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リアクション
第15章 AfteWorld_2年後
ヴァイオリンの演奏舞台ツアーが終わり、よやくまとまった時間ができた終夏はイルミンスール魔法学校に訪れた。
祓魔師の仕事依頼があるらしく、地下訓練場の廊下の壁に張り出された依頼書を眺めている。
「時間があるから、久々に長期でも大丈夫だけど。どれにしようかなー…」
最高難易度のSから低難易度のDまであり、じっくり選ぶ。
「少し現場から離れていたし、Aにしようっと」
依頼書を壁から剥がして校長室へ持っていく。
「はいはぁ〜い。ちゃんと内容は読みましたよねぇ?」
「うん、ハンコお願い!」
「えいっ」
ペタンッと校長のハンコを押して受理する。
「これが控えになるので、なくさないでください〜」
「終わったらもってくればいいんだったよね?」
「ですねぇ♪頑張ってくださいよぉ〜」
一人前に育った教え子の成長を目にし、にこにこと片手をひらひらと振り見送った。
集合時間前。
花の魔性であるスーを呼び出し、2人でのんびりと空を見上げた。
「おしごとだねー」
「うん。それじゃ、今日も頑張ろうねスーちゃん」
小さな身体を抱きかかえ、草の上から起きあがった。
「えっと、場所はここやったか?」
「あ、陣さん!」
「おー、終夏さん久々やね」
「これからAランクの任務に行くところだよ」
「んじゃ、オレらと一緒ってこと?」
陣はAランクの控えの依頼書を見せ、同じものかと聞く。
「同じだよ、頑張ろうね」
「歌菜ちゃんも来たし。出発しますかっと」
イルミンの生徒会会計の業務を片付けてきた歌菜が、陣たちに手を振りながら走ってくる。
「カティヤさんは?」
「誘ったんですけどね、何か忙しいらしいですよ」
「長く時計に閉じ込められてへこんでいるかと思ったな」
それくらいでへこむ女神じゃないと知りつつも、冗談交じりに言う。
「はは…。カティヤさんが聞いたら怒っちゃうね」
「ねぇねぇ。今日って演奏家の悪霊祓いだっけ?」
「そうよ、リーズちゃん。夜な夜な演奏しては、人々の性格を荒立てて町が大変なことになってるみたい」
「混乱系の黒魔術を使うってことやね」
再度、依頼書の内容を読みながら相手の特性を分析する。
「今ってアウレウスさんが術にかかった人を治療しているんやっけ?」
心を荒立てさせている人々の治療は、彼がウィオラと共にフラワーハンドベルで正気に戻していた。
もちろん1人ではなくグラキエスやエルデネストも、彼と行動中だった。
「えぇ…。対象の居場所も調べているから、もう何日かいるみたいよ」
「それにしても、これに手をつけるなんて珍しいな」
「なんだかグラキエスさん的に、“ちゃんと眠れないは可哀想だから…”ってことみたい」
「ほー……なるほどな」
利害関係なく善意一択で活動している彼らしいと思い納得する。
現地に到着後。
グラキエスたちが借りている宿へ顔を出すと…。
彼以外の2人は、すでに疲労しきっている様子だった。
「ど、どうしたんや!?」
「いや、毎日の騒音のせいですね…」
「―…はっ。寝てはいない、寝ていないからな!」
うつらうつらしていたアウレウスが、はっと目を覚ます。
「で、彼は…?」
「えぇ、ご覧の通りです」
エルデネストの視線の先を見ると、探知に集中している彼の姿があった。
「毎晩騒音がやばいみたいやけど。グラキエスさんは大丈夫なんか?」
「問題ない。早く解決しないと…、健康問題のほうに関わってきてしまう」
1人だけ元気に活動している彼を見ていると、どこか説得力があるような、ないような感じがした。
とてもずっといられない空気を感じ、陣たちは情報集めを口実に、足早に宿から出て行った。
町の人から聞き込みを行ったところ、毎日ヴァイオリンの音が深夜2時から3時に聞こえているようだ。
1時間も遠泳と騒音を聞かされる彼らは、日々疲労がたまり気が狂いそうになっている。
演奏による術力もあるだろうが、“騒音”という単語を耳にした瞬間、“癒し”とはほど遠いものなのだろうと理解する。
「酷いな…。音楽は人を幸せにするものなのに!」
「おりりんのとは、ぜんぜんちがうみたいだねー」
「陣くんのコントといい勝負じゃないかな?もー、毎晩大変なんだよね」
「ちょ…、リーズ!誤解されること言うんやないっ」
あまりネタされていることを知られていない相手に、いらんことをふきこむなと怒鳴る。
「偽の未来では、芸人だったかのぅ?」
「あれは、私とは無関係な未来だったようだな」
「ちょっと磁楠?おまえはオレなんやぞ。否定なんぞできんからな」
お笑い英霊になっていたかもしれない。
それの先でそうだった可能性もある、と言ってやる。
「少なくとも小さな台風に遊ばれ、バケツにはまるようなことはない」
「こ、このっ」
「まーまー。お話はそれくらにして、情報収集しよう」
「うー…せやな」
「これからだと、泊まることになるけどな」
すっかり日が沈みかかっている空を羽純が見上げている。
「で、泊まりたいやつはいるか?」
と、挙手を求めてみるが…。
誰一人として挙げる者はいなかった。
騒音の町に1日として滞在するのは無理。
疲労しきっている宿の2人の姿を直視した瞬間、一同そう思ったのだった。
結局、後日またこの町に集合することとなった。