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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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第八章 破滅

 イコン格納庫にも、機晶姫が複数侵入していた。
「サー・ベディヴィエールか……」
 リフトを使って、格納庫へ降りた湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)が感慨深げに言う。
 視線の先に居るのは、サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)。かつて、同じ王に騎士として仕えていた者。
「そこー。感動の再会とか因縁は後回しねー? 来るわよ!」
 ベディヴィエールに近づこうとするランスロットを宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がビシッと止める。
「そうですね、祥子」
 言って、ランスロットは聖剣アロンダイトで、歴戦の防御術を用いて機晶姫の遠距離攻撃をブレイドガード。
「行くぞ!」
 従者のグラディエーターと共に駆けて、手近な機晶姫に接近。剣を左右から打ち下ろして、仕留める。
「動かせるイコンは全部出払って広々しているし、一番入り込みやすく、難戦になりそうなのはここよね」
 狭い通路に1体ずつ誘導することも難しい。
「奥への侵入を許すことになっても、ここを占拠されないようにした方がいいわね」
 イコンを格納できるスペースがあるということは……敵のイコンが入り込むスペースもあるということだ。
 格納庫に入り込んだ機晶姫の一部はハッチ側に待機し、現れた契約者に攻撃を仕掛けてくる。
「はわわ、大変なことになっちゃってるのですよ。ど、どうしましょう?」
 土方 伊織(ひじかた・いおり)は、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)に指示を仰ぐ。
「脱出はそこからするつもりなんだろ。当然、始末するが、ハッチを傷つけないよう注意しろよ」
 戦闘指揮を任されているゼスタが、そう言い、既に入り込んでいる機晶姫よりも優先して倒すように指示を出す。
「了解……で、今度こそ、その背中の剣を抜くのか?」
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)はゼスタと共に走り出しながら、僅かに笑みを浮かべて問う。
「お前等が不甲斐なくやられたらな〜」
 ゼスタもにやりと笑みを浮かべてそう返した。
「そっか、じゃ、今回も剣技は見れないかもな。やられるつもりはない」
 本当は剣を抜くかどうかが問題ではない。
 一度でいいから尋人はゼスタの本気が見てみたいと思っていた。
「オレがゼスタの背中を守るぜ!」
 言って、宮殿用飛行翼の噴出の操作で機晶姫の攻撃を躱して上昇。龍飛翔突で機晶姫の首に黒の儀礼剣を突き立て、首を落す。
「……っ」
 他の機晶姫から放たれた攻撃は龍鱗化で致命傷を避ける。
「あんまり突出すんなよ」
 ゼスタはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)達と計器の裏に隠れて、魔法で援護に止め、それ以上前に出ない。
「バリケードを築いてはどうです? また侵入される可能性もありますから」
 ベディヴィエールはそう提案をしながら、シーリングランスで機晶姫を攻撃。
「そうだな。リフトの方に頼む。ここを利用されると面倒だ」
「わかりました」
「こちらはお任せします」
 伊織とベディヴィエールは、ハッチ前の戦闘を仲間に任せて、リフト前にバリケードを築くことに。
「うーし、私も手伝うよ。イケメンのにーちゃんは指揮頑張ってねー」
「バリケード作りだね。使えそうなもの探してみるよ」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)と、メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)も、バリケード作りを優先することに。
「ゼスタせんせーは守ります。まもりますうううううう!」
 皆川 陽(みなかわ・よう)はゼスタにくっついていた。
 ゼスタは自分より強いだろうとは思うが、戦闘指揮官だ。艦長の立場にある神楽崎優子のパートナーでもあり、タシガンの貴族で……だから偉い人なのだ。守らなければいけない人なのだ。
 自分にだって、出来ることがあるはず、そう思い、恐怖心を抑えながら陽はゼスタの守りについていた。
「テディ、奥から狙ってる機晶姫、倒せる?」
 ゼスタを背に庇いながら陽がパートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)に尋ねる。
「イエス、マイ・ロード。見えない的でも射ぬいてみせましょう」
