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第三章 救出

 触手を追い払いながら屋敷の中を先行する白石 忍(しろいし・しのぶ)エセル・ヘイリー(えせる・へいりー)
 美緒を救出することで目的が一致した二人は協力し合いながら二階の部屋を調べ回る。
「さっきから触手の姿が見えませんね……」
「他の人のところに行ってるだけですぐに戻ってくるかもしれないよ。油断しちゃダメ!」
 エセルに指摘されながら忍が身を引き締めていると、
「んん、んむぅおおおぉ……!」
 部屋の中から悲鳴のようなくぐもった声が聞こえて二人の身体がビクッと震えた。二人は顔を見合わせると、ツバを飲みながらゆっくりと部屋のドアを開けて中に入る。
 部屋には複数人の女の子たちがやつれた表情で触手に絡め取られていた。顔は青白くなり、皆身体がやせ細って、見るからに衰弱して危険な状態に陥っている。
「は、早く助けないと!」
 忍が声を荒げて中に入った瞬間、
「っ!?」
 いつの間にか這い寄っていた触手に足を取られて、忍の服の中を潜行して内側へと入っていく。
「あっ……やめて、離して! 服が……」
 触手が服を盛り上げて、外からでも激しく蠢いているのが分かり、やがて服を溶かしてその肉色の姿を現す。服を溶かす粘液が忍の体中をまぶし、身体がいやらしくてらてらと光る。
「〜〜〜〜〜っ!」
 首まで真っ赤にしながら必死に抵抗するが、太ももまでガッチリと押さえつけられ力を入れられないように足を強引に開かせるような格好を取らされて、忍の思考は恥辱で白く塗りつぶされていく。
「おお〜! これは永久保存版ってやつだな」
 そんな痴態を晒している忍をビデオカメラで撮影しているのは彼女の相棒であるリョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)だった。
 撮られていることを知った忍は恥ずかしさで目に涙を溜めながら必死に顔を逸らす。が、触手に絡まれてするその抵抗はある種の嗜虐心を煽るには十分な姿だった。
「そんなの撮ってないで早く助けないと!」
 エセルが声を上げながら忍を助けようと中に入ると、エセルにも触手が襲いかかる。
「させるかっ!」
 触手の前に立ちはだかったのはレナン・アロワード(れなん・あろわーど)だった。レナンは向かってくる触手を叩き斬ると、エセルを見つめた。
「無事か?」
「うん……レナンちゃん! また来るよ!」
 エセルに声をかけられて、レナンめがけて触手が再び襲いかかるが、レナンは難なく斬り捨てる。
 だが、レナンの表情は曇りつつあった。
「数が多すぎる……! このままじゃ、救助者を助けるどころじゃないぞ」
 無限とも思えるほどに際限なく現れる触手の猛攻をレナンは全て切り落としているが、体力の限界が訪れるのが先なのはエセルの目にも明らかだった。
 それを見たリョージュがカメラを収めて咳払いして喉を整えた。
「仕方ないな……他にもいろんな子の映像撮って回りたかったが、命が大事だ。おい! 少しの間だけ触手を止めるから、その間にここの子たちを助けるぞ!」
「分かった!」
 レナンが了承するとリョージュはニイッと笑みを浮かべた。
「それじゃあいくぜ、オレの歌を聴けッ!」
 リョージュは叫ぶなり、シャウトのような咆哮を放った。
 耳をつんざくような爆音が部屋中に轟き、廊下と部屋の窓が次々と割れていく。声の震動は触手たちにも伝わる。だが、目の無い触手にはこの震動の正体が掴めずに警戒するように動きを止めることしか出来なかった。
「そういうことか……ありがとよ!」
 レナンは鼓膜の震えを振り払うようにかぶりを振ってから、目の前の触手を叩き斬り、触手に囚われていた忍と女の子たちも触手から解放される。
「はい、忍ちゃん! 替えの服だよ」
「あ、ありがとうございます! あの……私も替えの服を持ってますので、あの人たちに……」
「悪いけど着替えは外でやってもらうぜ、そろそろ触手も動き出すからな」
「オレの背中になら三人は乗せられる。後はそっちに任せるぞ」
 そう言って、レナンは狼に変身するとエセルが大慌てで女の子達を背中に乗せた。
