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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「姫さん、俺たちとバンド組もうぜ!」
 アイシャ、理子と共にステージを見物していたセレスティアーナの下へ、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)を連れた姫宮 和希(ひめみや・かずき)が誘いの言葉をかける。
「おお、和希、ミューレリア、イーオン! 『ばんど』とはなんだ?」
「一緒に音楽を作る仲間のことだぜ。セレス、歌いたいか?」
 ミューレリアの問いに、セレスティアーナがうむ! と即答する。
「アイシャ、行ってきていいか?」
「ええ、どうぞ。皆さん、セレスティアーナをよろしくお願いします」
「無論だ、友として、セレスティアーナは必ず護る」
 イーオンの言葉に、和希とミューレリアも同意とばかりに頷く。皆、セレスティアーナのことを大切に思っている者たちだ。
「では早速行くのだ!」
 席を立ったセレスティアーナが意気揚々とステージ方面へ向かっていくのを、三人がまずは控え室へと誘導しつつ、ステージに向けた準備を進めていく。
 
「私とセレスでヴォーカル担当な」
「俺がキーボードで、姫宮はギターだな。着替えも済ませねばならないだろう」
「私は魔法少女の衣装で登場予定だぜ! 姫やんは?」
「俺はこの格好でいいぜ」
「俺もこれといって着飾るつもりはないが、セレスティアーナは?」
「うむ。祥子にもらったこの服でもよいぞ!」
「あー、その服でのステージは、アイシャと理子ん時に取っときてぇ気がすんな。
 姫さん、なんか着たい服とかあっか?」
「着たい服とな? ううむ、私はよく分からんぞ」
「ミューレリアとセレスティアーナのツインボーカルなら、二人の衣装は共通性があった方が良いのかもしれないな」
「えっ、それって何、セレスも魔法少女の衣装をするってことか?」
「『マホウショウジョ』? さっきもそれを言っていたな、一体それはなんなのだ?」
 セレスティアーナが興味を持ったようで、魔法少女という言葉を口にすると――。
 
「皆さんに夢と希望をお届けする、それが魔法少女ですよー」
 
 控え室に突然、パッ、と少女の姿が現れる。ちょうど今セレスティアーナが着ているような服と似た雰囲気の服を纏い、杖を手にした少女こそ、【終身名誉魔法少女】飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)であった。
「あっ、突然出てきちゃってごめんなさいですー。
 私、魔法少女の飛鳥 豊美ですー。豊美ちゃん、って呼んでくださいねー」
「おお、貴様が魔法少女か! 私はセレスティアーナ・アジュア、国家神アイシャのパートナーであるぞ!
 ……ところで、貴様が先程言った、夢と希望をお届けする、とはどういうことだ?」
 えへん、と胸を張ったセレスティアーナが、次の瞬間真摯な表情になって尋ねる。
「言葉通りですよー。魔法少女とはそういうものなのです」
「……うむ、さっぱり分からん!」
 私も魔法少女になれば、皆に夢と希望を届けられるのか?」
「セレスティアーナさんがそう望むのでしたら、きっと出来ますよー」
「そうか! よし分かった、私も魔法少女になろう!」
「はい、いいですよー」
 豊美ちゃんが、どこからか取り出したノートにセレスティアーナの名前を書き込む。最近は魔法少女の活動の幅が広まり、自身が把握しきれていないのが目下の悩みのようである。
「なのでごめんなさい、ミューレリアさんもこのノートにはないので、書かせてもらっていいですかー?
 あっ、ここに名前があるのとないのと、違いはないですよー。ただ私が知っておきたいって思ってるだけですー」
 豊美ちゃんがミューレリアの名前も書き込み、ノートを仕舞う。明らかに仕舞えそうにない場所に仕舞った気がするが、そこは魔法少女である。
「それでは、魔法少女になったセレスティアーナさんに、私からプレゼントですー」
 言って豊美ちゃんが、自らの杖『日本治之矛』を向けると、セレスティアーナの周囲が光り、次の瞬間にはミューレリアの着る服と同じデザインの、色だけセレスティアーナのイメージ色である藍色の服がセレスティアーナに纏われる。
「ステージが終われば、元着ていた服に戻りますー。それでは皆さん、ステージ頑張ってくださいねー」
 何やらやりたい放題やった気がする豊美ちゃんが、再びパッ、と姿を消す。
「……ま、歌の方も、絆と未来の希望をテーマにしてっからな。
 姫さんがみんなに、夢と希望を与えたいって思うことは、大切なことだと思うぜ」
「そうだな。セレスとおそろいになったのは嬉しいけど、それだけじゃなんともならない。
 大事なのは気持ちだ。セレスが思ってることも大切だし、何より歌ってる本人が心から楽しいと思えば、聞いてる人まで楽しくなるものさ」
「演奏や、歌唱技術を競うのではない。
 楽しそうに、楽しんで、楽しませたものが最高なのだ」
 和希に続き、ミューレリアとイーオンの言葉に、セレスティアーナがうむ、と頷く。
「私は、アイシャがいらぬ苦労をせぬよう、民を不安がらせぬよう、夢と希望を与えてやりたい。
 ……後は、めいっぱい楽しみたい!」
 
