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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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クリスマスの奇跡・3


 ヴァイシャリーの街、ケーキ屋。

「どのケーキも美味しそうだね。どれがいい? シャンメリーもついでに買わなきゃね」
 ショーウインドーに並ぶ様々なクリスマスケーキに目移りしてばかりのネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はクリスマスの買い出しの相棒として連れて来たパストライミ・パンチェッタ(ぱすとらいみ・ぱんちぇった)の希望を聞こうと隣を振り返った。
「どうしたの?」
 ネージュはぼんやりと突っ立っているパストライミに小首を傾げた。先程まで自分と同じようにケーキ選びに騒いでいたのにどこか様子がおかしい。
 そう思っていた時、
「……ねじゅちゃん」
 ゆっくりとネージュに振り向き、唇から洩れたのはネージュの名前。
「……?」
 ネージュは一瞬顔に疑問符を浮かべた。パストライミであれば、自分の名前の後に“おねえちゃん”と付くはずだから。
「……このケーキがとても美味しそう」
 パストライミの姿をしたその子は愛らしい笑みを浮かべながらフルーツたっぷりのケーキを指さした。
「……もしかして……もしかして……鈴ちゃん?」
 ネージュはその笑みの雰囲気に見覚えがあった。呼び名にも聞き覚えがあった。パストライミが具現化に選んだ姿の元になったあの子だと。幼馴染みと言っていい親友である沢城鈴(さわしろ・すず)だと。パラミタに一緒に行こうと病室で約束しながらもネージュが入学する直前に病死した事も一緒に思い出した。
「まさかこうして再び再会出来るなんて」
 嬉しさに思い余ってネージュはぎゅっと鈴を抱き締めた。
「ね、ねじゅちゃん?」
 ネージュの予想外の行動にびっくりする鈴。
「よし、このケーキを買って、たくさんお買い物をしよう!」
 再会に浸った後、ネージュはぱっと鈴を解放するなり、改めて鈴が希望したケーキに目を向けた。いつまでもケーキ屋にいては時間がもったいない。せっかく再会出来たのだからもっとクリスマスを楽しまなきゃ。
「……うん」
 鈴は嬉しそうにこくりとうなずいた。
 この店でケーキとシャンメリーを購入してからクリスマス一色の通りに出てあちこちで楽しく買い物をして二人の両手は買い物でいっぱいになった。

「……以前案内された時と違ってクリスマスでとても賑やかだし、ねじゅちゃんとお揃いで嬉しい」
「だね。サービスでサンタの帽子をくれるとは思わなかったよ」
 鈴とネージュはケーキ屋で貰った揃いの赤いサンタ帽子を被っていた。鈴は以前再会しネージュにヴァイシャリーを案内して貰った事も思い出していた。
「沢山、お買い物したから次はあたしのお部屋でクリスマスを楽しもう」
 ネージュは寮の自室で鈴と一緒にクリスマスを楽しむ事にした。
 その道々、店から流れるクリスマスソングに胸を躍らせ、二人は仲良く口ずさみながら寮に向かった。

 寮の自室。

 ネージュ達は帰宅するなり買った物を手早くテーブルに並べてささやかなクリスマスパーティーを始めた。
「メリークリスマス!!!」
 ネージュと鈴は同時にクラッカーを鳴らしてクリスマスを祝った。
「こうして鈴ちゃんとクリスマスを過ごす事が出来て嬉しいな」
 ネージュはにっこりと親友に笑いかけた。自分だけでなく鈴にも現世での思い出が増えると思うと余計に嬉しくなる。
「私も」
 鈴は嬉しそうに笑い返した。
 そして食べたり飲んだりして過ごす中、鈴がネージュの冒険譚を聞きたがりネージュは楽しそうに色んな事を話した。
「妖怪さんの宿でお仕事なんて」
 鈴はネージュが妖怪の宿で仕事をした話を聞いて少しこわごわ。
「怖くなかったよ。みんな優しくて九尾の可愛い姉妹にも会ったんだよ。きっと鈴ちゃんもすぐに仲良くなれるよ」
 ネージュは九尾の姉妹を思い出しながらにこにこ。同時にこれほど沢山の話が出来るほどパラミタに来て数年が経ったんだなと実感していたり。
「……九尾の姉妹と」
 鈴はネージュの言葉に胸を撫で下ろし、楽しそうに九尾の姉妹と仲良くする自分を想像していた。
 この後も色々お喋りをして賑やかに過ごした。素敵な時間はあっという間に過ぎるもので空はすっかり昼から夜に変わっていた。

「……雪。いつの間に夜になったんだろう。楽しくてすっかり時間を忘れちゃったよ」
 外の変化に気付いたネージュは窓を開け、降り出した雪に驚いた。その隣には静かに雪を眺める鈴。
 そして、
「……ねじゅちゃん、今日はありがとう。こんなにも楽しいクリスマスを過ごせて幸せ」
 鈴はどこか寂しそうな笑みを浮かべながら今日の礼を口にした。
 途端、鈴いやパストライミの体が力を失ったように傾いた。
「鈴ちゃん!?」
 ネージュが慌ててパストライミの体を抱き留めた。そのネージュの目にパストライミの身体から小さな光が飛び出し窓の外、雪降る夜空へと上っていくのを映した。
「……鈴ちゃん……」
 ネージュは知った。鈴が空に還った事を。満足したため奇跡の期限前に鈴は自ら還って行ったのだ。
「……ねじゅおねえちゃん」
 ゆっくりと目を開け、か細い声を上げたのはパストライミだった。
 実は、賑やかにケーキ選びをするパストライミの身体にパストライミが姿を借りたネージュの親友の魂がクリスマスの奇跡として舞い降りたのだ。そして、パストライミはネージュと親友のために身体を貸していた。その間、パストライミは全く身体のコントロールは出来ず、ただ鈴として動く自分の姿を傍観するだけだった。
「大丈夫?」
「あのね、親友さん、またねって言ってたよ。だからきっと会えるよ、ねじゅおねえちゃん」
 心配するネージュに答えずパストライミは自分の身体から出ていく前に鈴が自分に言い残した言葉を伝えた。
「そっか……クリスマスの奇跡をありがとう」
 ネージュは笑顔でパストライミに言った。
「どういたしまして。私もねじゅおねえちゃんのお友達になってちょっとだけおねえちゃんの気分になれて楽しかったよ。それに親友さんに私と出会う前のねじゅおねえちゃんの思い出話をいっぱい教え貰ったよ……これ、クリスマスの奇跡かな?」
 鈴に身体を貸すという不思議な体験を自分なりに楽しんだ事や身体を貸して傍観状態の時、鈴から沢山の思い出話を聞かせて貰った事を話し出したパストライミ。
「きっとそうだよ。いっぱいクリスマスの奇跡を貰ったね」
「うん」
 元気にうなずくパストライミにネージュは微笑んだ。パストライミにほんの少し鈴を重ねながら。
 ネージュにとって今日は忘れた何かを思い出した素敵な一日になった。