「そうと決まればさっさと脱出だ。さっき廊下の窓も割れてたし、飛び降りるとするか」
 リョージュは両脇に女の子を抱える。ガリガリにやせ細った女の子達は異常なまでに軽い。一瞬目を丸くしたが、今は何より逃げることが先決とがむしゃらに廊下の窓へと走り、四人は屋敷の外へと飛び出す。
 同時に窓枠に大量の触手が伸びるが窓から外へ飛び出すことは無く、四人は救助者を抱えたまま何とか外を逃げ出すことが出来た。
 二階から落ちたショックでリョージュのカメラが壊れてしまうのだが、それはまた別の話だった。


 腹が減れば動きが鈍る。
 生き物であるこの屋敷もその摂理には逆らえず、養分となっていた人間達がいなくなってからは触手の動きが明らかに鈍っていた。
 が、その分触手の数は増し、今まで以上に餌を得ようと、建物内のコントラクター達を襲う。
 外では日が落ちて、屋敷の中に闇が忍び寄る。
 匿名 某(とくな・なにがし)結崎 綾耶(ゆうざき・あや)は廊下に現れた触手の撃退に当たっていた。目的はただ一つ、美緒の恋人である冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)をこの先に導くため。
 まだ調べておらず、これだけの触手が迎撃に来るのであればこの先に美緒がいる可能性は高い。
 触手は既にその身を粘液で光らせる。その姿は飢えて口の端からヨダレを垂らす獣のようにも見えた。
「ここは俺たちに任せて先に行ってください!」
「ありがとう。恩に着ます」
 小夜子はくぐり抜けるように触手の中をかいくぐりそれに続くように祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)も後を追った。
 小夜子たちが接近すると、待ち構えていたように触手が襲いかかる。
「邪魔だって! 大人しくしてろよ!」
 某はショックウェーブを放ち、触手を一時的に吹き飛ばす。が、その衝撃で触手に着いていた粘液が飛び散り、綾耶の服にかかった。
 服が溶けないように細心の注意を払っていた綾耶だったが、いよいよ服にかかってしまい、表情が険しく曇る。
「この……! よくもやってくれましたね!」
 綾耶はラブアンドヘイトでヤドリギを召喚すると、それを触手に襲わせた。粘液でぬめる触手にヤドリギは苦戦しているようで、中々優勢に立つことが出来ない。
 その間にも綾耶にかかった粘液はシミを広げるようにジワジワと服が溶け始めていた。
「綾耶! 大丈夫か!?」
 某が声をかけながら振り返ると、
「こ、こっちを見ないでください!」
 綾耶に怒られて某は再び正面を見つめるが、某の脳裏には肌を露わにして顔を真っ赤にしている綾耶の姿が焼き付いていて、とても戦闘に身が入る精神状態では無い。そのうえ、触手が次々と増えて行き、床に落ちる粘液がゆっくりと範囲を広げていた。
「物量だけで押してくるなら、こっちも相応の手段で対応させてもらおうかしら」
 そう言って応援に駆けつけてきたのは従者の白狼女騎士を連れたセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)だった。
 白狼騎士たちは松明を手に持ち、廊下の隅まで明るく照らしている。
 一本一本の明かりは弱いが、それが十も二十もあれば巨大な熱源となり触手たちはそれを警戒して尻込みするように後退する。
 その様子を見て、セフィーは薄く笑みを浮かべた。
「さ、敵が退いたわ。あたしたちはその分先に進むわよ。……さあ、噛み殺してきな!」
 セフィーの怒号のような号令を受けて白狼騎士が突撃を開始する。その先陣を切ったのはオルフィナだった。
「おらおら! そんなへっぴり腰で俺たちに勝てるとでも思ってるのかよ!」
 一気呵成にオルフィナは触手を斬り捨てまくる。斬った衝撃で飛沫がかかり、服が溶けて、鎧の留め具が弾ける、黒大狼の外套だけの裸マフラー状態に成ってしまう。
 それでも全く意に介さずにオルフィナは突撃を続けるが、騎士全員が羞恥心を捨てきっているわけでなく、飛沫がかかると身じろぐ者も少なくなかった。
