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パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~ALIVE編~(最終回)
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リアクション

    アトラスの傷痕


 零の狂気が飛び出したかのように、空を荒れ狂うオーロラ。激しくうねる極彩色の向こうにぼんやりと浮かぶのは、別の時空で消滅した、パラミタ大陸の幻影である。
「零とかいうイカレた野郎をぶちのめしたいが……確実に引導を渡すためだ。この虚空樹ってのを運ぶ役目は、あたいらが引き受けた!」
 狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)マハカーラに虚空樹をワイヤーロープで固定して、飛び立った。常に戦いへ身を投じつづける乱世は、母校に迷惑をかけないようにとパラ実に転校したが、元は天学のイコンパイロットだ。
 昔取った杵柄、見せてやろうじゃないか――。元天学生として、乱世にはイコン乗りの意地がある。
 目指すはパラミタ大陸の幻影。そこから生える永遠樹の根に虚空樹をぶつけて対消滅させ、すべての時空につながる零を断つ。
「索敵と戦闘時の武装制御は僕が引き受けよう」
 サブパイロット席でグレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)はいつもどおり冷静だ。
「乱世は運搬と機体制御に専念してくれ。戦闘に気を取られては、エネルギー切れを起こしかねないからね」
 二人に託されたのは、虚空樹を目的地まで確実に運搬することである。攻撃は最低限しか許されていない。エネルギー消費の低いウィッチクラフトライフルで周りを牽制しつつ、マハカーラは異常なオーロラのなかを突き進んでいく。


「零の最後の野望を阻止する為――私たちは戦う!」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、謎の『巨大目玉型ロボット』に向けて叫ぶ。
「星心咆哮! 星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)!」 
 バグベアードと呼ばれた巨大ロボットは、前回の戦いでだるま天使を相手にへとへとになっていたベアードとどこか似ているものの、その勇ましさは段違いであった。
「フッ……。今日ノ父ハ……チョット本気モードダゾ」
「いくぞっ! 星心合体ベアド・ハーティオン! 星の心を身に纏い、愛に応えてここに推参!!」
 ふたりは合体すると、右腕に巨大なエネルギー砲を持つスタイリッシュなイコンに変形した。

「おおー! おとーさんとハーティオンさん、かっこいー!」
 変形後のイコンのなかで夢宮 未来(ゆめみや・みらい)が元気いっぱいはしゃぐ。
「よーし! あたし達は精一杯応援しようね!」
 未来が話しかけた先には、皆へ愛嬌を振りまくラブ・リトル(らぶ・りとる)がいた。
「はろはろ〜ん♪ 教導団NO1アイドルのラブちゃ……って、何コレ?」
 ラブのエールは、送られてきた通信によって遮られる。
 それは、『Zerolution』と書かれた零の手記であった。「すべての人間が私に至る」からはじまり、「私は神になる」で終わる狂人の戯言。
 手記を読むラブの顔がみるみる引きつっていく。
「う、うーん……」
「あれ? 何それラブちゃん?」
「これは……。かなり……キてるわね」
「へ〜、今戦っている人の手記なんだ。なにが書いてあるの?」
 未来が手記を呼んでいるあいだ、ベアド・ハーティオンに通信を送るラブ。
「零の手記が出てきたんだけどね。かくかくしかじか……」
 ラブは、パラミタ大陸を独占しようという零の野望を説明した。
「……要するに、超ヤバい奴が相手なのよ」
「そうか……。だが、たった一人の力では神となる事……ましてや大地を救うことなど出来はしない」
 集まった契約者たちに眼差しを向けて、ハーティオンはその熱き想いを滾らせる。
「愛ゆえに狂気へと走った科学者よ……その両の眼で見よ! 人は力を合わせて未来を目指すのだ! いかなる絶望も困難も乗り越えいつか平和へとたどり着く! ――神の力ではなく、人の心の力を合わせて!」
 硬い装甲に覆われたインテグラ・ホースをなぎ倒して、ベアド・ハーティオンは空中へと舞い上がる。
「貴公ノ提唱スル愛……。ソレモマタ、一ツノ愛ノ形ヤモシレン。ダガ――真ノ『愛ノ使者』デアル吾輩ニハ! ソノ誤リモマタ、手ニ取ル様ニ判ルノダ!」
 愛の使者を自称したバグベアードだが、その恋愛対象を見る限り、必ずしも誇張とは言い切れなかった。
 性別を問わずに愛するバグベアードには、ただの性的嗜好では収まりきらない博愛がある。のかもしれない。
「真ノ愛トハ強制スルモノデモ、押シ付ケルモノデモ無イ! 慈シミ……守リ、足ラヌ所ヲ助ケアイ、心ヲ合ワセアウ! ソウ……我ガ娘、『未来』ガ我輩ニ教エテクレタ!」
 インテグラ・ドラゴンが吐き出した炎をかいくぐり、ベアド・ハーティオンがハートビート・キャノンを放つ。高性能飛行ユニットを撃ちぬかれ、インテグラ・ドラゴンはオーロラのなかを堕ちていく。
「……うん! お父さん! あたし、大好きだよ!」
 ベアードの想いを受けとった未来が、大切なものをしまうように両手を胸に添えた。
「ハーティオンさんも、ラブちゃんも! 一緒に戦ってる皆も……大好き! だから、皆と一緒だったら、きっとどんな幸せな未来にだって行ける!」
 少女の素直な声を背に受けて、ベアド・ハーティオンは突き進む。その先にあるはずの、幸せな未来を目指して。


