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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「コリマ校長。『ヤマトタケル』のパイロットから、シャンバラ建国の意見を聞きたい。よろしいか?」
『……いいだろう。彼らに無礼の無いように務めるのだ。私の方から話は通しておこう』
 
 コリマから許可を得た綺雲 菜織(あやくも・なおり)が、有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)を連れ、シャンバラ独立に少なからず寄与した日本政府、その要請で会場の護衛任務に就いている自衛隊の人たちから、シャンバラ建国をどう思っているか尋ねるため、インタビューを試みる。
 
「はい、こちらは、有栖川美幸です。
 今から、サロゲートエイコーン、通称、イコンのパイロットの方にインタビューしたいと思います」
 
 コリマから話を受け、手配された撮影スタッフが向けるカメラに視線を向け、美幸がマイクを使って言葉を発する。隣には自衛隊のイコン、『ヤマトタケル』のパイロットと思しき二人のパイロット――一人は男性、一人は女性――がやや緊張した面持ちで立ち、背後にはそのヤマトタケルがそびえ立っていた。
 
「お名前をお願いします」
 美幸にマイクを向けられ、二人が所属と名前を名乗る。二人とも航空自衛隊の一等空尉とのことであった。
 
「シャンバラ建国を、どう考えますか?」
「ようやくスタートラインに立った、という思いが強いです。
 このシャンバラが、パラミタと地球を結び付ける役割を果たせるよう、私たちも協力を惜しみません」
 テレビ放送用の質問に、これまたテレビ受けしそうな回答を、女性パイロットが口にする。
 
「気になる歌手はいらっしゃいますか?」
「ええと、聞いた話だとシャンバラの国家神様もステージに立たれるのだろう?
 そういうことをするとは思ってなかったから驚いているし、純粋に興味があるよ」
 確かに、日本で言えば天皇に当たる(であろう)国家神が、アイドルコスチュームでステージに上がるとなれば、興味を抱かない方が不思議というものである。
 
「紅白、どちらの応援をされていますか?」
 これには、男性が白組、女性が紅組と答える。
 どれもある意味自衛隊員らしい回答と言えようか。
 
「ありがとうございます。
 以上、お二人へのインタビューをお届けいたしました」
 
 カメラに一礼し、カメラがそびえ立つイコンを撮影した後、撮影が終了したのかを確認して、インタビューを請け負った二人にも美幸が礼をする。
「挨拶が遅れました。私は、天御柱学院の綺雲菜織と申します。今日はお会い出来、光栄です」
 そこへ、天御柱学院制服を身に纏った菜織が、二人に握手を求める。
「こちらこそ、天御柱学院の生徒と話をする機会に恵まれ、嬉しく思います」
 男性と女性、それぞれと握手を交わす菜織は、二人の手の感触に意識を振り向ける。
(……素人ではない、が、手練というわけでもない、か)
 二人の技量を大体推し量った菜織が、次いでヤマトタケルを見上げる。特に、イーグリットやコームラントにはない日本刀(の巨大版)を長く見つめ、隊員に質問をしてみる。
「イコンですか。となると地球側の寺院の動きが活発化しているのでしょうか」
「それについては私たちもよく知らされていない。が、このヤマトタケルが配備されたことは、そういう情報を裏付ける要素の一つなのかもしれない。
 まあ、天御柱学院に先を越される形にはなったが、元々イーグリットは日本で運用されるのを前提として作られている。このヤマトタケルも、カラーリングや武装は日本独自のものを採用しているが、機体そのものは全く同じだ」
 イーグリットの訳は、『白鷺』。一方、白鷺は日本武尊が死後変化した姿との言い伝えがある。
 つまり、イーグリットは開発当初から、日本の意向が大きく関与していたことになるわけである。
「……お手間取らせました。今日は最後までよろしくお願いします」
 菜織が二人に一礼し、その場を後にする。
「菜織様、あちらにクレープを売っているお店がありました。一緒に食べてから戻りましょう!」
 そこへ、美幸が菜織の腕を取り、見つけたという出店へ案内する。
「……そうだな。情報を整理するためにも、糖分は必要だろう」
 得られた情報を頭に刻みながら、菜織は美幸と共に歩き出して行く――。
 
 
「統一のお祝いに、風花と一緒に巫女神楽を舞いましょう」
 ステージでは、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)の巫女舞が披露されていた。互いに巫女服を纏い、紫音は扇を、風花は神楽鈴を持って舞う様は、バンドやアカペラのような歌モノとは違う、優雅な雰囲気を醸し出していた。
(このせいで、子供の頃はよく女に間違われたな……実家が実家だけに仕方ないんだが)
 実家が佐太神社系の神社であるという紫音は、幼少の頃より女装しての巫女舞を舞っていた。そのおかげで見事なステージを魅せているわけだが、同時に『女に間違われるとキレる』という癖も備わってしまったのは、まあ、仕方ないという他ない。
「主様も風花も綺麗じゃのう」
「そうだのう。……今だけは、安心して見ていられようか」
 二人のステージを、観客席からアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が応援しつつ、ひとまず訪れた平和な一時を満喫する。他の者も、それまでとは違う、どこかゆっくりとした時の流れに身を任せ、心安らかな表情を浮かべていた。
(さっき映ったのが、『ヤマトタケル』……。
 言われたとおり、外の警護は必要ないかもしれない。だが……)
 その中で一人、気難しい顔を浮かべて、藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)と共にスタジアム内を見回っていた。
 
 裄人は『ろくりんピック』の時は飛空艇に乗り、外部を警戒していた。その時も今同様、イベントは楽しく盛り上がっていた。
 だが、あの時は最後に、衝撃的な事件が起きた。
 
