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リアクション
朝。
「また平行世界の私達と会えるなんて!」
「再会出来て嬉しい」
遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)は平行世界の自分を大歓迎で迎えた。
「俺もだよー、今日は思いっきり遊ぼー」
「変わらず元気そうね」
男性アイドルをする男前の歌菜とその歌菜を支える美女の羽純も再会を喜んでいた。特に青年歌菜は祭りという事もあってかテンションが高かった。
「祭りと言えば、食べ歩きという事で早速、食べ歩きをしよう。定番の、たこ焼き、焼きソバに……」
歌菜もまた青年歌菜に負けずテンションが高く次々と食べたい物を列挙する。
それに加えて
「……甘味の屋台もだ」
かなりの甘党である羽純が候補に甘味屋台を追加すると
「そうね。丁度、秋だから秋の味覚を使ったスイーツを食べたいわね。栗にカボチャにお芋に……」
美女羽純が加勢。
「……(彼女も甘い物が好きみたいだな)」
羽純は美女羽純の様子から自分と同じ甘党の匂いを嗅ぎ取り
「四人でシェアをしながらら端から端まで回ってみるか。そうすれば種類多く食べられる」
羽純は甘い物好きとして多くの甘い物を食べられる案を提案。
「それ名案ね」
同じ甘党の美女羽純は当然賛成した。
「それいいな。丁度、来たからには出店している店全部制覇しようと思ってたし」
青年歌菜は天真爛漫に言った。すっかり祭りの空気を楽しんでいる。
「あっ、甘い物と言えば……」
羽純達の話で歌菜は持参した自作したクッキーを思い出し、平行世界の二人に差し出した。
受け取った二人はその場で頬張り
「……この甘さ、好きだわ」
「こっちの俺、お菓子作りもうまいなー」
美女羽純は味わうように食べ、青年歌菜はハイテンションで素直な感想を口走る。『調理』を有する歌菜作なので美味しいのは当然である。
「……(相変わらずだな)」
二人の様子に羽純は以前四人で過ごした食事会の事を思い出していた。あの時もまたこういう感じであった。
お土産の手渡しが落ち着いてから
「では、行ける所全部行こう! 食べた分は、この後、歌って踊って消費するから問題無しという事で」
「じゃ、まずあっちだ!」
ダブル歌菜が真っ先に駆け出した。
「……今日も振り回される予感ね」
「……だな」
ダブル羽純は愛する背中を見ながら。諦めと嬉しさが込められた言葉をぽつりと洩らしてから追いかけた。
そして、四人は食べ歩きを始めた。
あちこちを食べ歩く中。
「お久しぶりです。お祭りを盛り上げるために仕掛けをしてくれてありがとうございます。お礼にクッキーでもどうぞです」
歌菜は顔見知りの三人組のブラウニー達に再会し真っ先に声をかけた。
「調子はどうだ? あれから家出を考えるような事は起きていないか?」
羽純は調子を訊ねた。特に忘れ癖が激しいオルナが住まう古城の世話になっているブラッツを気に掛けていた。
「あぁ、あんたらのおかげで何とか」
ブラッツはカラカラと笑いながらクッキーを食べた。
「調子は上々じゃ」
「話を聞いた時はクリスマスでも無いのにと思ったが、皆の幸せのためと言われてな。そう言われては乗らないわけにもいかず……ふむ、このクッキーなかなかだな」
バッザとドゥルスはクッキーを美味しく頬張りながら手を貸すに至った成り行きを簡単に話した。
「……あの二人、随分頼み込んだんだな(皆のためもあるだろうが自分の悪戯のためもあるだろうな。それでも頑張ってくれたんだな)」
双子を知る羽純は色々と思う所はあるが、ひとまず感心していた。
他愛の無い会話をしてからブラウニー達と別れてから屋台の食べ歩きを再開。
食べ歩き中。
「どれもこれも美味しいな」
青年歌菜は両手に食べ物を持ち、美味しそうにあれこれ頬張っていた。
「うん、美味しいね……っていうか、結構食べるんだね(見た目細いのに)」
歌菜も美味しくあちこちで買った物を頬張るが、量は青年歌菜に負けるため彼の食べっぷりにびっくり。
「……そうか。いつも通りだけど。あっ、羽純さん、それ何? すげぇ、美味しそう」
青年歌菜は何て事無い様子で食べ続け、ふと美女羽純いつの間にか見知らぬ甘味を食べている事に気付き、興味爛々に食い付く。
「……さっきの屋台で買った物だけど」
美女羽純は青年歌菜の勢いに押され、わずかに後退気味に。
「ちょうだい、ちょうだい、一口でいいからさ」
