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古代の竜と二角獣

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古代の竜と二角獣

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バイコーンの調査


「……ったく、ミナホのやつ。迷子になるって本当に子どもじゃん」
 イルミンスールの森。その南西部。かつてはミナの森とも呼ばれた森の中で瑛菜はため息混じりでそう言う。
「心配? 瑛菜」
 瑛菜にそう聞くのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)
「心配してないわけじゃないけど……それ以上に呆れているのは確かだよ。エリーだってちゃんとついてきてるのに」
 そういう瑛菜の目線の先にはアテナと一緒に楽しそうについてくるエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)の姿があった。
「うゅ……もうすぐで……こぼるとさんたちの集落、なの」
「うん。楽しみだねエリー」
 楽しそうに手をつないで歩いている二人。
「エリーはアテナと仲良しだからね。アテナがついてきてたらちゃんとついてくるわよ」
 それよりもとローザマリアは聞く。
「本当に心配じゃないの? バイコーンの伝承は少ないけど、ユニコーンの対の存在として不浄の象徴……まぁ、率直に言うなら淫獣なわけだけど」
「……まぁ、大丈夫なんじゃない? ただの勘だけど」
 今はとにかく話を聞きに行こうと瑛菜。
「バイコーンと相互理解が出来るかは分からないけど、一応ゲストだしね……」
 ニルミナスとこの森がたどってきた道を思いながらローザマリアは言う。不浄の象徴であるバイコーンとはいえ、何も知ろうとせずに排除するのは『らしく』ないんじゃないかと思う。
「何か目的があるならそれを知ってからどうするか決めても遅くないわ」
 そして、なにか目的があるならきっと森の守り手であるゴブリンやコボルトたちは何かを知っているとローザマリアは思う。
「さてと……ついたね。アテナ、あたしらはコボルトロードの所にいいくけど……」
 コボルトたちの集落に着き、瑛菜はアテナにそう聞く。
「アテナはエリーと一緒に集落のコボルトたちに話聞いとくよー」
「うゅ……アテナといっしょ、なの」
「だってさ。ローザ行こうか」
「ええ」

 そうして、瑛菜とローザマリアはコボルトロードからバイコーンが何のためにこの森に来たかを聞く。


「フフフ、誰もが知らないような秘密を暴いてやるであります」
 木の上から少し離れた位置にいるバイコーンを観察しながらそう言うのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。
「この完璧な偽装に気づく者はいないであります!」
 その声に森の警護に回っていたゴブリンは木の枝と段ボールで偽装している吹雪の姿を見つけるが、『またあいつか』と言った様子で気にせずに警護に戻る。……普通に見つかっていた。
「はて……不浄の象徴と聞いていたでありますが、こうしてみると普通の馬でありますな」
 もう少し凶暴そうな様子を想像していたが、実際は普通の馬とそう変わらない。
「……むしろ、疲れているような印象を受けるであります」
 この森に来たバイコーンへの印象を改めながら吹雪は観察を続ける。
「とりあえずはこのまま観察と追跡であります」
 今現在、バイコーンの目的を調べている契約者達がいる。その結果からバイコーンをどうするか決めた時、どのように対応するにしてもバイコーンの位置が分かっていなければ始まらないだろう。そう思い吹雪はバイコーンを隠れながら追跡していくのだった。