(あの時彼らが何を思ったか、そして今も何を思い、どうしたいのかはよく分からない。
 でも、何かに対して不満があるのだと思う……)
 
 ろくりんピックの“事件”の時には、契約者の生徒も関与していたことを裄人は知っていた。
 それ故に、このような多くの契約者が集まる場所で、またろくりんピックの時のような事件が発生する可能性を否定しきれなくて、今もこうしてスタジアムを見回っている。
 
 もし、この場で事件を起こそうとする生徒を見つけたら。
 もし、自分がその生徒を捕まえたなら。
 仮定を重ねた上で裄人は、確証のない、気のせいかもしれない想いを、生徒に問い質す形で言葉にする。
 
 ――お前は誰に唆されたのだ。
 お前の抱えている不満や想いを、利用しようとしている者は、誰だ――
 
 ろくりんピックの時に警備スタッフを指揮していた教導団の大尉に抱く心象。
 ここで起きた“事件”、蒼空学園校長暗殺事件の真相究明と、それが本当に全貌であるかどうかという疑心暗鬼。
 それらが裄人に、形のはっきりしない想いを抱かせる。
 
 ……しかしその一方で、東西のシャンバラの対立の中、同じ生徒に対し武器を向けた生徒の存在も、裄人に衝撃を与えていた。
 上官の命令ではなく自らの意思で、同胞を討つ、と意思決定した彼らに嫌悪感を抱きつつも、いざ自分が彼らと相対した時に、自分は何を言えるのだろう。何が出来るのだろうと考え始めると、路頭に迷う。
 
(……自分は、何も分からないただの学生だ。そして……自分は甘いのかもしれない。
 だけど、何も分からないまま利用はされたくない。……せめて、信じられる仲間が欲しい)
 
 たった一つの願いを心に呟く裄人。
「コンサート、楽しそうだね。そうだ、後でTTSにサインもらわなくっちゃ。色紙も準備してきたんだ」
 そんな裄人の顔を見遣り、サイファスがそんなことを口にする。裄人の気難しい想いを汲んでか、単に浮かれているだけなのかは、わざわざ色紙を準備している辺り難しいところだが、彼は裄人のパートナーである。
「次回にはぜひパッフェルさんにも【天御柱学院銃撃戦闘研究会】のプロモーションビデオにご主演願いたいし、BGMにTTSの歌が流れるとか最高ですよね」
 既に発言がアレなことになっているが、彼は裄人のパートナーである。
「あっ、TTSファンクラブの会員募集してる。申し込みしてこよっと」
「……おい」
 そして、サイファスが『TTSファンクラブ』入会申し込み案内書を受け取ってこようとするのを、首根っこを掴んで引き止める。
「今は思いっきり楽しむしかないよ。一緒に本気で楽しめるのが、仲間だと思うよ」
 振り向いてそう告げるサイファスへ、裄人が溜息をつく。そう思えたら、どれほど楽なことだろうか。
「とにかく、行ってくるね。裄人も入る?」
 尋ねてくるサイファスを険しい目つきで退け、一人案内書を受け取りに行ってくるサイファスに、再度溜息をつく。
 
 
 (……皆、シャンバラの統一を喜んでいる。だが、私は……)
 会場の警備という名目でスタジアムに来ていた神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)が、複雑な表情を浮かべる。
 シャンバラが国として成立したことは喜ばしいと思いながら、優子は離宮で眠りについているアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が大切に思っていたアムリアナ女王を取り返せなかったことで、とてもそのような気分にはなれずにいた。
「どうも、優子さん。やっぱり来てたんですね」
 かけられた声に優子が振り向くと、匿名 某(とくな・なにがし)の姿があった。
「2020年は色々と、特に離宮の時にはお世話になりました……といっても、そんなに多く一緒したことはないんですけどね」
 苦笑しつつ話を振る某に、優子は対応に悩む。正直、今は誰とも話をする気分になれない。
「キミは……誰だっけ? ……いや、冗談だよ」
 言って、軽く微笑む。互いに顔は知っているので、これは確かに冗談だ。
 その後、何とはなしに二人、雑談を交わし合う。主に某が話をし、優子が相槌を打つ感じで、場が進行していく。
「……東西シャンバラ統一で、一応、本当の建国が成立したってことになった。
 けど、やっぱり色々と思う人……西と東が仲良くなってはいおしまいで納得しない人もいる、よな。
 山積した問題もそうだし、なによりアムリアナ女王の事とかがあるから、簡単にはいかないのは理解している」
 そして、話がシャンバラ統一へと触れられると、優子は何も言葉を返さず、重い表情で某の話を聞く。
「けど、それでも俺は、このシャンバラ統一を素直に喜びたい。
 形はどうあれ、もう味方同士で戦わなくてもいい。知り合いや友達と気兼ねなく笑い合える。
 たったそれだけ。たったそれだけだろうと、俺がこのシャンバラ統一を喜ぶには十分過ぎることなんだ」
 そうだな、と返しつつも、優子の心中は穏やかではない。
 他の多くの者はそう思うだろう、だがアレナは?
 もうアムリアナ女王に会うことが出来ないアレナは、今回の統一を喜べるのか?
「優子さんはどう思います?
 あ、最後に一つだけ。今後は東シャンバラ総督府で忙しくなると思いますけど、無理して身体壊したりはしないでくださいよ。
 お互い、まだやらなきゃならない事があるんですから」
 某がどう思う、と聞いてくるが、とても答える気分にはなれない。
「……キミも、身体に気をつけて。
 済まない、私は仕事があるから、これで」
 出来る限り言葉を繕って、優子がその場を後にする。
「……ふぅ」
 今は仕事に集中することにしよう、そう思う優子であった。