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【アガルタ】それぞれの道

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【アガルタ】それぞれの道

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★「移動式住居改造計画・始動!」★


「ははは、ここどこでしょう! 立派に迷いました」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)は2メートルを越す巨体を揺らして笑った。
 笑い事ではないはずだが、迷子になることに慣れているらしい。サイフも持っていないからとりあえずはお金を稼がないと、と依頼を探すために人が大勢いそうな場所を探す。

「あの、どうかしましたか?」
 そんな時、ルイに声がかけられた。見てみると、真面目そうな少年と獣耳を持つ少年がそこにいた。
「いや。情けないことに迷ってしまいまして、路銀もないのでとりあえず働こうかと」
「じゃあさ! 俺たちと一緒にいかねーか? サターンもきっと喜ぶ」
「あー、えっと。土星くんって人? が依頼を出してるんです。僕たちも今向かうところで」
「そうなのですか。よければぜひ……あ。私の名前はルイ。ルイ・フリードです」
「僕は清泉 北都(いずみ・ほくと)です。それでこっちが」
「俺は昶! こういう字を書くんだぜ。白銀 昶(しろがね・あきら)
「ほお。素敵な名前ですね」
 空中に字をかして説明する昶に、ルイは笑って褒めた。
 自己紹介を終えたところで、3人は依頼内容について話しつつ、目的地へ向かっていった。

『ん? 昶と北都か。来てくれたんやな』
「あったりまえだぜ!」
 へーい、とハイタッチする土星くん 壱号(どせいくん・いちごう)と昶。北都は苦笑し、ルイは仲がよいのですね、と笑いながら一歩前に出てきた。
「土星さんでしたかな? 呼んで欲しい呼称で私は呼びますよ。
 私はルイ・フリード。貴方も私の事は好きに呼んで頂いてかまいませんよ」
「わしの名前は――」
「なぁなぁサターン・壱号。オレも『サターン壱号』って呼んでるし、折角だからオレの方もあだ名で呼んでくれよ」
『はぁ?』
 昶は言う。あだ名って、その人物を表すものだから。自分が他人にどう見られているのか分かる指針になる、と。
 金の瞳はどんな名をつけてもらえるのかと期待していた。土星くんがうっと詰まる。
 それから3人を見回して、う〜んと考え出す。
『そやなぁ……昶はルシーファ・弐号や! 住居と同じ弐号やで』
「おおっすげぇ」
『んでもって、北都はガブーリ・参号』
「えっ? 僕も……ってガブーリ・参号……ああ、うん。ありがとう」
 喜ぶ昶と引きつり笑顔の北都。両極端の反応だ。土星くんは、ルイにも目を向ける。
『ルイはレイギや! 礼儀正しいからな』
「それはそれは。ありがとうございます」
 
 自己紹介が一通り終わったところで、
「タマちゃーん」
 高い声が聞こえた。土星くんの身体が震えた。
『誰がキン○マやーーー! って、タマちゃん』
「そう。
 私たちは輪っか様を崇める同志……輪っか様と共に歩む同志。輪があれば入りたくてしょうがなくなる同志」
『は?』
 土星くんのものと同じ輪っかを片手に語り始めたのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)
「たしかに今まではタマちゃんをキン○マと呼んでいたけど、
これからは親しみと格上げをこめて「タマちゃん」と呼んで上げるの。
 良かったね、タマちゃん」
 良かった……のだろう、たしかに。キン○マよりは断然マシだ。
 土星くんは引っかかるものを覚えつつ、納得することにした。きっと深く考えてはいけないことなのだ。