「竜斗お兄ちゃん、きつねさんから話し聞いてきたよー」
 リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)がそう言って黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)シェスカ・エルリア(しぇすか・えるりあ)の三人がいる所に帰ってくる。
「お疲れルヴィ。どうだ? なにかわかったか?」
 竜斗がリゼルヴィアにそう聞く。
(これも黒羽の正式な依頼だからな。ちゃんと解決してみせるぜ)
 森に現れたバイコーン。それに不安を覚えた村人からの依頼で竜斗たちはこの森に来ていた。ミナホとは違う依頼口になるが、現在は協力しあっていた。
「うーん。なんどかこの森に着てたのは知ってるけど、何をしに来てるかは知らないんだって」
 きつねから聞いてきた情報をリゼルヴィアは竜斗たちに伝える。
「ルヴィちゃん、他にはなにか言っていませんでしたか?」
 少しでも情報を手に入れたいとユリナはそう聞く。
(もし村に災いをもたらすなら何とかしないと!)
 ユリナはそう思う。できればバイコーンを排除するということをユリナはやりたくない。けれど、それでもバイコーンが悪しき想いを持ってこの森に来ているとしたら、村に住むユニコーン、ラセン・シュトラールに害をなそうとしているなら……。乗り気はせずともやらないといえけないだろう。
「うーん……そういえば、バイコーンがこの森に来たことには覚えがあるけど、バイコーンがこの森から出て行った覚えはないって言ってたよー」
「? それはどういうことだ? もしかしてこの森の何処かにバイコーンの住処でもあるのか?」
 リゼルヴィアの言葉に竜斗はそう考える。
「……この森に私達が知らない場所はまだあるでしょうが、そうであればもっと噂になっていたと思います」
 バイコーンの姿は目立つ。隠れ住むというにはあまり向かないだろう。そもそも……
(……不浄の象徴……害をなすとされている生き物が誰かの目から隠れて生きるでしょうか?)
 それはバイコーンという生物の印象からは大きく離れている。
「めんどくさいわねぇ……バイコーン本人に聞いたほうがいいんじゃないの?」
 言葉通り面倒くさそうに言うのはシェスカ。三人もいれば自分はいらないんじゃないかと最初からやる気はない。
「それができれば苦労しないんだけどな」
「うん。バイコーンさんとは話したことないよー」
 ルヴィはバイコーンとの会話は難しいだろうと言う。
「それじゃ、地道に聞いていくしかないわねぇ。……手分けして話を聞いていきましょうか」
 シェスカの提案。やる気ないにしてはまともな提案だが……
(分かれて動けはゆっくり森の散歩できるわねぇ)
 根っこはやっぱりやる気なかった。

「そういえば、バイコーンって不純を司るのよねぇ。じゃあ私のとこに現れやすいかしらぁ?」
 提案受け入れられゆっくりと森の散歩をしながらそんなことを言うシェスカ。
「って、本当に現れちゃった。……襲われるかしら?」
 バイコーンの伝承を思い出すと、若い女性と見ればところ構わず襲ってくる印象だ。
『………………』
「あら? 行っちゃった」
 シェスカを一目見た後、すぐに踵を返していなくなるバイコーン。
「なんだか、寂しそうな目をしていたわねぇ」
 いなくなったバイコーンを思い出しシェスカはそう言うのだった。



「あれ? ミナホ? 久しぶりー。こんなところでどうしたの?」
「ひっ……って、よかった。セレンさんとセレアナさんでしたか。お久しぶりです」
 突然掛けられた声にびっくりしたミナホは、声をかけてきたのが知っている相手、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)であることを確認してほっと息をつく。
「この森は基本的に安全のはずだけど……そんなに驚くってことはなにかあったのかしら」
 ミナホの様子に分かるところがあったのかセレアナがそう聞く。
「実は――」
 そうしてミナホはセレンとセレアナに事情を説明した。
「なるほどねー。それで契約者に手伝ってもらって解決しようってわけね」
「はい」
「よし。あたしらも手伝おうか。いいわよね?」
「そうね。特に断る理由はないわ」
 ミナホを手伝うという二人。
「本当ですか!? 助かります」
 一人迷子で心細かったミナホは心の底から安堵の溜息を着く。
「(ね、セレアナ。もしかしてミナホ、迷子だったのかしら?)」
「(みたいね)」
 ミナホの様子からその状況を理解するセレンとセレアナ。
「(ほんと、あの事件以来残念風味が増したというか……)」
「(振り出しに戻った感じかしらね)」
 最初の頃、初めてニルミナスに関わった頃のミナホがこんな感じだったような気がする。……今よりはマシだったような気もするが。
「それで、他の契約者は今どう動いているの?」
「バイコーンさんが何のためにこの森に来たかを調べてもらっています」
「なるほどね。バイコーンの目的が分かれば対処しやすいものね」
 セレンは頷きます。
「それで、村長。目的がわかったどうするか決めてるの?」
「どうするか……ですか?」
 セレアナの質問に首を傾げるミナホ。
「まぁ、目的が分からない内からこの質問は難しいかもしれないけど……」
 それでもとセレアナは続けます。
「目的を知った上でどうするか。それを決めるのは村長じゃなきゃダメよ」
 契約者を頼ることは構わない。けれど依存することは許されないとセレアナは伝える。
「ま、アーデルハイトに認めれるならそれくらいはできないとね」
 セレンは言う。
「……そうですね。決められるかどうかまだ分かりませんが……決めないといけないことはわかりました」
 ミナホは言う。
「今はそれで上出来よ。ちゃんとフォローはしてあげるから」
「セレンがフォローすると斜め上の方向に行きそうだけどね」
 そうならないために自分がいるとセレアナは言う。……同時に斜め上の方向でもなんだかんだで解決するのが自分の恋人だと思っているが。

 そうしてミナホは迷子から脱出。村長として少しだけ成長したのだった。