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 Episode21.パズルのピース


 その日は、用事も何もなく、各自が自由に、家の中の好きなところでのんびりと過ごした一日だった。

 朝の内に、ランチのサンドイッチを全員分用意しておいて、適当に好きな時間に食べる。
 おやつは冷蔵庫の中にプリンを用意しておいたが、何故か皆、同じ時間にキッチンに出てきて、笑いながら皆で一緒に食べた。


 そして、そろそろかな、と千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は時計を見る。
「うん、ぼちぼち作り始めるか」
 今日の夕飯は、餃子。勿論手作りだ。
「あれ、何やってるの、かつみ」
 作り始めて間もなく、エドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)がキッチンに入って来た。
「今日の夜は、餃子」
「へえ。私も手伝おうか?」
「いいよ、俺やるから」
 エドゥアルトは器用な方ではないし、餃子の種を皮に包んだりとか、無理そうだ……と、思ったのだが、気がつけば、千返 ナオ(ちがえ・なお)ノーン・ノート(のーん・のーと)もやって来て、皆で餃子作りに参加していた。

「うっ……」
 ぼろりと種が零れて、エドゥアルトは呻いた。
 彼は真剣だが、何故か包もうとすると皮が破れる。
「この皮脆くない?」
「普通の、市販の皮だよ。ひだは作んなくていいから」
 かつみはそう苦笑する。
「これ、水餃子にもできるんですか? いろんな具財入れて放り込んだら楽しそうですよね」
「ナオ、水餃子はいいとして、闇餃子はやらないぞ」
 ロシアンルーレット餃子なんて、危険すぎる。期待に瞳を輝かせるナオに、かつみは釘を刺す。
「……ええー」
 ナオは残念そうだが、はあい、と返事する。
「それにしても、ノーンは上手だね。いくつひだがあるんだろう?」
 エドゥアルトが、ノーンの前に並べられた餃子を見て感心する。
「ほんとだ。先生すごいです!」
「ふんふんふん〜♪」
 ノーンは褒められて満更でもないのか、鼻歌を歌いながら、次第に普通の形だけではなく、キャンディの形や風車風など、色々な包み方をしていく。
「うわー、可愛いです、先生!」
「あんまり褒めるなよ、ナオ。どんどん調子に乗るから」
 キラキラと輝く瞳でノーンの手元を見つめるナオに、かつみは溜息をひとつ。
「でも、これだと食べるの楽しそうです。でもちょっと勿体無いかも……」
 食い入るようにノーン作の餃子を見つめるナオを、かつみはじっと見る。
 餃子を作るのに手が汚れていなかったら、衝動的に頭を撫でていたかもしれなかった。
「? 何ですか?」
 視線を感じて、ナオが首を傾げる。
「――いや」
 何も言わずにただ笑って、かつみは視線を手元に戻した。
 ナオの笑顔が、胸に切なく、そして暖かい。
 自分達は実の家族ではないけれど、それぞれが欠けたら完成しないパズルのように、もう、なくてはならない大切でな存在になっている。
 上手く説明できないけれど、いつもの変わらない日常に、幸せに違いない感情が、じわりと自分の内から滲み出るのだった。


 そうして、餃子作りが終わり、鍋に水を入れて火に掛ける。
 ナオのリクエストで、今日の餃子は水餃子……のはずだったのだが。
「あれ……あれっ?」
 餃子をお湯の中に入れたら、皮が溶け、ボロボロに崩れた肉団子と皮の残骸になってしまった。
「ああ〜私の作品が〜!」
 かつみの手元で、鍋を覗き込むノーンが叫ぶ。
「むむう、やはり市販の皮では弱かったか……」
「そんなはずないだろ、何だこれ、不良品か?」
 かつみも、鍋を覗き込んで呆然とする。
 普通に作れば普通に出来る、市販の皮を使ったのだ。
 百歩譲ってエドゥアルト作や、ノーンが変な形に作ったものならともかく、自分が普通に作った餃子まで崩れてしまうのはおかしい。
「とにかく、どうしようか、これ……」
 お湯に味をつけてスープにするか、それとも湯から上げて水切りして、チャーハンにするか……
「そうだね、もう餃子としては食べられないね。
 いっそ鍋にでもする? 野菜とか入れて」
 考えていると、エドゥアルトが提案した。
「鍋! 賛成ですっ! 使える食材があるか見てきますねっ」
 ナオがぱっと顔を上げ、ぴゅうと冷蔵庫に飛んで行く。その肩には、既にノーンも乗っていた。
「えーと、何入れたらおもしろいでしょうか」
「ナオ、この辺りはどうだ?」
「おいこら、まだ鍋にするとは言ってないっ。
 つーか面白いって何だ、闇鍋する気満々か! 普通の! 普通の鍋!」
 冷蔵庫を物色する二人のわくわくした声音に、突っ込まずにはいられないかつみに、エドゥアルトがくすくす笑う。
「かつみ……諦めようよ」
「…………………………」
 長い葛藤の後、仕方ないか、とかつみは降参した。