校長室
ミッドナイトシャンバラ6
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★ ★ ★ そのころ、自分の部屋で布団にもぐっていた荀灌も、しっかりとラジオを聞いていました。 もちろん、芦原郁乃の投稿は、一発で分かってしまいました。 「お姉ちゃんったら……」 そうつぶやいて、うつぶせになった荀灌は、枕に顔を押しつけました。 投稿者が芦原郁乃であることがもろバレということは、当然のようにその妹も荀灌であることはバレバレです。その段階ですらもう恥ずかしいのに、それ以上に、アンタル・アタテュルクのことを好きなのがとっくにバレていたということが驚きでした。 「明日、どんな顔してみんなに会えばいいんだろ。あ、それよりも、もしお兄ちゃんがこの放送聞いてたら、Hな本がなくなったのが私のせいだってバレちゃう。あー、私のバカバカバカ。なんですぐに返しておかなかったんだろう。あ〜ん」 もうどうしていいのか分からなくなって、荀灌は枕をだいたまま、布団の上をゴロゴロと転がり続けました。 ★ ★ ★ まあ、当然のことですが、アンタル・アタテュルクもしっかりとラジオを聞いていました。 「これって、郁乃の投稿だよな。ってことは、やっぱりあの本、荀灌が持ってったのか……」 確か、なくなっていたのは、巨乳特集だか、美乳特集だかの雑誌だったなあと、アンタル・アタテュルクが頭を掻きながら思い出します。 Hな本とは言っても、実際にはただのタブロイド週刊誌ですから、大したことはないのですが。最近の女性誌の方が、よっぽど大胆です。とはいえ、荀灌には十分にHな本だったのでしょう。 確かに、荀灌の胸は、もうほとんどあるかなしかの状態です。ですから、気にしていなかったと言えば嘘になるのでしょう。けれども、アンタル・アタテュルクとしては、そこまで気にしていたのかと、気づいてやれなかった自分がちょっと情けなく思えたりもします。 アンタル・アタテュルクとしては、芦原郁乃が言うように、おっぱいに大小の貴賤なしです。 自らチッパイである芦原郁乃が、Cカップを平然と普通じゃないかと切り捨てる姿には、感動すら覚えます。もはや、おっぱいマスターと呼んでやりたいくらいです。 「にしても、明日どうすっかなあ……」 どうあっても気にしているだろう荀灌を前に、聞いていなかったふりをするか、ちゃんと慰めるか、対応に困ってしまって眠れなくなるアンタル・アタテュルクでした。 ★ ★ ★ 『それでは、伝言コーナーでーす。 このコーナーは、番組放送中にみなさんから電話でよせられた伝言を録音した物を、御紹介するコーナーです。 今日は、どんな伝言がよせられてきているのでしょうか。 さっそく、最初の伝言を聞いてみましょう』 ぴっ。 『普段言葉にして言えてないのでこの場を借りて伝えたいです。 いつも守ってくれて傍にいてくれて有り難う御座います。 心でも寄り添ってくれてどれほど心強いか言葉では伝えきれないほどです…。 感謝の気持ちでいっぱいです。 本当に有り難う御座います。 涼司くんの妻になれて幸せです』 『ペンネーム、やまのはさんからの伝言でした。 ええっと、思いっきり山葉 涼司(やまは・りょうじ)さんの妻ですって言っちゃってるんで、身バレしちゃってますが……。 これは、私なんかよりも、旦那さんから直接返事をいただけるのがベストですね。 山葉涼司さん、聞いていたら、直接奥さんにお返事してくださいね。 恥ずかしかったら、奥さんと同じように伝言でも結構です。待ってますよー。 それでは、次の伝言です……』 ★ ★ ★ 「あっ、採用された……」 自宅でラジオを聞いていた山葉 加夜(やまは・かや)は、顔を赤らめて思わずつぶやきました。 「電話だと、普段言えないことも言えてしまうのは不思議ですよね……」 はたして、夫はちゃんと応えてくれるのかなと、じっとラジオを聞き続ける山葉加夜でした。 ★ ★ ★ 『さあ、続いては、お悩み相談室のコーナーです。 今日は、どんなお悩みが届いているのでしょうか。 みなさんも、一緒に解決策を考えてくださいね。 では、最初のお悩みです。 ペンネーム、マリッジブルーの女さんから』 『6月に結婚したばかりの20代女子です。 早速ですが相談があります。 私のパートナーの件です。 彼女は浪費癖がひどくて、給料が入ったら三日もしないうちにスッカラカンになってしまうことが一度や二度ではなく、結婚を機に私が職場と相談して、私がカードや通帳を管理することにしました。 でも、そんなことでめげる子ではなく、隙あらばこっそりお金を引き出して競馬や宝くじにつぎ込んでは紙くずにしたり、しょうもないガラクタを買ったりする始末で……この子の破滅的な金銭感覚をどうにか矯正できないでしょうか』 『なんだか、おっさんみたいな、パートナーですね。性格おっさんなのかなあ。 それにしても、ギャンブル癖に浪費癖というのは許せませんね。お金をなんだって思っているんでしょうか。よーく注意してあげてくださいね。 やはり、ここは、あなたがお金を管理して、買い物の際はその都度お金を渡すのがいいと思います。 頑張って、手綱を握ってくださいね』 ★ ★ ★ 「うわー、世の中には、そんな奴がいるんだー」 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と共にラジオを聞いていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、思わず大きな声をあげました。 横にいるセレアナ・ミアキスは、もうひやひや物です。だって、その投稿はセレアナ・ミアキスの物で、ここで言っているだめパートナーは、セレンフィリティ・シャーレットのことだったのですから。 以前にも、突然投稿が読まれてパニックになったことがありましたが、今回はネタにした当人が目の前にいるわけですから、もう大変です。どうか、バレませんように……。 「うわー、結婚したばかりのお嫁さんを泣かせるなんてサイテー、人間のクズよ、人間のクズ!」 「う、うん、そ、そうよね……」 憤慨してまくしたてるセレンフィリティ・シャーレットに、セレアナ・ミアキスが、ちょっと引きつりながら相づちを打ちました。あんたのことなのよ、あんたの。 「新婚さんってわざわざ書いてくるんだから、このだめ親父みたいな彼女って、結婚相手のことなのかな。きっとそうよね。私たちと同じ百合夫婦なのに、こんな酷い旦那だなんて、百合夫婦の風上にもおけないわよね! そうでしょ!」 「え、ええ……」 頑張って知らないふりをしているセレアナ・ミアキスですが、どうにも、セレンフィリティ・シャーレットが本気で気づいていないのか、それとも、実は気づいていて言っているのか、判断がつきません。 「きっと、とんでもないブスに決まってるわよ。無理矢理結婚を迫られて、なくなく結婚させられたのよ。そうに決まってるわ」 ずっと怒り続けているセレンフィリティ・シャーレットを見ていると、どうやら、本気で怒っているようです。まさか、それが自分のことであるとは、夢にも思ってはいないようでした。 これはこれで、ある意味幸せなのかもと、密かに思うセレアナ・ミアキスでした。