イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

夏だ! 海だ! 水着だ! でもやっぱりそういうのは健全じゃないとね!

リアクション公開中!

夏だ! 海だ! 水着だ! でもやっぱりそういうのは健全じゃないとね!

リアクション


その3 将来のための科学の実験


「うーん」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)は海水浴場に現れるという、モンスターの調査をするため、少し海水浴場から離れた場所を調べていた。
 スキル『大天使の翼』を使って空へと舞い、海に生肉を投下し、しばらく眺める。
 モンスターが肉食なら群がってくるかと思ったが……普通の魚しかいないようだ。
 仕方なく地上に降りてなんとなしに浜辺を歩く。途中に小さな蟹を見つけて、陽一はしゃがみこんでつんつんとつついてやった。蟹は少し慌てたように海へと走っていった。
「あ、酒杜様」
 そんなことをしていると、泉美緒がラナ・リゼット(らな・りぜっと)と共にやってきていた。
「酒杜様も、モンスター調査に来たのですか?」
「うん、まあね」
 陽一は立ち上がる。
「でも、それらしきものは見当たらないよ。目撃情報だけで被害に合った人もいないようだから、もしかしたらただの噂かもね」
「私たちもそうではないかと感じていたところです」
 ラナが答えた。
「それにしても、二人がこっちに来て大丈夫なのか? 海の家は?」
「そっちは平気です。今日はミルディア様たちも手伝いに来ていますから」
「それに、みんな海水浴場の方に行きましたからね……よほど盗撮の件が気になるようで」
「そっか」
 まあ、こちらもそれほど危険はなさそうだ……俺も戻ってそっちの手伝いをしようかな、と考えていると、
「あれ? 向こうに誰かいますね」
 美緒が少し先に人影を見つけた。陽一がそちらに向くと、浜辺などいうのに似つかわしくない、白衣を着ている三人組が目に入った。

「さあ、今日の実験を行いますよ」
「今日もよろしくお願いします、博士!」
「もう少しで完成ですから、頑張りましょう!」

 なにやら怪しげな会話をしている。博士、と呼ばれたメガネの男の手には、一匹のタコが握られていた。
「それでは、今日はこのタコちゃんに秘密の薬、『限度を超えて大きくなーれ』を投与する」
 嫌な予感がして酒杜は男たちの元へと向かった。博士、と呼ばれた男はなにやら黄色い液体の入った注射器を持っていた。
「今回のは前回よりも強力にしてみました。それでは、レッツ、お注射!」
 手にしてたタコに注射をすると……タコがみるみるうちに、巨大化していった!

