イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

恐 怖 の 館 へ よ う こ そ

リアクション公開中!

恐 怖 の 館 へ よ う こ そ

リアクション


第五話 わたしの屋敷を案内します







「っかしいな」
 アゾートがモニタールームに入ると、荒神がなにやら機械をいじって首を傾げていた。
「どうしたんだい?」
「ああ、アゾート。それがな、モニターの一個が反応しないんだよ」
 荒神が指を向ける。一つのモニターが消えていて、砂嵐の画面になっていた。
「再起動しても動かねえし、近くの奴に見に行ってもらったが原因不明だ。こりゃ、取り替えるのが早そうだぜ」
 荒神は近くにあったダンボールから予備のカメラを取り出す。
「そうだね……仕方ない、ボクがいくよ。取り替えたら連絡する」
「ああ、頼むぜ」
 予備のカメラを受け取って、アゾートはモニタールームから出る。
 モニタールームはお化け屋敷のルートの入り口付近だ。アゾートは、ついでだから実際に中がどんな感じか見て回ろうかと考える。
「アゾートさん、どうしたの?」
 入場整理をしていた弾がアゾートに気づいた。
「カメラが一個、不調でね。取り替えにいかなくちゃいけないんだけど……ついでだから、ちょっと中を体験しようかと思って」
「そっか……大丈夫?」
 屋敷から出た人がちょうど近くを通った。青い顔をして、ふらふらしている。
「あはは、ちょっと不安かな」
 アゾートは笑いながら言う。
「せっかくだからね。弾くん、一緒に入ってみないかい?」
「え!?」
「入場整理も、だいぶ落ち着いたろう? せっかくだからね」
「……っ」
 自分から誘ってみようと思っていたが、まさか、向こうから誘ってくるなんて!
 弾は胸の前で拳を握り締めた。
「うん! いいよ! 一緒に行こう」
「よかった」
 アゾートは息を吐いて言った。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
 そうやって、二人は並んで入り口へと向かう。
「いらっしゃいませ」
 入り口ではイングラハムがステルス化して待っていた。わかってはいるが、いきなり現れるとやはり驚く。
「カメラを直しに行くんだ。二階の右上のコース、頼めるかな?」
「アルベール、聞いたかい?」
「かしこまりました」
 イングラハムの近くにいたアルベールが頭を下げる。一応、客として入るということにして、他の参加者が集まるのを待つことになった。
 そしてそうなると、アルベールの話を聞くハメになる。
「ここの屋敷は、当時、この地域に存在した王が住んでいたそうです」
 アルの話は数種類あって、アレンジして使っているようだ。
「その王は犯罪者を強制的に働かせていたのですが……屋敷の完成後、彼らは処刑される運命でした。そこの地下室が……そのために使われたそうで」
 地下室が出てくるのは変わらないようだ。
「彼らの泊まっていた部屋には、今も彼らの魂がさまよっているそうです……お気を付けて」
 コースを振り分けられ、いざお化け屋敷へ。
「暗いね」
「……うん、そうだね」
 弾にとっては、暗いところでアゾートと二人っきりということで、恐怖というよりも緊張のほうが大きい。
「く、暗くて、危ないからね」
 弾はゆっくりとした動作で、手を差し出す。アゾートは一瞬、考えから、
「ありがとう」
 ためらいなく、弾の手を取った。
 弾の心拍数が急上昇する。顔が真っ赤になる。暗くてよかった。
「優しいんだね、弾くんは」
「しょ、しょんなことにゃいよ」
 噛んでしまった。アゾートがふふふ、と、小さく笑った。
 今日は、今日はカッコいいところを見せられる!
 弾は心臓を跳ね上げさせながら、歩を進めた。