 それから、ステージでの立ち振る舞い、音合わせ等の準備を済ませた一行へ、ついにスタンバイの旨がかかる。
「……ううむ、何かこう、ソワソワしてきたのだ」
 出番を間近にしたセレスティアーナの顔に、緊張の色が浮かぶ。普段が普段だけにその態度は珍しくもあったが、そんな所もセレスティアーナである。
 そして、それを知らぬ彼らではない。
「心配ない、ミューレリアも、姫宮も、俺もいる。
 怖くなったら振り返って見るがいい。絶対に裏切らない仲間がともに在る」
 肩に手を置くイーオンの言葉に、セレスティアーナがその通りに振り返れば、和希、ミューレリア、イーオン、三者三様の笑顔がそこに在った。
「こ、こんな時に何を言うのだ!」
「こんな時だからだぜ、姫さん。
 俺たちが力を合わせれば、不可能も可能にできるぜ。一緒に、未来を掴みとるんだ!」
 赤面するセレスティアーナへ、和希がすっ、と手を伸ばす。すかさずミューレリアの手が重なり、イーオンがそれに続く。
「うぅむ、顔が熱いぞ、まったく……。
 だけど、何故だか嬉しい、そう思えるのだ」
 最後に、セレスティアーナの手が重なる。
 そして一行は、ステージへと歩き出して行った――。
 
「さあ、次のステージでは元東シャンバラ王国代王であり、今は国家神アイシャ様のパートナーであるセレスティアーナ様が登場なされます。皆様、盛大な拍手でお迎え下さい」
 エレンの催促を受け、会場から雪崩のような拍手が湧き起こる。その中を、やや緊張した面持ちで――誰であったとしても、この環境下で平然としていられはしないだろう――各人が配置につく。
「『Textile』、曲は『ミルキーウェイ・スプラッシュ』。それでは、どうぞ!」
 縦糸と横糸が織りなす織物のように、みんなで絆を織り合わせよう。
 そんな気持ちを込めて名付けられたバンド名、その名の下に集まった四人の演奏者のステージが始まる。
 
 眠れない夜 見上げた夜空
 流星群が 落ちていく
 空の世界へ 行ってみたい
 願いの言葉 こぼれていった
 
 星の気まぐれ 夢の欠片
 少女に宿った 奇跡の翼
 夜空に光る 白銀の海へ
 地面を蹴って さあ飛び込もう
 
 天の川のダンスホールで
 星屑たちとステップ踏もう

 
「行くぜ、セレス! 私に付いてこい!」
 ミューレリアがセレスティアーナに空を飛ぶ魔法を施し、二人が空中のダンスに興じる。
「わ、私は踊りなんて知らぬぞ!?」
「言っただろ、大事なのは気持ちだ! 下を見てみろよ」
 
 ミューレリアに言われ、セレスティアーナが下を向くと、演奏に興じる和希とイーオンの姿が見える。
 
(いろいろあったが、シャンバラは帝国から独立できたんだ。
 過去の事は水に流して、これから先のことを考えようぜ。
 時間はかかっても、すぐに結果は出なくても、諦めないで頑張ろう!)
 
(アムリアナ女王の件、セレスティアーナを危機に晒したこと……。
 俺はまだ何かできたはずだ。俺はまだ、力不足だ。
 ……だが、これからは違う! 俺はこれから、何かが出来るはずだ。
 そう、セレスティアーナを護ることが!)
 
 二人、それぞれ想いを抱えながら、楽しさを全面に押し出して演奏を行う。
「な? 楽しそうだろ? セレスも楽しくなってこないか?」
 尋ね、手を取るミューレリアに、セレスティアーナが頷いて答える。
「……うむ! 私は楽しいぞ!」
 
 ラララ ミルキーウェイ
 ダンス・ウィズ・スターズ
 ラララ ミルキーウェイ
 ダンス・ウィズ・ムーン 
 
 星と一緒に 銀河を駆けて
 星と一緒に 銀河を駆けて――

 
 演奏を終えたメンバーへ、登場の時以上に盛大な拍手と歓声が送られる。
「なあ、相手が相手だが、普通に採点していいのか?」
「構わんじゃろ。変に気を使う方がおかしくなるじゃろて」
『……公正な判断に務めるのだ』
 そんなやり取りが交わされつつ、審査の結果が発表される。
 
