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リアクション
ミナスとアーデルハイト
「アーデルハイト様。いらっしゃいませ。視察お疲れ様です」
喫茶店ネコミナス。そういってアーデルハイトを出迎えるのはリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)だ。
「うむ。リュートか。そういえばおまえは今はこの村を拠点にしてるんじゃったな」
「はい。この村にお世話になって結構時間が経ちましたね」
「リュート兄、硬い話は後にしようよ! アーデルハイト様座って座って」
リュートの挨拶を途中で止めてそう言うのは赤城 花音(あかぎ・かのん)だ。
「花音は相変わらず落ち着きが無いのぉ……まぁ、確かに立ち話もなんじゃな。喫茶店を前に立ち話をする意味もないの」
そう言ってアーデルハイトはカウンターに席を着く。
「それじゃ早速オーダーっと。ボクはホットコーヒーのブラックで!」
まず先にオーダーをするのは花音。
「僕もホットコーヒーのブラックで……。アーデルハイト様も、お好みのオーダーをどうぞ」
「ふーむ……私もブラックが良いかのぉ。店主の腕がよく分かるからの」
リュートに続いてアーデルハイトはそう注文する。
「私は『緑茶』です。……私の最近のマイブームですよ? お願いします」
喫茶店でそんな注文をするのは申 公豹(しん・こうひょう)だ。
「ほんと、この村って緑茶を飲む人が多いのよね。最初はメニューになかったけど、飲みたいって人が多くて……」
コーヒー好きの自分としてはコーヒーを飲んで欲しいんだけどというのはネコミナスの店主である奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)だ。
「我は酒を所望しよう!」
「流石にないよー」
声高らかに喫茶店で酒を注文するのはアレクサンドロス・マケドニア(あれくさんどろす・まけどにあ)。それを是非もなしに却下するのはネコミナスの看板娘雲入 弥狐(くもいり・みこ)だ。
「なぬ?……ならば我も『緑茶』をもらおう」
「だって、沙夢。……オーダー繰り返す?」
「カウンターでそれはいらないわよ。……穂波ちゃんは何が飲みたい?」
「いえ……私は……それよりも私も手伝いましょうか?」
普段穂波はネコミナスの手伝いを行っている。忙しいようならと穂波は沙夢にそう申し出る。
「大丈夫よ。穂波ちゃんは今大事な仕事中なんだから。……コーヒーでいい?」
「……はい。沙夢さんのオリジナルコーヒーが飲みたいです」
「うん。そう言ってくれるとこの店を開いて良かったって思えるわ」
沙夢たちがそんな話をしている横で。
「それでリュートよ。この村でちゃんとやっておるのじゃろうな?」
「もちろんですよ。この間も村に税を納める話を村長としましたし、その管理もバッチリです」
「本当かの――」
「――それよりもアーデルハイト様。今更な質問なんですがいいですか?」
「? なんじゃ」
アーデルハイトの説教が始まりそうだと感じたリュートはそう言って遮る。
「イルミンスールって基本的に13歳入学の8年制でしたよね?」
「うむ。そうじゃな。といってもうちのあれみたいに13歳になる前に入学するものも普通におるがな」
リュートの質問にそう返すアーデルハイト。
「そうだ。アーデルハイト殿よ。個人的なお願いがあったのだ」
「? なんじゃ」
リュートからアレクサンドロスに向き直るアーデルハイト。
「イコンのイスカンダルのマジックスタンド。あれの設計図をアーデルハイト殿から回して貰いたい。後継機へは内蔵を計画しておるのだ」
「ムリじゃ」
アレクサンドロスの頼みを満面の笑みで断るアーデルハイト。
「欲しいものは自分で手に入れる……それが征服王というものじゃろう?」
「そう言われては諦めるしか……いや、自分で手に入れるしかないではないか。そう言われてなお頼むようであれば征服王の名が泣いてしまう」
仕方あるまいとアレクサンドロス。
「そういえばアーデルハイト様に聞きたいことがあったんだ。ミナスさんってどういう人だったの?」
これからのことを考えていくにあたって、それを知りたいと花音は言う。
「私としても……魔女ミナスさんの事は、良く知りたい処です。アーデルハイト女史、よろしくお願い致します」
申も花音に続いてアーデルハイトに聞く。
「ふーむ……ミナスがどんな人物か……か。一言で言うなら優しくて包容力のある女性じゃな」
じゃが……とアーデルハイト。
「……そのくせ子供っぽくていたずら好きで頑固で年齢詐称でいたずら好きじゃったな」
(……そんないたずら好きだったんだ)
「最初あった時は優しくて包容力のある少し影のあるお姉さんという感じだったんじゃがなぁ……千年くらい経ってから正体を表したの」
ぐちぐちとミナスの文句を言うアーデルハイト。
「……アーデルハイト様は本当にミナスさんのことが好きだったんですね」
「? どうしてそう思うんじゃ?」
「だって……アーデルハイト様が文句を言ってる様子……ボク達イルミンスール生に説教してる時と同じくらい楽しそうですから」
「……そうじゃな。そうかもしれぬ」
そう言ってアーデルハイトはいつの間にか置かれていたコーヒーを飲む。
「……うむ。少し……苦いの」
美味しいコーヒーだとアーデルハイトは思う。けれどそれを苦いと思ってしまうのは……。
「……うむ。じゃが苦いくらいが調度良いのかもしれぬ」
今自分が感じている気持ちには。
「沙夢さん。今日の視察の中でゴブリンたちがしているペンダントの話が出ました。アーデルハイト様ならあのゴブリンがしている特別なペンダントについて何か知っているかもしれません」
アーデルハイトが苦いものを飲み干した後。穂波は沙夢にそう言う。
「あのゴブリンだけ違うデザインのペンダントしているのは気になってたんだよね。沙夢。聞いてみようよ」
弥狐はそう言う。
「……そうね」
沙夢や弥狐と浅からぬ縁のあるゴブリン。そのゴブリンだけ周りとは違うペンダントをしているのを沙夢たちは気になっていた。
「アーデルハイトさん。儀式の力を防ぐというペンダントですが……その中に何か特別なデザイン、効果を持ったペンダントはありますか?」
「? そのペンダントというのはこれのことかの?」
そう言ってアーデルハイトが取り出したのはあのゴブリンが持っていたものと同じペンダントだ。
「それです。それには何か他のペンダントと違う効果があるのかしら」
「あるぞ。他のペンダント同様、儀式の力を防ぐ効果とともに、このペンダントをつけているものの記憶・記憶に伴う感情をペンダントの中に記録するようになっておる」
じゃが、とアーデルハイトは続ける。
「一つ作るのに千年くらいかかったからの。結局できたのは4つだけじゃったみたいだな」
その一つを別れ際にアーデルハイトはミナスからもらったという。
「……他の3つのペンダントの持ち主はわかりますか?」
「一人はミナス本人じゃ。二人目は藤崎将、ミナスの夫。そして三人目が美奈穂。これで間違いないはずじゃぞ」
最後の別れの時三人がそろぞれ同じペンダントをつけているのを確認しているとアーデルハイトは言う。
(……それじゃ、あのゴブリンがしていたペンダントは三人のうちの誰かから譲られたものということ?)
だとすればそんな大事なものをどういった経緯で譲られたのか。一つの謎は解けもう一つの謎ができるのだった。
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