「――零くらいの人間であれば、虚空樹の存在は認識しているはずです」
 牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)は慎重だった。
 パートナーレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)と一緒に乗り込んだポムクルさんスーパーDXを操縦し、さりげなく零に接近する。
 彼女は、虚空樹の運搬には二つの効果があると考えていた。ひとつは当然『永遠樹を消滅させる』こと。ふたつ目は『零の注意を引く』ことだ。
 零の注意を引く効果を活用するため、牡丹は永遠樹と融合した彼の近くを迂回する。このまま零を攻撃することもできたが、現状では戦力がギリギリ――むしろやや劣ってさえいる――虚空樹運搬のサポートを怠るわけにはいかない。
 あくまでも注意をインテグラ・ホースに向けたまま、牡丹は零に問う。 
「零さん。あなたが存在していた世界は、平和でしたか?」
 星辰異常が生み出したオーロラには電波障害を起こす作用はないので、通信は届いているはずだ。
 しかし、零からの返答は無い。
「……一人で統治する平和な世界にも関わらず、あなた自身が愛したパラミタ大陸を食い潰し、消滅させてしまったのではないでしょうか?」
 樹齢10万年を超える永遠樹と融合した零。何万年も生き続けて、果たして彼に得るものがあったのだろうか。
「あなたは自分で自分の行動が間違っていると証明してくれたんですね……。だから、絶対にあなたの暴走を止め、呪縛から解放してみせます!」
 牡丹の言葉を合図に、レナリィがポムクルさんスーパーDXの右腕を稼働させる。
――【超空間無尽パンチ】。空間を飛び越えたかのように速く伸びるパンチで、虚空樹の強制プレゼントを狙っているのだ。
 零がはじめて反応を見せる。超空間無尽パンチを警戒した彼は、その軌道上にインテグラ・ドラゴンを配置したのだ。
 だが、直線上に並ぶという単純な隊列は、彼らに隙を生み出した。
 その隙を、ベアド・ハーティオンが捉える。
「仲間達に手出しはさせん! ハートビート・キャノン!!」
 ベアド・ハーティオンの右腕が吠えた。巨大なエネルギー砲から放たれたキャノンが、インテグラ・ドラゴンを次々と撃ち落としていく。

 空中の戦いを見届けて、牽制の効果を確認した牡丹は、他の敵の撃退へと向かう。
 駆けだしたポムクルさんスーパーDXの前に、一体のインテグラ・ホースが現れた。無人機であるはずの機体には、なぜか生体反応がある。
「もしや、あなたは……」
 インテグラ・ホースに乗り込んでいたのは、三種のギフトの一人、夜炎鏡(やえんのかがみ)のセルフィッシュジーンであった。


         ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 三種のギフトの内、ひとりだけ死亡している夜炎鏡。本人は納得しているとはいえ、なんだか可哀想だと感じていた牡丹は、彼女にむけて告げた。
「今度はあなたを救いたいのです」
「……その必要はねーよ」
 バカ笑いしていたオリジナルとは違って、セルフィッシュジーン・ウォーカーの彼女は暗い。
「あたいは死ぬ時、不満そうにしてたのかい?」
「いいえ。最後まで笑っていました」
「なら、それでいいじゃねーか」
 控えめな笑い声が、通信機を伝って牡丹に届く。
「……あたいが死んだときの話、聞きたいな」
 彼女のオリジナルが寝かされていた【夜炎鏡の間】は他の契約者によって録画されており、その映像は牡丹も確認している。
 牡丹は原発での戦いを説明した。話を聞き終えた夜炎鏡のセルフィッシュジーン・ウォーカーは、満足そうに、そしてどこか羨むように言った。
「あたいと本気で殺しあえる相手なら。そいつは、最高の友達だろうな」
「はい。本人もそうおっしゃってました」
「やっぱり、あたいは満足して死んだんじゃないか」
「たしかにあなたには友達がいた。お姉さんもいた。……不本意かもしれませんが、零さんが父親に該当するでしょう」
「……そうなると、あたいには母と呼べる相手がいないんだな」
「そうです。あなたに足りなかったものを、私が補うことはできないでしょうか?」
 沈黙があった。膠着する二体のロボットの間を、血のように赤いオーロラが渦巻いている。
 しばらくして、夜炎鏡のセルフィッシュジーン・ウォーカーが口を開いた。
「……あんたのこと、お母さんって呼んでもいいのかい?」
「かまいませんよ」
「……あはは。あはははは!」
 彼女は突如、オリジナルと同じようにバカ笑いをはじめた。牡丹の従者である6人の拷問器具のギフトディシプリンシスターズが、驚いた様子で見つめている。
 発作を起こして急に襲いかかってくるのではと警戒したが、それは杞憂だったようだ。
 夜炎鏡のセルフィッシュジーン・ウォーカーは、少し照れくさそうに、こう告げたのである。
「今日だけでいいんだ。……あたいを、そいつらの七人目にしてほしい」


 牡丹の母性愛に呼応するように、竜哭の滝がかすかに震えはじめた。
 乾ききっていた滝の岩が、じんわりと湿っていく。