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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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ドーバー海峡横断部の挑戦〜そして伝説へ〜
 デボン州・ダートムア。
 ここは、コナン・ドイルの「シャーロックホームズ」シリーズの長編「パスカヴィル家の犬」において舞台となったことで有名である。
「レストレイドくん、ロウ、ディオ、ここがパスカヴィル家の犬の舞台よ。ふふふ、感動よねー☆」
 顎に手を当て、まるで推理でもしているのかといったポーズで霧島 春美(きりしま・はるみ)が一同に告げた。
「うわー、ここがダートムワ……。本当に魔犬が出たらどうしよう」
 ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が、ぶるりと身を震わせた。
 吹き抜けていく風の音に混じって、時折犬の鳴き声が聞こえるのである。
「わう……わうぅ!」
 鳴き声の持ち主は、ロウ・ブラックハウンド(ろう・ぶらっくはうんど)である。
 だが、ぷるぷる震えて下を向いているディオネアは、鳴き声の持ち主が同行者の中にいることに、なかなか気がつかない様子。
「大自然だよな、まさに」
 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が、この場所の感想をそのように評したが、これはかなり「良い言い方」をした方である。
 周囲を見渡すと、赤茶と深緑の草で囲まれた湿原と、ごっそりと切り取られたような崖があり、まさに荒涼といった感じだ。
 大自然、と聞いて真っ先に思い浮かべる光景とは、少し違うかもしれない。
(まっ、春美が満足なら……)
 そう、心の中でつぶやくマイトだった。
 ある者には荒涼とした湿原でも、春美の瞳には神秘の舞台として映っているのだ。
「パスカヴィル家の犬では、ワトソン君が大活躍だったのだよ。忙しいホームズのかわりに送り込まれたワトソン君は、コツコツ報告書と日記を……」
 語りのスイッチが入った春美は、パスカヴィル家の犬について延々と解説を始めた。
 春美の解説は、ネタバレ満載である。
 これから読もうとする人には、やや……いや、完全に喋りすぎの解説だ。
 解説をしている春美の顔は、やや上気している。
(本当にホームズが好きなんだな。ちょっと妬いちゃいそうになる……なんて)
 頬をピンク色にして語り続ける春美の横顔を見て、マイトは少しだけ、名探偵シャーロック・ホームズに嫉妬を覚えたのだった。
「わうぅ……わう(居もしない人物に対してもやもや嫉妬をいているくらいなら、もっと積極的にゆけばよいのに)」
 自分が声を出すと、ディオネイアだけでなく場所柄、他の観光客も驚いてしまうため、しばらく控えていたロウだが、そんなマイトの様子を見て、思わずぽそりと独り言をつぶいたのだった。
「そしてとうとうロンドンからやってきたホームズに、ヘンリーは……」
 かまわず春美が核心部分まで喋ろうとした時。
「見て、春美、あんなとこに蝶々がいるよ。もしかして、あれが例の蝶なんじゃない?」
 ディオネイアの目線の先には、一羽の蝶がひらひらと舞っている。
「よーしボク捕まえてくるー」
 誰の返事も聞かず、ディオネイアはぱっと走り出した!
「ディオ、止まって。危ないよ! 湿地は、沼になってるところもあるんだから、落ちたら死んじゃうよ!」
 慌てて春美がロウに声をかけるも、ロウの耳には届かない。
 春美、マイト、ロウは、揃ってロウを追いかけた。
 蝶は、自分が追われていることを知ってか知らずか、どんどん遠くへ逃げていく。
「まてー」
 ディオネイアの目には、もはや蝶以外が見えていない。
「つ、つかまえたっ!」
 春美がようやくディオネイアを捕まえた。
 ……が。
 がらっ。がらがら……!

 その場所は、まさに崖の先端だった!
 二人の重さに耐えきれず、崩れ出す崖。
「わうっ(まずい)」
「春美!」
 マイトとロウは同時に動いた。
 マイトは落ちかけた春美の腕を掴み、素早く引き寄せた。
「きゃっ」
「うわっ」
 どさーっ!
 勢い余った二人は、抱き合うかたちで地面に転がった。
「……いたた……」
「大丈夫か……?」
 ふわり。
 土の香りを感じる。
 どうやら生きているということを、それで感じ取ることができた。
「レストレイドくん……」
「は、春美。えっとごめん。もうちょっと格好良く助けたかったんだけど」
 マイトは、見つめ合うのに耐えられず、がばりと起き上がると、春美のことも助け起こした。
「……ディオは?」
「あっ!」
 マイトは、ディオネイアとロウのことを一瞬すっぽりと忘れてしまっていた。
「わう(無事だ)」
 ディオネイアも、落ちる寸前に素早く駆け寄ったロウによって、助け出されていた。
「ああ、ディオ!」
 お互いの無事を喜ぶ春美とディオネイア。
「わうわう(春美嬢一人を助けるだけで、手一杯だったといったところか)」
「悪ぃ……」
 刑事としての詰めの甘さを指摘され、ばつの悪いマイト。
「わぅ……わうぅ(まあ、春美嬢の無事に免じて及第点……だな)」
 まあいいだろう、とロウがうなずく。

「ほら、次に行くよー」
 先ほどまで命の危機にあったというのに、もういつもの調子を取り戻した春美が、マイトとロウを呼んでいる。
「いま行く」
「わうぅ」
 それぞれに返事をして、追いかける。
 春美先導のホームズツアーはまだまだ続くのだった。