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空を観ようよ

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若葉の里

 キマクの外れ。シャンバラ大荒野の、サルヴィン川の近に若葉分校というパラ実の分校がある。
 パラ実の分校とはパラ実生を名乗る学生たちのたまり場であった。
 若葉分校は少し違い、パラ実生が中心であるものの、各地の若者たちが集う私塾……いやサークルの拠点のような場所となっていた。
 その若葉分校が出来て、50年以上の時が流れて――。

「ご飯まだかー。今日はまだ一食もくってねぇぞー」
 白髪の老人が、台所に顔を出す。
 台所では、妻が畑でとれた野菜を使って、料理を作っているところだった。
「なに言ってるんですかあなた。朝ごはんもおやつもお昼も食べたじゃありませんか」
 くすくす、笑いながら70代の妻――牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)が振り向いた。
「冗談だよ。まだそこまでボケてねぇけど、すげぇ腹へったのは事実なんだ」
 白髪の老人、ブラヌ・ラスダーは食べられるものを探して、台所をうろうろとしだす。
「今日はパーティがあるのですから、食べないで待っててください。
 それよりも足は大丈夫ですか?」
「大丈夫。寝たきりになりたくねぇからな、リハビリも頑張ってる」
 ブラヌは若いころに散々無茶をした影響で、身体の至る所に障害が出てしまっている。
 とくに足が悪く、最近手術をしたばかりだった。
「おじーーーーちゃーーーーん、おばーーーーちゃーーーーん」
 子供達の声が響いた。
「ん、どーした」
「はい、今いきますよ」
 ブラヌと牡丹は居間に行くと、窓を開けた。
 そこには沢山の子供達がいた。この土地で暮らす農家の人々の子供達、10歳以下の子、20人程度だ。
 元々ここで農家を営んでいた家族は大家族であったが、子供が結婚し、子供を産み、増えていき。
 今では、100人を超す大所帯となっていた。
 50年ほど前に建てられた若葉分校のホールは、補強や修繕が行われ、今でも存在していて、子供達がよく、秘密基地として部屋を使ったり、肝試しをしているそうだ。
「なんかおてつだいすることある?」
「けーき、たくさんつくって!」
「オレ、ちょこのがいい!」
「ぼくは、けーきより、ぷりんがいいー!」
「からあげ、からあげ!!」
「にくにくにく〜」
 子供達はわーっと牡丹とブラヌに話しかけてくる。
「はいはい、お料理は今、作ってますからね。おばあちゃんは、お煮物や炊き込みご飯を担当してるんです。お菓子はおねえさんたちが作って持ってきてくれますよ」
「よしガキども。暇なら一緒に果樹園いくかー! ケーキに乗せてもらう果物とりにこーぜー」
 ブラヌが窓から外へと出る。
「あてっ」
「おじーちゃんあぶないよ」
「ばりあふりーっていうのに、しないとね」
 段差で転びそうになった彼を、子供達が両脇から支えてくれた。
「さんきゅー。ありがとな」
 ブラヌは嬉しそうに笑いながら、子供達の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「もうすぐお料理できますので、年長さんは運んでくれるとうれしいな」
 牡丹が身長の大きな子を見回して言った。
「わかった、私は料理はこぶ!」
「台車、もってくるよー」
 10歳くらいの子達は、台車をとりに倉庫へと向かった。
「それじゃ、ちと行ってくるな」
 小さな子と手を繋ぎながら、ブラヌが振り向く。
「ええ、行ってらっしゃい。つまみぐいはほどほどにしてくださいね」
「わかってるって、牡丹のメシが食えなくなるもんな〜」
 ブラヌはしわくしゃな笑顔を見せて、子供達と果樹園へと歩いて行った。
 その、以前より小さくなった背中を見送った後。
「さて、ご馳走を仕上げませんと」
 牡丹は台所に戻って、料理を仕上げていく。
 今日は若葉分校で、子供達主催のハロウィンパーティが行われるのだ。
 大荒野で暮らしている人々も、分校生として顔を出してくれている人達も。
 ブラヌと牡丹の息子と娘、その子供達も訪れる予定だった。
 今のブラヌと牡丹には大きな役目はない。
 農家の子供達と、若葉分校を母校と考える元生徒達が、全て準備してくれるはずだから。
 2人の大切な役割は、見守ること。
 ここにいてくれること。笑顔で見守っていてくれること、だった。
「駐車場はここだぜ、ヒャッハー!」
「子供達に配る菓子忘れたヤツは、ここからもっていきな。間違っても自分で食うんじゃないよ!」
 少年少女の声が牡丹のいる台所にまで響いてきた。
「懐かしいですね。かつてはブラヌさんが、率先してやっていました」
 若いころの彼を。
 そして、側でサポートしていた自分の姿を思い浮かべる。

「さあ、できましたよ。気を付けて運んでくださいね」
「うん!」
「そっとね。石あるところさけてね」
 子供達は慎重に台車に乗せた料理を運んでいく。
 牡丹は子供達を見守った後、自分達の衣装を用意する。
 牡丹は魔女の格好、ブラヌはミイラの格好をして、今日は子供達にお菓子を振る舞う予定だった。
「ただいまー。フルーツとってきたぞー。菓子に使えるか?」
「ええ、カットして乗せるだけですけれど」
 牡丹はブラヌから受け取った果物をヨーグルトにトッピングして、子供達に配るお菓子を完成させた。
 それから二人は、魔女とミイラの姿になって。
 沢山の若葉分校の子供たちに、笑顔を届けに行く――。