リアクション
そして、蒼空のフロンティアへ 「他の人たちはどこに行ったんだろう」 書架の迷宮を進みながら、緋桜ケイが言いました。 「さあ、ここはそういう所のようだからのう」 悠久ノカナタが答えました。 しばらく迷いながら進んでいくと、数人の女の子が、せわしなく本を運んでいる姿を見かけました。すべて同じ顔立ちの、パーラ・ラミの分身たちです。 「追うぞ」 二人が分身たちを追いかけていくと、彼女たちは一つの部屋へと入っていきます。それを追ってドアをくぐると……。 「ここは……!」 目の前に広がる光景に、緋桜ケイと悠久ノカナタは息を呑みました。 巨大なドーム状の広間が目の前に広がっており、天井からは明るい光が降り注いでいます。そして、壁はすべて本棚でできていて、そこに分身たちがせわしなく本を出し入れしていました。 そこには、本棚にきちんと入っている本もあれば、まるで無重力空間のようにフワフワと宙に浮かんでいる本も無数にあります。 いったい、この空間には、何冊の本が存在しているのでしょうか。 「いったい、これはなんの本なんだ?」 緋桜ケイが、ちょうど近くに流れてきた一冊の本を手に取りました。 表紙には、コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)と書かれていました。 本を開いてみます。 「これは、天御柱学院の校長のプロフィールじゃないか」 最初のページを見て、緋桜ケイが叫びました。 後ろの方のページには、コリマ・ユカギールが地球やパラミタで何をしたかが、事細かに、まるで歴史書のように書いてありました。 よく見ると、宙を飛び交っている本の表紙には、よく知った名前、あるいは聞いたことのない名前が刻印されています。 「つまり、ここにある本は、我らの歴史、それぞれの者の辿ってきた道の記録と言うことなのだな」 悠久ノカナタが、合点がいったという顔になりました。 「その通りです。さあ、整理の邪魔ですから、本をお戻しなさい」 突然、声が二人に呼びかけてきました。 広間の中央、そこに立つパーラ・ラミの声でした。 気がつけば、パーラ・ラミと髪の一筋で結ばれた彼女の分身の一人が、緋桜ケイにコリマ・ユカギールの本をくださいと手を差しのばしています。 「ケイ……」 悠久ノカナタにうながされて、緋桜ケイが本を分身に手渡しました。 「アリガトウ」 本を受け取った分身が、ちょんと床を蹴って宙に飛びあがりました。すぐに他の分身たちと見分けがつかなくなります。 「これらの本はなんなのです」 「見ての通りの物ですよ」 緋桜ケイの質問に、パーラ・ラミが答えました。そんな彼女の前には、ひときわ、大きな本が開かれておかれています。 「ここは、大図書室の深層、そして、世界を見る深窓でもあります」 「そして、真相でもあると言うことだな」 パーラ・ラミと悠久ノカナタが、言霊をかけ合いました。 「そう、そして、この本がパラミタの歴史となる物。物事には、節目という物があります。終わりなき物語でも、幾度か纏めるべきときが来る。まして、この世界は、新しい世界を生み出した。つまり、物語を新たに作りだし、そして、物語を別々の物に分けたというふうにも言えるのです。そこに、確かに一つの物語は閉じ、まさに新装とも言うべき、新しい歴史が始まります」 「ここは、そういった歴史の記録所なのですか?」 緋桜ケイの言葉に、パーラ・ラミがうなずきました。 「そして、一人一人の歴史が一つに纏められて、世界の歴史となるのです。ここに舞う、たくさんの人たちの生きた証しは、今、この本に集約されつつあります」 そう言って、パーラ・ラミが指し示した巨大な本には、パラミタの歴史の部分部分が刻々と書き写されていっていました。 |
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