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リアクション
第六章「魔女の力」
〜屋敷・大広間〜
外の爆発音を聞きながら魔女ストレガは目を閉じる。傍らにはガルディアが控えていた。
「制空権は確保されたか……まあ、いい。空ぐらいくれてやろう……この場に到達できないのでは、面白くないからな」
楽しそうな笑みを浮かべながらストレガは立ち上がる。その表情に以前の彼女の面影はなかった。
ふと、彼女は天井を見上げて呟く。
「……来たか」
直後、天井が崩れ、そこから一人の女性が急降下。持っている槍でストレガを狙った。
手をかざす様に上げ、ストレガは闇を盾の様に展開。彼女――ルカの攻撃を苦も無く受け止める。
「仲間は、返してもらうんだからっ!!」
「ほう、お前にそれが……できるかなァッ!」
盾の表面が揺らめき、無数の針のようにルカへと迫った。咄嗟に後方へ跳んでそれを躱す。
着地と同時に上空から闇の槍が降り注ぎ、転がるようにしてルカはそれから逃れる。
「ずいぶんな歓迎じゃない? そんなに待ちくたびれてたの?」
突進しながら大魔槍サタンベックでストレガの足元をすくう様に払う。現出した影が壁となってそれを防いだ。
「そうだな、ずいぶんと到着が遅れているようだから……もう来ないのかと思っていたぞ?」
「期待に応えられて――光栄よッッ!」
数回打ち合った後、距離を取ったルカが槍を天空に掲げると空から光の雨が降り注いだ。
合わせる様にストレガの後方からダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が光を呼び出しストレガに浴びせた。
激しい光の中、全ての影が消失する。
「なるほど、なかなかに面白い事をする……それに乗るのも一興。少々のハンデと思って相手をしてやろう!」
楽しそうに笑いながらストレガはルカとの距離を詰める。右手を薙ぎ払う様に振るとその手に魔力で構成された紫色の杖が現れた。
ストレガは杖を振りかざし、無数ともいえる魔力弾をルカ目掛けて放った。雨というよりは豪雨ともいえる魔力弾が一斉に襲い掛かる。
槍を盾になる様に回転させると薄いエメラルド色の障壁が顕現しルカを守った。魔力弾の豪雨の衝撃は凄まじく、ルカは徐々に後退していく。
「くぅぅああッ!」
「いい反応だ……だが、どこまで持つかな? その儚き人の身で……クックック」
ルカの援護の為、ダリルは背中を向けるストレガに向かって走る。剣を抜き放ち、接近。
しかし、到達する前にストレガを守る様にガルディアが立ちはだかった。
「……くっ、やるしかないか!」
無慈悲にかつ冷酷に振られるガルディアの斬撃を受けながらダリルは接触する機会を狙う。
(流石は古代兵器と言った所か! どの攻撃も重く、鋭い……しかも三倍速のこちらの動きについてくる……長くは相手にしたくないものだな)
ガルディアは剣を鞘に納める動作をしたかと思うと、それを凄まじい速さで抜き放ち真空波を放つ。空気を裂いて直進する真空波をダリルは体を開いて紙一重で躱す。
続けざまに飛んできた二発の真空波をダリルは直進しながら剣で捌く。接近するダリルにガルディアの斬撃が迫る。彼はその斬撃に身を裂かれながらも痛みを堪え素早い刺突を放つ。
剛剣ヘルサンダーで肩を貫かれたと同時にガルディアの身体を雷撃が襲った。痙攣するようにしばしびくついた後、膝を落として彼は行動不能に陥った。
その額に静かにダリルは触れる。
(よし、システムのリスタートを行う。アクセス……中枢システムに干渉……ッ!? これはッ!?)
