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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【3】竜攘虎摶……1


 廃都群の中に『天宝陵(てんほうりょう)』と言う都がある。
 この都はあることで有名だった。周辺都市が廃都となる時勢、幾千年の歳月をかつてのまま守り通していると言う。
 ここは拳祖と呼ばれる伝説的拳士の拓いた都市。古来より武芸者が行き交い、幾多の流派がひしめき合う場所なのだ。
「ここが武芸者の聖地……」
 教導団少尉叶 白竜(よう・ぱいろん)は大路を歩く猛者たちに言葉を飲んだ。
 彼は暗殺者『九龍』の情報を集めるため、都に潜入している。
 廃都での情報収集を進言したところ、メルヴィアにここを調査するよう命令を受けたのだ。
 霊廟の周辺で情報を集められそうな場所はここぐらいとのことである。
 まず、白竜はHCを立ち上げ、軍のデータベースにアクセスしてみた。要人暗殺に関わっている人物なら、何か手掛かりになる情報があるはず、戦闘関係のデータが得られれば今後役に立つ。そして、彼の予想は見事に的中した。
「やはりありましたね……」
 画面に何枚かの写真が展開された。どれも監視カメラによるもの、写っているのは九匹の龍が舞う真紅の外套を着た男。だが、フードを目深に下ろしているため顔は見えない。漆黒の外套を纏う8人の連れも同様に顔は不明だ。
 年齢不詳。国籍不明。しかし、要人暗殺の現場でたびたび姿が目撃されている。関与が疑われる事件は17件。調査の結果、鏖殺寺院の関係者であることが判明したが、調査担当の軍捜査官は全員遺体で発見された。これまで暗殺された要人同様、内臓を引きずり出されると言う無惨な姿だった。以降、シャンバラ全土で指名手配されている。

「コイツはひどいな……」
 後ろから覗き込んだ相棒の世 羅儀(せい・らぎ)は顔をしかめた。
 それから、彼は白竜の向かいの椅子に座った。2人は今、大路に面した屋台に腰を落ちつけている。
「聞き込みのほうはどうでしたか?」
「それがな……」と羅儀は顔を近づけ「どうも九龍はこの天宝陵の出身らしいぞ
「!?」
「と言っても詳しい話が聞けたわけじゃないんだ。奴の名を出した途端、顔色が変わって『……戻ってきたのか?』だの『連中の話はしたくない』だの『奴らに関わらないほうがいい』だの、よそよそしい態度で逃げられちまったんだよね」
「どうも恐れられている様子ですね」
「ああ、そうだなぁ……」
 ため息を吐き、白竜の顔を覗き込む。
「しかし、おまえもあれだねぇ。今度の上官は結構いい女だってのに、わざわざこんなとこに来るなんて真面目だねぇ」
「誰が上官でも関係ありません。作戦に必要な事を行うまでです」
……つか、もしかしてロリコン?
「…………」
「せめてもうちょっと色気のある場所なら……って、うおおお!?」
 ふと、真横を通り過ぎた女子高生に、思わずテンションが上がる羅儀。
 しかし、煙草を吹かしながら振り返った彼女を見て、テンションは下り最速で落ち込んだ。
「東方的威風は名曲すぎんな。ジャッキー侮れないわ」
 外したイヤホンから流れるカンフー映画のテーマにうんうん頷く八ッ橋優子
 メルヴィア大激怒で探索隊をおんだされた彼女に、流石の羅儀もちょっと引き気味である。
「ねぇ、ブライドオブタンメン探してんだけど、知らない?」
「どんな光条兵器だよ! 知らないって言うか、そもそもないだろ、そんなもん!」
「なんだよ、使えねーな。次長とか課長っぽい顔してるから、タンメンに詳しいと思ったのに。使えねー」
「似てねーだろ!!」
「……タンメンじゃったら、この先の麺料理屋があるぞ、お嬢ちゃん」
 突然、かけられた声に3人は振り返る。
 声の主は猫族の獣人だった。拳法着を纏ったその人物は背が低く、見た目は可愛らしい猫ちゃんだった。
 きょとんとしつつも、優子は左の掌を右の拳で打つジークンドーな礼をする。
「……マジでか。ありがと龍種」
「龍じゃなくて猫じゃがな」
 それから、彼は白竜に目を向けた。
「九龍のことを嗅ぎ回ってるのはおまえたちか?」
「そうですが……あなたは?」
「わしは天宝陵『万勇拳』【ミャオ】じゃ」
「シャンバラから参りました教導団少尉の叶白竜です。ご存知であれば、九龍のことをおしえて頂けますか?」
 ミャオはこくりと頷く。
「奴は暗殺拳『黒楼館』の門下生だった男じゃ。黒楼館はここでも恐れられる一派でな。おまえたちの質問に誰もまともに答えなかったのはそのせいじゃ。連中と関わっても痛い目にこそあえるが何一つ得はせんからのう」
 HCの画面に映る遺体の写真を指差し、ミャオは続ける。
「これは黒楼館の奥義の一つ『抜心(ばっしん)』じゃ。素手で内臓をえぐり出す凄まじい技じゃ」
「……先ほど『門下生だった』と言いましたが、今は黒楼館と九龍の関係は切れているのですか?」
「ああ、この都を去って10年、奴がここに戻ってきたことはない」
「なるほど……」
 白竜が目配せすると、羅儀は無線機で本隊へ情報を送るため席を立った。
「ご協力感謝します、ミャオ殿」
「なに、構わん。その代わり……」
 と言って、ドスンとチラシの束をテーブルの上に置いた。
 そこにはこう書かれている。

 若者諸君、万勇拳に入門してひとつ上の漢になろう!
 万勇拳に入門したおかげで彼女が出来た、背が15センチも伸びた、水虫が治ったなどの成功体験が続々!
 勿論、女性門下生も募集中! 万勇拳はダイエットにも効果テキメン!
 ちょっとお腹まわりの気になるアナタ、丁寧な指導で評判のミャオ老師の元、気持ちのいい汗流してみませんか?

「最近は少子化の影響からか弟子不足が深刻でな。我が万勇拳もとうとう門下生がいなくなってしまったのじゃ」
「はぁ」
「そんなわけじゃから、シャンバラでこのチラシを撒いて、ガンガン弟子を呼びこんできてくれ」
「は、はぁ……」