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ミナスの涙

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ミナスの涙

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ユニコーン

 森の奥。そこでローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)は暴れていた。木を倒し、森の守り手たるゴブリンやコボルトを傷つける。森は血で汚れ凄惨たる様子を見せていた
(何故このようなことに……)
 その手に武器として持たれたコアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)はそう思う。朝、起きたパートナーが自分を武器にして森にていきなり暴れだしたのだ。必死に止めようとしたが聞こえていないのか暴れ続けている。幸いなことは未だゴブリンとコボルトに死んだものがいないことだが、このままではいつ犠牲者が出るかわからない。
(誰かに止めてもらうしかないのであろうか)
 ギフトを持ち暴れる契約者をゴブリンやコボルトでは止めることが出来ないとコアトルは思う。
(……いや、ゴブリンとコボルトの中にいたか)
 一対一では無理でも二対一なら。ギフトを持った契約者に対抗できる存在が。
(頼む。止めてくれ)
 コアトルは願う。パートナーと自分の前に立ちはだかる二つの森の守り手の長たる存在に。ゴブリンキングとコボルトロードに。


「森が騒がしいわ……もしかしてこの子を狙っている人たちの動きかしら」
 森のざわめきを感じアルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)はそうつぶやく。そのとなりには疲弊した様子のユニコーンの姿がある。
「大丈夫よ。あなたは絶対私がが守るから」
 そう言ってアルマーはユニコーンを安心させるように撫でた。
「アルマーは何であんなにご熱心なんだ……?」
 そんな様子を見ながらグレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)はつぶやく。
「ワタシと会った時……アルマーは傷だらけの……死にかけの状態で……その辺に転がって…ました……だから、重ねている……のでしょう……自分と」
 疲弊したユニコーンをと二人のパートナーである菊花 みのり(きくばな・みのり)は言う。
「そんな事がねぇ」
 どちらにしろ自分はみのりを護るだけだとグレンは言う。
「彼女の気が…済むまで……ワタシは見て、ます……じゃないと、納得……しないでしょうから」
 言葉の通り、みのりはグレンと共に少し離れたところからアルマーとユニコーンの様子を見守っていた。


「それじゃあ、対話でどうにかするんだね」
 ユニコーンの角を求めて動いている一団。森を移動する中でアテナはそう一緒に行動している契約者に聞く。
「ユニコーンは知性の高い幻獣なんだ。無理に罠に仕掛けたりするほうが苦労するよ」
 アテナの質問にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はそう言う。
「只の野生動物とは違って、理性と知性を持つ高潔で純粋な存在なのよ。だから事情を説明すればきっと分かってくれるわ」
 エースのパートナーであるリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)もそう続ける。
「前村長によればユニコーンの角はあくまで触媒としてのみの利用だそうだ。流石に材料として角をよこせという話なら断られるだろうけどね」
 話の中で源 鉄心(みなもと・てっしん)はそう言う。
「それに、ティーが対話に使えるスキルを持っている」
 鉄心の言葉にティー・ティー(てぃー・てぃー)は頷く。インファントプレイヤー。知性や感情を持つ存在との交感能力だ。その説明を鉄心とティーがアテナ含め一緒に行動している契約者に説明する。
「怪我をしているという報告もありますの。それの治療の代わりに瑛菜さんの治療の手伝いをお願いしてみるといいと思いますの」
 ティーと同じく鉄心のパートナーであるイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は二人の説明の最後にそう続ける。
「怪我の治療には賛成だね」
「薬とは関係なく治療するべきだと思うわ」
 エースとリリアが賛成の意を見せ、契約者たちは対話の形を相談していく。
「インファントプレイヤー……ね」
 その相談をほんの少し離れた所で見ながら歩いている奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)はそう呟く。
「もしかして前村長もなのかな?」
 沙夢のつぶやき、その意味を理解する雲入 弥狐(くもいり・みこ)はそう言う。二人はとある理由からゴブリンと対話できるようになりたいと思っていた。
「どうかしら。もし前村長が同じようなスキルを持っているならゴブリンキングとだけなんていい方はしないと思うわ」
「うーん……やっぱりよくわからないね」
 とりあえず今はユニコーンの方を優先しようと弥狐は言う。そうして二人もまた相談に参加していった。

