ!」
 信長は、【魔銃ケルベロス】を上空に向けて数発威嚇射撃した。その怒気に驚いて、集まってきていたヤジ馬たちは蜘蛛の子散らすように逃げ去っていく。
「いいか、おまえら! ここで見たことは誰にも言うでないぞ!」
「……いや、信長のほうがコピーより騒ぎ大きくしているから」
 やれやれ、と忍はため息をついた。
 人の噂も七十五日。まあ、飽きっぽい野次馬たちのことだ。すぐにこんな騒動など忘れて次々に沸き起こる別の噂に夢中になるだろうが……。
「さて、では行きましょうかぁ……」
 じっと機を伺っていたルーシェリアが、用意してあった長ロープでレティシアたちを捕らえていた。かわいらしく微笑んで連れて行こうとする。
「これは何のまねですかぁ……?」
「ニセモノかもしれませんしぃ……」
「そんなわけ、ないでしょうがぁぁぁぁ!」
 レティシアは額に怒りマークの笑顔を浮かべたまま全力で突っ込んだ。
「まあ、先に連れて行かれた和輝君たちも迎えに行かなければならないわけだし。集団訪問できそうだね」
 リアトリスは遠い目で彼方を眺めた。
 広場の向こうから、憲兵隊の香ローザが暴徒鎮圧の武装警官たちを引き連れやってくるのが見えた。あれだけ騒いだので、誰かが通報したのだろう。これはただで済みそうもなかった。抵抗するか、それとも……。
 リアトリスは無表情でケータイを取り出した。鏡を探しにこの現場を離れたスプリングロンドとユウキに伝言ぐらいは出来るだろう。
「もしもし、おとうさん? ……帰りは遅くなるよ。ちょっとカツどん食べていこうと思ってね……」