すぐさま彼はガルディアの額から手を離した。
「くっ、やられた……まさかそのような手が……」
悔しそうな顔をするダリルの前で、自然にガルディアの口が動き自らの状態を伝える。
「不正なアクセスを感知、不正アクセス時発動コマンド『ストレガ』を実行……システム全消去まで、残り300、295、290……」
(どうする、もう一度アクセスし防壁を突破してあいつを救えるか……だが、こちらの信号は既に一度解析されてしまっている……騙しようはあるが)
「……打つ手なしとい――」
「待ってください、まだ手はあります!」
そう言って彼の後ろから現れたのは御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)である。
彼女は今だカウントを続けるガルディアに駆け寄るとその額に手を当てる。
「私は、彼に助けられました……もしも助けてもらえなければ今頃は……。だから、できる限りのことはしたいんです、それが……命を賭する事だとしても!」
強い意志の力を宿す舞花の目を見てダリルは言う。
「わかった、だがどうするんだ? ハッキングの類はもう――」
「私の魂を彼の魂とぶつけます……精神魔法が掛かっていようが、プロテクトがあろうが突破して見せます!」
精神を送り込み、相手の精神へ干渉する。可能ではあるが……それは危険な賭けでもあった。
もしも精神状態で何らかの作用により破壊されてしまえば、身体は廃人同然となるだろう。それは中へ入ったままシステム全消去が行われても同様である。
「危険だ、もしその状態で消去が行われでもしたら……」
「……危険は承知の上です。それに、優秀な技術者であるあなたがサポートしてくれるんです。成功しますよ」
笑顔でそう告げる舞花にダリルは溜め息をついた。
ダリルのサポートの下、彼女はガルディアの深層意識へとダイブした。
〜ガルディア・心象世界〜
舞花が降り立った場所は白と黒のモノトーンの世界であった。
静かで、全てが止まってしまっているようなそんな悲しい世界。
少し歩くと少女が走って行くのが見える。舞花はそれを追いかけていった。
「少女を、見つけました」
「そうか……彼の記憶と関係性がありそうだな。こちらはなんとかカウントの停止に成功した。しかし、長くはもたない」
了解とだけダリルに返し、少女を見失わない様に彼女は走る。
少女はある扉の前で消失。少し不安に駆られながらも舞花はその扉を開けた。
中には円筒状の機械があり、その中に先程の少女がセットされる所であった。
その機械の前に血濡れの刃を持って立つガルディアがいた。周りには研究員らしき人物達が倒れている。
少女の口が『ご・め・ん・ね』と動き、機械に取り込まれその瞳を閉じた。
ガルディアの悲しい叫び声が部屋に響き渡る。
舞花がガルディアに手を伸ばそうとしたその時、足元が崩れ彼女は闇へと落下した。
「きゃあああああ!」
――――どのくらいの時間が立っただろうか。
彼女が目を覚ますと辺りは黒一色であり、自分の存在のみが浮かび上がっている。そんな場所。
少し先の方に黒い蔦に絡まれるようにしてガルディアがそこにいた。
「ガルディアさんッ! 私です、舞花です、わかりますか!!」
近づこうとした彼女の腕を黒い槍が貫く。激痛。その場に崩れ落ちそうになるが、彼女は踏み止まって耐えた。
「ぐぁ、この……ぐらい!」
「俺は、俺は救えない……あの子も……あいつらも……誰一人として……救えない……」
「何を言うんですかっ! あなたは私を救ってくれた! あなたが助けてくれたから、私はこうして――」
その言葉を遮るように黒い蔦が鞭の様に彼女を打ち払った。倒れた彼女の背中を鞭が数度叩く。背中には血が滲んだ。
「ああぅッ! ひぐぅあぁッ!」
焼けるような背中の痛みと戦いながら彼女は再び立ち上がり、よろよろとガルディアへと歩く。
「救えない、救えない……誰も、誰もッッ!!」
伸びる黒い槍が舞花の身体を傷つけていくが、彼女は痛みを精神力で捻じ伏せ歩くのを止めない。
「確かに、救えない事は……あったかもしれません。ですが、私はガルディアさんが優しくて熱い魂を持っていることを知っています。この先、あなたならどんな人でも救えるはずです!」
