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種もみ学院~荒野に種をまけ

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種もみ学院~荒野に種をまけ

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砂の数だけ夢がある


 スーパーパラ実生の噂を聞いた円・シャウラ(まどか・しゃうら)は、地球から連れてきたカウボーイ一家が襲撃にあっていないか心配になり、彼らの住むオアシスを訪れた。
 円の心配とはよそに、オアシスはいたって平和そのものだった。
 牧場に一家の主の姿を見つけ、駆け寄る。
「おじさーん、牧場の様子どーうー?」
「お、マドカか! 久しぶりだなぁ。少し背が伸びたか?」
「余計なお世話。……あ、馬の数増えたんだねー。モヒ夫もがんばってるし」
 円にモヒ夫とあだ名されたのは種もみ生で、この一家の母親マリと契約した者だ。
 彼は今、干し草の山を作っていた。
 円はふと、他に従業員がいないことが気にかかった。
「オアシスの人達が手伝ってくれるからなぁ。うちの息子達も畑仕事手伝いに行ったりしてるし」
「ふぅん。でも、もっと人手が増えたら牧場も大きくなって、事業拡大?」
「ははは! 円は野心家だな」
「おじさん、パラミタに来て良かった?」
 心配そうな円に、一家の主はにっこりした。
 何かを言いかけた時、モヒ夫の叫び声が響いた。
「パラミタ愚連隊だ! スーパーパラ実生もいやがる!」
「おお、噂の」
「感心してる場合じゃねぇよ!」
「そうだよ、おじさん。あいつらを弟子にするチャンスだよ」
「円さん、何言ってるの!?」
 驚くモヒ夫の声を聞きつけて、マリが出てきた。
 ちょうどいいところに、と円はマリに話を持ちかけた。
「創世クラス? おもしろそうね。モヒ夫、やってみましょうよ。蒼きアーガマーハとやらは持ってないの?」
「集めてたけど……」
「使いましょう! ……でも、どんなクラスがいいかしら」
「自称小麦粉と音楽で何かできないかな? ロックはできる?」
 円の助言にマリは何かひらめいたのか、パチンと手を打ち鳴らした。
「そういえば息子が自称小麦粉を拾ってきてたわね。ギターもあるし……」
 マリはいそいそと家に取りにいった。モヒ夫もついていく。
 しかし、彼女がここに戻ってくる前にパラミタ愚連隊が着いてしまった。
「いい馬がいるじゃねーか! 俺らがもらってやるぜ」
「一頭一億ゴルダで売ってやろう」
「なめてんのかオヤジ!」
 いきり立ち、鉄パイプを振り上げるスーパーパラ実生の前に円が立つ。
 とたん、スーパーパラ実生は居心地が悪そうに後退した。
 円の友情のフラワシが敵対心を削いだのだ。
 さらに円は持参してきた自称小麦粉をスーパーパラ実生達の前にチラつかせる。
「ほしいー?」
「そ、それは……!」
 と、そこにマリとモヒ夫が帰ってきた。
 二人はギターとマラカスを持ち、とても楽しそうだ。
「創世クラスっておもしろいわね〜。モヒ夫、デビューよ!」
「あいさー!」
 モヒ夫のマラカスのリズムに乗り、マリがギターを奏でて歌う。
 ──その後、何が起こったのか円も誰もよく覚えていない。
 ふと、我に返るとスーパーパラ実生と歌って踊っていた。
 巨獣も足踏みしたのか、牧場の柵の一部が踏み潰されている。
「何しやがった!?」
「ボクもわからない」
「俺も」
「私も」
 続いたモヒ夫とマリに、全員の視線が突き刺さる。
 遠くから様子を見ていたオアシスの住人にはわかっていた。
 マリとモヒ夫が歌い始めたとたん、全員が親しい友人同士の集まりのように歌って踊り出したのだ。
