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アリサ・イン・ゲート -Rest Despair

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アリサ・イン・ゲート -Rest Despair
アリサ・イン・ゲート -Rest Despair アリサ・イン・ゲート -Rest Despair

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アリサ・イン・ゲート-Rest Despair 



 調査部隊参加者たちは【グリーク】国の首都ジュノンに招集された。
 調査隊の目的はオリュンズ地方に放棄されたトロイア基地の調査及び、近辺に設営されているゲート調査施設の調査。
 ゲートとはこの【第三世界】と外世界と呼ばれる別次元に存在する世界を繋ぐ扉のこと。
 かつてゲートは外世界と繋がりがあったが、世界崩壊後ゲートは閉じられ、外世界との繋がりは絶たれていた。
 しかし、今になってそのゲートが再び機能していると、無人調査装置を設置した『開発局』から情報があった。
 加えて、ゲートを通じて【第三世界】に現れた外世界の人間が旧トロイア基地を一時占拠しているとのこと。
 オリュンズの防衛という役目を果たし終えたとはいえ、軍施設を部外者が占拠しているというのは、些か問題がある。
 これら2つの事を鑑みて、軍による調査隊が編成された。
 今、彼らはその出発式にいる。
 式は形だけのもので、部隊構成員の確認と総統閣下カーリー・レイブラッドの君命を賜るだけのものだ。
 外部協力者の列にて、富永 佐那(とみなが・さな)は思う。
 (ただの調査って言う割には人数が多いわね)
 並んでいる人数は大隊規模だろうか。 もしかしたら連隊規模かもしれない。輸送艦前のデッキには500前後の軍人が整然と並んでいる。
(調査するだけなら、そこまで人数は要らない。基地の奪還作戦というなら妥当というところかしら。それにしても、大げさな動員数なきもするけど)
 事前報告から、基地を占拠している人間は100人に満たないと聞かされている。また、この世界からしたら旧世代の対人用物理火器しか持っていないだろうと言われている。
 基地に放置されている軍備を使って交戦してくるかも知れないが、生体認証システムによるロックが全ての武器、基地システムに施されているため、侵入者がそれらを使えはしない。
 また、同じ外世界出身である佐那ほか、数名の交渉役を同伴させる。斥候するとしてもここまで人員を動員する必要はない様に思えた。その理由は彼女たちには教えられていない。
(外世界の軍隊のことも気になるけど、こっちの動向も気になるところ)
 詮索の目を周りに向けている間に、列の前をカーリーが歩み、軍刀の鞘で金属の床を鳴らした。
「聞け! 諸君らにはまず、先行部隊としてオリュンズに向かってもらう。第一陣は協力参加者を伴い、調査区画に降下した後に部隊指揮官の指示通りに動け。基地解放の交渉が成功した場合、後陣は基地系統の回復と配備に付け。交渉に失敗した場合は武力によって殲滅しろ! 以上だ。各員輸送機に搭乗し出発しろ!」
 一斉に軍靴を鳴らし、総統閣下に敬礼する。
 彼らもまたそれに習い敬礼した後、輸送機の狭いシートに身を積めた。
 輸送機は割れた天井から垂直に上がり、斑の空へと向かった。


 【第三世界】の異次元侵食率は日を増すごとに高くなっていた。
 『キンヌガガプ』と呼ばれる次元の歪みが各所を蝕み、そこにあったものを異次元に消し去っている。黒い沼のようなそれは、徐々に広がり土地や海、果ては空までも斑にしていた。
 いつかこの黒が【第三世界】を全て飲み込む。
 それはこの世界の地の消滅を意味する。
 それはこの世界の人の消滅と死を意味する。

 逃れられない宿命と諦めることもできるだろう。
 だが多くの人はそれを認識せず、目を背けていた。
 しかし、再び彼らがこの世界に現れてから1年あまりが過ぎた時、人々は空と地上に増え続ける黒点を見ないでいられなくなっていた。
 それは人々に恐怖と焦りと不安を与えた。
 故に人々には心の支えが必要だったのかもしれない。