青年歌菜はおねだり。
「……仕方無いわね。どうぞ」
美女羽純は口元に微笑を浮かべ、お菓子を差し出した。
途端、一口ぱくつき
「ん〜、美味しい」
青年歌菜はほくほく顔に。
一方。
「……羽純くん」
歌菜も元気なもう一人の自分に触発されてかちらりと羽純の手にある食べかけのお菓子に目がいったり。
気付いた羽純が
「……歌菜食べるか」
手に持っていたお菓子を差し出すと
「えと、それじゃ一口貰おうかな。代わりに私のもどうぞ」
「あぁ」
歌菜はちょっぴり照れながらもお言葉に甘え、羽純は歌菜が差し出したお菓子に目を落とした。結局二人は互いのお菓子を一口ずつ楽しんだ。
その後すぐにロズを連れた双子に出会い
「今日はありがとう。お礼にクッキーをどうぞ」
歌菜は三人にクッキーをあげた。
三人は快く貰い頬張った後
「お礼に俺達も……」
「お菓子をやるぞ」
双子はお礼にと悪戯菓子を歌菜達に上げようとするも
「……迷惑を掛けないようにな」
保護者役のロズの目が光り
「分かってるよ」
「だったら素敵なカップル達に花束だ」
双子はしぶしぶと酷い悪戯をやめてサプライズ菓子を差し出した。
その菓子の姿に
「わぁ、綺麗」
歌菜はぱぁと笑顔になった。何せカラフルな花束だったから。
突然
「……何か、不気味な叫び声が聞こえてくるけど」
青年歌菜は花束からぞっとするような耳障りな声に訝しの目を向けた。
途端
「!!」
花束が一瞬にして様変わり。
「あら、花が全て飴に変わったみたいね……これは飴細工?」
美女羽純は聡く花が何に変化したかを察した。
「正解」
「一瞬で花が飴細工に様変わり、もちろんオレ達が作ったから味は保証済み♪」
双子は嬉々として正体を明かすと
「……うん、美味しいよ。みんなも食べてみたら」
歌菜は早速一本味見。舌の上に甘い甘い飴の味が広がり、幸せな気分になる。
それを聞くやいなや
「……なかなかいいわね」
「確かに」
甘党の二人の羽純が早速味見を始めた。
「それじゃな」
「楽しんでくれてありがとさん」
双子はすたこらと別の所に行った。
歌菜達は飴の花束をたっぷりと楽しんだ後、
「あ! ヨーヨー釣りがあるよ! 折角だから勝負しよう、羽純さん!」
歌菜は前方に賑わうヨーヨー釣りの屋台を発見し指を差し、挑戦状を美女羽純に叩き付けた。
「……えぇ、いいわよ」
数秒考えた後美女羽純は挑戦状を受け取った。折角の祭りなのだから楽しむ方がいいと。
「じゃ、行こう! あと、手を抜いちゃダメだよ」
「えぇ、もちろん」
歌菜は軽く真剣勝負だと伝えるなり美女羽純を伴って屋台に向かって駆けた。
それを見て
「あっ、俺も参加する!! 行こう!」
面白そうな予感に青年歌菜も参加を決め羽純に声をかけてから屋台に向かった。
「おい、待て」
急いで羽純も続いた。
楽しいヨーヨー釣りバトルを楽しみ終えてから四人は昼食を取りに近くの店に入った。
昼。
「ふぅ、秋の味覚最高だね。もう、美味しくて幸せ♪」
「随分食べたよなぁ」
ここまで食べに食べて大満足の二人の歌菜。
「……確かに随分食べたよね。この辺りで消費活動、もとい歌い踊りましょう♪」
「賛成。折角四人いるし祭りだし、派手に行こう!!」
突然の歌菜の案に同じくアイドルをする青年歌菜ものりにのる。
「……本当に」
「……唐突だな」
振り回される予感たっぷりの二人の羽純は溜息たっぷり。
しかし
「という事でお願い、羽純くん」
「あぁ」
愛する妻に可愛くお願いされては断るにも断れない羽純はエレキギター『月下美人』を掻き鳴らし始めた。丁度、流れていた音楽が止まり、歌菜達の歌が支配する絶好のタイミング。
紅葉や銀杏が降り注ぐ中、
「♪♪♪♪」
歌菜が人を笑顔にさせたい想いに溢れた可愛らしいナンバー『歌を歌ってあげるよ』を歌う。
続いて
「♪♪♪♪」
青年歌菜が煌びやかで格好いい歌を美声で披露すると共に
「♪♪♪♪(羽純さんも歌おうよ)」
自分を見ている美女羽純の所に近付くなり手を取り、笑顔を向ける。
「……歌菜は」
軽く文句を口にしながらも青年歌菜と手を取りながら共に歌い始めた。
「♪♪♪♪(俺も頑張るか)」
羽純はギターから紡ぎ出される流麗な音の流れ『月の波間』で歌い手達の歌を盛り上げ、聴く者の心を癒す。
それだけでなく
「♪♪♪♪(こうして四人でハーモニーを奏でる事が出来るなんて幸せ)」
「♪♪♪♪(この世界でこうして歌ったり出来るなんていいな)」
歌菜と青年歌菜が共にデュエットをする。可愛らしいと格好いいが合体し行き交う人の目を惹き付け足を止める。