 不思議で不気味な眺めだった。
 マリとモヒ夫で作った創世クラス、えんじぇるボイスは、二人が奏でる音楽(正確にはマリの歌声)を聞いた人も動物も演奏者さえも、仲良く歌と踊りを始めてしまうというものだったのだ。
 その間の記憶はない、とても危険なクラスだった。
 彼らは何度か、襲う体勢→演奏→歌って踊って記憶なし、を繰り返した。
 眺めていたオアシスの住人は、いつの間にか増えていた。
「あいつら何やってんだ?」
「さぁ……」
 やがて、パラミタ愚連隊とスーパーパラ実生は疲れたように引き上げていった。
 踊り疲れたのかもしれない。
 よくわからないまま賊を追い払った円と一家はハイタッチして喜び合った。
「巨獣、置いてってくれればよかったのに」
「うーん、あいつを育てるだけの力はまだないかなぁ。そうだマドカ、さっきの答えだが……ここに来て悪いことなんてなかった。苦労はあるが、それ以上にやりがいを感じている。モヒ夫もそうだが、パラ実生はけっこういい奴らだしな。いろんな生き物もいておもしろいし」
 少年のように話す一家の主に、円は頷き、微笑んだ。


 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)には、ある野心がある。
 その第一歩を踏み出した。
 パラミタ崩壊の危機の時、パラミタ関連の株価は暴落した。
 ジャジラッドはその機を逃さず、買えるだけの株を買った。
 まだパラミタ情勢は安定していないが、ジャジラッドは計画を決行した。
 彼はパラ実生を集めると、買い集めた株を彼らに特典をつけて売ったのだ。
「ついにパラ実にカジノが……! これでしみったれた小便博打ともおさらばか!」
「その前におめぇにはカネがねーだろ」
「ばぁか、カネはカジノで当てるのよ!」
 パラ実生のカジノへの夢はふくらむ。
 中には買った株を他の誰かにもっと高値で売りつけようとたくらんでいる者までいた。
「なぁ、このカジノはいつ頃オープンなんだ?」
 パラ実生からあがった質問に、ジャジラッドはニヤリとして答えた。
「カネが集まり次第すぐに建設に取り掛かるさ」
「……てことは、カネが集まる前でも俺達で資材集めて建てることはできるな? 場所は決まってるのか?」
「候補地はある」
「よし、他の奴に取られる前に占領しようぜ」
「旗でも立てとくか」
 盛り上がったパラ実生達は勝手に話を進め、ワイワイ話し合いながらジャジラッドが示した候補地へ行ってしまった。
 それを見送るジャジラッドの背に、歳を経たが張りのある男の声がかかった。
「若いってのは勢いがあっていい……」
 ジャジラッドが地球から連れてきた元ディーラーだった。
 最近知ったのだが、彼の名はセバスというそうだ。
 セバスは、
「見たぜ」
 と言って、内ポケットからちらりと携帯を覗かせた。
 ジャジラッドがカジノ建設の資金集めのために宛てにしたのは、パラ実生だけではない。むしろ本命は別にある。
 そもそもパラ実生に金持ちはいないのだ。
 ジャジラッドは株主投資ファンドを立ち上げ、パラミタ関連のポータルサイトを立ち上げた。
 パラ実生が立てた優秀な計画には資金を提供できる起業制度も作った。
「カジノができれば雇用も生まれる。カネが回る」
「治安はどうする? 荒野はただでさえ賊が跋扈してるだろ」
「有志と恐竜騎士団で受け持つさ。それに、利益が出れば乗っ取ろうとする輩が出てもおかしくない。賊だけじゃなく、そういう奴らからも守る」
「ふむ……」
「何か不満か?」
 セバスはしばらく頭の中で考えをまとめてから口を開いた。
「今さら言う必要もないが、パラ実の評判は決して良いとは言えない。そのパラ実がカジノ計画ときた。つまんねぇ奴らに目を付けられるかもな……」
