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空を観ようよ

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空を観ようよ
空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ

リアクション


私だけのヒーロー

 空京からヴァイシャリーに向かう列車の中。
「私はただの一般人ですー」
 縛られて身動きできない橘 美咲(たちばな・みさき)に、幾つもの銃口が向けられていた。
 世界の危機が去ってからも、パラミタでは様々な事件が起きている。
 美咲がたまたま乗っていた列車が何ものかに占拠されて約1時間が過ぎていた。
 美咲は車内にいた乗客と共に、この車両に閉じ込められていたはずだった。
「そうか、一般人か。人質にもならんな!」
 覆面をつけたリーダーと思われる男が、銃の引き金を引いた。
 弾は美咲の頬を掠め、髪が一束千切れ飛んだ。
 彼女は乗客と共に閉じ込められた直後に、テロリストに飛びかかって、隣の車両へと倒し、そこで激しく暴れまわれ気を引いて、その隙に乗客を逃がしていた。
 既に列車は軍のイコンにより止められ、国軍に取り囲まれていた。
「ただ、殺すのでは飽き足らぬ。好きにしろ、だが致命傷は与えるな」
 リーダーが仲間達に言い、美咲に翻弄されたテロリストたちが彼女ににじり寄ってきた。
(事件発生から、1時間、経ちましたでしょうか)
 テレパシーで彼に事件を伝えてから、1時間。
 彼の現在の居場所から、急行して到着できるギリギリの時間だ。
(ファビオさんは、絶対来てくれます。間に合います……)
 美咲に、ナイフが突きたてられた。
「……ッ」
 ナイフが裂いたのは美咲の着物の帯。同時に美咲を縛っていたロープも切断されたが、身動きできる状態ではなかった。……リーダーの銃口が美咲の頭に当てられていた。
(ファビオさん……)
 目を閉じることもなく、美咲は彼を信じて待っていた。
「うおっ」
「なんだ?」
 突如、車内に吹いた風に、テロリストたちがよろめく。
 パン パン パン!
 テロリストは風が吹いてきた方向に銃を放った。
「あっ」
 声を上げかけた美咲の口を温かな感触が覆った。
 そして何かに包み込まれて、彼女の身体は浮かび上がる。
「ぐあっ!」
「ぐえ……っ」
 美咲に起きた異変に気づいた瞬間には、テロリストは風の刃を受けてバタバタと倒れていった。
「ファビオさん……ファビオさん……」
 美咲は自分を抱きしめてくれている温かな存在に、しがみついた。
「なんて無茶な事を」
 姿を消すマントの中に、美咲は隠された。
 今まで見えなかった彼が、視覚でも認識できるようになった。
 彼は……ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)は、とても心配そうな目をしていた。
「来てくれるって、信じていました」
「早く病院に行こう」
「病院に行くほどの怪我はしていません。でも、家まで送ってほしいです」
「もちろん、キミの望む方法で」
 ファビオは愛しげに優しく、美咲の髪を撫でた。
「それじゃ、このまま。部屋まで連れて行ってください」
「わかった」
 上空へと飛んで、現場からは姿が見えなくなった頃。
 ファビオはマントを外して、大きな光の翼を広げて。
 景色が見えるように美咲を抱き直すと、ヴァイシャリーへと向った。
「怖い思いをしましたけれど……それ以上に、幸せです」
 ファビオに腕を回して掴まりながら、美しいヴァイシャリー湖を眺める。
 それから顔を上げて。
「美咲ちゃん、お願いだから俺より先に逝くような真似はしないでくれ」
 彼の優しくて、真剣な瞳に笑顔を向けた。
「大丈夫です。私には、私だけのヒーローがいますから」
 そしてまた、ファビオの胸に抱きついた。

 青く澄み渡る空の中。
 2人は長い間、抱きしめあっていた。