ガルディアの至近距離まで接近した彼女の身体を無数の黒い槍が貫いた。びくんっと身体が仰け反る。
「ごふっ……がぁ……力が、足りないとか、怖……いとか、あるんだったら……私の力を……あなたに、捧げます……だから、大丈夫ですよ……」
力を失い、ガルディアの方へ倒れ込む舞花は最後の力を振り絞って彼を抱き締めた。
その瞬間、温かな力がガルディアに流れる。不安、恐怖、その全てが吹き飛ばされる様な感覚。
黒一色だった世界がガルディアを中心にひび割れ砕かれる。崩れる様にして世界は黒から白へと変わった。
蔦から解放されたガルディアは舞花を抱き抱えしっかりとした表情で彼女を見つめる。
「すまない、苦労を……かけた」
「いい、んですよ、ほら……皆さんが待ってま、す……あなたの助けを……」
「ああ、任せろ……全て、終わらせてやる!」
〜屋敷・大広間〜
ガルディアと舞花を白い激しい輝きが包み込む。
「どうやら、帰ってきたようだな……まったく、ひやひやさせる」
輝きが収まった後、そこには強い瞳に戻ったガルディアと彼に抱えられる舞花がいた。
「ダリル、この子を頼む」
「そういうと思って、治療の準備はしてある……思う存分やってこい」
「ああ、助かる……ッ!」
ガルディアは舞花をダリルへと預けるとストレガへ向かって走る。
ルカと戦闘中のストレガはガルディアに注意を割いていない様に見えた。恐らく自分の掛けた魔術が解けると思っていないのだろう。
(慢心もいい所だな……)
足に力を込めてガルディアは跳ぶ。上空から両手での斬り下ろしをストレガの背面目掛けて放った。鋭い銀閃が魔女の身を裂いた。
「ぐぅぅあああああああああああああああッッ!! ガ、ガルディア、貴様ァァァアアアア!!」
苦しみ、もがく魔女に剣を向けガルディアは言い放つ。
「悪いな、バイトの時間は終了だ……給金は、お前の首でいい」
その様子を見てルカは安堵する。
「もう、心配させちゃって……もう、もうッ!! 後でお仕置きなんだからッッ!!」
「……お手柔らかに頼む」
少し泣きそうなルカをなだめつつ、ガルディアは戦闘にしようとしたその時、声が掛かる。
「まったく、助けに来た意味ないじゃないっ!」
同じく泣きそうな顔をしたベルネッサであった。いや、既に泣いていた。目からは大粒の涙を流してはいるがその顔は怒っているようにも見える。泣き怒りとでいうべきか。
「……怒っているのか、泣くのかどちらにし――」
そこまで言った所で殴り飛ばされるガルディア。肩で息しながらベルネッサは言う。
「そっちのお仕置きが終わったら、こっちのお仕置きもある事忘れずに!! 体も財布もぼろっぼろにしてやるわッ!!」
なぜ殴られたのか、なぜ怒られたのか理解できないガルディアであった。
「貴様らあァァアァァッ! この、私を! 無視するんじゃなあああいッ!」
「あ、忘れてた」
「ええ、静かだったもの」
「そういえば、まだ倒していなかったな」
一同の言葉が更にストレガの精神を逆撫でする。
黒い魔力がストレガに収束し一気に大広間全体に放たれた。凄まじい黒い衝撃が辺りに荒れ狂う。
「後悔させてやろう……この私を、怒らせたことをッ!!」
大広間全体が振動で揺れる。その場にいる者は膨大な魔力が膨れ上がっていくのを感じていた。
荒れ狂う黒い暴風の中、ストレガに桃色の何かが接近する。それは桃色の闘気を纏い跳躍、上空からストレガに一撃を叩き込む。激しい轟音と衝撃波が発生、大広間を更に揺らした。
「お前、強いんでしょッ!? だったら私と戦おう! ね? いいよね? ねッ!?」
空中で体勢を変えながら次々と繰り出される右手の攻撃を捌きながらストレガは影の槍で応戦する。
しかし緋柱 透乃(ひばしら・とうの)はその槍のダメージに怯む所か笑顔を浮かべていた。
「いいねッ! 魔女ストレガ! すっごく強い、これならあれを試せるかなー!」
ふっと身体を沈ませ、しゃがみ込むと掌底をストレガに放つ。影の盾でそれを防いだ彼女を回転力の乗った透乃の裏拳が打ち貫いた。
「がはあぁぁあああッッ!」