 セバスの言う『つまんねぇ奴ら』が何者なのか、それはひと月ほど過ぎた頃に判明した。
 カジノ建設候補地にヤ○ザがうろついているという知らせが入ったのだ。
 さらに、国軍の姿もちらほら見えるとか。
 カジノ建設にはクリアしなければならない問題が山積みのようだった。


 久しぶりに荒野に移住した中国の農家一家を訪ねた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、彼らに会うなり祝福でもみくちゃにされた。
 先日、二人が式を挙げたのを風の噂に聞いていたのだ。
「いつ来るかと待っておったぞ!」
「今夜は宴じゃあ!」
 この農家のおじいさんと共に浮かれているのは種もみじいさんだ。
 すっかり意気投合したのか、彼らは一緒に暮らしていた。
 人が増えることは良いことだと一家は考えているため誰も何も言わないが、じいさん率が非常に高い人口構成になっていた。
 元気そうな一家に美羽とコハクも笑顔になる。
 さらに二人を驚かせたのは、一家の住まいがレベルアップしていたことだった。
 彼らがオアシスに住み始めた頃、家は粗末な木造で田畑も潤っているとは言い難かった。
 しかし今は、家の敷地を塀が囲いそれなりに見栄えのする門がある。田畑も広がり収穫を待つ作物が実っていた。
 一家はその農法をオアシスの他の住人にも伝え、ここは収穫量が上がりつつあるという。
「今度、地球から友人らも呼ぼうと思うてな!」
「楽しくなるね!」
「着いたら美羽ちゃんにも紹介するで」
「二人共、お茶をどうぞ」
 騒いでいるとところに、一家の母親がお茶とお茶菓子を運んできた。ウーロン茶と胡麻団子だ。
「ところで美羽ちゃん、何か用事があって来たんじゃないの?」
「そうだった。あのね……」
 美羽は物資輸送のことを話して聞かせた。
 すると、おじいさんズがいっせいに「一緒に行く!」と言い出した。
 おじいさん達が行くとなると、小さな子供達もついて行くと騒ぎ出す。
 結局、みんなで行くことになった。
 ちなみに、ここのオアシスはそれほど困窮していないため、オアシス会議を開いた結果、他のオアシスに回してくれとジークリンデに伝えたのだという。
 準備を整え、種もみ生も交えて賑やかな物資輸送が始まった。
 行き先は、このオアシスに一番近いオアシスだ。
 馬車に付き添い歩いていると、種もみじいさんが心配そうに美羽に言った。
「最近、奇妙な賊が増えてのう。何と言ったかな。スーパー……マーケット?」
「スーパーパラ実生だね」
「そう、それじゃ。派手な金髪連中で、滅法強いそうじゃ。わしの知り合いの知り合いが種もみを奪われたと聞いたよ」
「何人くらいいたの?」
「いっぱいいたそうじゃ。……ほれ、あのように」
 と、種もみじいさんが指さした先に、金髪を逆立ててこちらを待ち伏せする一団がいた。
「あんなに大勢でお出迎え? コハクはここでみんなをお願いね」
 戦う気満々で美羽が前に出ると、種もみ生の数人も彼女に続いた。
「美羽ちゃんに、俺らのカッコイイとこ見せてやるぜェ!」
「みんなもスーパーパラ実生なの?」
「へっ。あんなもんじゃねぇ。俺らはスーパーファーマーだ! あらゆるものを畑の肥やしにするのさ! あいつらの体から鉄パイプまでな!」
「鉄パイプも? すごいね〜。あれだけたくさんの人が肥やしになったら、ここも立派な農地になるね」
 感心した美羽に、蒼きアーガマーハを使いスーパーファーマーとなった種もみ生は得意気に胸を張った。
「肥やしにになるのはてめぇらだ!」
 ばっちり聞こえていたスーパーパラ実生は怒り、数にものを言わせて津波のように押し寄せてきた。
「黄金には黄金で……!」
 気合を入れた美羽の全身を、揺らめく焔のように黄金色の闘気が包む。