「ところで今何の話してたの?」
「サターンが俺らにあだ名つけてくれてたんだ。俺、ルシーファだぜ!」
 昶がへへっと笑って答える。
「あだ名? あたしたちにもつけてくれるの?
 ならあたしのことは、気軽に『美しく気高く高貴で綺麗で荘厳でやんごとなく美麗かつ輪っか様とお似合いで可愛らし(中略)しなやかでたおやかで比類なきレオーナ様』と呼んでくれていいわよ!」
『分かった。輪っか娘』
「輪っか娘! あ、でも輪っか様にあやかった名前だし……」
 輪っか娘と呼ばれたレオーナが真剣に悩み始めたのはさておき、クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)が土星くんの傍による。
「土星様の本名は、コーン・スーといわれるのですね。
 コーンスープっぽい……あ、いや、素敵な名前ですね」
 笑顔で話しかけるも、途中で何か余計なことを言いかけて慌てる。
「前回は、コーンスープ…いや、コーン様の過去や、お友達と 再会したい思いを伺いましたので。
 コーンス……コーン様を応援&お守りすべく、護衛のお手伝いを致します。
 私も少しばかり魔法が使えますので、微力ながらコーンスープを召し上が……いや、コーン様をお守りしたいと思います」
『そうか。すまんな』
 申し訳なさそうに身を縮める土星くんを宥めながら、クレアは段々とその姿がコーン粒に見えてきておなかが減りそうに……途中でハッとして首を横に振った。
『ん? どないしたんや?』
「い、いいえ!
 コーンスープが新メニュー名を考えてくださる、いや、コーン様がニックネームを考えて下さるのですね。
 私のような者にも何らかのお名前をいただけると光栄なのですが」
 もう誤魔化しきれていないが、クレアは一生懸命隠そうとしていた。土星くんはその様子を見て
『じゃあスープっ娘で』
 と真顔で言い切ったのは皮肉なのか素なのか。

 後で確認したところ

『なんかコーンスープ飲みたそうな顔しとったから』

 とのことであったが、一体それはどんな顔なのだろうかとクレアはしばし悩んだと言う。

「あ、いたいた。土星くーん! 探したよ」
 元気よい声は小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。後ろには書類を手にしたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)もいる。
「協力者も大分集まったし、とりあえず全員を集めて説明や役割分担をしたいのだけど、大丈夫かしら?」
『お、もうそんな時間か。ほないこか』
「あっちに皆集まってるよ」
 全員で移動する中、リカインはそっと土星くんに話しかける。
「移動式住居を動かすとき、クルーは募集するのかしら? イコン戦オペレーターみたいなこともやってるから、良かったら私も」
『クルーか……考えとくわ』
「ええお願い。私は道中の水や食料の確認をしてくるわ」
『頼んだ』


***


「ああ、土星くん。出発前にこれを」
『ん? これは』
 話を終えた後、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が禁猟区を施したタリスマンを土星くんに渡す。
『前小娘に渡しとったやつか』
「ちゃんと護衛はするけど、念のために」
 話していると、陽一の後ろに隠れていたペンタ(ペンギン・アヴァターラ)がひょこりと顔を出す。
『お。ペンタもきとったのか』
「ええ……そうだ」
 土星くんとペンタを見て、陽一は何かを思いついたようだ。ペンタを土星くんの上に覆うように乗せた。そして兜に戻す。
 そうして土星くんを守れないかと思ったのだが。

『ふぬっ』
「……!」
 土星くんの身体が歪んだ。苦しそうな声も聞こえる。それはそうだろう。兜の中にみっちみちになっているのだから。
 しかも輪っかの回転が止まり、宙を飛べなくなったらしくこてりと地面に落ちてしまった。

「……ごめん。やめとこうか」
『うんぬぬぬ』
 陽一は短く謝った。


***


 ころりと床を転がっているペンタ(元に戻った)と土星くん。
 それをチャンスだと思った笠置 生駒(かさぎ・いこま)が土星くんを拾い上げる。
 そして、外装をはごうとした。
『ん? お、おう。すまんな……って、何しとんねん』
「え? ちょっと中を見させてもらおうかと思って」
『何「え、何かおかしなことでも?」という顔しとんねん』
 暴れる土星くんを押さえ込み、「大丈夫ちょっと素敵な機能を付けてみるだけだから」という生駒。
(いい機会だし、土星くんの内部を見てみたい、壊れて動かない土星くんタイプと比較してみたいしね、ついでに何か素敵な機能を付けれるといいなー)

「危険を察知するとカウントダウンが始まって数秒後に(土星くんが)大爆発!! とか。
 とっても浪漫を感じる機能だと思わない?」
『どこがや!』

 ツッコミ(ハリセン付)とともに飛び上がった土星くんと、「あ〜」と残念そうな生駒。
 いつも一緒にいる猿や酒ビン抱えた女性がいない。別行動らしい。
『このデンガーが!』
「デンガー?」
『デンジャラス・ガールの略や!』
「なるほどー」

 がーがーと怒っている土星くんに苦笑しつつ、陽一がそろそろ出発の時間だよ、と声をかけた。