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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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ミルザム

 お台場の特設ステージ。割れんばかりの歓声を背に、【M】シリウスことミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)がステージを降りる。彼女に代わって別のアイドルグループがステージに現れ、ポップな音楽に合わせて踊り始める。
「ミルザム様は、アイドル活動も精力的にやってるんだな」
 シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)がモニタで会場の様子を見て言う。彼は『【M】シリウス』の表のプロデューサーだが、普段はシャンバラにいるので直接、ミルザムを見る機会は少ない。代わりに鷹山剛次とバスラ・キマクがマネージャーとして、ミルザムのスケジュールを管理していた。
「お久しぶりです、プロデューサー」
 汗をふいたミルザムにそう挨拶され、シルヴィオは笑顔を浮かべて彼女を軽くハグする。
「とても魅力的でエネルギッシュなステージでした」
「ありがとうございます。
 ……でも今日は、視察に来られたのではないのですよね」
 シルヴィオはアポを取った際に使節団の概要などを説明していたので、ミルザムも彼が訪ねた用件を把握していたようだ。
 シルヴィオは改めて、危篤の女王の為に使節団が立ち、メッセージを集めている旨をミルザムに説明した。
「陛下のお力になる事でしたら、なんでもいたします」
 ミルザムは快諾する。
 一同は、鷹山マネージャーがあらかじめセッティングしておいたスタジオに移動する。
 そこでミルザムが女王に奉納する踊りを、映像に収めるのだ。
 踊りは数十分に及ぶ、長いものだった。
 シルヴィオは踊りを見つめながら、「女王」の事を考える。
(俺からしたら、同じ学校の生徒だった女の子が女王だったなんて、まだ実感が沸かないけど……
 五千年前は散々利用されるだけされて、人身御供みたいな死に方したのに、今回もこんな状況で死に瀕してるなんて、あんまりだよな。
 国家神の力を渡したなら、もう背負わなくたって良いんだよな。ジークリンデでもアムリアナでも良い。多くの人が身を案じているただ一人の女の子として、生きて帰ってきて欲しい)
 シルヴィオはそっと、同行するアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)の様子をうかがった。隠れて泣いていた事もあったアイシスだが、ミルザムを見つめる今は幾分、落ち着いて見える。
 アイシスはアムリアナ女王へと想いを馳せ、祈っていた。
(私が生まれた辺境の領地が戦に巻き込まれて全てを失った時、手を差し伸べて下さったのがアムリアナ様でした。そういった子供は沢山いて、私は尽きぬ感謝を抱いて貴女にお仕えした。
 こんな性格だから、一臣下としか接する事が出来なかった事を今更悔いています。
 自ら隔てた壁を壊して、友として貴女を支える事が出来ていたらと。
 百余年伝え歩いた希望が現実となり、もう一度お会い出来ると思ったのに……
 これから、なんです。今ここで貴女を失ってしまったら、私は同じ時代を生きた同胞に合わせる顔がない……)