「情報によるとこの近くだね」
 相談がある程度まとまった所でアテナはそう言う。最初にユニコーンと遭遇した契約者の情報によると湖の近くにいるという話だった。
「確認したよ。ちょうど今先にいるようだね」
 スキルを使い、植物たちに聞いたエースがそう言う。言葉の通り、湖についた一団にユニコーンの姿が見える。
「? 人がそばにいるな。情報によると野生という話だったが……」
 人に慣れているのなら対話が楽になると鉄心は言う。
「少し話してくる」
 そう言って鉄心はユニコーンの傍にいる女性……アルマーの元へ歩いて行く。
「近付かないで」
 と、歩いて行く途中で、アルマーが鉄心に制止の声をかける。
「あなた達がこの子を必要としている人たち?」
 そしてそう続けた。
「? 確かにそうだが……知り合いが病魔に倒れて、その薬の調合にユニコーンが必要なんだ」
 どうしてそのことを知っているのかと鉄心は疑問に思うが、そう補足する。
「貴方達の言いたい事は分かるわ。でも、だからと言って苦しむこの子を、貴方達に渡す事は出来ないわ。……ユニコーンの生き血が必要だなんて」
「……誰なんだ。そんなデタラメを言ったのは」
 アルマーの言葉にそう鉄心は返す。いろいろな可能性を考えつくが、今はこちらがそんな気はないと説明するべきだと思う。
「そちらがこちらを警戒しているのは分かった。そんなつもりはないと言葉で説明しても納得はしてくれないだろう。その代わり少しでいい、ユニコーンと対話させてくれないか。ユニコーンであればこちらが嘘を言っているかどうか分かるはずだ」
 悩む様子のアルマーに鉄心はさらに続ける。
「こちらはユニコーンの怪我も癒したいと思っている。キミがユニコーンを思うなら機会をくれ」
「……分かったわ」
 疲弊し怪我をしているユニコーンをどうにかしたかったアルマーは少し考えてそう返す。
 許可を得てティーが少し離れたところからインファントプレイヤーを使う。
『知り合いの女の子が、病気で苦しんでるんです。勝手な願いだと思いますけど、貴方に頼るしかないのです。私に出来ることなら、何でも言いつけて下さって構いませんから……』
 そう始めて対話している途中、ドゴンと森の奥で大きな音がする。その音にびっくりしたユニコーンが暴れ対話が途切れる。
「ティー、大丈夫ですの?」
 インファントプレイヤーのデメリットとして被術者が恐慌状態等であった場合、それがフィードバックするというのがある。それを心配してイコナが駆け寄る。
「私は大丈夫です。でも……あの子がすごく怖がってる」
 心配そうにティーは言う。
「ユニコーンさんを落ち着かせればいいのよね」
 そう言って前に出るのはリリアだ。息を吸い、そうして子守唄を歌う。人が子を落ち着かせるために歌う優しい歌を。
「け、怪我を治させて欲しいんですの」
 リリアの子守唄に少し落ち着きを取り戻したユニコーンにイコナは近づく。そうしてアイテムやスキルを使いユニコーンを治療していく。
「あたしも手伝うね」
 そう言って弥孤もユニコーンに近づいてヒールを使う。そうして二人でユニコーンの治療にあたっていた。

「……アルマー。気は……すんだ?」
「みのり……はい。あの子が嫌がってないんだもの」
 そう言ってアルマーは穏やかな様子のユニコーンの姿を見つめた。

「協力をしてくれるそうです」
 治療が終わった後、あらためてティーが能力を使い対話をする。そして大丈夫だったとその場にいる皆に報告する。
「これで後は水晶さえ手に入っていれば瑛菜おねーちゃんは助かるんだよね」
「調合が失敗しなければだけどね……まぁ彼女なら心配ないだろう」
 アテナの言葉にエースはそう返す。

