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3章 ご褒美バーベキュー


 程なくして、バーベキュー会場もとい青空教室跡地には、ほぼ全員が再集合していた。
 採取したハーブは確かに目的のものだとアーデルハイトが認め、軽くテキストの最終部分の講義を受けた後、ご褒美の時間となった。

 空は、もう夕暮れ時だ。
 砂浜に設置されたいくつかの網焼きコンロの上で、野菜や肉、そして獲れたての魚が焼かれていく。

「タレを漬け込んだのはこっち。そっちは塩でシンプルに焼いてるぜ。味が足りないようならこのタレをつけてみてくれ」

 下拵え担当のシンが、焼けるのを今か今かと待つ一同に丁寧に説明していく。
 香ばしい匂いに、腹の虫が悲鳴を上げ始めた頃。

「うん、もう焼けたぜ。熱いから気をつけてな」
『いただきまーす!!』

 揃って笑顔で両手を合わせ、我先にと串に手を伸ばす。
 一口頬張れば、野菜の甘みが、肉汁が、魚の脂が口いっぱいに広がる。

「おいしい!」
「こっちのタレもいいね! さっすがシンちゃん」
「シンちゃんって言うな! ま、まあ何だ、その、ありがとな」

 次々に褒められて、シンは夕焼けに照らされた赤い顔をさらに赤くした。

「照れなくてもいいじゃないか」
「べ、別に照れてねえよ! こっちの魚の仕込みするから、焼くのは自分でやってくれよな!」
「わかりました。…アーデルさん、次はどれにしますか?」
「魚かのう。塩焼きも良さそうだが、タレも美味そうじゃ」
「アーデ、こっちのアワビ焼けたよ、はい!」
「む、すまんのうルカルカ」
「リイム、肉は避けておいたぞ」
「ありがとうでふ!」
「なぁ、でっけぇ海蛇の話、聞かせてくれよ」
「ああ、構わないよ」
「その前に、パラミタカサゴの群れにも遭ってしまったのよ」
「私も聞きたいわ。かなり大きな海蛇だったとのことだけど?」
「悠、食べ物を持ったままうろうろしないの!」
「この海草サラダ美味しいー!」
「ちょっとセレン、ドレッシングが飛んでる!」
「はっはっは、にぎやかですなぁ」

 わいわいと賑わう一同。
 …ふと、リースが違和感を感じた。

「ナディムさん、何か…足りない気がするのですが」
「足りないって、何が?」
「タレの追加ならここですわよ?」
「いえ、そういうのじゃなくて……」

 必死に違和感を伝えようとするリースに、北都が周囲を見回し、その違和感の正体を見抜いた。

「あぁ、確かに一人足りないねぇ」
「ゲブーさんが、いないですね」

 言われてみれば、あの派手なピンク色がどこにも見当たらない。

「ゲブーさんって、どちらの担当でしたっけ…?」
「僕の記憶だと、アーデルハイト先生から丸薬はもらってた気がするけど」
「私たちが気がついたときには、もう近くにはいなかったかと」
「げ、それってやばくねぇか? ってか、誰も気づいてなかったのか?」
「私はずっと先行していたのでよく覚えていませんけれど……」

 念のためにアーデルハイトに確認し、探した方がいいかもしれない。
 五人がそう結論を出したところで、もう日が落ちる寸前の海から、ピンク色の頭が飛び出した。