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 友達から一歩を踏み出そうと思ってピクニックに来た人は、ここにもいる。
 他の場所に比べて少し静かな丘の裏手では、風馬 弾(ふうま・だん)アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)がピクニック中だった。
 両手の指に無数の絆創膏が貼った弾が「もし食べれそうだったら……」と言って、バスケットを取り出した。その中に詰め込まれていたのは、不定形のオニギリや、もはや珍獣と化しているウサギ型のリンゴ。
 項垂れる弾を見て、アゾートはその中から不格好な菱形のおにぎりに手を伸ばした。
「ボクは、大事なのは形じゃないと思うよ」
 一口おにぎりをかじって、アゾートは弾に言った。
「そう言ってもらえて、嬉しいです……!」

 食事も一段落して、弾はアゾートと過ごした時間を思い出していた。
「パラミタに来てもうすぐ一年になりますけれど、アゾートさんには一緒に冒険したり遊んだり、色々お世話になりました」
「ボクの方こそ、キミと楽しく過ごせて本当に良かったと思ってるよ」
 アゾートはそう答えて、目を閉じた。この一年間を思い返すように。
「僕は、パラミタに来て最初の頃、まだ自分の進むべき道を探していました。そんな中で、アゾートさんの『皆に幸せをもたらす賢者の石を創りたい』という姿を見て、僕は『皆の笑顔を守れるようになる』って目標を持ったんです」
 アゾートは黙って頷いた。
「だから、アゾートさんにいっぱい感謝してるし、尊敬してるし、負けないように頑張ろうと思うし……、他の誰よりも笑顔を見たい、守りたいって思うんです」
 弾は、一息にそこまで言葉を紡ぐと、目蓋を開いたアゾートとしっかり目を合わせた。

「アゾートさんのこと、好きです」

 真っ直ぐにアゾートを見つめて、弾は告白した。アゾートは驚いたように目を見開いて、ゆっくりと俯いた。
「例え、その心に近付くために、賢者の石へ近付くよりも困難な道のりがあったとしても、僕は……」
 弾は俯いているアゾートの表情を見た。弾の目に、不安や迷いは映っていない。そこには、自分の気持ちを真っ直ぐ伝えようという、誠実さが浮かんでいた。
「……ちょっと、ドキドキしてる」
 顔を伏せて視線を下方に彷徨わせたまま、アゾートは答えた。
「キミの気持ちは、とても嬉しいんだ。……でも、僕自身がキミの事をどう思ってるのか、まだ分からない。キミに対してボクの抱いている気持ちが、どういう感情なのか」
 そこまで言って、アゾートはようやく顔を上げた。そして、アゾートは弾と目を合わせた。
「この気持ちがどんな感情なのかちゃんと分かったら、キミの言葉に応えたいと思ってる。……それでも、いいかな?」
「……はい!」
 弾とアゾートの間を、初夏の爽やかな風が駆け抜けて行った。