 そして、その隙を見逃すほど触手も甘くは無い。動きが鈍ってはいるが、力は健在であり、狭い廊下で物量作戦を仕掛けたのが裏目に出て、騎士達は次々と囚われ、裸に剥かれて口に触手をねじ込まれていく。
「某さん! 見ちゃだめです! 目を瞑ってください!」
「む、無茶いうなよ! 殺す気か!」
 肉林と化した廊下で綾耶が自分の裸を見られるのを覚悟して、某の目を塞ぎにかかった。
 そんなやり取りをよそに、騎士たちが手にした松明が次々と落ちると、今度は建物全体が火を消そうと粘度の低い体液を分泌させて、セフィーたちはそれを頭から被った。
 当然、外套が溶けると思っていたオルフィナだったが、外套が溶けることはなかった。
「どうやら、触手が出しているものとは別の液体みたいだな……これは、使えるぞ」
 オルフィナは考えが浮かんだと同時に体中にその液体をかける。身体はすぐに粘液で妖しく光り、オルフィナの肢体をいっそう艶めかしく見せた。
「これで無理やりにでも先に進めるぜ……セフィー! 援護してくれ!」
「ええ、任せて。そこの二人、触手はなるべくこっちで引きつけるから、その子たちを助けてあげてね? それとも、一緒に裸になって触手の中に突っ込む?」
「……援護に回ります」
 某が裸になっている白狼騎士たちを見ないように小さく返事を返すのを聞くと、二人は触手の中へと突っ込んでいく。
 あらかじめ身体にかけていた粘液が功を奏し、二人の身体は触手が絡まりこそするが、摩擦が起こらずにあっさりと抜け出してしまう。
 強引に触手をかき分ける二人。身体を触手が触れるたびに淫靡な水音が鳴り、まるで無数の下で身体を舐めとられていくような感覚に陥る。今まで体験したことの無いような快感に二人はエクスタシーを感じながら触手の海を抜けた。


 先に触手の廊下を抜けていた小夜子と祥子は突き当たりにある部屋のドアを勢いよく開けて、中に入る込む。
「美緒!」
 部屋の中には数人の女性に紛れて、美緒が口に触手を入れられて弄ばれるように身体を撫でられていた。
 小夜子は叫ぶのと同時に中に入ると床から大量の触手が伸びてきた。
「邪魔しないでください!」
 小夜子は不壊不動で触手を払い、真っ直ぐに美緒の方へと進んでいく。
 粘液の滴が飛沫のように小夜子の胸元にかかり、胸の谷間が露わになりそこを突破口とするように触手が入り込んできた。
「んん……! ふっ、あ……」
 ぬめりのある触手が服の下から盛り上がり、胸の谷間を抜けて下腹部まで達したときに小夜子の服が触手の粘液に負けて千切れ落ちる。
 肌が、外気に晒されて小夜子の動きが止まると新しい養分を迎え入れるように触手立ちが襲いかかってくる。
「人の恋路を邪魔するものじゃないわね」
 そう言って祥子はヴォルテックファイヤで触手を焼き払うと、美緒たちを捕らえていた触手たちも熱を感知してサッと身を退いた。
 べしゃりと水音を立てて美緒がぐったりと倒れこむ。
「美緒! しっかりしてください!」
「小夜子……さん? 来てくれたんですね? ……嬉しい……」
 美緒は微笑みながら小夜子の頬に触れる。
「はいはい、いいから美緒さんはこれ巻いて。凄い格好になってるから」
 祥子は大慌てで持参してきたタオルを美緒と小夜子に渡して、他の救助者たちにもそれぞれ配っていった。
「とりあえずここを脱出しましょう。美緒が帰ってくるのを信じてまだ戦っている人たちがいるはずだから」
「申し訳ございません……ご迷惑をおかけして」
 美緒が申し訳なさそうに顔を伏せると、祥子は黙って首を振ってみせる。
「どのみち救出はしなきゃいけなかったんだから、気にしないの。……ラナだって今もどこかを探しているだろうから、早く安心させないとね?」
「その通りです。……早くここを脱出しましょう。私たちが全員いなくなれば、きっとこの屋敷も長くは持たないでしょうから」
「そうね、それじゃあ他の子を引率しながら脱出しましょう」
 美緒は小夜子に肩を借りながら脱出し、祥子たちも他の救助者に手を貸しながら屋敷を脱出する。
 こうして、救助者は全て救助された。が、まだ終わっていない。
 この屋敷そのものが消滅しなければまだ、悲劇が繰り返される。
 それを知ってか知らずか、最後の大掃除をしようする影が、まるで体内に宿ったガンのようにいくつも存在していた。