 そして、バーストダッシュで真正面から敵勢に突っ込んだ。
「袋叩きじゃあ!」
 勢いづいたスーパーパラ実生達の前、美羽の間合いで跳躍する。
 雪崩れ込んできたスーパーパラ実生達が美羽の攻撃範囲内に入った。
「鉄壁飛連脚!」
 彼女は外すことなく連続蹴りを決めていく。
「やった、すげぇ!」
「今だ、埋めろー!」
 崩れた一画へ種もみ生が殺到し、乱闘の中、あっという間に倒されたスーパーパラ実生を首だけ残して埋めてしまった。
 それにしても、と一方で複雑な気持ちだったのはおじいさんズだ。
 美羽の鉄壁飛連脚により、彼女の超ミニスカートは派手に翻っていた。
 にも関わらず、その下の聖域はちらりとも見えなかったのだ。
 それは間近にいた種もみ生やスーパーパラ実生も同じだった。
「恐るべし、全学最強決定戦優勝者……!」
 おじいさんズは、次こそはと意気込むのだった。
 すぐ傍に美羽の夫がいるのにまったく気にしないその様子に、コハクは頭を抱えていた。
 種もみ生はあちこち痣を作ったが、美羽は服に埃がついた程度で戦いは終わった。
 一行は生首畑を残してオアシスを目指す。
「輸送が終わったら、種もみの塔に戻るよね。そしたら、みんなでバーベキューしようよ」
 コハクの提案に全員が即座に賛成した。
「野菜はうちのを使うといいぞ」
「米はわしらが運ぶぞ!」
 農家のおじいさんと種もみじいさんが食糧担当を請け負った。
 仕事の後においしいものが待っていることで、彼らの足取りは軽くなるのだった。

 しばらくして、そこをハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が通りかかった。
 地面から首だけ出して喚き散らしているスーパーパーラ実生の群を見て──見なかったふりをすることに決めた。
 くるりと方向転換したが、そこから立ち去ることは叶わなかった。
 殺気だったスーパーパラ実生達がこちらに向かってきていたからだ。
 おそらく彼らもハイコドに気づいているはずだ。
 案の定、スーパーパラ実生達は目をギラギラさせて、ハイコドを半円状に囲んで立ち止まった。
「一応言っとくけど、これやったの俺じゃないよ」
「んなこたァ、どうでもいい。ここにてめぇがいたことが全てだ。連絡受けて来てみりゃあ、何だこれ!」
「俺だって知らないよ」
「てめぇを見せしめにぶちのめして、犯人を引きずり出してやるっ」
「言ってることが滅茶苦茶……」
 いきり立った彼らはハイコドの話などまったく聞いていない。
 しかし、それはそれでよかった。
 ハイコドもスーパーパラ実生らを探していたからだ。
「俺をぶちのめすねぇ……。奇遇だな、俺もスーパー何とか言う奴らをぶちのめしたかったんだ」
「ンだとォ? 生意気な」
「アーガマーハってのは、無駄遣いしていいもんじゃねぇの」
 言い終わると同時に、ハイコドからいくつもの細い触手が伸び、予想もしていなかった現象に呆気にとられたスーパーパラ実生の逆立った金髪をばっさりと刈り取ってしまった。
 触手の先端はナイフのようになっているのだ。
 荒野の乾いた風に金髪が散り、ハッと気づいたスーパーパラ実生は頭を抱えて叫んだ。
「何しやがんだ!」
「うるさい。おまえなんかこれで充分だ」
 と、転職用種モミ袋を刈った頭に押しつけるハイコド。
 ギャーッと叫んだ彼につられて、周りのスーパーパラ実生も大騒ぎした。
「種もみ剣士なんて嫌じゃー!」
「やべぇよ、それ。もう手遅れだ……」
「何てひでぇ奴だ。残酷……」
 遠巻きに非難され、ハイコドは理不尽さを覚えた。
 種もみ剣士にされた元スーパーパラ実生は、地に膝を着き、メソメソと泣いている。
「そんな泣かなくてもいいだろ。無駄遣いするほどアーガマーハあるんだし」
