イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

冬のSSシナリオ

リアクション公開中!

冬のSSシナリオ
冬のSSシナリオ 冬のSSシナリオ

リアクション

 
 
「もー、今日こそは大丈夫だと思ったのに!」

 少しお酒が回ってきたのか、いつもよりも顔が赤くなり目もどこかとろんとしている。
 何よりいつもよりも少しばかり饒舌だ。
 せっかくの手料理、あとちょっとで満足いく出来だったらしいのだが、煮込みが甘かったらしい。

「まぁいうほどダメってわけじゃないですし、きっと明日になったらもっと美味しくなってますよ」

 ほんの少しだけしゃりっとした硬さの残るじゃがいもとにんじんが許せないらしく、悔しそうに肉じゃがを頬張るナナ。口にじゃがいもの塊を押し込めば、片側だけが拗ねているようにぷっくりと膨らむ。
 そんな様子すら愛しくて、お酒を飲みながらついつい頭をなでてしまう。
 うう〜と普段聞かないような声が聞こえてくれば、ルースは可愛さゆえに何度も繰り返してしまう。

「そういえばエプロン、新しくしたんですね。前のもよかったけど新しいのも可愛いですよ。でもどうせなら――」
「……裸エプロンはお応えできかねますよ?」

 椅子にかけられたエプロンを見てルースが言えば、ナナが先を見透かしてジト目で制止する。

「うーん、勿体無い! でも今日のたてセタはとっても可愛いから良しとしましょう!」

 顎に手を当てて何かに納得するように何度も頷くルース。
 『たてセタ』という単語が何か分からずぽかんとしているナナに、今日きているような織り目が縦に入っているセーターのことですよ、と教える。

「うむむ……しかし、けしからん……」

 あまりじっくりとセーターに浮かぶ嫁のボディラインを見ていたせいか、テーブルの下で愛のこもった制裁が向こう脛にヒットする。

「――しかし、ナナは本当に料理が上手くなりましたね」
「なっ……何を急に……」
「いえ、本当に」

 恥ずかしそうに下を向くナナ。照れ隠しだろうか、再びじゃがいもを口に詰め込んで頬が膨らむ。
 少し目も赤くなっているのでどうしたのかと問えば、「たまねぎが目にしみただけです」なんて可愛いことをいう。褒められた嬉しさと恥ずかしさと、上手くできなかった悔しさと。その全てが入り混じって複雑な表情を浮かべるナナ。加工済みたまねぎから涙腺を刺激する成分がどれだけ飛散しているのかなんて誰も知らないが、そういうことにしておこうとルースはナナを笑顔で見つめる。
 
 最近軍の訓練で料理らしい料理というものを食べていなかった。以前はそれでも気にしなかったが、こうしてナナと夫婦になってから、自分のために作られた料理がどれほど素晴らしいものか理解した。味は問題ではないのだ。料理の腕など、本人の努力次第でどうにでもなる。こうして気持ちを込めて作ってくれているだけでどれほどに嬉しいと思っているか、ナナは分からないだろう。
 美味しいですよと呟けばさらに顔を赤くして小さな声で「次はもっと美味しくする」と答えた。
 普通のやりとりなのだが、それだけですごく嬉しい。自分のために頑張ってくれる人がいるだけでこれほどまでに心もちが変わるのか。
 結婚する前はそんなこと夢にも思わなかっただろう。

 夕飯を食べ終えてテーブルを片付けてからも、二人でしばらくお酒を楽しんだ。
 久しぶりに二人で空けたお酒に、すっかり酔いが回ってうとうととしだしたナナ。

「ナナ、眠いなら無理しなくていいんですよ?」
「ルースさん……ごめんなさい。デザート作るの、すっかり忘れて……」

 ぱたりとテーブルに突っ伏しながら思ってもいなかった回答が飛んでくる。
 そういえばデザートがなかったが、二人で晩酌をしていたこともあってルースはさほど気にも留めていなかった。が、どうやらナナの中では気にしていたようだ。

「デザートはまた今度いただきますよ」
「ん……」

 さらりと額にかかる髪を分ければ、くすぐったそうに笑うナナ。そう時間が経たないうちに規則正しい寝息が聞こえてきた。
 ぐい呑みや酒瓶を静かに片付けて、ナナをお姫様だっこで寝室へと運ぶ。

「ふわ……ルースさん……」

 ベッドにおろしたところで、ナナが目を覚ます。
 眠いならそのまま寝てしまいなさいと言おうとした瞬間、ナナの透き通るような白い腕に捕まった。

「でざーと……ナナでは、いけませんか?」

 とろりと潤んだ瞳、紅潮した頬、しっとりとした唇。いくらお酒の力を借りてるとはいえ、普段からは考えられない誘い文句に、NOと言える男がいるだろうか。少なくとも、今この二人きりの寝室にそんな男は存在しない。
 久しぶりの甘い時間は、優しいキスから始まる。


 タバコの火を消して、隣で眠るナナの頭をそっと撫でればくすぐったそうに身じろぐ。
 眠ってしまっていても、こうして笑顔で反応してくれるパートナーにそっと口づけて、ルースは灯りを落とすのだった。