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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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 同時刻 空京大学前
 
『北都! 朋美! いくぜ! ここはオレ達で蹴散らすッ! ――ファストドラコだ!』
 ノイエ13のコクピットでシリウスが気を吐くのに呼応し、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)ルドュテ高崎 朋美(たかさき・ともみ)ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)ゼフィロスが左右に並び立つ。
 ノイエ13を中心に、左にルドュテ、右にゼフィロスという陣形を取る三機。
 陣形が完成するが早いか、左右の二機は最大火力による全力攻撃を繰り出す。
 左翼と右翼はそれぞれ防御を考えず攻撃に集中し、自分の持ち場たる側に飽和攻撃を行う。
 二機による飽和攻撃は、一機では出てしまう漏れや穴を見事に補い、敵機をその場に釘付けにする。
 
 だが、敵は量産機でさえも現行機を遥かに凌駕する性能を誇る機体。
 左右からの飽和攻撃に動きを封じられはしても、それで撃破されるほど容易い代物ではない。
 
 しかし、それで何の問題もないのだ。
 左右からの飽和攻撃はあくまで敵の封じる為のもの。
 敵を撃破する為の一撃は、小隊長――『ドラコ1』のコールサインを持つ者が担う。
 
『そのまま押さえといてくれよ! オレたちもいくぞ! ――サビク!』
『了解』
 
 小隊員の飽和攻撃で動きの止まった濃緑色の敵機。
 一瞬でそれに肉迫したノイエ13は、そのメインエンジンへとブレードを突き立てる。
 
 一極集中させた力による一点突破。
 どこまでも攻撃的な戦い方たるこのフォーメーションは、まさにファストドラコ――迅竜のイコン部隊の戦い方に相応しい。
 
 
 流れるような動作でバックステップし、一瞬で敵機との距離を取るノイエ13。
 直後、敵機は自爆装置によって爆破四散する。
 
 かつては濃緑色の量産タイプ一機に圧倒されていた九校連だが、今となってはその様相は一変している。
 既に確認された量産タイプ五種に加え、“シュピンネ”を加えた六種の量産機。
 運河のように押し寄せるそれらを、『ドラコ1』を隊長とする迅竜イコン部隊は次から次へと撃破していた。
 
 獅子奮迅の活躍を続ける三機にブリッジからの通信が入ったのはその時だ。
『こちらブリッジ。ダリルだ。前方に指揮官機を二機確認。識別したところ、結城来里人と天貫彩羽の機体だ。シリウス機はエースパイロットの相手を頼む』
「了解! ……といいてえトコだが、今ここで隊長機のオレらが抜けるのは……」
 言い淀むシリウス。
 すると友軍からの通信が割り込む。

『ここは大丈夫だから』
『行ってください』
 北都と朋美からの通信だ。
 
『……すまねえ。行くぞ、サビク』
 小隊員の二人に後を任せ、シリウスは機体を走らせる。
 途中で濃緑色の機体を蹴散らしながら進んだ先、そこでシリウスは漆黒の機体をと再会した。
 “ユーバツィア”と“シュピンネ”。
 来里人と彩羽の駆る二機だ。
 
『なんだかんだ言っても……戦うしかないのは残念と思うぜ、彩羽』
『シャンバラの守護者たる十二星華として、ボクは君たちと決して相容れない。彩羽、『蛍』。決着をつけようじゃないか?』
 シリウスとサビクの言葉にしっかりと耳を傾けた後、彩羽は静かな声で応じた。
『そう――でも、貴方は『戦うことなんてできない』』
 
 何か含みを持たせた彩羽の言葉。
 もっとも、シリウスはそれが何であるかわかっているようだ。
 そして、彩羽へと静かに告げる。

『手品のタネは割れてるんだ、悪いが倒させてもらう。――『イクシードフラッシュ』。イコンの力もパラミタ固有の力、契約者の能力だ。だからオレ……超国家神には通用しない。後出しで無効化できるんだ。ハッキングの効果対象は13だから射程も問題ない……サビク、片付けろ』
 
 電子戦攻撃を無効化し、その隙を活かして一気に距離を詰めるノイエ13。
 ノイエ13のブレードが“シュピンネ”を斬り裂く寸前、来里人の駆る漆黒の機体がその前に割り込んだ。
 
『どいてろっ! テメェの相手はこの後だ!』
 来里人の機体は無手。
 まさか素手でノイエ13のブレードを受け止めるというのだろうか。
 しかし次の瞬間。
 漆黒の機体を覆っていた光沢のある装甲が突如動き出した。
 
