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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

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 第 6 章

 洋館の地下、研究室の入口に設置された監視カメラに映った映像を目にした和輝は研究者達に聞こえないよう舌打ちする。彼の纏うスノーも溜息を洩らすが禁書『ダンタリオンの書』のサポートから得られる研究結果に忙しい彼らは気づいていない。
「さて、俺達が協力出来るのはここまでだ。監視カメラのモニター、良く見てみることだな」
 和輝の声に、研究者達がモニターを見た途端慌てふためいた。
「な、何だあいつらは……!」
「さっきから何度も警告しているだろう、調査に来た連中と双子の魔道書……あいつらがここに居ると教導団は必ず救援か増援を寄越すと――悪いが、付き合う義理はない。俺達はここで撤退させてもらう」
 『獅子の面』を被り、スノーを纏った和輝は一見すれば女性と見紛う。素顔を隠し、性別を偽る事で素性へ辿り着く事を困難にさせていた。
「リオン、アニス……用意はいいか?」
「アニス準備おっけ〜、コピーも取ったよ!」
「ふむ、あまり時間がない……貴様らを殺していくより記憶処理をした方が早いであろうな。あまり、世に流出しても困る知識だ……【天のいかずち】でショックを与えればその効果は望めるであろう」
 モニターに映る研究員は、セレンフィリティとセレアナ、ルカルカと淵に囲まれて研究室の扉を今まさに開けようとしていた。

「全員動かないでちょうだい! こっちも出来るだけ傷付けたくないのよ……降伏勧告に応じれば穏便に済むわよ」
 両手を上げた研究員の両脇に付いたセレンフィリティとセレアナが、まず中の研究員達に降伏勧告を行うものの、抵抗を見せる研究員にルカルカと淵が前に出る。
「あなた達のしている事がどんな残酷な事かわかっているの!? 全員、逮捕するわよ。仲間達も返してもらうわ」
 ルカルカは二本の刀を手に構え、淵は弓を構えるが和輝が両手に装備した『曙光銃エルドリッジ』で2人の足元を狙って牽制した。ルカルカの持つ霊刀の1つ『布都御霊』の唾鳴りが起こり危険を知らせると2人に緊張が走る。
「アニス」
 和輝に呼ばれてアニスが自分達の姿を隠すと同時に室内を【ホワイトアウト】が吹き荒れた。
「さってと、逃げるよ〜♪【雪使い】なアニスの【ホワイトアウト】を喰らうがいいのだ〜♪」
「ついでに、貴様らへ【天のいかづち】を置いていこう。研究者共を捕まえやすくしておくのだから、感謝してほしいものだ」
 吹雪といかづちで室内が荒れる中、吹き荒ぶ視界から和輝達の姿も気配も研究室からは消え失せていた。禁書『ダンタリオンの書』のいかづちをまともに受けた研究者は一様に身体を麻痺させて動けずにいる。
「用心棒……ではないと思うのだが、逃げられてしまったのは拙かったかもしれないぞ、ルカ」
 淵の言葉に霊刀を鞘に納め、動けない研究者達を起こして順番に手錠をかけていきながらセレンフィリティとセレアナもそれに続く。
「取り敢えず、逃走しようっていう人はいないようね。……淵の言う通り、彼女? に逃げられたのは痛かったけれど、これだけ研究者が捕縛出来れば背後関係も……っ!?」
 言い掛けたセレンフィリティが言葉を止める。突然奥の部屋から射撃音が響き、手錠を掛け終えた4人はすぐさま奥の部屋へと向かうのでした。