 言って、テディは機晶エネルギーが放出される中に飛び出して、弓を構える。
 百戦錬磨の経験と、エイミングの能力を用い、サイドワインダー。
 2本の矢が左右から後方の機晶姫を射抜く。身体を大きく破壊された機晶姫は、更にテディが装備している呪縛の弓の効果により、動きを封じられる。
「先に倒させてもらう!」
 尋人が回り込んで、その機晶姫を斬り倒す。
「ハイジョ」
 機晶姫用レールガンが至近距離で尋人に向けられた。
「はいはい、排除排除ね!」
 テディが矢を続けざまに放つ。
 レールガンが発射されるより早く、その機晶姫の身体も砕かれた。
「これで最後ならいいんだけどね……っ!」
 祥子が躍り掛かり、梟雄剣ヴァルザドーンを機晶姫に叩きつけて砕く。
「貴公らに帰り道などない」
 そして、最後の一体をランスロットが斬り捨てた。
「全体の今の戦況です」
 計器の裏で、ロザリンドはアルカンシェルの図面にグリッド線を引き、隔壁や敵を表すマークを入れた配置図をゼスタに見せる。
「ここから侵入した敵は、機関室に向かっています」
 ロザリンドのサポートをしているシャロン・ヘルムズ(しゃろん・へるむず)が新たなしるしを書き入れる。
 ロザリンドとシャロンはHCとテレパシーで常に新たな情報を得て、図面を更新していた。
「で、上層から侵入した機晶姫はエネルギー室に集まってる。敵の狙いは完全に動力源だな。破壊までは無理と踏んで、アルカンシェルを漂流させることを狙ってるってわけか」
 ゼスタはロザリンドとシャロンが作成した戦況と、格納庫の状況を合わせて、携帯電話で優子に連絡を入れる。
「各方面から目標地点に向かっている機晶姫が、もう少し固まったら、遊撃とここのメンバーを回して挟み撃ちだ」
「わかりました。遊撃に出ている人達に伝えます」
 ロザリンドはそう答えて、シャロンに目配せする。
「図面と共に送ります」
 シャロンは、銃型HCで情報を受信しながら、籠手型HCで仲間に情報を送る。
「この辺りにある、イコン用の資材とかバリケードに使ってもいいですよね?」
 伊織はバリケードを築くため道具を集めている。
 隠れていた作業員達が出てきて、使てもいい資材を教えてくれた。
「外部には入口を探してる機晶姫が沢山いるようですよ。いつ侵入されても迎撃できるよう、態勢を整えておきませんと」
 ベディヴィエールは伊織を手伝って、大きな鉄骨を運び、組み立てていく。
「よいしょよいしょっと」
 メリッサも2人の後から、テレサに渡されたイコン用のパーツを抱えてリフトの方へ歩いていく。
「ありがとうございます。ワイヤーで結びましょう」
 伊織達は太いワイヤーを巻いて、他で作られているバリケードよりずっと頑丈なバリケードを作っていく。
「あれ? このイコン、動いてる。整備中なんだね。……ね、こっちの機材運んでもらえないー?」
 テレサは、整備中と思われるイコンに大きな声で呼びかけた。
 その、直後だった――。
「……作戦を開始します」
 天御柱学院所属のアウリンノール・イエスイ(あうりんのーる・いえすい)アプトム・ネルドリック(あぷとむ・ねるどりっく)が整備していたはずの、カタストローフェ――第2世代機ジェファルコンが武器を抜いた。
「……え?」
 テレサの顔が固まる。
 稼動音と強いエネルギーの波動に、皆の視線が集まった。
 次の瞬間に、カタストローフェはハッチの方に移動。剣を壁に突き立てた。
 凄まじい音と共に、アルカンシェルの壁が大きく破られる。空気や、機材、整備中のイコンまでもが外へと放出されていく。
 声を上げる事も叶わず、バリケード側にいた者はバリケードに。計器の傍にいた者は計器にしがみつく。
『隔壁を降ろすぞ!』
 即、異変に築いた機関室の又吉が隔壁を下ろし、遮断。
 ただし、機晶姫の侵入を多少許してしまった。……そして、一般の作業員が数名外に投げ出されてしまった。
 無論、それだけでは終わらない。
 アウリンノールはカタストローフェを操り、アルカンシェルを内部から破壊していく。
 武器は恐るべき攻撃力を誇る、大型超高周波ブレード。一撃でアルカンシェルに計り知れないダメージを与えていく。無論、手練れの契約者といえど、この武器の一撃を受けたのなら消し炭と化す。
「止めろ」
 ゼスタが命じる。狂ったように剣を振り回しているカタストローフェに近づける者などいない。
 それでも、契約者達は止める為に攻撃を繰り出す。
 だが、カタストローフェの攻撃が再び壁を貫き、空気が吸い出され、契約者達は身動きが取れなくなる。そして、契約者達に超電磁ネットが投げられる。イコンを妨害するための、高圧電流の流れる投網だ。
 凄まじい衝撃が生身の人々を襲った。作業員、従者は即死。一瞬にして、契約者達は瀕死に陥る。

「のわーっ!」
 突き上げるかのような衝撃に、遠足気分だった翔一朗が跳び上がった。
「なんだかとんでもないことが起きとるようじゃ。早々に部屋に戻って、宇宙のひみつ☆の本でも読んで到着を待とうかの」
 部屋に戻ろうと階段室に入った翔一朗は、下の階から飛んで上昇してきた機晶姫と鉢合わせてしまう。
