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白蛇の神様現る!?

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白蛇の神様現る!?

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第1章 神

「きゃーっ、変な蛇達が!」
 参拝者達が慌てふためきながら次々と神社の境内を逃げ回っていた。
 その後を白蛇たちがぞろぞろと追いかけ回す。
「は〜っはっはっは!! やれーどんどんやるんだよ〜」
 神様は長髪を風になびかせ、楽しそうにその様子をみていた。

「ん?」
 地上で何やら太鼓や笛の音が聞こえ始める。 
 そちらを見ると川原 亜衣(かわはら・あい)が巫女服姿で神楽を舞っていた。
 神楽が気になった神様は地上へとゆっくりと降りてきた。
「へえ〜綺麗な神楽を舞える人がいるんだ〜」
「有難きお言葉御頂戴ありがとうございます」
 亜衣は舞うのをやめると、神様に会釈をした。
「神様、こんな古い神社ではなく新しい神社へ引っ越しなんてどうだ?」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)が控え目に神様へと言った。
「どういうことなんだよ〜?」
「……勧請(かんじょう)はされませんか?」
 ハインリヒの代わりに亜衣がこたえた。
 神様は指先を口元に当て、首を傾げ悩む。
「ん〜」
「アイール神社は良いところですよ?」
 亜衣の言葉に神様はポンと両手をたたいた。
「それって、結局神社に縛られるってことだよね! じゃあ、お断りなのだよ〜!」 
「なっ……しかし、神様の希望なら新しい神宮等をたてるぞ?」
「ん〜とね、勧請自体お断りなのだよ」
「どうしてなのですか?」
「……」
 困惑した表情を浮かべながら亜衣は聞いたが、神様はすぐには答えずに首を横に振った。
「そんなのはどうでも良いんじゃないかとおもうのだよ〜」

「おいっ!」
 また別の方向から男性の声が飛んでくる。
 神様がそちらを訝しげに見ると夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)達が立っていた。
「なに〜私いま忙しいんだよ〜」
「なんでお前は封印されていたんだ?」
 神様は目をきょとんとして甚五郎たちを眺めると、にやりと笑った。
「へえ〜、封印されたことのある人がいるんだ〜っ」
 その視線の先にいたのは草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)だった。
 羽純はその視線に気が付くと、口を開いた。
「そうじゃ、わらわには封印されるのがいやなのは分かっておる。どうじゃ、ここは穏便に――」
「断る」
 先ほどまで甲高いはずの神様の声が、一転し少しくらいトーンに変わる。
 その急な変わりように、思わず甚五郎は驚きながら注目した。
「ふ〜ん……そっか。結局私に、静かに引き下がれっていうんだよね。うんうん」
「ちがいます〜むしろ神様と友達になりたいんです〜」
「ルルゥも!」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)も口々に友達になりたいと叫ぶ。
 が、神様はその首を縦にも横にも振らずに二人を眺めていた。
「ともだちか〜、神様に友達も悪くないかな〜でもごめん〜」
 神様は一息つくと、空中に一気に浮かび上がる。
 そして、鋭い目つきで甚五郎とハインリヒをにらんだ。
「今はそんなの要らないんだよね〜子分たち!」
「しゃっ〜!」
 その声に合わせて、ばらばらに散らばっていた白蛇たちがしゅるりしゅるりと甚五郎達の周辺を囲う。
 ハインリヒは後ろ髪をかきながら亜衣とともに、白蛇達へと歩み出た。
「お怒りではないみたいですけど……」
「うまくは丸くなってくれないみたいだな」
 白蛇たちからやるぞー等の雄叫びが上がる。
「まつのじゃ! このままじゃ、お主も追われる身じゃぞ!」
「……しらないよーだ!」
 羽純の忠告を聞く耳持たず、神様はどこか奥の方へと飛んで行ってしまった。
 同時に白蛇たちが束になって襲いかかってくる。
 甚五郎たちは飛んでくる白蛇たちを素手でたたき落としていった。
「逃げちゃいましたね〜、どうします?」
「このままではまた元通りになってしまう……じゃから追いかけるんじゃ!」
「しゃっ――」
 羽純がそういいながら追いかけようとすると、白蛇達が道をふさぐ。
「簡単には追いかけられそうにないですっ!?」
 ルルゥはがっくりと手をうなだれた。
「しゃーっ、ここから先は一歩も通さないぜ!」
 白蛇たちは一斉に甚五郎とハインリヒたちへ襲いかかった。