「バカ、てめぇ、無駄遣いできるほど集めるのにどんだけ苦労したと思ってんだよ」
 そうだそうだと周りが同調する。
 どういうわけか、ハイコドはすっかり悪者にされてしまっていた。
「アーガマーハ集めてる種もみ生ボコって奪ったり、だらだら巡回してる国軍を襲撃して奪ったり、うっかり迷い込んだ蒼学生をシメて奪ったり……!」
「同情の余地なしだな。けどまぁ、それだけ奪い続ける労力も大変だっただろう。返り討ちの危険もあるしね。しょうがない。お詫びにこれをあげるよ」
 ハイコドは涙ぐんでいる元スーパーパラ実生の手に、ダイヤモンドを握らせた。
「弱くなった分、しばらくはそれでしのげる……おっと」
 突然、脇から伸びてきた手をよけるハイコド。
 だが、その手が狙っていたのは手渡されたダイヤモンドだった。
「よこせぇぇぇぇ!」
 元スーパーパラ実生に現スーパーパラ実生がダイヤモンドを奪おうと殺到した。
 ハイコドは彼らに気づかれないように距離を取っていく。
 ふと、視界の脇に馬車を連れた集団が入ってきた。
 立ち去ったはずの美羽達だ。
 農家のおじいさんがタバコを落としてしまったので探しに戻ってきたのだ。
「どうしたの、内輪もめ?」
 首を傾げる美羽に、ハイコドは事情を説明した。
「本人にその気がないのに、転職はできんぞ」
 種もみじいさんが言う。
「へえ。じゃあ、あの奪い合いは……」
「奴らの本能じゃな」
 ハイコドは種もみ剣士の宿命だと思っていたのだが違ったようだ。
 それから、落としたタバコも見つかったので、美羽達はハイコドも誘って再度オアシスへ向かったのだった。


「絶好の輸送日和だと思わないかい?」
「意味はわからないが嵐よりはマシだな」
 出虎斗羅のハンドルを握りながら鼻歌交じりに言った弁天屋 菊(べんてんや・きく)に、助手席のガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が冷静に返す。
 変な賊が出るというので、出虎斗羅の正面部分は装甲とスパイクで強化してある。
「変な連中に会わなければいいね。それよりもケビンとロズリーヌは元気かなぁ」
 ガガを膝に乗せている親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)は、バレンタインの時に出会った二人を気にしていた。
 二人はネット契約後、会えないままの関係だったのだが、チョコ配達の時に地球人のケビンの居場所がわかったのだ。
 ケビンはわけあってパートナーのロズリーヌには会えなかった。
 ヒラニプラの工場の製品の一部を横流ししていたからだ。
 それは私利私欲のためではなく、貧しい家族へ仕送りをするためだった。
 しかし当局にばれて逮捕。後、護送中に脱獄。
 それを知ったロズリーヌはケビンを探しに契約の泉から出て行った。
 それきり音沙汰はない。
「あの二人、ちゃんと会えたのかな。お金、稼いでるかな。郷里への仕送りできてるといいんだけど。いっそのこと、ケビンも家族ごとこっちに住むとかどうなんだろ?」
 どう思う、と聞かれても、菊にもガガにもどう答えていいのかわからない。
 けれど、卑弥呼がこれほど気に掛ける理由もわからないでもない。
「あたいも董卓様と一緒に……なんて、無理よね……」
 卑弥呼は切ないため息を吐いた。
 その時、菊は前方にガラの悪い連中が待ち受けているのを捉えた。
 ほぼ全員が逆立った金髪に鉄パイプを持っている。
「噂のスーパーパラ実生か。あんなところにいると危ねぇよな」
 彼らがいるのは出虎斗羅の進路上だ。
 しかし、菊はそのまままっすぐ進む。ブレーキも踏まない。
 クラクションは鳴らしておいた。