 のだが。
「ここは通さないでありますよ!」
「うわあっ!」
 吹雪が今度は分身の術を使って襲いかかってきた。危害は加えられなかったので、とりあえず逃げて。
「ここはさすがに、なにが出てくるかわかっているからね」
「なんだよ……脅かしようがないなあ」
 ハロルドのいるウサギコーナーでは余裕の表情を見せるも、
「ぺかー」
「うぎゃああ!」
「どうだ、ある意味驚いたか?」
 『顕微眼』で目を光らせたソイルのウサギに驚きの声を上げて。
「ここはガイコツだよね……たいしたことないや……ってぎやぁ!」
 ガイコツ落下地点では思っていたより目の前に落ちてきたため声を上げてしまった。
「大丈夫かい?」
「うん、平気だよ……」
 カメラを変えている最中はそんな風に心配される始末だった。
「よし、カメラは大丈夫だね。どうだい、映ったかい?」
『ああ、映った。大丈夫みたいだな』
 通信機から荒神の声が聞こえた。カメラは大丈夫のようだ。
 そういえば、と思い出す。
 エイカはこの近くの部屋のはずだ。
 せっかくだから様子を見に行こうかと思った矢先、アゾートがなにかに気づいて表情をしかめる。
「なにか、聞こえないかい?」
「なにか?」
 弾は言われるがまま耳を澄ます。どこかから、くぐもった声が聞こえてきていた。

「……あーけーてーよー」

 その言葉を聞いて本能的に恐怖を感じた。

「……ここから出してよー」

「だ、弾くん、なんだいあれは」
「わ、わからないよ……」
 アゾートが身を寄せてくるので、弾は勇気を振り絞って声をするほうへと向かう。少し明るめの一室、備え付けてあった一つの棚の、一番上からその声は響いていた。
「あーけーてーよ」
 が、近づけば近づくほど、その言葉に聞き覚えが。試しに、弾が棚を開いてみると、
「ぷはっ! やっと出られたぁ!」
 エイカだった。エイカが棚の中に閉じ込められていたらしい。
「エイカ……なにしてるの?」 
「弾! アゾートちゃん! もう、さっき、歌菜たちが来て閉じ込められたのよ!」
 エイカは狭い場所に閉じ込められてご立腹のようだ。棚から飛び出し、ふう、と大きく息を吐く。
「二人はどうしてここに?」
 エイカが聞くと、
「監視カメラが一つ、調子悪くてさ。治すついでに、ちょっと中を見て回っていたんだ」
 弾がそうやって答えた。
「ふーん。アゾートちゃん、どうどう? 怖いでしょう?」
「うん……ちょっとね。こういうの、結構苦手だ」
「うふふふ」
 話していると、エイカが笑みを見せた。あ、やばい、と弾は思う。この笑顔は、変なことを考えているときの顔だ。
「アゾートちゃん、本当に危ないのは幽霊ではなく弾という獣なのよ……ベッドの下に隠してる本の、タイトルは……」
「わーっ! エイカ! なにを言うつもりさ!」
「『緊縛誘惑あなたの奴隷』、『クールなあの子の堕ちた記録』、『ロリロリスク水水泳部』」
「わーっ! わーっ! わあーっ!!」
 知らないタイトルまで紛れていた。ていうか、ほとんど知らなかった。
「弾くん……」
「そんな目で見ないで! いつものエイカのいたずらだからね!? 聞いたことないタイトルばっかりだから!」
「……ばっかり?」
「おぅふ」
 墓穴を掘る。
「正解は二番目のタイトルでーす。はい、タイトルをどうぞ」
「二番目? ええと確か、『クールなあの子の……』?」
「いいから! 復唱しないでいいからね!」
 両手を振って会話をかき消そうとする。
「それだけじゃないのよ……今の弾の携帯のスマホの待受はアゾートちゃんの……この前の海の家の、エプロン姿!」
「うわーっ!!」
 思いっきりバラされた。
「ちなみに、この写真でーす」
 エイカがいつの間にか弾の携帯を握っていて、写真を見せる。
 ……一見すると裸エプロンに見える、かなり際どい写真だった。
「うわ……我ながらエロいね」
「ねー」
「もうやめてよー!」
「それだけじゃないのよ、実は弾ったらね、」
「うん、なんだい。せっかくだから聞こう」
 なぜかアゾートがノリノリで話に聞き入っていた。
 弾は涙目のまま、「やめてよーっ!」と連呼していた。





 