「俺の遠足を邪魔しやがって! 楽しみにしてたのに……。お前等も部屋に帰って寝てろ!」
 通行の邪魔になる機晶姫を、聖杭ブチコンダルを発射して落したり、突き飛ばして階段を駆け上がる。
「大丈夫ですか!?」
 知らせを受けて、階段室に駆け付けたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が、上の階のドアを開けた。
「あとは頼んだ。格納庫の方から来てるようじゃ。こっちも向ってくる奴くらい倒すからよ」
 言って、翔一朗は通路へ飛び出て、早々にその場から立ち去った。
「ヒャッハー! アルカンシェルはオレと優子の思い出の場所だ。守りきって見せるぜェ」
 更に上層から声が降ってくる。
「てめぇらが格納庫から侵入した奴らかァ! この階段からじゃエネルギー室にはいけないぜェ、上のドアは封鎖してきたからなァ」
 飛び下りる音と共に、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が階段の上に現れて、エメに目配せする。
 エメは一旦、ドアの外へと出た。ドアは開け放ったまま。エメはその後ろにパートナーのリュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)と身を潜ませる。
「リサイタルを始めるぜ」
 竜司は恐れの歌を歌った。
 昇って来た機晶姫は恐れの感情を受け、竜司を避けてドアから通路へと出ていく。
「詳細は判りませんが、格納庫でイコンが暴れだしたようです」
 銃型HCに届いた情報を確認し、エメはリュミエールに手短に説明する。
「格納庫に向かった方がいいのか……! 早く倒して、下に」
 リュミエールの目からは、今度こそという思いと、焦りが見られる。
 アルカンシェル攻防の際、リュミエールは敵の策略でエネルギー炉に捕えられ、足手まといになってしまった。……と、自分では思っていた。
 今度は役に立つんだと、必要以上に気負ってしまう。
「この間のことでしたら、自分の仕事は情報を伝える事だったから、問題ありませんよ」
 機晶姫が階段室から飛び出してくる。
 エメはブレイドガードで、リュミエールを庇いつつ、歴戦の防御術の知識で守備を固める。
「はあっ!」
 そして機晶姫に爆弾を使わせない為に、急所を狙って一刀両断。
 一撃で、機晶姫の身体を真っ二つに割いた。
 戦いの最中、一瞬だけ振り向いてエメはリュミエールに笑顔を見せる。
「それに、リュミエールも救出された後に治療の手伝いをしたでしょう」
 自分からの電話に、通話ボタンを押してくれた。
 そのお蔭で、リュミエールと、彼と一緒に捕えられていた人達を素早く救出できた。
 彼に語りながら、エメは戦っていく。
「今の仕事はここの防衛です。格納庫も気になりますが、今すべきことは、一体たりとも逃がさない。通さないこと」
 剣を振るい、背を任せながら言う。
「一緒にここを護りましょう」
「……まあね」
 リュミエールはパワーブレスでエメの攻撃力を上げる。
 敵の手を全部読めて作戦に参加するわけじゃないから。
 臨機応変、ベストを尽くせばきっと大丈夫。そう自分とエメに言いながら。
 凍てつく炎で攻撃。
「……何せ、一人じゃないからね」
 顔を合わせる余裕はもうなかったが、心の中でエメとリュミエールは微笑み合う。
「おっとここから先は行かせねぇぜ」
 竜司も光学迷彩で身を隠しながら、階段室から現れ、敵の背後から足を狙い、砕いた。
「オレと遊んでいけよォ」
 続いて、武器を持つ腕も、血煙爪で落とす。
「敵、排除スル」
 機晶姫が機晶姫用レールガンを放つ。
 リュミエールの分も、少しでも多く攻撃を受けながら、エメは敵に飛び込んで、プリンス・オブ・セイヴァーを振り下ろして仕留める。
 心に、敵とはいえ機晶姫を討つことに対する罪悪感を持ちながら。
「さあ、あと2体頑張ろうか……。っと、まだまだ来るみたいだね」
 あと2体。そう思った矢先、階段室から後続の機晶姫が現れだす。
 リュミエールは命のうねりで皆を回復。瞬時に凍てつく炎で援護。
「オレの歌が聞きたいようだなァ。歓迎するぜェ!」
 竜司は恐れの歌で怯ませ、足元、腕を中心に破壊していく。
 その間にも、HCの通信、放送で緊迫した状況が伝えられる。
 暴れだしたイコンがアルカンシェルに甚大なダメージを与えながら、上昇を始めた、と。
(ゼスタは無事か……? くたばるわけはねェよな)
 竜司は戦いながら、仲間を気に掛ける。
 出かける前に、若葉分校生に生きて帰ってくること、総長もアレナもゼスタも、共に向かう分校生もオレが連れて帰ると約束してあった。
「空気が薄くなっていますね」
 苦しげにいいながら、エメは機晶姫を斬り伏せる。意識が遠くなりそうな気がする。
 リュミエールは頻繁に回復魔法で援護するが、空気の量は増やせない。
「全員、連れて帰るぜェ……!」
 血煙爪を振るう竜司の脳裏に「番長頑張れ!」「番長が帰るまでオレ達が分校を守るから」そんな、分校生の声が響いていた。
 気力を振り絞り、連携して3人は機晶姫を倒し止めていく。