 スーパーパラ実生達はそれを単なる脅しと受け取ったか、まったく避ける様子を見せなかった。
 結果、スーパーパラ実生の数人が装甲強化された出虎斗羅に弾き飛ばされた。
 ギャッという声が聞こえたが、菊もガガも卑弥呼も気にしなかった。
 何事もなかったかのように通り過ぎ……しかし、すぐに大音量のクラクションに追いつかれた。
 外を見れば、スパイクバイクに乗ったスーパーパラ実生達が降りろと叫んでいる。
「面倒な奴らだねぇ」
 菊はうんざりとした。
「菊! 前にいるあれ、巨獣じゃないか!?」
 焦ったガガの声に、遥か前方を目を細めて見てみれば、確かに巨獣がいた。
「マジか。山だと思ってたら巨獣か。まいったな……さすがにこの出虎斗羅もあいつには負けそうだ」
「迂回しよう」
「だな」
 菊は急ハンドルを切った。
 またしてもスーパーパラ実生が数人ブッ飛ばされたが、やはり気にしない。
 スーパーパラ実生達は巨獣を呼び寄せようとしている。
「余計なことを!」
「卑弥呼、いいから顔引っ込めろ」
 その時、ズゥンと地響きがしたのは間違いなく巨獣によるものだと確信した。
 窓に顔をくっつけて外を見ていたガガが、
「来た! 早い!」
 と警告の声を上げる。
 スーパーパラ実生達は勢いづいてクラクションを鳴らしまくった。
 しかし、彼らの勢いもここまでだった。
 巨獣が出虎斗羅を避けるようにスーパーパラ実生達を踏み荒らしていったからだ。
 巨獣がすぐ近くを通り過ぎていく振動でハンドル操作がぶれた菊は、やむを得ず出虎斗羅を停めた。
「あれはいったい……?」
 ドアを開け、乗り手は何者なのかと確認しようと見上げた時。
「やっぱり菊さんだ! 覚えてますかー、ガラパゴス諸島で会ったんですけどー?」
 声の主の若い男は、菊が密かに心配していたガラパゴス諸島でパラミタ移住に誘ったカップルだった。もう一人は男の後ろにいる。二人は巨獣の背に座り心地の良さそうな毛皮を敷いて巨獣を操っていた。
「パラミタ愚連隊……?」
「いろいろあってそうなりましたー」
 男はのん気そうに笑った。
「こいつ、敵だったのか!?」
 驚愕に震えるスーパーパラ実生を、ドラゴンアーツの力を乗せたガガの拳が殴り飛ばす。
「そろそろ立ち去ったほうがいい」
「くっそ……せめててめぇだけでもひねり潰してやる!」
「無駄だ。ガガはもう一段階変身を残している。……この意味はわかるよな?」
 凄みをきかせたガガの眼力は、巨獣の裏切り(と勝手に思っている)に衝撃を受けたばかりのスーパーパラ実生を青ざめさせるのには充分だった。

 スーパーパラ実生達が逃げ散った後、菊達はゆっくり再会を喜び合った。
 二人がここにいたのは偶然ではなく、ジークリンデから物資が送られてくるとオアシスに連絡があったので、賊に奪われないために迎えに来たのだという。
 輸送者が菊達だとは知らなかったが。
「そうか、オアシスで元気にやってるのか。良かった」
 菊は心からそう思った。
 パラミタに誘った時は簡単に考えていたのだが、時が経つにつれて心配になっていたのだ。
「二人は契約はしたのか?」
「したよ。四人で毎日楽しくて仕方ないよ」
「喧嘩とかは……」
「そりゃ、たまには喧嘩もするけど、家族だしな。頭が冷えたらお互い反省して元通りさ」
 菊が最も気にしていたのはこのことだった。
 パートナーができて、カップルの間に不和が生まれたら……と。
 けれど、どうやら杞憂だったようだ。
 二人は地球で挙式した後にパラミタに移住したという。
 菊達を驚かせたのはこれだけではなかった。
 物資を届けた先にケビンとロズリーヌがいたのだ。
 幸せそうな二人は菊達に少し照れくさそうにお礼を言った。
 思わぬ再会を果たした菊達は、しばらくの間オアシスで近況報告に盛り上がったのだった。