 僅かに震えたように見えたのも一瞬、凄まじい速さで装甲がぐにゃりと歪む。
 瞬く間に起伏や突起ができ、ディティールが形作られていく。
 もはや変形というより、超高速の成型といった方が正しいだろう。
 規格外の変型を成し遂げた装甲は、固体というよりも流体に近い動きを見せた後、その形を落ち着ける。
 形が落ち着くなり流体状の装甲はまるでそれが嘘のように確たる質感をたたえ、今や固体にしか見えない。
 
『な……んだと……っ!』
 驚きを隠せないシリウス。
 その眼前で、一瞬前まで流体だった装甲はかつてシリウスも目の当たりにしたことのある姿――“ドンナー”タイプを思わせる追加装甲へと変化を遂げていた。
『……“シュピンネ”をやらせるわけにはいかない』
 変型開始から完了までまさに一瞬。
 既に漆黒の機体の手には出来上がったばかりの“斬像刀”が握られており、その刃は見事にノイエ13のブレードを受け止めている。
 
 未だ驚愕から立ち直れぬシリウスとサビクに対し、来里人は苛烈な攻撃を仕掛ける。
 “フリューゲル”、“ヴルカーン”、“フェルゼン”、“ヴェレ”――他の形態へと次々に外装を変化させながら、漆黒の機体はノイエ13を追い詰めていく。
 手始めの攻撃でブレードを弾かれたノイエ13。
 次々に攻撃を受けたノイエ13は、程なくして他の携行武装や搭載武装をすべて破壊されていた。
 
『……機体性能の差は明らかだ。抵抗しないならば、命までは奪いはしない』
『ふざけんなよ……』
 既にボロボロになりながらも立ち上がるノイエ13。
 地面に手を突いて立ち上がる際、それとなく手探りで転がったブレードを探し当てる。
 
『サビク、機体状況は?』
『武装は全損だけど、本体に限っていえば各部正常。まだまだいけるよ』
『上等……!』
 ブレードを掴み、ノイエ13は立ち上がる。
 
『まだ終わってねえぞ……!』
 ブレード――新式星剣グランシャリオを手にノイエ13は漆黒の機体の前に立つ。
 自らの為だけに存在する剣を手に、ノイエ13は地を蹴り、一気に敵へと肉迫する。
『……ッ!?』
 今度は来里人が驚愕する番だった。
 なんと、ノイエ13は漆黒の機体の攻撃を掻い潜り、見事な一撃を叩き込んだのだ。
『言ったろ。手品のタネは割れてるんだ、悪いが倒させてもらう。確かにすげえ装備だが、要は“フリューゲル”だの“ドンナー”だの、それぞれの相手をその都度相手にして、五機分倒せばいいと思って戦えばいいだけの話だ』
 喋りながらもシリウスとサビクは再びクリーンヒットを成功させる。
『オレとサビクはずっとお前らエッシェンバッハ派と戦ってきた。お前らとの戦い方はもうとっくに頭と身体に叩き込み終わってる。お前が機体の形をコロコロ変えようが関係ねえし、どんな姿で来たって返り討ちにするだけだ。迅竜のイコン部隊隊長は……『ドラコ1』は伊達じゃねえんだよ!』
 ノイエ13は凄まじい気迫で漆黒の機体を圧倒する。
『おっと、どうやらそういうことか。そのグニャグニャ装甲、手痛いのをもらうとバカになるみてえだな?』
『……』
『図星だな。バカになったらもうその変型パターンは使えねえ。もう各形態でキツいのをオレらからもらってるだろ? つーことは、もうソイツはただテカテカグニャグニャしてるだけのデッドウエイトだ!』
『……』
 黙したまま、来里人は流体装甲をパージする。
 そして漆黒の機体はヒップホルスターから二挺拳銃を抜き放った。
 腕をクロスさせ、二挺拳銃を構える漆黒の機体。
 それに対し、ノイエ13は新式星剣グランシャリオの切っ先を向ける。
 
『オレらはここでお前らを止める』
『そうとも。『蛍』。決着をつけようじゃないか?』
 シリウスとサビクの言葉を合図に動き出す二機。
 
 至近距離で巧みに二挺拳銃を操る漆黒の機体。
 その銃撃を掻い潜り、ノイエ13はブレードを繰り出す。
 しかし、咄嗟の所でその刃は別の刃によって受け止められる。
 レッグホルスターにあたる部位に取り付けられたシースより漆黒の機体が抜き放った、二振りのナイフだ。
 ぶつかり合う刃と刃。
 
 その激闘を制したのは、ノイエ13だった。
 
『……もしかしたら撃墜されてたのはオレの方だったかもな。だが、オレの勝ちだ――』
 ダメージを受け、思わず膝をつく漆黒の機体。
 その機体に新式星剣グランシャリオの切っ先を向け、ノイエ13は制圧を完了した。