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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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【妻と嫉妬とプロレス男】


 歌菜の中で毎年馴染みになっていた果実狩り。2023年の秋もまた、様々な果物がなったとイルミンスールで話題になり、胸を高鳴らせて毎日計画を練っていた。
 勿論今年の狙いは噂に聞いていたアッシュブドウだ。
「見た目は怪しさ爆発! でもどんな味がするのか是非収穫したいッ!」
 と拳を握りしめる歌菜に、羽純は首を振っていた。
 そして彼の思う様に、状況は悪い方向へと傾いたのである。
「あれぇ?
 なんらかぁ、いいきぶんになってきましたー。
 えへへー羽純くーん♪
 すっごくたのしいのー」
 そんな風にヘロヘロと微笑んでいた歌菜が急に走り出したと思ったら、ジゼルたちのところへ辿り着いていたのだ。



「歌菜と二人、美味い果物。穏やかな時間が過ごせると思っていたのに……。
 アッシュ……このままで済むと思うなよ?」
 何処に居るとも分からない悪夢の制作者にそう言って、羽純は前を見つめている。
 歌菜はどう言う訳かジゼルに共鳴するように服を脱いでしまった。
 いつも人助けを一番に考える心優しい魔法少女だから、無意識にジゼルの力になろうとしているのかもしれない。
 そういうところは好ましく思うべきだが、だからと言って服を脱ぐ行為は公共良俗に反している。頭を抱えている間に今度は歌菜の友人、縁がむくりと起き上がってぼそっと呟いた。
「……あちゅい」
 と。
(また厭な予感が……)
 羽純の頭にそう過る頃には、縁の服は脱げていた。
「そんなはしたない格好はいけない」
 既に酩酊状態に陥りつつも半分はまともな状態を保っている葵が、縁の露になった肌の上にベストを重ねる。
 しかし羽純がこの場で一番動いて欲しいと願うアレクを「で、聞いてるの? 僕の地球の彼氏が――」とか「妹は見た目は可愛いけど中身がまるで『親』のようでね」とノロケ話で拘束しているのもまた彼だ。矢張りまともなのは半分だけらしい。
(ありゃ完全に『構ってチャン』というやつだな……)と、羽純は葵の酩酊状態をそう評価した。
「みんながふくをぬぐならー、わたしもぬぐー♪
 だって、なんだかからだがあついんだもんっ」
 上着を脱いで、ボタンを寛げる歌菜。それを見て盛り上がっているのはセレンフィリティだ。
「いいわね、皆で脱いじゃいましょうよ♪」
 セレンフィリティがそう言って、歌菜の背中に回り彼女を抱きしめる様に拘束する。
「ほらジゼル、動けなくなっている間に早く……」
「うーん、わかったー……」
「やあっ、ふたりともくすぐったいよぉー」
 ジゼルがセレンフィリティに指示されるままに歌菜のスカートのホックへ指先を引っ掛ける。それは流石に止めねばなるまい。
「やめろって!!」
 と、ジゼルの手を上から握って止めると、三人ははたと動きを止めた。
 羽純はそれに安心して息を吐き出すが、気づくと歌菜が突然目に涙を溜めてこちらを見ている。
「うっ……なんでだめなのー?」
「かな! それはきっとおにいちゃんとおんなじだわ! いつもはスキっていってくれるのにキライになっちゃったんだわ!」
 がーん。と、漫画のような表情をしてみせた歌菜に、ジゼルは続けた。
「はすみはかなのカラダがきらいになっちゃんたんだわ!」
「んなッ!!」
 羽純がうろたえている間に、歌菜はふるふると小動物のように震え出した。
「は、はすみくん……、わたしのカラダ、きらいになっちゃったのー!?」
「ば、バカ!
 嫌いになるとか、そんな訳はない……。
 いいか、歌菜。人妻が夫以外の人間が居る前で、肌を晒すな。見ていいのは俺だけだ」
 肩に手を置いて真摯に説得する。
 歌菜はそれでぱっと顔を輝かせてくれたし、「じゃあ、ぬぐのはちょっとでがまんするからひざまくら♪」と、希望を口にしてくれたが、羽純は周囲の目が怖かった。
(何でこんな事をこんな場で言う羽目になるんだ……)
 誰に責められた訳でもなく落ち込んで木陰に座り、膝に頭をのせる様に促すと、歌菜は幸せな子猫のようにそこで丸まってみせた。
(少し日が落ちたか……?)
 肌寒くなってきたと歌菜が投げ捨てた上着をかけて、羽純は歌菜の顔に掛かる髪を退かしてやる。
 ――膝枕くらいは幾らでもしよう。これで眠ってくれればいい。兎に角服を脱ぎたがるのだけは何としても阻止したかった。
「はすみくんのひざまくら♪
 とってもあったかい。きもちいー……」
 むにゃむにゃと口を動かしながら、歌菜は寝息を立て始める。
 見ていると何だかこちらも眠くなりそうで、羽純の瞼は大事な妻を守る為に微睡みと闘うのに必死になっていた。