 こうしてユニコーンの協力を得て、一団は村へと帰っていった。


 森の奥。ユニコーンとアテナ達の一幕穏やかな一幕などなかったようにローグは暴れていた。ゴブリンキングとコボルトロードを相手にし拮抗しているようにも見えるが、守り手側が押されているようにも見える。これはギフト装備のローグがゴブリンキングとコボルトロードの地力を超えていること。そしてゴブリンキングとコボルトロードがローグを殺さないように戦っているのに対してローグ側は暴走してそういった手加減は一切ない。そういった面が関係しているようだった。
「この忙しい時に……何してるの!」
 ゴンと暴れていたローグの頭が後ろから思いっきり強打される。
「いてて……何すんだよ……って、お前か」
「正気戻った?」
 頭を抑えて殴られた方を見たローグの前にいたのは芦原 郁乃(あはら・いくの)だった。
「あん? そういやここは……って、酷い荒れようだな」
 他人事のようにローグは言う。
「全部やったのローグだからね」
「……マジか」
「残念ながら本当であるぞ」
 コアトルがそう言いローグは気まずそうな顔をする。
「主、大きさ的にちょうどよかったのは分かりますが、私の本体で人を叩かないでください」
 不機嫌そうに言う蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)の言葉に郁乃も気まずそうに笑う。
「全く主は……。少しいいですか?」
 郁乃に呆れながらマビノギオンはローグの体を調べる。
「……やっぱり混乱系の魔法の気配が残っていますね。質的にどちらかと言うと呪いといったほうが近いかもしれません」
「呪いね……なんか変な所行ったっけな」
 考えてみるがローグに心当たりはない。
「……ま、とりあえず調べてみるか。それよりお前らはどうしてここにいるんだ?」
 面影はないがここが森の奥であることには気づいたローグはそう聞く。
「遺跡病の対策をゴブリンやコボルト達が知ってないかと思って聞きに来たの」
「遺跡病?」
 郁乃の言葉に聞きなれない言葉を耳にしたローグはそう聞く。朝から暴れているローグは遺跡病のことはしらない。郁乃とマビノギオンはひと通り自分たちが聞いたことを説明する。
「それで、昔からある風土病ならゴブリンやコボルト達が対処法知ってるんじゃないかと思ってきたのよ」
 どやっという効果音を付けたくなるような様子で郁乃はそう言う。
「ドヤ顔な主はともかく、仮にゴブリンやコボルトたちにもかかる病気だとしたらなんらかの対処法を知っている可能性は低くありません。亜人種として独自の文化を築いている彼らなら参考になることを教えてくれる可能性があります」
 そのために主ともども交換条件のためのドライフルーツなどのおみやげをもってきたとマビノギオンは言う。郁乃にしてもこれは以前に話したゴブリンやコボルトとの交易の試験的な面があった。
「てわけで早速聞いてみようっと。ゴブリンキングは確か人の言葉がわかるんだよね」
 楽ちん楽ちんと郁乃はゴブリンキングと交渉を行なっていく。ひと通りこちらの言い分を説明した後でゴブリンキングは一つのペンダントのユナアクセサリーを出し、そのまま郁乃に渡す。すると、ゴブリンキングはもう用は終わったとでも言うようにおみやげを手にして帰っていく。
「? マビノギオン。これ何か分かる?」
「詳しくは調べないと分かりませんがマジックアイテムなのは間違いないですね。効果は……呪いに対するものでしょうか」
「ふーん。病気なのになんで呪い対策のアクセサリー渡してきたんだろう?」
「流石にこの状況で関係ないものを渡してくるとは思えませんし、そういうことなんではないですか」
 そしてその対処法を知っているということは……。遺跡病。それが単なる風土病ではないことをマビノギオンは理解した。