 ◇   ◇   ◇


 裏口から洋館へ侵入した鉄心、ティー、イコナの3人は【隠れ身】や『ベルフラマント』で気配を断ち、ゾンビの集団にはティーが【天使のレクイエム】で鎮めていく。地下へ向かう階段を見つけると鉄心は一段降りて『銃型HC弐式』を使い、熱源を確認するとティーとイコナへ振り返った。
「おそらく、研究者達は地下だろうと思うが……用心棒や護衛の類もいるだろう。2人共充分に気を付けてくれ」
「大丈夫ですの! 【封印呪縛】で準備はばっちりですわ」
「捕縛の時は、私が囮で動きます。自分の身は自分で守りますよ」
 軽く2人の頭を撫で、地下へと降りる鉄心は熱源を見ながらやけに人数が多い部屋とそれに続く部屋に少数の熱源反応を確認した。
「どうやら、向こうはルカルカやセレンフィリティが抑えたらしい。となると……こっちの熱分布で表示されてる部屋はゾンビが造りだされる部屋、かもしれないな。……ゾンビを造り出す、か……こちとら殺生を生業としているようなもんだし、今更キレイ事を言うつもりも無いが……やはりこういった類の連中は気に食わないものだ」
 中の様子を窺おうとした鉄心だったが、その研究室の扉が突然開いた。
「侵入者らしく、突入の機会を窺うのは定石に則った行動だ……だが、その機会をこちらが提供する戦略など普通はありえぬだろう。私も捕まるつもりは毛頭ないのでね、君の不意を突かせた一瞬……利用させてもらう」
 開いた扉に少なからず驚いた鉄心が目にした研究者は、あっという間に刹那の撒いた『煙幕ファンデーション』でその姿を隠されてしまう。
「標的確認……【スナイプ】」
 イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が鉄心へ狙撃するといち早く反応したティーが【トリップ・ザ・ワールド】で結界を作り、弾丸を弾いた。煙幕が晴れるのを待たず、鉄心が【ホークアイ】を使って姿を消している護衛をいぶり出そうとする。
「姿を隠したままで、か……暗殺者らしい戦い方だ」
 煙幕が晴れかかると、ルカルカ達が研究室へ飛び込んできた。
「何、この煙幕……っ、『布都御霊』がまた鍔鳴りを……」
「ルカ! 『布都御霊』から投影されてるこれは……あいつらが親玉の護衛ってわけか」
 鉄心の【ホークアイ】で看破された刹那達が煙幕の切れ目から姿を現す。既に【毒虫の群れ】を放ち飛び込んできたルカルカ、セレンフィリティへ真っ直ぐ向かってきた。
「刹那様の邪魔をなさる方……お覚悟を」
 女王・蜂(くいーん・びー)が『リターニングダガー』を投擲し、【毒虫の群れ】に追いつくように毒針を発射する。それに対し、ルカルカは【ゴッドスピード】と【超加速】をかけて回避し、セレンフィリティは予め【行動予測】で周囲を把握し【ゴッドスピード】で回避した。
「危ないわね、全く……! 今日こそ教導団へ連行するわよ、辿楼院 刹那!」
「ほう、全てかわすとはさすがじゃな。しかし、わらわも護衛の仕事を請け負った身……そうやすやすと捕まえられると思うでない――ファンドラ」
 刹那の声に応えるようにファンドラが【神の奇跡】を発動させ、空間から無数の武器を飛ばしていく。
「きゃあ!」
「イコナちゃん、頭を低くして下さい……!」
 ティーがイコナへ覆い被さるように庇い、淵はベルゼブブとフェンリルが武器を弾く間に矢を射って叩き落としていく。セレアナは【女王の加護】で守りを固めつつ【アルティマ・トゥーレ】で氷結させ、威力を削いでいった。
「全く……これから研究資料の検証に入ろうとしていたんですがね、邪魔をしないでもらいたいです。さて――ここに居ては彼の護衛が出来ません、女王・蜂さん行きましょう」
 ファンドラと並ぶように女王・蜂が研究者の脇に付くと予め用意されていた逃げ道なのか、からくり屋敷の如く壁を回転させて3人がその奥へと姿を消す。
「ま、待て! 逃がすわけにいかないぞ……!」
 鉄心が【ポイントシフト】を使い、瞬時に壁を抑えにかかるが開いたはずの壁は動かなくなっていた。体当たりで壁を回転させようとするものの何度打ち付けても動こうとしない。
「どうなっているんだ、あの研究者が首謀者なら取り逃がせばまたこんな事が起こるだろう……っ冗談じゃない」
 ティーとイコナも鉄心に駆け寄り、3人で壁を押し続けるがびくともしない事に焦り始めるが刹那が【歴戦の飛翔術】で攪乱に動き、ルカルカとセレンフィリティの死角に現れては【魔障覆滅】を仕掛ける。ルカルカは2本の霊刀、『布都斯魂』と『布都御霊』の効果と相乗させ【ゴッドスピード】と【超加速】で多段加速を狙い、刹那の攻撃をかわし続けた。
「……仕方ない、ティー、イコナ。今は残った2人を捕縛する事に専念しよう」
「撤退用意……マスター刹那、【弾幕援護】開始シマス」
 させまい、とセレンフィリティがイブに装備された『六連ミサイルポッド』を叩き落とそうとするがイブは一寸の差で脇へ移動すると鉄心が『魔銃ケルベロス』でイブの足元を狙う。
「これ以上逃がすわけにいかないからな……! セレンフィリティ、『絶望の旋律』で援護頼む」
「了解! さあ大人しくお縄についてちょうだい」
 イブに向け、引き金を引こうしたセレンフィリティと鉄心へ後ろから『しびれ粉』が浴びせられ、2人の動きを封じられてしまう。一瞬、硬直したように動かなくなった鉄心とセレンフィリティの目の前でイブは無表情に『六連ミサイルポッド』を発動させた。
「撤退開始……マスター刹那、合図……行キマス」
「さて……遊んでやるのもここまでじゃの」
 刹那とイブは、先ほどファンドラ達が消えた壁の回転に身体を滑り込ませて逮捕を逃れたのでした。