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【ぷりかる】迅雷風烈

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【ぷりかる】迅雷風烈

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二章 捕縛

 迅雷は右の膝を庇うように、さらに動きを遅くしながらも前進を続けていた。
「また動き出したな……楊霞、あれは石化できないのか?」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は紅玉を拘束している楊霞に声をかけ、楊霞は首を横に振った。
「申し訳ありません。さすがに無機物を石化させるほどの力は……」
「ああ、聞いてみただけだよ。それに楊霞の今の仕事はそいつが逃げ出さないように見張ることだしな……あのでかいのはオレたちがなんのかする」
「はい……シリウス様、どうかご無事で」
 楊霞に一礼されて見送られると、
「行くぞサビク」
「うん、分かってるよ」
 シリウスに声をかけられてサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)はバズーカを用意しはじめる。
「こっちはいつでも大丈夫だよ」
「よし、それじゃ……変身!」
 叫んだ瞬間、シリウスの服が光り始めまるで魔法少女のような可愛らしい服装に変わってしまう。
「サビク! あいつの動きを止めてくれ! 着弾後は楊霞を援護して脱出だ!」
「了解!」
 サビクはバズーカを肩に担ぐと引きずられている右膝に狙いを付けてバズーカを発射した。
「ッグウググウウオオオオオオ……」
 迅雷は飛来物を察知して、腕を伸ばすと小型ミサイルが姿を現した。
「ふむ……あれだけ派手に爆発したわりにはまだ兵器が仕込まれておるとはのぅ……念のため接近しておいて正解だったようじゃのぅ」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は歴戦の飛翔術で、
「発射なんてさせませんよ!」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)はジェットブーツで上空を飛行し、ホリイは歴戦の魔術をミサイルポッドに放った。
 衝撃がミサイルポッドに襲いかかりミサイルは射出されるまえに腕の中で爆ぜた!
「グオオオオオオオオオオッッッゴオオオオ!」
 迅雷は痛みを感じているかのような悲鳴を上げる。
 爆ぜた腕はミサイルのあった部分から装甲がひしゃげてしまう。
「どうせまだまだ武器が仕込んであるのじゃろう。中にいる奴が引きずり出されるまで使用は控えてもらおうかのぅ」
 羽純はニヤリと笑みを浮かべると、首筋に回りこんでサンダークラップを見舞った。
「!!???」
 電流が迅雷の身体に迸り、あちこちに仕込まれていた武器が中途半端に開閉を繰り返し始める。
「うむ、武器系統が混乱したようじゃ。これでしばらくは時間が稼げるじゃろう。ホリイ、わらわたちも戻るぞ!」
「了解でーす!」
 ホリイが返事を返して羽純が迅雷から離れていると、サビクが放ったバズーカの弾が迅雷の膝に着弾し爆音が轟き、迅雷は体勢を崩すまいとその場に立ち尽くす。
「これだけ足下がフラフラの状態でメインカメラをやられたら、どうなるかな?」
 立ち尽くす迅雷の顔の前まで飛翔したシリウスはニヤリと笑みを浮かべると、迅雷の顔目がけてホワイトアウトを放った。
「グオオオオオオ……!」
 迅雷は唸るように鳴いていると、徐々にシリウスから放たれる猛吹雪で顔面を凍りつかせていく。
「……」
 口も封じられた迅雷は叫ぶことも出来なくなり、まるで壊れたように動かなくなってしまう。
「これでしばらくは前も見えないだろ……後は玄白をあそこから引きずりだすだけだ」
 シリウスは動かなくなった迅雷を見つめ、中で玄白がどんな顔をしているかを想像してクククと喉を鳴らしながら笑った。


「甚五郎。ハッチにはロックが掛かっているようです」
 迅雷の周りを歴戦の飛翔術で飛行しながらコックピットを目指している夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)は現状を報告する。
「やっぱり内側からロックされてましたね……どうしましょうか?」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)に訊ねられて甚五郎はブリジットに目を向ける。
「ブリジットはハッチを爆破しろ。成功してもしなくても後はわしらに任せて戦線離脱するがいい」
「了解です」
 ブリジットは機械的に了承すると、飛行ユニットを使用して空を飛びコックピットのハッチに向かう。
「目標確認。破壊行動を開始します」
 言いながらブリジットは機晶爆弾を取り出して、無造作にそれをハッチに向かって投げた。
 機晶爆弾はハッチに触れた瞬間爆発し、周囲の空気を揺らして炎を散らした。
 炎が消えるとハッチは炎で焦げ、周りの装甲と一緒に少し歪んでいた。
「……損傷は軽微。だが隙間は空いたためハッチを破壊することは容易になったと考えます」
「うむ、ご苦労。ククク……さて、そろそろ首謀者殿には出てきてもらおうか」
「じ、甚五郎さん……その笑い方だとどっちが悪役か分からないですよ……」
「細かいことは気にするな。さて……わしはハッチを開ける。確保は任せるぞ?」
「はい! 任せてください!」
 レキが元気よく返事をすると、甚五郎はチャージブレイクで力を溜め、
「ふん……! うっらあ!」
 ハッチを豪快に引き剥がした。
「やあ、君たちも存外しつこいね……ところで君は何かな?」
 玄白は平然とした表情で甚五郎を指差した。
 ちなみに甚五郎の服装はズボンとジャングルブーツの上にメイド服、ヘッドドレスとホッケーマスクという出で立ちである。
「わしはメイドじゃ」
「僕も平気で嘘をつくけど、君も中々だね」
「余裕の表情もここまでです! もう逃げられませんよ」
 レキは声を上げるが、玄白の表情は崩れない。
「確かにもう僕は逃げられないね……だけど、勝負の行方はまだ分からないよ?」
「な……それって……」
 どういう意味か訊ねようとした瞬間、
「ッッッグウウッッッッグウウガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 鼓膜が震えるような叫び声がレキの頭上で響いた。
「な、なにをしたんですか!」
「ん? もう勝ち目は無いかもしれないけど引き分けにはしようと思ってね。俺が捕まるけど、迅雷には暴走してもらってコンロンを通過してもらう事にしたんだよ……もっとも、足がやられてるから大した速度は出ないだろうけど」
「お、往生際が悪いぞ!」
「負けず嫌いなものでね……」
 ニコニコと頬を上げていると、甚五郎が無言で玄白の顔を殴りつけた。
「っ……!」
 玄白はそのまま頭を後方に叩きつけて、意識を失ってしまう。
「さて、脱出するか……」
「そ、そうですね! ミア! お願い!」
 レキは玄白の身体を引っ張ると、ミア・マハ(みあ・まは)を呼んだ。
 ミアは小型飛空艇に乗り、コックピット近くまで飛空艇を寄せた。
「待たせたのう。ほれ、ここは危ないから脱出するぞ」
「はい!」
 レキは玄白を引きずって飛空艇に乗り込んだ。
「わしは飛翔術で逃げるから、そいつのことは任せたぞ」
「任せておくがよい。縄で縛っておくわ……それではのう」
 ミアは飛空艇を駆って急速旋回して迅雷から離れ、甚五郎もそれに続いた。