 集結した調査隊チームは、それぞれ分担して、一応は屋敷の調査をすることになった。
「【サイコメトリ】」
 陽一は現場の物品にスキルを使って調べようとするが、特に持ち主に思い入れのないものだったのか、なにも浮かんでこない。
「どうでしょうか、陽一様?」
 同行しているクレアが問うが、陽一は首を横に振る。
「ほとんどのものは、持って行かれたのでしょうか」
 続けて言う。「そうかもな」と、陽一は不自然に空いている棚を眺めて言った。
「略奪とか……野蛮以外の何者でもないわね。くんかくんか」
 床を嗅ぎ回るレオーナも口にした。陽一はなにか言おうとしたが、なにも言わないでおいた。


「うーん」
 ルカルカが棚を一つずつ開いてチェックしていく。
「遠慮がないな……仮にも人んちだぞ」
「わかってなねダリル。壷とかタンスとかがあったら覗くのが基本だよ?」
「ゲームと現実を混同するな」
「分かってるって」
 あは、と笑ってルカルカは答えた。一応彼女も【サイコメトリ】を使うが、芳しい情報は引き出せない。
「こっちもダメですね」
 同じくスキルを使って調べていたエオリアが、息を吐いた。
「ふーむ。やはり、彼女に聞くのが一番いいと思うな」
 エースは顎に手をやってそう呟く。ルカルカもそうだね、と小さく頷いた。


「じゃあ、あなたその、ご主人様って人と、恋仲だったのね」
 メイド幽霊、イリアに同行したのは竜斗たち四人と、さゆみにアデリーヌ、アリスだ。
「はい。ご主人様は、わたしの命の恩人なんです。わたしは身も心も、ご主人様に全て捧げました」
 その真っ直ぐな物言いに竜斗やユリナなど一部は顔を赤くした。アリスも覚えがあるのか、うんうんと頷いている。
「……でも、ご主人様は一応、名家の跡取り息子ということでしたから……建前上、他の名家から、お嫁さんをもらうことになったんです」
 続けて出てきた昔話に、さゆみたちは驚きの表情を浮かべる。
「もしかして、あなたが幽霊になった原因って……」
 ユリナが語尾を濁して言うが、イリアは首を横に振る。
「その辺りは、全然。仕方ないことだ、って割り切れましたし、それに、ご主人様と一緒にいられることに変わりはありませんでしたから」
 明るい表情で言う。
「でも……結婚してからというものの、ご主人様は、変わってしまったんです」
 声のトーンが落ちた。その場にいた全員が、イリアの言葉に聞き入る。
「それまではわたしのことを縛り上げて愉悦の表情を浮かべる人だったのに……紐で縛り上げられて笑みを浮かべる変態になっちゃったんです」
 その場にいた全員が倒れ込みそうになった。
「それはどっちにしても変態ですわ……」
 アデリーヌが姿勢を直しながら言う。
「それからはわたしにも『縛って』とか『叩いて』とか。わたし、縛られると興奮するけど男の人を叩いても全然興奮しないんですよぅ」
「誰もそんな話聞いてないから!」
 竜斗が突っ込む。
 なぜかアリスはうんうんと頷いていた。
「……それで、旦那様たちと一緒に地下に眠る財宝の発掘作業の指揮に当たるって、奥さんと一緒にお出かけになって。それで留守のあいだに、こんな感じに」
 急に話が真剣なものに戻る。
「他にも何人かメイドをしている方がいたんですが、誰もいなくなってしまって。わたしだけが、ここでずっと待ち続けているわけです」
「………………」
 場が沈黙する。
「で、でもでも、ご主人様、きっと帰ってきますよね。えへへ」
 イリアは空気に耐えられなかったのか、笑いながらそう言った。彼女はそう言うが、その、ご主人様とやらがいなくなってから数年が経過している。もしかしたら……と、考えてしまう。
 とはいえ彼女が幽霊になった原因は、その一心なのだろう。
『ご主人様の帰りを待つ』
 健気な幽霊だな、と、そこにいた全員は思った。
「あ、さゆみ。どうだった?」
 正面からルカルカたちが歩いてきた。結局、イリアと一緒に部屋をいくつか回ったが手がかりはなかった。
「あとは奥様の部屋ですね……そういえばさっき、ここに一人で入ってきた男の子がいました。奥様の部屋にいるみたいです」
「一人で? まだ誰かいるの?」
 さゆみは廊下の角の扉を見つめる。この辺りで調べていないのは、この部屋だけだ。
「ええ。なんかカメラを持って、写真をいっぱい撮ってたみたいですけど」
「カメラ?」
 シェスカがそのキーワードに反応する。
「はい。結構立派なカメラでしたよ」
 もしかしたら……と、シェスカは考える。少し早足で扉の前へ行って、少しためらいがちに扉を開いた。