 外世界の存在。そしてそれに至る扉。

 それがこの世界の意識の流れを決めていた。
 ただ、流れは未だ―Ingate―堰(セキ)に止られ、外には行けないというのに。

 アリサ・アレンスキー(ありさ・あれんすきー)にとって、【第三世界】とは贖罪のためにある世界だった。
 スティレットという【第三世界】にいた少女に出会うまでは、彼女の知る世界と世界は行き来できて当然のものと思っていた。
 思い描けば、自分の知る場所に限りどこにでも行ける。目的地のルート構築が出来ない彼女にとって、世界を経由して好きな場所に行ける。一種の《テレポート》を可能にしてくれる。そんな都合のいいものだった。
 しかし実際はアリサと彼らにとってであり、【第三世界】からすれば一方的な介入と離脱のシステムだった。
 それがアリサのゲート能力だった。
 【第三世界】の全てのモノはアリサのゲートを通過することは出来ない。
 発生するゲートの境目に触れれば、触れた先から消滅していく。
 全てがあまりにも壊れやすい。
 その事実が突き刺す剣(スティレット)という形で突き刺さった。
 半分になったスティレット。もう半分は刃のようにアリサの心に突き刺さっている。
 さらには、スティレットが子どもだったというのがより刃先を鋭くさせていた。
 強化人間化手術を受ける前は保育士見習いとしてツァンダの児童病院に研修勤務していた。アリサにとって子どもは守るべき対象であるはずだった。
 しかしながらその信念は二度に渡り砕かれる。
 一度目は児童病院の子どもたちが全て研究者たちにより実験台にされ、最終的にそのデータによりアリサ自身が被験体での成功例にされたこと。他人格を有する安定型の強化人間というのは、後にアリスと名付けられた一人の子どもの人格複製を機械的に埋め込まれただけにすぎない。そしてその人格はアリサの生存の為に死んだ。
 二度目は【第三世界】でスティレットを善意によって助けようとしたためだ。
 結果的に善意は無知という罪の代償によって罰に変わった。罰は罪にすら問われなかった取り返しの付かない罪への懺悔。自らの能力が幼子を殺したという事実。
 結果的にアリサに関わる子どもたちが犠牲になっている。その事実に気づいたスティレット事件後は【第三世界】へは行きたくはなかったアリサだった。
 しかし、彼らと天御柱学院の要望により【第三世界】への繋がりを断つわけには行かず、イコン搬入可能な大型人口ゲートができるまでは渋々能力を使っていた。人口ゲートが出来てからは極力ゲート能力は使うことはなかった。
 それでも【第三世界】での状況はαネットワークを通じて情報が入ってくる。
 【グリーク】と【ノース】の政治情勢。宝石店が繁盛していること。難民キャンプ地の区画開発など、【第三世界】へ頻繁に行く彼らの情報網が無制限に頭に入って来る。
 パラミタ側だろうと【第三世界】だろうと《精神感応》のクラウドはアリサというサーバーを通じて情報が行き交う。
 その情報の中に「パラミタからもたらされた人格データ」というものがあった。
 そのデータを収めた集積回路のチップはゲート装置開発にも使われたが、それが何なのか、開発に協力していた時には気に求めていなかったアリサだったが、今になって「自分と同じパターンの脳波を有する」ことにある確信が浮かんだ。
 おそらくそのチップは「アリスの人格チップ」
 それがどのようにしてもたらされたか分からないが、それが今キョウマ・ホルスス博士の手にあり、キョウマの話では人格の復元が可能だという。
 ならそれが真実か、アリサは確かめなければならない。
 多くを犠牲に作られた自分の半身にほかならないのだから。
 そして、もう一つ。
 滅び行く【第三世界】を救う方法があるという情報。それにはアリサの協力が必要であると、【第三世界】の巨大コンピューターRAR.が告げているということ。
 アリサの協力がいるということは彼女の持つ能力が関係しているということは彼女自身にもなんとなく察しがついた。
 二つの罪に二つの贖罪。示し合わせたかのように、それらは同じ場所にて償いの可能性を持っていた。
 ならば彼らとともに行くしかない。
 【第三世界】。その始まりの地であるオリュンズに。