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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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 同時刻 空京大学周辺
 
 綾瀬の強制アクセスにより、セレンフィリティ達が行った一連の真相発表は中継されていた。
 外で戦っていたパイロット達はもちろん、情報を個別で送られたシュバルツタイプのパイロット達も騒然となる。
 
 そんな中、全域通信が入った。
 
『ようやくとはいえ、真実に辿り着いたのは間違いない。お見事、と言っておきましょう』
 
 通信帯域にあるすべての画面にポップアップするウィンドウ。
 それに映っているのはスミスだ。
 
 呼応するように、様々な機体が一斉に接近警報を鳴らす。
 鳴り響く接近警報の中で現れたのは一隻の飛空戦艦だ。
 
 何もない所から突如現れたように見えるその戦艦は、そのまま上空に滞空する。
 場が更に騒然となる中、鋭峰は落ち着き払った様子で通信に応答した。
 
『何が目的だ?』
『これはこれは金鋭峰団長。貴方ほどの重鎮とお話できて光栄です』
『御託はいい。質問に答えたまえ』
『強くなりたい。その為に、強い武器を創り出したい』
『……何を言っている?』
『貴方のご質問にお答えしたまでです。それが私と主の目的ですよ』
『その為に一連のテロ行為を仕組んだというのか?』
『ええ。その通り。貴方がたに潰しにかかってもらう為のね』

『一体何の意図をもって世界の敵となる?』
『世界中の強敵が潰しにかかってくる――その状況を実現する為ですよ』
『理解できんな』

『競争は進化の基本原理。紛争は技術を進化させる。それが私の持論です。その点、弱肉強食という自然界のシステムは実に理にかなっている』
『何が言いたい?』
『なに、簡単な話ですよ。私が生み出した強力な兵器で貴方がた九校連を攻撃し、それに貴方がたが必死で抗い、生き残ろうとする中で急激な技術進化を遂げて強敵となったのを、更にまた私の技術が乗り越えることで、自らの技術進歩を促進する計画です』
『我々九校連への一連のテロ行為も、すべてはその計画の為か?』
『御名答。いわばこれは、『自分を効率よく成長させる為に、あえてライバルを作る』計画です』
『ふざけた真似を』
『私の最終目的は『世界最強の兵器』を作ること。その為、究極的には九校連の壊滅も、全世界の支配も、それを阻止しようと向かってくる敵が必死に自分たちの戦力を増強し強力なライバルとなって自らの前に立ちはだかるという事象を実現する為の布石でしかありません。つまりは世界を相手に仕掛けた戦争も、強力なライバルを用意する為の手段でしかないのですよ』
 
『我々九校連に――敵に塩を送る真似をしたのもその為か?』
『その通り。計画始動当初は我々と貴方がたの間に天と地ほどの技術格差がありましたので、『追い詰められた相手が強くなって、逆に追い詰められた自分が更に強くなって、今度はまた相手を追い詰めて――』というループが動き出さない事態を懸念しまして』
 
『一体何故、そこまでして強い武器を求める?』
『私は武器職人、そして我が主は武器商人。武器職人や武器商人に強い武器を求める理由を問いますか。ナンセンスですね』
 
 思わず沈黙する鋭峰。
 しばしの沈黙が場を支配する。
 
 ややあって再び口を開いたのは鋭峰が先だった。
 
『だがその御立派な計画とやらも頓挫したようだな。貴様の擁する『強力な兵器』とやらも、我々の前に敗れ去った』
『いえ、頓挫してなどいませんよ。むしろ、計画通りです。順調過ぎて怖いくらいに、ね』
 
 スミスが何かを始めようとしたその瞬間、通信帯域に来里人の声が割り込む。
『スミス……すべては貴様の私欲の為だったというわけか――!』
 
 静かなる咆哮とともに来里人は機体を立ち上がらせる。
 
『成程。私にその牙を剥こうというわけですか。ですが悪いことは言いません。おやめなさい、来里人くん。いかに私のグリューヴルムヒェン・シリーズ……それもシュバルツタイプといえど、損傷したその機体ではろくに戦えませんよ』
『知ったことか……!』
 
 漆黒の機体はやっとのことで立つと、震える手でサバイバルナイフを抜く。
 白刃を構えるその腕は震えている。
 
『来里人、俺も手伝わせてもらうことにしたからよ』
 
 来里人の声に重なるようにして通信帯域を震わせるのは航の声だ。
 彼の声はもちろん、背後で流れているダンスチューンも今は消え入りそうだ。
 それだけ機体のダメージが大きいのだろう。
 
 だが、彼の乗る漆黒の機体も力を振り絞って立ち上がる。
 それに呼応するように、他の漆黒の機体も次々と立ち上がった。
 
『まったく……。『偽りの大敵事件』で生き残った貴方達を仲間に加えた時はとんでもない掘り出し物を手に入れたと思いましたし、今も思っているのですが、残念ですよ。それほどのものを今から、私自身の手で壊さなければならないとは』
『何……だと?』
『『偽りの大敵事件』の目的は教導団の方々がご説明くださった通りです。ですが、もう一つ……副次的な目的がありましてね』
 
 するとスミスはどこか楽しそうに語り出す。
 それは謀略について語っているというよりは、自分の趣味について語っているというような印象を受ける。
 
『あの状況を生き延びた魂――即ち、強い魂を選別することも目的の一つだったのですよ。結果は六組十二人……実に豊作でした』
『言いたいことはそれだけか?』
 
 妙に落ち着き払った声で言う来里人。
 直後、漆黒の機体はどこにそれほどの力が残っていたのかと驚くほどのエネルギーを爆発させ、スラスターから噴出する。
 
『では、もう二つだけ。一つは、やはり貴方がたとその機体――私の作品を私の手で壊すのは気が引ける。それにもう、それはさほど必要ありませんしね。まあ、私の気まぐれです。そしてもう一つ――』
 
 含み笑いを漏らしながらスミスがそう、もったいつけて言った直後。
 突如として、漆黒の七機が機能を停止する。
 
『――その機体はすべて私の作。ゆえにすべてが『SSS』のサポートを受けているのです、言い換えれば『SSS』なしでろくに動けるとでも? そして、私が魂の扱いにおけるエキスパートであることをお忘れですか?』
 
 スミスの意思一つで『SSS』を停止され、機能を停止した漆黒の七機。
 それに代わって動いたのは、先程の決戦で彼等に勝利したエース達だった。
 
 エース達の駆る機体は一斉にスミスの座乗艦へと襲いかかる。
 しかし――
 
『これが私のプロデュースする、新たな兵器です』
 
 落ち着いて淡々としていながらも、どこか誇らしげな声で言うスミス。
 それとともに、彼の座乗艦から出撃する銀色と銀色の機影。
 
 銀色のグリューヴルムヒェン・シリーズは、漆黒の機体を打ち破ったエース機達をいとも簡単に降す。
 その力は圧倒的だ。
 竜系列を始めとするエース機達は瞬く間に大破させられる。
 
『全世界が注目する中、我々の新たな商品――シルベルタイプの性能を証明するまたとない機会となりました。このCMにご協力頂き、感謝致します。では、今回はこれにて』
 
 銀色の機体を収容すると、スミスの座乗艦はどこかへと去っていった。
 
【第八話】本当の敵は 完