「な、なんですかぁ!?」
 美緒が叫ぶ。酒杜は男たちのもとに駆けた。
「なにをしているんだ!」
「む……誰だね君は」
 男たちが振り返る。
「これは科学の実験だよ。対象を巨大化することができる、特殊な薬を開発してね。その試験さ」
「きょ、巨大化……!?」
 さっきまで片手で握れたようなタコは大きくなり、すでに酒杜の身長の数倍にまで膨れ上がっていた。
「ほっほっほ! 実験は成功だ! 前の三倍は大きくなったぞ!」
「流石ですね、博士!」
「大成功です!」
「なにが成功だよ! どうすんだコレ!」
 巨大化したタコをものともせず、男たちは落ち着いている。
「まあまあ安心したまえ」
 博士はポケットから別の注射器を取り出す。
「これを注射すればあっという間に元通りだよ。そもそも騒ぐようなことでは……あ」
 話していると、タコが博士の手から注射器をぴょい、っと取り上げ、それをそのまま握りつぶしてしまった。
「………………」
「………………」
「………………」
「あ、ああーっ!!」
「博士、薬が、薬がーっ!!」
「どどど、どうしましょーっ!!」
 陽一は頭を抱えた。
「酒杜様!」
「っ……」
 美緒とラナが武器を構える。陽一も大きく息を吐いてから、身構えた。
「はああああっ!」
 ラナが剣を構え、駆ける。地を蹴って大きく跳躍し、タコの頭上付近から剣を振り下ろす。タコがガードをするかのように一本の手を振り上げた。
「その手、一本頂戴いたします!」
 伸びてきた手に剣を走らせる。剣は綺麗に足に突き刺さり、そして、ポヨンとへこんだあと……跳ね返した。
「………………」
「………………」
「無念です」
 タコの足がラナの体を捕まえ、ぎりぎりと締め付ける。
「ラナーっ!」
「待って美緒さん、あんまり近づくと……」
 美緒が陽一の言葉も聞かずタコに向かって駆けていったが、タコはそんな美緒を器用に掴みあげると、ラナと同じ高さまで掲げた。
「いやぁ……ヌメヌメして嫌ですぅ……」
 ラナと同じように締め付けられる。ラナは無表情だが、美緒は赤面して息を荒くしていた。
「や、らメぇ……そんなに締め付けられると……ひやぁ……」
「博士、おいら、どことなく興奮しております」
「自分もであります。不謹慎でしょうか」
「ふむ、このジャンルは知らなかったな……勉強になる」
「呑気に言ってんじゃねえよ!」
 しみじみと口にしている博士たちに陽一が突っ込む。
「助けてくださいぃ……」
「博士、おいらの株を上げるのはここしかないかと!」
「自分、こういうシチュを待っていたであります!」
「うむ。これは人生不遇の私たちに訪れた数少ないリア充展開! さあ、美女を助けるヒーローになるのだ!」
 博士たちは一気に駆けだした。が、タコが足を一本振りかぶって、博士たちは海に向かって飛ばされる。
「ひえーっ!」
「まあオチはわかっていたですけどねーっ!」
「さよならリア充〜!」
「って俺もかよ!」
 陽一も一緒くたに飛ばされていた。四人が海に落ち、大きな音を上げた。
「ごぼごぼごぼ……」
 沈んでいく博士たちを横目に、陽一は足を動かし、海面へと向かっていた。彼はナノ強化装置を持っていて、短時間ではあるが水中でも活動できる。
(ふざけるなよあのタコ、人をあいつらと一緒にしやがって……)
 泳ぎながら、陽一は拳に力を貯める。浅瀬まで来て足を付き、タコに向かって陽一は駆けた。タコが振るう足を飛び、そしてしゃがんで避け、タコの胴体付近に潜り込む。
「ふあぁぁぁ……酒杜様ぁ……」
「ラナさん、合わせろ!」
 そして、渾身の力を振り絞って拳をタコの胴体へと撃ち込む。その際、陽一は自分のスキルを発動させた。
『W理子アタック』。婚約者である高根沢 理子との協力技でもあるが、単体使用も可能で、その際は炎熱の攻撃となる。
「なるほどっ……」
 ラナは握った剣に力を込めた。
「やあ!」
 そして、タコの足を今度は切り刻む。タコの表情が、驚きに変わる。
「その通りだぜ……タコはなあ!」
 美緒を締め付けていた足を斬って助け、ラナは再度、大きく跳ねた。タコの頭上から、振りかぶる。
「熱すると、固くなるんだよ!」
「はああああ!」
 ラナの剣がタコの足ごと、タコの頭を切り裂いた。真っ二つにタコは分割され、びくびくとしばらく痙攣してから、その動きを止めた。
「ふえ……助かったあ……」
 美緒がぺたんと地面に座り込んで言った。
「酒杜さん、助かりました」
「ああ……無事でよかったよ」
 ラナが小さく頭を下げ、陽一も大きく息を吐いた。
「……とりあえず、これでモンスターの騒ぎは解決したってことでいいのかな?」
「多分そうなりますね……」
 陽一は美緒に手を貸す。美緒は「ありがとうございます」と言って洋一の手を取った。
「んじゃあ、報告に戻るか……あいつらも連れて」
「そうですね」
 三人は海を見る。
「博士……次の実験はもうちょっとインドアな実験をしましょう……」
「おいらたちに海は似合わないと思います……」
「うむ……そうしよう……」
 海では博士たち三人が仰向けで浮かんでいた。