予想だにしない方向からの攻撃を防げず、ストレガは大きく吹っ飛んで地面を跳ねるように転がった。
ふらふらと立ち上がり、肩を震わせ笑う。
「ふふふ、あははははは……いい、攻撃だ……お前はさぞかしよい尖兵となるだろう……逃れられぬ我が呪縛の虜となるがいいッ!!」
妖しい笑顔を浮かべたストレガの瞳が輝き、透乃を見つめる。
透乃の動きが制止し、目が虚ろになった。
「そうだ、素直に……お前の闘争心を解放しろ……さぁ、さぁッッ!!」
「う、うおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
周囲の風を巻き込みながら闘気を放つ透乃は足元に拳を打ち付け床を陥没させた。
その姿はまるで鬼神。誰もあの状態の彼女を止める事はできない、そう思われたその時、一人の女性が歩み出る。
緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)。彼女は恐れることなく歩みを進めながら透乃に向かっていく。
右手をかざす。
「……朧さん」
声に導かれるようにアンデッド:レイス【朧】【アンデッド:レイス】が出現する。
左手をかざす。
「……宴さん」
声に誘われ、美脚なボロスゲイプ【宴】【虚無霊:ボロスゲイプ】が出現した。
「透乃ちゃんを正気に戻す間、時間稼ぎをお願いしますね」
動くことを返事の代わりとばかりに二体はストレガへ向かって飛んで行った。
「さて、と」
彼女は両手を合わせると集中し、こちらに突進してくる透乃の眼前に出現するようにヤドリギを呼び出した。
「うあああああああーーーーッッ!」
錯乱した透乃は拳を突き出してヤドリギを貫こうとするが、枝が触手の様に彼女の身体に絡み付きその動きを封じる。
四肢を拘束され、透乃は力を吸い取られる感覚に呻きを上げる
「あぁ、うくっ……んっ……」
ゆっくりと近づいた陽子は顔を赤らめ、苦しそうな表情の透乃を愛おしそうに抱き締めた。
その手は背中から腰の下へとゆっくりと伸び、衣服の中へと入っていく。
「大丈夫ですよ、身を任せて……きっと、平気ですから……ね?」
透乃の唇を優しく奪い、陽子は舌を絡ませて彼女の口腔を蹂躙する。
「ちゅっ、んっ……はぁ、ちゅくっ……んんっ……」
「んっ……あふっ……ちゅっ……んぅっ……陽子、ちゃん」
ヤドリギが消失し、陽子に抱かれるようにして解放された透乃は戦闘ができる状態ではなかった。いろんな意味で。
陽子は透乃を連れて、後方へと退いていった。
「あんだけ見せつけてくれちゃって……すごいわよねー」
「……そうね、すごいわー」
少し気分が高揚したかのように話すセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とは対照的にセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は心ここにあらずといった感じで返す。
彼女は思う。先程の二人の行為に感化され自分達もやってみようと言わないだろうかと。
そう冷や冷やしているセレアナの心配を余所にセレンは装備の具合を確かめ、ストレガの方を見つめている。
「行くわよ、今回の作戦は少しでも油断したら負けるわ……覚悟はいい?」
「勿論、いつでもいいわ」
水着とレオタードという衣装の様子に似合わない気迫を纏わせ、二人はストレガへと攻撃を仕掛ける。
セレンはストレガの足元に腰部に装着された3−D−Eからワイヤーを射出し床に刺さったと同時に地を蹴って空を駆けた。
巻き取りの力を利用して速度に乗った回し蹴りを放った。半身を反らして躱すストレガに裏拳で追い打ちをかける。杖でそこの拳を払うとストレガはセレンの頭部目掛けて刺突を放った。
両手でそれを挟み込むようにして受け止める。ぎりぎりと二人の力が拮抗した。
「近距離戦ならば、勝てるとでも思ったか? 実に愚かな選択だ……」
「くっ、このぉぉおおおッ!」
力任せに杖を弾くと拳の乱打を打ち込む。影の障壁がすぐさま展開し、その全てを受け止めた。
「らぁあああーーーッッ!」
乱打の速度を上げていくが、障壁はひび割れる所か揺れさえもしない。ストレガが呆れたような表情を浮かべた。