「幾ら吹き飛ばしても、どんどんでてくるよ!」
「そうじゃのぅ……って、それ寒いのじゃ!」
 羽純がピシリとルルゥが発生させた氷の嵐(ブリザード)を指さして言った。
 その嵐にしろ白蛇たちがどんどん巻き込まれては遠くへ飛んで行く。
「われらは元も冬に強い蛇! そんなもの程度ではやられないど!」
 1メートルはある白蛇を中心に、次々と蛇たちが木々からわき出てくる。
「さすがの蛇たちですね〜どうにかしないと……あれ?」
 少し先で蛇たちにホリイは襲われている女性らしき姿が見えた気がした。
 気になり、そちらをさらに目をこらして見ると麻衣がお酒を杯についでは蛇に渡していた。
「ぐへへ、巫女さんよ!」
「な、なにか?」
 八上 麻衣(やがみ・まい)は危機に襲われていた。
 参拝者たちを守るために襲いかかる白蛇たちの前に、つい一人で立ちはだかったは良かったが対処法をまったく考えていなかったのだった。
 しかも、相手の蛇はなぜかおやじくさい喋り方だ。
「へっ、分かるだろあれだよあれ」
「あ……お、お酒ですね。」
 神宮から取ってきた、御神酒を赤い杯に注ぐ。白蛇はすかさずそれを飲み干していった。
 事態を収拾させるために電話で呼んだケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)がくるまで、なんとか白蛇たちを押さえておく必要があった。
 お酒を飲み終えると白蛇は麻衣の胸元からするりと入っていった。
「あっ……へ、蛇様、なっ、なに……うう」
「へっへっ、寒くなったんでなちょっと借りるぜ」
「やめっ、そんなとこ――」
 蛇の鱗が麻衣の皮膚へとこすれ、変な痛みが生じる。
 胸の間から飛び出ているしっぽをつかみ、なんとかして蛇を出そうとするがさらに蛇は奥へ入っていく。
「そこは……ら、らめぇっ!」
 次第に麻衣は顔を赤くし、身体が火照っていた。
「何をやっておるんじゃっ!」
「ひゃううっっ、も、もっと優しくぅ!」
 羽純が勢いよく、麻衣の胸元から白蛇を引き抜いた。
 白蛇は羽純にぶら下げられながら、左右へと暴れ始めた。
「おい、ねえちゃん離せや! 寒いやないか!」
「このエロヘビめ、何をやっておるのじゃ」
「ちっ、いいところだったのに、おいお前たちこのねえちゃんをやれ!」
 白蛇が声を上げるが、それに従う白蛇は一匹も現れなかった。
 むしろ、気がつけば周辺から白蛇がほとんど居なくなっていた。
「な、なんでこないんだ!」
「あー、白蛇ならナメクジたちに追われてるよ?」
 横からケーニッヒ・ファウストが言った。
 その向こう側で複数のナメクジたちから逃げる白蛇たちの姿が見えた。
「な、なめくじぃいいっ!?」
 羽純に捕まえられた白蛇は、必死にもがくとどこかへと逃げていった。
「どういうことなんだ?」
 甚五郎が逃げ惑う白蛇たちを見ながら、質問を投げかけた。

「三すくみか」
 ハインリヒの言葉にケーニッヒはうなづいた。
「三すくみ?」
「うーん、簡単に言うとじゃんけんみたいなものかな。グーはチョキにつよくて、パーはグーに強い。けど、パーはチョキに弱い」
 いまいちわからないと、首をかしげるルルゥたちに、そういう三つの関係のことだよと、亜衣が説明してくれた。
「まっ……テキトに境内の中からお札を引っ張り出したから、止める方法は知らないんだけどな」
 ケーニッヒが申し訳なさそうに笑いながら頬をかいた。
 同時に、神社の離れから爆発のような音が響き渡る。
「……えぇええええっ!?」
 麻衣たちは、その後【白蛇を追いかけるナメクジ】を追いかけるカエルを負いかえるという、四すくみのような状態になったのだった。
「結局、神様の名前聞けなかった……な」
 甚五郎は境内のどこかへ逃げた神様を探しながら、ぽつりとつぶやいた。