 涼司:9
 鋭峰:7
 コリマ:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:8
 静香:9
 
 合計:49
 
「お疲れさまです……。楽しかったですか?」
 ステージを終え、控え室に戻って来た一行を、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が出迎える。
「うむ! とてもいい気分だ!」
 セレスティアーナが笑い、それに和希とミューレリア、イーオンも笑顔で応えた――。
 
 
 「なあ、どうしてだよ! 金団長や梅琳、レオンがこの場にいて、セイカがこの場にいないのはおかしいだろ!
 セイカは数少ない教導団の仲間の中で、最も俺たちに近い位置にいるんだ! それなのに尽く行事やお祭り事に参加出来ないのは、不平等だとしか思えないぜ!」
「た、確かにそうですねー。分かりました、私に任せてくださいですー」
 
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)に肩を揺すられ、『生徒さんの要望を聞き入れる役』っぽいことをしている豊美ちゃんがあわわわわ、と振られつつ、確かに一理あるとして、ちょっと待って下さいねー、呼べたら呼んできますので、控え室で待っててくださいねー、と姿を消す。
 
 それからしばらくの後――。
 
「話は聞かせてもらいました!」
 
 バーン、と扉が開かれ、垂の前に垂が出場を熱望していた人物、騎凛 セイカ(きりん・せいか)が姿を表す。
「セイカ! 本当に、セイカなのか?」
「? そうですが、どうしましたか?」
「ああ、いや……とにかく、来てくれてよかったぜ」
 垂が喜びの表情を浮かべた、しかしその直後。
 
「それよりも聞きましたよ!
 私も……私も、ついに、魔法少女としてデビューできるんですね!」
「……へ?」
 
 呆然とする垂を置いて、セイカがうっとりとした表情を浮かべ、呟く。
「ああ、魔法少女……憧れでした。
 でも、私はこんな外見だけど、もう三十路……ああっ、口にするだけで心が痛い……!」
 胸を押さえ崩れ落ちるセイカ、しかし次の瞬間には元気よく立ち上がり、背後にいた豊美ちゃんの手を取る。
「だけど、この方が教えてくれました! 魔法少女はいくつになっても魔法少女なのですと!
 そうですよね、魔法少女に年齢なんて関係ないですよね! むしろ年を重ねた分、他の魔法少女とは違った魔法少女色を出せるはずです!
 そう、例えば、大人のエロスとか……」
 
 妖艶な表情を浮かべて(と、本人は思っている)、あだるてぃーなポーズを取るセイカ。
「ちょ、ちょっと、どういうことだよ!」
「あわわわわ、揺すらないでくださいー。
 私にもよく分からないんですー。私が魔法少女だ、と言った時から、あのような感じで……」
 がくがくと身体を揺すられ、豊美ちゃんの声がビブラート混じりになる。
「くっ、一体何が何だか――ハッ! 俺、どこかで見たことがあるぞ、確かセイカの人物考査に……」
 垂が記憶を辿り、騎凛セイカという人物を評した書類に書かれていた言葉を思い返していく。
 
 “しとやかであるが、ときに子どもっぽく、ちょっと天然。
 ときどき、壊れる”
 
「今がその時だって言うのかーーー!!」
 
 垂が嘆きの声を漏らすが、時既に遅し。
「垂、行きますよ! 今日が私、『魔法処女先生ハルモニアセイカ』のお披露目です!」
「何だよそのネーミング! こっそりニケまで巻き込んでんじゃねーよ!」
 この話をニケ・ハルモニア(にけ・はるもにあ)が聞いたら、さぞかし驚くだろう。この場にいなくてよかった。
「あっ、じゃあせっかくですから、魔法少女な衣装にしておきますねー」
「おまえは余計なことしてんじゃねー!!」
 豊美ちゃんが杖を振り向けると、セイカが魔法少女な格好に変身する。
「ありがとうございます! さあ行くよ!」
「ちょ、ちょっと待て――どうしてこうなったぁ!!」
「頑張ってくださいねー」
 ひらひら、と手を振る豊美ちゃんの前で、セイカと垂の姿が小さくなっていく――。
 
「しとやかであるが、ときにあだるてぃー、ちょっと妖艶。
 私、壊れていません! でも、だめ! 壊れちゃう!
 そんな私、魔法処女先生キリンとマジカルセイカノートを探せ! 
 きみだけのわ・た・し……ああんもう、待ちきれない! はじまるよっ」


 魔法少女な名乗りをあげ、セイカと垂のステージが開かれる。
 セイカがシャンバラ教導団所属と知った者たちは、お固いイメージのあったシャンバラ教導団も、やっぱり祭りごとは好きなんだなという印象を抱いた、かもしれない。……実際はそれどころではなかったが。
「なあ、俺、あいつどっかで見たことがあるんだけどよぉ」
「……知らんな。我がシャンバラ教導団には、あのような教官は絶対に存在しない!」

 そして、団長である鋭峰は、徹底的に関与を否定していた。