「♪♪♪♪(……すっかり注目の的だな)」
羽純はいつの間にか人だかりが出来ている事に軽く苦笑しながらも演奏を続ける。この幸せな時間をもっと盛り上げるために。
四人が奏でる歌や演奏は自分達が楽しむだけでなく他の祭りの参加者達まで楽しませた。
そうして昼は過ぎていき幻想的な夜がやって来た。
オレンジ色の明かりに包まれた夜。
しっとりとした曲が流れ始めるのを知るや四人はそれぞれカップルで踊り始めた。
「昼の賑やかなのも楽しかったけど、こういうロマンチックな雰囲気も素敵だね(……羽純くん、オレンジ色の光に照らされて本当に素敵……)」
リードしてくれる羽純の姿が祭りの熱気と照らすオレンジの光でますます素敵に見えて歌菜は思わず見惚れてしまいステップを忘れそうにさえなる。
「そうだな。花火も上がって盛り上がってきたな(オレンジの光に照らされた歌菜は……本当に綺麗だ)」
羽純も灯りに照らされた歌菜の姿に心奪われ、少しばかり踊りを忘れそうにさえなる。互いを愛しているからこそ誰よりも素敵に見えるのだろう。
平行世界の二人は青年歌菜のリードで美女羽純が踊っていた。
しばらくしてから踊りをやめ酒を購入し、近くのベンチに腰を下ろした。
踊った後、四人は酒を飲みながら花火鑑賞を始めた。
乾杯をした後
「踊った後は、花火を見ながらお酒で一服、最高だなぁ、ねぇ羽純さん」
青年歌菜は酒を煽ってから隣の最愛の人に笑い掛けた。
「そうね。しかも一緒にいるのがもう一人の自分達なんて滅多にない事ね」
美女羽純も酒を飲みながら共に今日を楽しんだこちらの自分達を見た。
「……それは私達も同じだよ。二人に再会してこうしてゆっくりと過ごす事が出来て嬉しいです。何より、二人がとても仲良しで見ていて嬉しくて」
酒を飲む歌菜は二人と関わったこれまでの事を思い出しながら言った。
すると
「そりゃ、そうさ。羽純さんは俺にとっての永遠の一番なんだから。どんなに大変な仕事でも羽純さんが支えてくれるから頑張れるし続けられるんだ。だから俺は羽純さんを誰よりも幸せにするって決めてるんだ!」
青年歌菜は聞く者が恥ずかしくなるようなほど大胆で素直に愛する人への思いを口にする。
「……別の世界に来てまで惚気なくとも」
美女羽純はどこにいてもいつもの調子である彼に呆れ気味。もちろん嬉しさは見え隠れ。
「……私もそうだよ。羽純くんがいるからどんな時でも頑張れるし幸せだから羽純くんにも幸せになって貰いたくて……そのためなら私は何だってしてあげたいよ」
青年歌菜に触発されたのか歌菜は可愛らしく頬を染めながら羽純への思いを口にした。
「……もう十分してくれているさ。俺とこうして出会ってくれてそして隣にいてくれている」
羽純は僅かに口元を緩めて愛され愛する人がいる幸せを感じていた。二人が七夕祭りに短冊に書いたこれからも相手と一緒に過ごしたいという願いは今日もこれからも叶い続けるだろう。
「……羽純くん」
歌菜はじっと愛する夫の顔を見つめた。
一方。
「やっぱり、いいね。別の世界でも自分達が仲良しなのは、ね?」
青年歌菜はにこにこと美女羽純に言った。
「……そうね。同じだから、歌菜のそばにいるのは……」
美女羽純は綺麗な笑みを浮かべながら最愛の人への思いを口にした。
「うん、知ってるよ。さっき言ったように俺も同じだから」
青年歌菜はにんまりと知った顔を美女羽純に向けた。
この後、
「折角だから四人で記念撮影したいな」
歌菜がインスタントカメラを取り出し、皆に提案した。
「記念撮影? いいな、今日の思い出を胸に納めるだけでなく形にして持っておくのは……」
羽純は当然賛成。
撮影した写真は二人にもあげるから。どう?」
「もちろん、賛成だ」
「……えぇ、いいわよ」
平行世界の二人も賛成。
通行人に写真を撮影して貰い、両世界で互いに写真を手にした。
その後も四人は酒を飲み、他愛の無いお喋りをして楽しんだ。
別れの時
「それじゃ、二人共元気で。言葉は無用かもだけど、いつまでも仲良くね」
「……また会える日まで元気でな」
歌菜と羽純。
「そっちも元気でな。写真ありがとう。ずっと大切にするからな」
「……とても素敵な日をありがとう。これからも二人でお幸せにね」
平行世界の歌菜と羽純。
四人は今日の思い出を胸に別れを惜しみつつも互いの幸せを願い別れた。
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