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リアクション
六
ヘスティア・ウルカヌスと機晶戦闘機 アイトーンは、白州に引き出された。これはアイトーンの大きさと重さを考えてのことだったが、逃亡を防ぐため、上部にはネットが張られている。
「これから、取り調べを始めるわよ」
担当はセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。ハイナと紫月 睡蓮も控えている。――ちなみに佐保は、漁火が利用したという店に向かった。
セレンフィリティとセレアナは、共に教導団の制服を身に着けている。威圧感のある服装だが、セレンフィリティが着ると軽く見えるのは体が細いからなのか、普段の服装がアレだからなのかとセレアナは思った。
わざわざ白州まで降りて、二人と目線を合わせたのも、一因かもしれない。
「不満でも愚痴でも、あたしに話してごらん? 少しは気が晴れるかもよ?」
ヘスティアとアイトーンは顔を見合わせた。――ヘスティアがアイトーンの操縦席を見た、という体だったが。
たとえどんな拷問を受けようとも、ドクター・ハデス(どくたー・はです)のことは決して口にすまいと決めていた。まさか優しい言葉をかけられるとは、思っていなかったのだ。
差し出されたお茶にも、うるっと来た。
「ああ、ああ、ど、どうしましょう〜?」
「落ち着けヘスティア、これは敵の策略だ!」
「困ったな、あたしはそんな面倒臭いことはしないよ? ただ、どうして暴動に参加したのかとか、九十九雷火とはどういう関係なのかとか聞きたいだけ。悪いようにしないわよ」
「九十九様のことはよく知りません。暴動を起こすのに、みんなに呼びかけたってことだけ聞きました」
「ヘスティア!」
「大丈夫です。ご主人様のことは話しません!」
いや、それ言ってるし。というより、二人がドクター・ハデスのパートナーであることは、既に分かっているんだけど、と調書を取りながらセレアナは内心突っ込む。
問題は、彼女たちが自らの意思で動いたかどうか、という点なのだ。
「そういえば、牢で九十九雷火と一緒だったでしょ? 何か話した?」
セレンフィリティはわざと話を逸らした。いいえ、とヘスティアはかぶりを振った。
「九十九様は、終始黙ったままでした」
「あなたたちに何も話しかけなかった? 暴動のことも? 不満を何一つ洩らさなかった? 漁火やオーソンのことは?」
ヘスティアとアイトーンは、再び顔を見合わせた。漁火とオーソンの名前は聞いたことがある。だが、ハデスからは何も聞かされていない。
その困惑は、セレアナにも分かった。
要は、二人の背後にいるのはドクター・ハデスただ一人ということだろう。
「それじゃあ確認するけど、あなたたちは九十九雷火と申し合わせているわけでも、漁火やオーソンに協力しているわけでもない――ということね?」
「あ、そういえば」
ヘスティアがぱちんと手を叩いた。
「グレゴリーって人がいました。九十九様の参謀だと言ってましたけど、明倫館に向かえって言ってましたよ」
セレアナの手が止まった。その名を聞くのは二度目だ。ドクター・ハデスはフィンブルヴェトの影響を受け、且つグレゴリーなる人物に操られた可能性がある。
それ以上の話は聞けないようだったので、ヘスティアとアイトーンは再び牢に戻された。
「何とかドクター・ハデスを捕まえないといけないわね」
セレンフィリティは制服のボタンを緩めながら言った。
セレアナは調書をハイナに手渡しながら、尋ねる。
「今回、暴動に参加した人たちの処分はどうされるおつもりですか?」
「考えているでありんすよ」
「お願いです。操られた人々には、どうか寛大な処置を……」
「もちろん」
受け取った調書を捲りながら、ハイナは頷いた。
「大事な民でありんす。決して、傷つけるつもりはありんせんよ」
奉行所の門前に現れたレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)とエーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)は、高札を立て、こう宣言した。
「暴動に加担した町民及び葦原藩士は、即刻家に帰れば罪に問わぬ! 尚、今回の暴動で家屋もしくは仕事先が破壊された者は申し出るように。総奉行より、見舞金が出ることになっている!」
門から解き放たれた人々の足は重く、顔色も暗い。
「ウチの人っ、ウチの亭主を知らないかい!?」
大工の女房・セツがエーリカに掴みかかった。
「離さないか!!」
レノアがその手を無理矢理引き剥がし、「我々に手を出せば、また牢へ逆戻りだぞ!」
「でも亭主がいないんだよっ! あんたらまさか、殺したんじゃないだろうね!?」
セツの言葉に、周囲の人間が殺気立った。一度は落ち着いたとはいえ、フィンブルヴェトの影響はまだ城下町でも続いている。目的がハイナでなくなっただけで、言い換えれば相手は誰でもいいということになる。
「みんなぁ、パーティはもう終わったんだよ! おうちへ帰ろうよ!」
いざとなれば戦いも辞さないが、兵士である以上、一般人に手を出すことはなるべく避けたかった。
「セツさん! セツさん!」
若い、立派な体格の若者が人込みを掻き分けてやってくる。
「伊佐さん!」
大工の伊佐治(いさじ)だ。
「よかった、頭は先に出てるよ! 後からセツさん出てくるかもしれねえからって、俺が待ってたんだ。生きてるよ、安心しな」
「ほ、本当かい……? よかった……よかったよ……」
泣き崩れたセツは伊佐治に抱えられるようにして、家へ戻っていった。
レノアはやれやれと、「碧血のカーマイン」にかけた手を戻した。
「私はこのまま布告して町を歩く。まだ破壊活動を行っている者がいるかもしれないからな」
「私は空から配るね」
エーリカは航空戦闘飛行脚【Bf109G】に乗ると、高札と同じ内容の文書を空からばら撒いた。
その下をレノアが声を張り上げ、歩いていく。
二人の様子を、敵意と怯えの混ざった目で、町民は遠巻きに眺めていた。
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