 そこに、カメラを持った一人の少年がいた。豪華に飾られた部屋のいたるところにカメラを向け、バシャバシャと写真を取り巻くっている、一人の少年。
「あなた……」
 シェスカが口を開くと、男はゆっくりと振り返った。振り返って、シェスカの顔を正面に見据え、メガネを指で直して、

「俺の名は土井竜平(どい りゅうへい)。またの名を……瞬速の性的衝動(バースト・エロス)」

 そう名乗った。

「誰!?」
 シェスカが叫ぶ。
「あ、あーっ!!」
「っ、貴様はっ……!」
 部屋に入ってきたルカルカと目が合ってバーストエロスは顔を歪めた。
「誰?」
 さゆみが聞くと、
「前、海の家で盗撮とかしてた人!」
「はあ!?」
 さゆみが怒りの声を上げた。
「っていうかなんで盗撮魔がもう自由に行動しているわけ!? 海の家なんてつい何週間か前の話じゃない!」
「出来心でしたすいませんもうしませんごめんなさいと一晩中土下座したら解放してもらえた」
 バーストエロスはメガネを指で直して、答えた。
「お前プライドないのか!?」
 ダリルが突っ込む。
「盗撮などと……エレガントじゃないね。そんなことするような人とは話が合いそうにないな」
 エースが言う。
「美しいものは美しい。一輪の花でも、角度、向き、ズームの有無、色合い、明るさ、様々な要素からその小さな美しさを最大限に感じさせるというのが俺のモットー」
「君とは気が合いそうだ」
 エースとバーストエロスは手を握った。
「そしてそんな中で可能な限りのギリギリのエロスを追い求めるのが、俺の目指すべき場所」
「手を離してくれたまえ」
 が、すぐさまエースの顔が曇った。
「なんなのこの変な人……」
「ん? お前の顔、どこかで……」
「あー、気のせい気のせい」
 さゆみはバーストエロスに背を向ける。さゆみはそれなりに有名人だ。写真好きならおそらく知らないはずがない。が、知り合っておいてメリットはなさそうだ。むしろデメリットが多い気もする。
「なんの騒ぎ?」
 話し込んでいると、独自行動をしていたシェヘラザードを始め、全てのメンバーがその部屋に集まっていた。
「可能な限りのエロスを求めるカメラマンさんがいて、話してました」
「……は?」
 イリアの説明にシェヘラザードが首を傾げる。
「なにか見つかった?」
 陽一は部屋を見回して言う。
「この部屋もなんにもないよ」
 バーストエロスと話しているあいだにいろいろ見回していた竜斗が言う。
「この屋敷にはこの幽霊以外なんにもない、ってことだね」
 ルカルカが息を吐いてそう言うが、シェヘラザードは顎に手を当てたままなにか考え込んでいる。
「でも、間違いなくなにかあるのよね……こう、足元からジワーっと、呪術の類が流れているようなそんな気がするのよ」
 シェヘラザードが言うと、
「そういえば、ここ、地下室がある」
 バーストエロスが予想外のことを口にした。
「地下室!?」
 陽一が叫ぶ。
「どうしてそんなことがわかるんだい?」とエースが聞くと、バーストエロスはトントン、と地面を足で叩いた。
「他の部屋と足音が違う。この下には空間がある」
「よく気づきましたね……」
 ユリナが感心したように言った。
 イリアを見つめるが、
「地下室なんてありませんよぅ?」
 イリアはそう答えて首を傾げた。
「くんくん……う、なにこのニオイ。なんかこの地下から妙な感じがする」
 レオーナが四つん這いになってそう言った。
 アリスとダリル、エオリアが絨毯をめくったりして探し回っていると、
「こちらではないですか」
 アデリーヌが部屋の正面のベッドを見つめて言った。アデリーヌが手をかけると、大きなベッドだというのにいとも簡単にベッドが持ち上がる。
 そして、その下の絨毯をめくってみると、そこには隠し扉が存在した。
「これは……」
 竜斗が言い、イリアを見る。イリアも知らなかったようで、驚きの表情を浮かべていた。
「開けますよ」
 エオリアとダリルが、協力して扉を開ける。扉は思っていたよりも軽く簡単に開いたのだが、
「う……」
「これは……」
 扉を開けた時に流れてきた空気に、その場の全員が顔をしかめた。

