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ルチアお嬢様と実りの山

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ルチアお嬢様と実りの山

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第二章



 川のほとりで巨大な水柱が上がる。
 グレゴが巨岩を持ち上げて川へ投げ込み、打ち上げられた魚を捕獲しているのだ。

「ふはははは! これだけ捕ればお嬢様もさぞ喜ばれるだろう……ん?」
「あまり乱暴な捕り方をするのは感心しませんね」
 ルチアの所に食材を運ぶ役を仰せつかった女王・蜂(くいーん・びー)がグレゴをたしなめる。
「ちまちまと釣り糸を垂らす趣味は無いわ! 漢ならば何もかも豪快にだな」
「来年も同じ量が捕れなければクビにするとルチア様が仰っていましたが?」
「うむ! やはり自然の生態系を狂わせるような狩りするべきではないな! それに、お主がいれば食料を届ける心配がないし、ゆっくりと魚でも捕るとするか」

 グレゴが豪快に笑っていると、

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!?」

 構成員たちの悲鳴が上がる。

「何事だ!」

 グレゴが悲鳴の聞こえた先を見て、思わず口をあんぐりと開けてしまう。
 巨大なアワビの化け物が暴れていた。
 全長は三メートルくらいだろうか、硬い二枚の殻に守られ時折貝が開くとそこから構成員たちを挟み込んでいった。

「な、なんだ!? あのツッコミどころ満載の貝は!? ここは海の近くでも無い山の川だぞ!」

 グレゴが目を丸くしていると、丁度巨大アワビと反対の方角から現れたセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は構成員たちが襲われるのを見てため息をついた。

「ふー……やれやれだ。マネキの手伝いで来てみたら、厄介なことになってやがるな」
「だから言ったであろう。我の淡水で生息できる養殖アワビを狙った密猟者がいると!」

マネキ・ング(まねき・んぐ)が声音に憤慨の色を混ぜていると、グレゴが怪訝な顔をした。

「密漁? 馬鹿を言うな! アワビを狙って山に登る馬鹿がどこにいるというのだ!」
「まあ、確かにその通りだよな……」
「それにだな! 自然の川で淡水のアワビなど養殖するな! この山の生態系を崩すつもりが! この大馬鹿者が!」
「岩を川に投げ込んでいる奴に言われたくないわ! この地は我の物だ! 故に我が守る!」

 互いにツッコミどころだらけで穴だらけの論法を振りかざし、マネキはクロアワビを操りグレゴに襲いかからせた。

「ふん! これだけ食いでのあるアワビを持ち替えればお嬢様の喜ぶ顔が目に浮かぶわ! 来い!」

 グレゴは包帯で巻いた大太刀を解き放ち、クロアワビに斬りかかる。

「それでは、わたくしは捕獲した魚をルチア様の所へお届けしていきます」
「うむ、任せたぞ! ここの事は気にするな!」
「はい、ご武運お祈りしております」

 女王・蜂は素早く打ち上げられた魚を回収すると、川辺から立ち去り山の中へと姿を消した。

「おおおおおおおおおおおおおおお!」

 雄叫びと共にグレゴがアワビに斬りかかるが、硬い貝殻を破壊するには至らず反動で吹き飛ばされる。

「クロアワビよ、飛べ!」

 マネキが無茶ぶりにも等しい命令を飛ばすと、クロアワビはグレゴの頭上を飛んだ。跳躍ではなく、完全に空中に浮いていた。

「なんと非常識なアワビだ……」
「川に岩投げ込んでたあんたが言えた義理じゃないけどな」
「ふん、空を飛んだからといって勝てるわけではないぞ! 落ちてきた所を真っ二つにしてくれる!」

 セリスのツッコミをスルーしながら、グレゴは大太刀を構える。

「ゆけ、クロアワビ! 全速力で落下しろ!」

 クロアワビは命令を受けるとその身を傾けさせて、グレゴ目がけて突進した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 グレゴも雄叫びを上げて大太刀をバットのようにフルスイングすると、クロアワビは速度を失い逆に弾き飛ばされてしまう。

「く……! まだまだ!」
「そんな生っちょろい攻撃で我輩を仕留められると思ったか!」

 グレゴは豪快に笑い飛ばしながら再びクロアワビと切り結ぶ。

「……B級のホラー映画か」

 その様を見て、セリスはため息をついた。