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リアクション
【2】百折不撓……4
包囲網を突破した九龍は付近の家屋に身を隠した。
そんな彼をいち早く発見したのは茅野 菫(ちの・すみれ)、しかし逃走の機会を作ったのも彼女だった。
背後から近付く気配に振り返り、凍えるような冷たい視線を放つ。
「そんなに怖い顔しないでよ。逃げるチャンスを作ってあげたじゃない」
「感謝してくれてもいいのよ」
菫の傍らにはパートナーの吸血鬼パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)。
先ほどの吹雪と氷の礫は彼女の仕業だ。探索隊に被害がなかったのは、彼女に攻撃する意図がなかったためである。
「言っておくけど、探索隊を裏切ったわけじゃないわ。ただ、落ち着いた場所であんたの話を聞いてみたくて」
「話?」
「不浄妃……」
九龍の顔色が変わる。
「あんたが不浄妃にこだわる理由はなに? もしかして鏖殺寺院に入ってるのも不浄妃退治に役に立つからなの?」
「なるほど。その情報を引き出すために俺を逃がしたと言うわけか」
小さく笑う。
「俺が素直に答えるお人好しとでも思ったか?」
「!?」
刹那、鋭く放たれた回転蹴りが菫を吹き飛ばす。
パビェーダが反応するよりも速く、九龍は外套の裏から引き抜いた長剣で空中に印を切った。
「七星宝剣……急急如律令!」
「な、なに!?」
刀身に北斗七星が刻まれた霊剣。空に印を切ることで結界を生み出すと伝えられる武具だ。
突然、発生した光の結界に閉じ込められパビェーダは身動きがとれなくなった。
「ゆ、油断したわ……!」
結界に触れた指先が強烈な力で弾かれる。無理矢理出ようとすればダメージは必至だろう。
九龍は外套を翻し、その場をあとにする。
「見つけたで、九龍……!」
屋根の上を移動中の焔の魔術師七枷 陣(ななかせ・じん)は眼下を走る目標を発見した。
彼の通信を受けて隊員達は集結。先ほどメルヴィアを最前線に放り込んだ泰輔もあわてて駆けつける。
「九龍がおったって?」
「ああ、あそこや!」
「どこや!」
「あそこの軒下や! ほら真っ赤な外套をビラビラさせとるで!」
「どこの軒下や! どんだけ真っ赤な外套ビラビラさせとるんや!」
「…………」
「…………」
「あかん……、僕ら同じ場面に出てくるとわけわかんなくなる……!」
「そんなら、ここはオレらに見せ場譲ってもらうで!」
そう言うと、陣は屋根の上を滑り降りるように、九龍に向かって走り出した。
九龍は他の隊員たちと交戦中、しかしどう大目に見積もっても並の隊員たちでどうこう出来る相手ではない。
特に連帯が回復しきったわけでもないこの現状では、隊員たちの攻撃にも幾分迷いが見える。
「皆、伏せるんやーーー!!」
その掌に収束させるは蒼き炎。目標を定め、収束した炎一気に解放する。
九龍は襲いかかる炎を紙一重でくぐり抜ける……しかし、陣はそんなことはどうでもいい、と隊員達に声をかけた。
「良いか捜索隊の皆! 色々混乱して迷ってんなら、巻き添え食わんようしばらくしゃがんで大人しくしとけ!」
陣は屋根から飛び降り、隊員たちの前に立った。
「まだメルヴィア大尉が信頼出来ない奴もいると思う。けど今だけでいい。九龍と戦うオレらを信用して、オレらを信用しようとする自分を信頼してくれ! その上で、立ち上がって立ち向かったるわボケ! って思える奴は付いてこい!」
「……!!」
その言葉に隊員たちから迷いが消えた。
少なくとも今、自分たちの目の前にいる男は信じることが出来る……!
「よーし、前回の借りを利子付けて返すよーーっ!!」
陣の相棒、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は炎の中に佇む九龍に向かって飛び出した。
光の翼で急速接近するリーズだが、九龍は極めて冷静に対応。高速で放たれる斬撃を七星宝剣で二度三度といなす。
「むむ……!」
「では、これならどうでしょう……!」
小尾田 真奈(おびた・まな)は前に出るとメモリープロジェクターを発動させた。
空中に投影されたのは無数のリーズの影。流石の九龍も乱れ飛ぶリーズの姿には目を見開いている。
更に真奈自身も加速ブースターに点火し『トンファーブレード・1st』を引っさげて攻撃に参加する。
「リーズ様、タイミングはお任せします」
「りょ〜〜か〜〜いっ!!」
「!?」
分身を引き連れ鼻先にまで迫ったリーズは女王のソードブレイカーによる一撃を放つ。
刹那の反応で防御した九龍だが、彼女はニヤリと無邪気に笑うと、武器の特性を活かして宝剣を砕き折った。
「それでは九龍様、失礼いたします」
「なに……!?」
真奈のトンファーブレードは武器破壊の動揺を逃さず、彼の脇腹を深々と一文字に斬り裂いた。
そこへリーズは畳み掛けるように斬撃を重ねる。一撃、二撃とダメージを押し込み、九龍を空中へ持ち上げた。
「今だよ、陣くん!」
「させるか……!!」
しかし、九龍は筋力だけで態勢を取り戻すと、真下にいるリーズと真奈に抜心の構えをとった。
「あかん……!」
遠目に見ていた泰輔は顔を強ばらせた。
「なんとかするんや、顕仁……!」
泰輔は悪魔讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)を九龍の直下に召還。
このタイミングで攻撃に割り込まれ九龍の動きが鈍る。長い銀髪をなびかせる悪魔はその様子を満足そうに笑った。
「抜心? ホルモン食いたきゃ、駅下へ行け」
斬撃一閃。
滑らせた高周波ブレードが九龍の左足を叩き斬る。飛び散る鮮血。九龍は苦悶の表情で再び態勢を崩した。
顕仁は落下しつつ状況を把握すると、回転する九龍に向かってサイコキネシスを放った。
空中にその身体をとどめる……!
「あとは好きにするがいい」
「ああ、トドメは任しけって……!」
陣は術式を発動。蒼紫の炎を纏う不死鳥アグニを現世に召還する。
「盟約に従い、その姿を現せ……。某大魔王の何たらフェニックスモドキって奴や……。行ったれ、アグニ!」
全魔力を使った炎をアグニに喰わせ、九龍に向かって放つ。
「うおおおおおっ!!!」
獲物を飲み込んだアグニは、空中で花火のように炸裂。コンロンの暗い空を青白く照らした。
激しく地面に叩き付けられた九龍は炎に包まれ、全身に受けた斬撃からもはや戦闘不能の満身創痍状態……。
「お、おのれ……!」
隊員たちは一斉に彼を取り囲んで武器を向ける。
「ちょっと待ちなっ!!」
だがその時、不意に轟いたその声が彼らを振り返らせた。
ツカツカと踵を鳴らしてあらわれたのは、第四師団所属のメイド隊長、朝霧垂。
先ほども戦闘に参加していたが、彼女は探索隊の所属ではなく、あくまで第四師団の軍人としてここにいる。
「……コイツには聞きたいことがある。殺さずに逮捕するんだ。誰も手を出すんじゃないぞ」
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