リアクション
▼△▼△▼△▼ 一方で夜盗の一行も、突如出現した発掘調査の拠点に気づいていた。 「おかしらーっ、アジトの裏っ側が、ピカピカ光ってますぜー」 「なんだピカピカーって。おたから財宝がバラまかれてんのか?」 「そーじゃねーっすよ。この双眼鏡、のぞいてみて下せえっ」 夜盗のリーダーが双眼鏡をのぞくと、そこには夕食を終えて歓談する発掘調査隊の面々が映し出されているではないか。 右へ左へゆっくりと眺めると、晩酌をする者、煙る温泉でくつろぐ野郎ども、湯上がりで軽装な婦女子どもの姿が飛び込んでくる。 「うっひょー!! アジトの裏に、パラダイスだっ! 野郎どもお、よろこべえええー。ひいいいーはああああああー」 「おかしらー、なに言ってんですかい。こりゃあ昼間の熱射病が、とうとうアタマに効いちまったかあ……?」 「バーロー。手前も双眼鏡のぞいてみろっ。おいっ、ヤローどもっ! 武闘祭の始まりだびああっ!!」 彼らが雄叫びをあげると、拠点を目指して一斉に暴走をはじめた。 しかし。 その行く手を阻むように灼熱するラインが大地に刻まれ、火柱が噴き上がった。 「うおおおおおっ!? なんだっ、ウィザードかっ!?」 「油断するなっ、地面が溶けてえぐれてるぞっ。これはベヒーモスかも分からん」 彼らにとってウィザードやらベヒーモス等の表現は、畏怖の強度を表わす尺度のようである。 「おまえらホント、からかい甲斐のある奴らだなあ」 「だっ、誰だっ!? どこに居るうっ」 狭霧を身にまとった恭也は、彼ら一行の背後に回り込んで腕を組んでいた。 夜盗のひとりがこちらを振り返り、恭也を見上げて驚嘆する。 「くうっ……く、く、く、黒い巨人だああああっ!?」 皆が一斉に狭霧を振り返って振りあおいでいた。 全高4メートルの狭霧ならば、無理もないだろう。 「んな、何者だテメエっ! アトラスの傷痕を根城にもつ盗賊団にっ、逆らうつもりかーっ!? ベルゼブブ級の怖さを教えてやるぜー」 「野郎どもっ、この黒い堅物をハチの巣にしてしまえっ!」 雄叫びを上げて飛び道具を構えた夜盗たちは、めったやたらに銃弾をばらまきはじめた。 「そいつは素敵だ。楽しくなってきたじゃねぇか」 狭霧の装甲を弾丸が弾くたびに、蒼い閃光がほとばしった。 「撃てぇ! 討てっ、撲てええええっ! 弾はアジトにいくらでもあるっ! 出し惜しみなしで撃ち尽くすんだああっ!」 おそろいの飛び道具を使っているせいか、リロードのタイミングが訪れるたびに弾幕が綺麗に途切れていたりする。 「何だか、相手するの可哀想になってきたぞ。弱い者ばかりに目を付けて、今日まで食いつないできたんだろうなあって。フッ……それサイテーじゃねーかよっ! 賊なんてやってんだから、笑えるくらい惨めな最後を迎える覚悟だって、そりゃーあるだろ?」 「フハハハハハッ、このまま押し切ってやるぞ。見るがいいっ。我々の猛攻に、黒いヤツは為す術なしっ。指先ひとつ動かしゃあしねえっ!」 刃が円弧の内側についた特別な曲刀を引き抜いた狭霧が、夜空に大きく飛翔した。 その時に生じた気流が、土塊をつむじ風のように吹き上げる。 「ぶはああっ、砂嵐かっ!」 刃渡り120センチの曲刀が、星明かりに蒼く煌めいた。 疾風迅雷の一振りが夜盗の頭目を丸裸に切り裂き、乾いた大地へ深々と沈めた。 そのあまりの風圧に、他の夜盗も漏れなく吹き飛んでしまったではないか。 「きっ……貴様あっ、俺たちにいったい何の恨みがあるうっ!?」 下衣一丁で鼻を垂らした頭目は、コックピットから見下ろす恭也の顔をにらみ付けていた。 「――ぁあっ? テメェ等みてぇな賊は、発掘の邪魔なんだわ。つまり……汚物は消毒だあああーっ!!! って、ヤツよ」 「テメェの顔は覚えたからなっ、か、覚悟しやがれよおーっ!」 驚異的なタフネスを発揮して立ち上がった夜盗の頭目は、眼前に転がっていた小石を蹴っ飛ばして中指をおっ立てた。 「あー、待った待った。俺のカオ忘れるまで揉んでやっから、ちっと来いっ」 「うひいいいいいっ!! 覚えてやがれよおおおおおうっー」 夜盗狩りは終わった。 発掘調査の拠点は、恭也の活躍によって危機を免れたのである。 「やれやれ……帰って温泉でも入り直すかなー」 狭霧を旋回させて一歩踏み出したところ、その足元にポッカリと黒い穴が広がるではないか。 恭也の視界は一瞬にして黒く染まり、フワフワと浮いた心地になる。 「また落ちるのかああああああああああああーーーーーーーーーっ!!」 荒れ地に突如として出現した、謎の黒い穴。 「――オチラギ、ここにあり」 メガネのブリッジを中指で押した白衣の男こそ、ドクター・ハデス。 「しかと見届けたぞっ! 柊 恭也!!」 恭也に(読み:きんてい)謹呈された“落ちる穴”の働きを見届けた彼は、秘密結社オリュンポスの小型飛空挺へと乗り込んで、この地を離れた。 そして星降る荒野には、誰も居なくなったのである。 |
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