イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 後編

リアクション公開中!

壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 後編

リアクション


■ 抗いの竜 ■



「おい、キリハどうなってる!」
「すみません。集中させてください」
 共鳴竜コーズは強制終了に眠らされる前は怒れる竜だった。
 目覚めた時は憂いる竜だった。
 泰輔の問いかけを受けて、コーズは三度目覚めた。
「短縮できるようにします。演算処理出来ず予測できないのが辛い所ですが……タププの速度についていけるようにしますので……」
「ねぇ、どうしたの、指示が来なくなったんだけど、何かトラブル?」
 異変に気づき、戻ってきた美羽にキリハは顔を上げる。美羽は強化型光条兵器のルミナスレイピア(細剣)を手にしていた。一緒に戻ってきたベアトリーチェも光弾を発射する拳銃、曙光銃エルドリッジを握っている。
「すみません。指示を出す文字まで使わないと対処できなくて一旦止めていました」
 どれを壊していいのかわからないと訴える美羽に、キリハは声を潜める。
「それよりも、誰かコーズを起こしましたか?」
「起こしたかって、起きたの?」
 質問に質問で返されて、キリハは手元に自分の本体たる魔導書が無いことを悔やんだ。
「抵抗の意思を見せているんです」
「良くない顔色だね」
「コーズもタププも系図の保有者なので、このままでは文字の暴走を誘発します」
 すみませんとキリハは続ける。
「成竜の実験データはとても少なくて、適切な対処がわからないんです」
 こういう場合は普通強制終了させるのだが、強制停止の終了コードを持っている『楔の資格者』が二人共動けないでいる。しかも片方はコーズの抵抗に乗っ取られかけているし、一人はメインプログラムが優先されていている状態だ。破名がまだ意識があればまた違うのだろうが、対策を練るキリハは知らず唇を噛む。
「つまり現状維持はかえって危険ということですね?」
「それでも文字の破壊は続行させなければいけません」
 判断するベアトリーチェにキリハは頷き、命令文の打ち込みを任せている大鋸に更なる文字の入れ替えを頼んだ。
 そして、ふと気づく。
「ハーティオンが動いてますね」
 何か事が起こりキリハの指示が来なくても自分達だけで対処できるようにと文字を壊しながらパターンを覚え続けていたハーティオンは文字が反転されなくても、記憶術で忘れずにいる文字を次から次へと削除していた。
「小鳥遊、すみませんが、ハーティオンから指示を受けてもらえませんか。幸い、彼が選んでいる文字は正解なのと、間違って壊されても害がないものばかりですので、大丈夫です」
 文字の転送は一行送れば一旦チェック、問題なければ次の一行、問題があれば修正、送られていなければ再送信と手順があり、キリハはこの仕組を利用して再送信を繰り返すことでの時間稼ぎをしていた。だから、ハーティオンの判断はこの状況下では思いがけずも最適であった。
「キリハは何をするの?」
「系図が暴走しないように善処します」
「それって俺が大変だってことじゃねぇのか!」
「すみません。お願いします」
「人使いが荒ぇよ!」
「私も手伝います!」
 ベアトリーチェが大鋸の手伝いをすると名乗り出る。



 此処までラブの歌声は届いていた。
 風に乗り、大気に解けて、心に届く――幸せの歌。
 キリハは自分が落ち着きを取り戻している事に気づく。
 過去の系譜に関連する者は皆、大なり小なり安らぎに飢えている。心に届くその歌は、その効果よりも深く彼等を満たすだろう。



歌え
 うわ、やば、なんか喋った! と驚くラブは、コーズに願われて、幸せの歌を歌い続けていた。鼻先に腰掛けているので背中に感じる視線がとても怖い。
「起きた、の?」
 レイチェルは胸の前で両の手の指を組んだ。
人の子よ、お前達は我を滅ぼしに来たのか?
 問われて、泰輔と顕仁は頷いた。
「我の力を持ってすれば可能だろう」
 レイチェルは眼を開けたコーズを見上げる。
「『装置そのもの』の『道具』として使われたくない『コーズさん』を救う目は大きくなる筈です」
使わせるなと我は願った。そしてこれが人の子の答えか?
「違います!
 それがあなたの意思ならば、コーズ。
 もし私の意思だったなら、きっとそうするように。
 自分の命に換えてでも大切な『世界』を守りたいと思うでしょう。
 私達はその手助けもします!
 ですが、死んで欲しいとは思っていません!」
 それしか手段が無いというのなら、そうするが、わざわざ死を選ばせたいわけではない。生きていられるのならそちらの方が断然と良いのだから。
 独りで出来ないのなら手を差し伸べて手伝うとレイチェルは叫ぶ。
遮断は避けろと言われなかったか?
「え?」
法則は正しき手順だ。資格が無い者がズルをしようとすると手酷いしっぺ返しがくる。
 そうだ、全てを知る娘よ。文字数の足りないお前は全てを止めることは出来ない。停滞で時間を引き伸ばすだけが精一杯だ。
 手順を踏まずして″強制終了″させれば暴走を促すだけ

 封印という手段は、停止と同意義にこの場合は看做される。
 コーズは伸ばしていた首をゆるりと動かし、キリハの姿を認め、再び泰輔へと向けた。
わかった
 三度意思を取り戻す事ができた原因がわかり、コーズもまた決めたらしい。
人の子に願って滅びを待つほど我は穏やかではない


元より、我は抗おう