 その匂いに、あるものは気づく。
 これは、死臭だ。

「…………っ」
「シェヘラザード!」
 無言で中に入ってゆくシェヘラザードを、ルカルカが追う。が、ダリルが彼女の前に立った。
「ルカはここに。俺が行く」
「…………わかった」
 ダリルの真剣な表情に、ルカルカは少しの間の後に頷く。他にもエオリア、陽一、竜斗が中へと入っていった。


 階段を下れば下るほど、匂いは強くなる。降りるとそこには紫色の壁と、なにやら怪しげな薬品やらなにやらが詰まった大きな棚、そして、部屋の中心には大きな魔法陣があった。
「呪術の類でしょうか……?」
 エオリアが呟くと、
「ええ。それと、黒魔術に近いものもね」
 シェヘラザードが棚を眺めて言う。
「それと、あれ」
 奥には、もう一つ部屋があった。そこから中を覗き込んで、陽一はむせ返る。
 骨だ。白骨化した死体が、いくつも折り重なっていた。
「この屋敷のメイドか……?」
 竜斗がその様子を見て呟く。
 近くに落ちてあったカチューシャには見覚えがあった。イリアの付けていたものと同じだ。
「じゃあ、そこに、イリアさんの遺体も……」
 陽一は沈んだ声で言った。

「そうなのか……可哀想にな、メイドも、主人も、もう死んじまってるのか」

 ダリルの言葉に、その場にいた全員が振り返った。

「主人も?」
「……なんだよ、調べたんじゃなかったのか?」
 ダリルは不思議そうな表情を浮かべる。
「どういうことだ!?」
 竜斗が叫び、ダリルに詰め寄る。ダリルは驚きの表情を浮かべ、
「事故だよ! 発掘現場だったってとこに行ったんだが、事故があってたくさん死んだんだ。この屋敷の人間も、奥さんも息子も、みんな死んだって聞いたぜ」
「どこでそんな話を?」
 陽一が問う。
「いや、現場とやらに行ってみたんだよ。なんか、毒ガスかなんかで死んだ人間が大勢いたって……」
「その、息子の奥さんは!?」
「いや、その人はまだ行方不明だって……」
 エオリアの問いに、ダリルは答えた。
「毒ガスね……ここにある材料だけでも充分作れるわね」
 シェヘラザードは冷静に答える。
「おい……じゃあ、イリアと、主人を殺したのは!」
 陽一が叫んだ。
「奥さんってことに……なりますね」
 エオリアが唖然とした表情で言う。
「その奥さんってのが……本当は黒魔術師だった、ってことか?」
 竜斗がシェヘラザードに向かって言うと、
「……ええ。かなりの手練で、かなりの悪者のようね」
 シェヘラザードは息を吐いて答えた。

「……そう、だったんですか」

 声が聞こえた。皆が振り返る。

「そう、だったんですね。あの人……あの人、悪い人、だったんですね」
「イリア……!」
「落ち着いてください!」
 陽一とエオリアが近くに寄る。が、彼女は聞いていない。
「わたしから……ご主人様を奪って……わたしたちを、わたしたちを殺して、あの人……あの人はぁ!!」
「しまっ……」
「イリア!」
 彼女を中心に、黒い風が吹いた。
「なに!?」
「くっ!」
 その風は、上にいた他のメンバーたちをも巻き込み、やがては離れ全体を包み込む。
 そして更に、広がっていった。