イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

リアクション公開中!

温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

リアクション

「あぁ、折角持って来た魔法薬試せると思ったのによ」
「これじゃ、無理だよな」
 双子は未だに魔法薬の実験が出来ていない事を残念がっていた。
「ろくな事しか考えないのう」
「聞こえたでありますよ!」
 双子のつぶやきは、草薙と吹雪の耳にしっかりと届いていた。
「キスミ、妖怪の鍋はすげぇな」
「だな」
 誤魔化そうと別の話をする双子。
 しかし、
「誤魔化しても無駄でありますよ」
「そうじゃ」
 吹雪と草薙は誤魔化されない。
 その上、
「折角、舞台がある事だし余興に何か芸をするのじゃ。無論、魔法など使わずにのぅ」
 草薙は宴会場らしく設けられている舞台に顎をしゃくった。
「はぁ?」
「何でオレ達がんな事しなきゃいけないんだよ」
 草薙の要求に文句を垂れる双子。
 そんな双子に対して
「知らぬと思うてか? 温泉や卓球の事を」
「随分、楽しんだと聞いたでありますよ」
 草薙と吹雪は笑みを浮かべた。ここに来るまでに二人の耳には双子の情報が入っていたのだ。
「……それなら手品とか」
「無難に」
 観念した双子は何か芸をする事に決めた。
「それは楽しみじゃな。二人共手先が器用だからのう」
「助手がいるなら自分がするでありますよ?」
 素直に楽しみににする草薙と気遣いから手伝いを申し出る吹雪。
「いや、大丈夫だ」
「二人で十分」
 双子は即吹雪の助手を断った。
 そこへ
「二人共、手品出来るの?」
 双子の手品ショーを聞きつけた美羽が会話に加わった。
「少しだけ」
「そうほんの少しだけ」
 人差し指と親指で少しだけを表現する双子。
「凄い。早く見せて!」
 見る気満々の美羽。
「もしや、その手品、悪戯のために覚えたのではないのかのう」
 鋭い指摘をする草薙。
「キスミ」
「おう」
 双子は図星を突かれた双子は舞台に急いだ。
「大正解でありますな」
 吹雪は双子の様子を見守りながらぼそりと言葉を洩らした。
 双子が舞台に立った時、
「ん? 何か始まるのか?」
 食事をしながら目だけ舞台に向けるオリバー。
「ふむ、何か始まるみたいだな」
「あの二人か。何をするんだ」
 九尾の長と甚五郎も視線を向ける。
「ではでは、ちょっとした手品を」
「魔法一切無しの手品だぞ」
 そう言うなり双子はカードや物を使った手品をいくつかした。

 そして、
「で、以上という事で」
「終わりだ」
 手品が終わると、
「拍手を送るでありますよ!」
「見事であったぞ」
「凄かったよ!」
 吹雪の拍手、草薙と美羽の褒め言葉双子に送られた。
「静奈よ、一曲、皆のために美声を披露してはどうだ?」
 九尾の長が突然、静奈に話を振った。
「……私がですか……そんな事言われても……」
 静奈はうつむき、ぼそぼそ。勇気を出してここにいるものの人前で歌うなど無理だ。
「確か山姫は歌ったりする妖怪ですよね」
 『博識』を有するホリイは山姫がどのような妖怪か知っている。
「この通り引っ込み思案だが、歌はなかなかのものだ」
 九尾の長がわずかに微笑みながら静奈を見た。
「……」
 静奈は恥ずかしいのかうつむいた顔が真っ赤になった。
「ワタシも素敵な静奈さんの歌が聴きたいです。お願いします」
 興味津々のホリイが優しくお願いの言葉をかけた。
「……少しだけなら」
 ちらりと何かと自分を構ってくれたホリイを見た後、静奈はそろりと舞台に向かった。
 そして、舞台に立ち、
「……その……歌います」
 一度お辞儀をしてから静奈は歌い始めた。
 透き通り、優しい歌声、聴く人の心に静かに染み渡り、溶ける。
 聴衆が感想を口にしたのは歌い終わった静奈がお辞儀して舞台を離れてからだった。
「これが山姫の歌声かのう」
「凄いなぁ」
 草薙と美羽が思い出したように拍手をしながら席に戻った歌姫に感動の言葉を贈った。
「……ありがとうございます」
 静奈は恥ずかしそうに礼を言い、自分の席で小さくなっていた。歌っている間は自分の世界に入っているが終わると人見知りの状態に戻ってしまう。
「聞き惚れちゃいましたよ」
 ホリイは拍手と笑顔で静奈を讃えた。
「……はい。ありがとうございます」
 ホリイに礼を言って席に座るなり小さくなっていた。
「手品に歌に、宴会、最高だな!」
 オリバーは豪快に笑いながら満足げであった。相変わらず、食事の手に衰えは見られない。さすが、外食産業の要注意人物の大食漢。

「おい、それ俺が狙ってた奴じゃん」
 ヒスミは狙っていた具材を横からオリバーに奪われ、不満そうに文句を垂れた。
「そうか。それは悪かった」
 オリバーは食べながらさらりと謝った。
「というか、食べ過ぎじゃねぇか?」
 キスミが適当に椀に盛りながらツッコミを入れた。
「いやいや、まだまだ……妖怪の酒、最高だな」
 そう言いつつ酒をかっ喰らう。
「まだ、かよ」
「すぐに無くなっちまうぜ」
 双子はオリバーの食欲でここにある物が全て無くなってしまうのではと容易く想像した。
「追加注文するか」
 甚五郎は見計らったように仲居を呼んだ。
「だったら、鍋と他の料理も頼むぜ」
「色々食べてみたいからな」
 双子が注文を付け、
「そうだな。ついでに酒も」
 オリバーが空になった徳利を片手に持ちながらリクエスト。
「分かった。こりゃ、大宴会だ」
 甚五郎はやって来た仲居睡蓮に追加の注文をした。
 すぐに料理は運ばれ、賑やかな宴会は続いた。