「あらー、ぬぎ隊のメンバーが一人抜けちゃった。
 でもまあいっか、さあジゼル、続きをしましょう?」
「うん、わたしせれんとあそぶわ!」
「ふふっ、素直で可愛いわ。愉しいことしましょうね」
 セレンフィリティがジゼルの肩を抱く。今度こそもう許せないとセレアナが二人へ向かって腕を伸ばした時だった。
 恋人の姿が視界から消える。二人の間にアレクが立っていた。
「ジゼル、服を着なさい」
 有無を言わせずに頭の上からワンピースを被せて膝迄引っぱり、アレクは目を半分にしてセレンフィリティとジゼルを見下ろした。
 セレンフィリティとジゼルは顔を見合わせて、アレクの迫力に唇を引き締める。
「おにいちゃん……おこってるの?」
「怒ってる。イライラしてる。人前で服を脱いだ事を良く無いと思っているし、二人で絡んでいる事も気に入らない」
 セレアナが思っていた事を全てアレクがそのまま言ってくれたので、セレアナは口を開いたまま出遅れた手を宙で泳がせるばかりだ。
 説教が始まった事でセレンフィリティは興が削がれたのか不満げだし、ジゼルは目を潤ませるがアレクの態度は頑なだ。 
「泣くなら泣け」
 と冷たく言い放たれてジゼルは静かに「ごめんなさい」と謝罪しアレクの腹に抱きついた。
「……良く分からないけど、取り敢えず丸くおさまったかしらね……」
 セレアナがセレンフィリティに上着を掛けながら呟くとアレクがこちらを振り向く。恐らく二人は同じ表情をしていた。
「俺もそうだが、あんたもきちんと恋人を見張っとけ。
 次にこういう事があると――」
 あると何なのか。そう聞き直そうとしてセレアナは息を止めた。アレクの手がサイホルスターに伸びている。
 セレアナが嫉妬で我慢の限界に達しそうになっていたのと同じような気持ちを彼も感じていたのかも知れない。ただ解決のやり方は多分彼の方が数段……
(……危ないんでしょうね)
「――理解したわ。お互い頑張りましょう」
 セレアナとアレク、似たような状況に陥った事に互いに同情しながらも、彼等はその場で二手へ別れて行くのだった。

* * *

「ハハハあれくさぁーん! あーんどカガチー壮太ーみんなぁー!」
 ほろ酔いのような状態で消えていた真が、突然ハイテンションで戻ってきた。
「おう、まこ――」
 ――と、とカガチが手を上げる横をすり抜けて、真は挨拶代わりのジャーマン・スープレックスをアレクにかける。
 プロレスは取り敢えず技を喰らっとくのが鉄則(でもないが)と、アレクはこの挨拶を有り難く受け、起き上がりざまにお返しのフロント・ハイキックをかます。
「元気だな真ー!!」
「ッがはっ!! あはははは」
 吹っ飛んで行ったがすぐに立ち直って駆け戻ってくると真は片手を天高く掲げる。
「プロレス技をかける用意はととのっております!!」
 家令はすました表情でキメると、そのまま地面で笑い転げていたカガチの首根っこを捕まえ膝立ちにさせた。
「その技……」
 アレクが拳を握りしめる。
 その反応に真がこちらを見てにやりと唇を歪め、カガチの膝に乗り上げた。
「ッらあ!!」
 そして真はへろっへろのカガチの顔面を蹴り上げた。技が完璧に決まった事に歓喜しているのは観客――アレクだ。
「Yeaaaaaah! Shining Wizard!!」
「おつまみの準備も整っております!」
「That’s awesome!(すげえ!)」
「おります! おりますっ!! おりまーーーーッッす!!」
「Come on!(いけー!)」
 拳を突き上げるアレクに向かって、真はゲソを武器のように両手に構え、構え、もう一回構えアピールする。
 良い観客を得て、真のテンションゲージは完全に振り切った。
「よーっし! 次はどいつだー!! こいよー!! ほらこいよおおお!!」
「よし。座って観よう」
 ジゼルを拾ってもう一度座ると、腹に腕が巻き付いてきた。これは壮太の腕だと分かっているから、アレクは払いのけない。 
 アレクは分かっている。もう壮太は駄目なのだと。
「アレクおにーちゃんおそいよー」
 アレクがジゼルを探しに行っている間に友人達にアッシュブドウを薦められ、断りきれずに口にして、笑い癖に抱きつき癖でもうどうしようもなくなっている。反対隣ではジゼルがやっと疲れきったのか、規則的に肩を上下させ始めた。
 右手に弟、左手に妹。――神様俺は幸せ者です。
「Why would I say such a thing?(そんな事言える訳がない)」
「む? アレク殿。
 お主二股とはなかなかやるではないか。
 俺も生前は女子たちと毎夜毎夜、褥で愛を語らったものぞ。
 で、ジゼル殿とはどこまで進んだのだ? 正直に申してみよ。
 よいか、いい女を目の前にして食わぬは男の恥ぞ」
「二股ー? あんたまた別の……しかも男? 豊美ちゃんはどうしたのよ?」
 独り言の後に上から降ってきた聞き覚えのある声たちに、アレクは顔を上げた。
 義仲とユピリア、続いて陣がアレクの前に腰を下ろした。
「大変そうだな……」
 適当な合図値を打っていると、陣は続ける。
「っと……酔った奴らをどうするか」
「どうするってどうしようもないだろ。成分が抜ける迄此処で我慢するしかない。
 こんなんじゃ時間ぎれまで無事でいられるかは大分不安だが……」
「兎に角俺はツッコミに徹する。それが俺の仕事だからな!
 ……あぁアレク、安心しろよ。
 お前には最近ツッコんでやれなかった分、Mに開花するまで容赦なくツッコんでやるからな」
 向けられた爽やかな笑顔は、陣もまた『まとも』で無い事を意味している。
 対するアレクは相変わらずの無表情である。
 しかしその表情が何よりも雄弁に、アレクの心を語っていた。