「だから、無駄だと言っているのが――わからんのかッ!」
障壁が弾ける様に砕け散り、黒い衝撃波がセレンに打ち込まれると彼女の身体は上空へと跳ねた。ストレガが杖を彼女にかざす。激しい衝突音と衝撃が発生、その体を遠くへと吹き飛ばした。
巨大な拳で殴られたかのような衝撃に耐えながら彼女は空中でワイヤーを射出、天井に突き刺して空へと上がる。天井に到達する前にワイヤーを切り離し、全体重を掛けた踵落としを放った。
その足をストレガは右手で掴むと振り回す様に放り投げる。追い打ちとばかりに空から数本の影の槍が現出、彼女を狙った。
姿勢を即座に整えたセレンはその身を回転させ、迫る影の槍を全て撃ち落す。
着地し、肩で息をするセレンと交代するようにセレアナが両手のラピッドショットを連射しながらストレガの側面へ回り込む様に走る。
降り注ぐ弾丸の雨を影を伴った左手で薙ぎ払う様に防ぐストレガは余裕の表情を崩さない。
「力の差をここまで見せても、まだ立ち向かうとは……実に愚か、いや考える頭がないとでも言えばいいのかァッ!」
ストレガがそういった直後、セレアナの足元がせり上がり、隆起する。持ちあがり割れた地面が影を吹き出しながら爆発、衝撃で吹き飛んだセレアナは回転しながら壁に叩きつけられた。
「がふっ! ……さすがは、魔女、といった所ね……」
痛みが全身に走っているのか、セレアナは立ち上がろうとしない。その姿を見てストレガはにやりと笑った。
「いい表情だ、よし……まずはお前から消してやろうッ!」
杖を振りかざす様に構えるとその先端に影が凝縮し、大きな球体を形作っていく。
「喜べ、痛みも感じず……跡形もなく、綺麗に消し去ってやろうッッ!!」
弱者を踏みつぶす快感にストレガが打ち震えている時、背後から声がする。冷静な落ち着いた声であった。
「消え去るのはどちらでしょうね、魔女ストレガ」
「――何ッ!?」
セレンは至近距離から音波銃をストレガに向けて放つ。至近距離から放たれた音波はストレガの耳を容赦なく破壊、彼女は耳から血を流して悶絶する。
「ぎゃああぁあッ! くそ、耳が! くそ!くそおおおッ!」
憤怒の表情のストレガは肩を打ち震えさせターゲットをセレンへと変更する。
杖の先端に生成した黒球を投げようとして――その黒球は消滅した。ストレガの背後から降り注ぐ洗礼の光によって。
「な、この……いつのまにぃぃッッ!!」
一気に状況を覆されたストレガの動きが一瞬止まる。それは常人では気づかないほどに微細な動きであったが、その僅かな隙を二人は見逃さなかった。
正面からセレンの絶望の旋律が打ち込まれ、背面からはセレアナのラピッドショットが叩き込まれる。その身に無数の風穴を空けながら、ストレガが苦しみの声を上げた。
しかし、様子がおかしい。苦しんでいたはずの声はいつの間にか笑い声に変わっていたのである。
「ぐうあああぁぁぁぁぁぁああああああああははははひひひひひああああひひひひいひひいひいひひひいひひひひーーーーーーッッ!」
不気味に笑いながら無数の弾丸に貫かれ、魔女は崩れ落ちる。床に大きな血だまりを作って。
辺りに静寂が訪れる。終わった……誰もがそう思った時、異変が起きる。
その場の空気が重くなる。いるだけで嫌悪感を抱きそうなぐらいに。重く、重く、重く。
「なによ、これぇ……」
頭を押さえながらよろめく身体を辛うじて立たせ、セレンはストレガの方を見る。
その身体から黒い影――というよりは黒い黒い漆黒の闇……そういうのが正しいと言うべき黒い塊が這い出る様に出現した。
ソレはゆらゆらと揺れながらストレガの形を取る。ゆらめく闇に目はなく、歪に歪んだ口だけが妖しく笑っていた。
「肉体を持たないのならば!!」
洗礼の光を放つセレアナであったが、その光は降り注ぐ先から漆黒の黒い闇に吸収され消え去ってしまった。
「う、そ……でしょ……」
光の届かない、純粋な闇。かつて教導団の艦隊を崩壊に導き、激戦の末に倒すことができず封印されていた災厄。深淵なる闇――それがストレガの正体。
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