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とある未来へ



「皆、テスタメントをおいて、どこへ行ってしまったのです。テスタメントを迷子にするなど、許されないのです!」
 書架の迷路に紛れ込んで、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、悪態をついていました。
 一緒に本の中へと入っていった他の者たちは、いっこうに姿が見えません。
 いったい、この本の迷路は、どこまで続くというのでしょうか。
「はっ、まさか、魔導書のトップに君臨するテスタメントを閉じ込めようとしているのでは……。出すのです。テスタメントは自由なのです!」
 ちょっとパニックに襲われたりして、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがとてとてててててっと走っていきました。
「ぜいぜい、いったい、この本棚は、どこまで続くのですか。いったい、どんな本が入っているのです」
 魔導書であるベリート・エロヒム・ザ・テスタメントにとって牢獄にも思えるこの図書室には、どんな本が囚われているのでしょうか。ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは、その一冊を抜き出して開いてみました。

    ★    ★    ★

山田は渡さん!」
サクラだって、同じこと。貴様の手には渡さぬ!」
 相も変わらず、ナン・アルグラードとレティシア・トワイニングが、お互いのニャンルーを巡って争っていました。まったく、仲がいいのか、悪いのか、よく分かりません。
 そんな戦いの日々を通じて、いつしか、サクラと山田には、愛が芽生えていたのです。
 けれども、ナン・アルグラードもレティシア・トワイニングも、その愛を許しはしませんでした。
「小グループは、大グループに吸収されるのが本道。より優秀な者の下にこそ、ニャンルーは集うのです。いいですね。絶対に、こちらからあっちへ行ってはいけませんよ!」
 モミジ、サクラ、ボタンを前にして、レティシア・トワイニングはよく言い聞かせました。
 一方……。
「いいか、山田。オスたるもの、メスはもらってこそなんぼ。婿養子など、絶対にありえん!」
 ナン・アルグラードも頑なです。
 よくよく話を吟味すると、別に二匹が結婚することには反対していないようにも聞こえるのですが……。
 結局、問題なのは、結婚した後のニャンルーが、誰のニャンルーになるのかという帰属問題だけのようです。とはいえ、確かにそれは大事な問題でもあるのですが。
 当事者の二匹にとっては、今の御主人様を裏切って別の人の従者になることはできません。かといって、この愛を諦めることもできません。
 二匹の出した答えは――駆け落ちでした。
『許されにゃい恋にゃら駆け落ちしますのニャ〜! ごめんにゃさいなのニャ〜』
 そんな書き置きをナン・アルグラードとレティシア・トワイニングが発見したときにはすでに遅く、モミジとボタンに協力してもらった二匹は、ペット用ロケットランチャーで吹っ飛ぶ山田ロケットとして空の彼方へと消えていったのでした。

    ★    ★    ★

「なんなのですの、この本は?」
 空気が読めずに、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが唖然としました。いったい、なんの本を開いてしまったのでしょうか。
 とにかく、先を読んでみましょう。

    ★    ★    ★

「貴様が悪い!」
 とナン・アルグラード。
「ナン・アルグラード、貴様のせいだ!」
 とレティシア・トワイニング。
 二人はチャンチャンバラバラと、剣を切り結びました。

「貴様が悪い!」
 とナン・アルグラード。
「ナン・アルグラード、貴様のせいだ!」
 とレティシア・トワイニング。
 二人はチャンチャンバラバラと、剣を切り結びました。

「貴様が悪い!」
 とナン・アルグラード。
「ナン・アルグラード、貴様のせいだ!」
 とレティシア・トワイニング。
 二人はチャンチャンバラバラと、剣を切り結びました。

    ★    ★    ★

「ちょっと、なんなのですか、これは、いったいいつまで続くんですの? もしかして、テスタメントをおちょくっているのですか!」
 えんえん同じ記述が続く本のページにベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがキレました。
 こうなったら読み飛ばしてやるとばかりに、本の後ろの方を開こうとしました。
 ところが、本のページがくっついているのか、なかなか開きません。
「テスタメントに、不可能は……ない……の……で……す……。えーい!」
 力任せに、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが本を開きました。
 そのページには、ようやっと違う文章が書いてありました。