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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.21 第三の部隊……2 


「罠はないみたいだな……」
 先頭を進む夏侯 淵(かこう・えん)は言った。
 トラップを警戒していたが拍子抜けするほどにもない。
 月軌道の戦闘による時間的ロスがなかったおかげだろう、敵はまだここまで到達していなかった。
 空間の中央には台座。あそこにヴァラーウォンドをおさめれば任務達成だ。
「つっても、おまえらまだ気を抜くなよ。ここまでが安全すぎたんだ」
「達成するまでが任務と昔から言いますからね」
 清 時尭(せい・ときあき)は言った。
 噂をすれば影と言う。ちょうどその時、後方からカタカタと歯車の回転する音が無数に聞こえた。
「やれやれ、ようやく追いついて来たようです」
「ゲッ、なんだよありゃ」
 淵は顔をひきつらせた。カラクリ人形が群れをなして、こちらに迫ってくるのが見えたのだ。
 姿形はよくある日本人形だがその動きは異常。到底人間には不可能な態勢のまま凄まじい速さで向かってくる。
「たしか、敵の一派にはカラクリ師がいましたね。おそらくその彼の作品でしょう」
「不気味なものこさえやがって、趣味悪すぎだろ」
「趣味のいい人間ならブラッディ・ディバインに加担したりしませんよ」
「みんな、迎え撃つわよ! 悠とウォーレン、カルキは敵の足止めをお願い! 翼と私でダリルをガードするわ!」
 ルカルカはすばやく指示をとばした。
「お前には絶対先に進んでもらわなきゃだからな、ダリル。ここは俺たちに任せてくれ」
「ウォーレン……!」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)少尉はそういうと、仲間を鼓舞するため歌い始めた。
 ヘッドマイクをとおして周囲に広がる魔力のこもった歌声は一団に力をみなぎらせる。
「聞き惚れちまうな」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はニヤリと笑った。
「さぁて、ここから先は通行止めだ! デク人形ども!」
 カッと目を開くや、前方の敵を念動波で空間ごと吹き飛ばす。
 人形たちの武器となるのは、掌から突き出す刃や、虚ろな目の下に覗く鋭く尖った牙だ。
「はっ、近付かせなければどうということはなさそうだ!」
「ここに防衛ラインを張る。俺たちの後ろには一体も通さないつもりで行くぞ!」
 念動波の隙間を埋めるようにウォーレンが銃撃を行う。
 こころない殺戮者たちは蜂の巣になり、次々と床に身体の中身をぶちまけていくが……しかし敵の数は多い。
 中には残骸となった仲間を足場に、ウォーレンとカルキノスの頭上を飛び越えようとする者もいる。
「飛装兵隊、前へ! 敵の前進を許すな!」
「サー! イエッサー!」
 月島 悠(つきしま・ゆう)中尉が右手を振り上げると直属の飛装兵隊が攻撃を開始した。
 飛装兵は天井付近からの滑空&突撃で防衛ラインを……人形たちを大きく後方へ押し戻していった。
「今のうちだ、翼。ダリルを連れて台座へ急げ」
「うん、わかった!」
 相棒の麻上 翼(まがみ・つばさ)は頷き、ダリルを守りながら先を急いだ。
 その時だった。人形たちの間から一体の人形が飛び出したのは。
 同じカラクリ人形だが、髪は白髪、般若の面。歌舞伎を思わせる風貌のそれは薙刀を手に猛攻を仕掛けてきた。
「なんだあの個体は……! 飛装兵隊、あの人形を止めろ!」
「ひひひ、お前らみたいなドンガメじゃあ止められねぇよ。この強襲型自在傀儡『十の剣』はなぁ」
「人形が口を利いた……!?」
 その反応速度は人間のそれをはるかに上回る。
 十の剣はひとりを初撃で斬り伏せ、続く刃で残る飛装兵をまたたく間に突破してしまった。
「速すぎる……!」
「そりゃそうさ、コイツはこの大橋千住の新作だ。BDの技術の粋をこらしたなぁ」
「千住だと……! あのカラクリ師の千住か!?」
「下がれ、悠!」
 カルキノスはサッと前に割り込む。
「ひひひ、どきな、爬虫類野郎!」
「うるせぇ、デク人形! スクラップにしてやらぁ!!」
 念動波で十の剣を狙うカルキノス……しかし敵の動きは素早く、念力は壁や床を押しつぶすばかりで当たらない。
 そうこうしてる間に足止めしていたほかの人形たちが襲いかかってきた。
「ちくしょう、邪魔だおまえら!」
「いい的じゃねぇか、爬虫類! 奇麗な血の花を咲かせてくれよ! ひひひ……!」
「ぐわあああっ!」
 十の剣の薙刀が二度三度と振り下ろされるたび、飛び散る真っ赤な鮮血が人形たちの白い顔を濡らす。
 一度は命を落とした千住だが、BDの力でカラクリとして蘇った。
 電脳化された彼の意識は人形の遠隔操作を可能にし、電脳の計算能力は人間の限界を超えた反応も実現させたのだ。
「離れろ、人形!」
「邪魔はさせねぇぜ、ねぇちゃん!」
「ぐっ!」
 機関銃を向けようとした悠の首もとを掴むと、十の剣はそのまま吊し上げた。
「このままじゃ……! ジュノさん、頼む!」
 ウォーレンが視線を向けるとジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)は渋い顔で肩をすくめた。
「やれやれ……、しばし目を閉じてくださいね。巻き込まれて目を潰されるなんてことのないように」
 次の瞬間、ジュノは掌から閃光を放った。まばゆい光が十の剣の機械の瞳……カメラを真っ白に潰す。
 そのわずかな隙に、ジュノは間合いを詰め、稲妻を十の剣の胸元に叩き込んだ。
「ガァ! ガ……ガガガ……!!」
「機械の身体に電撃はこたえるでしょう?」
 微笑を浮かべたまま、手元から落ちた悠を抱きかかえる。
「はぁ……。正直、女性は苦手なのですが……」
「す、すまない……」
「まぁ仕方ありません。俺の守護圏内にいるなら仕事ですものね」
 そんなことをいってるが、女性が苦手な彼もようやく知人の女性に慣れ始めたところだ。
 それから、カルキノスのに手をかざし、ヒールの癒しの光で傷を回復させる。
「よし、今のうちだ……!」
 ウォーレンは人形の波を掻き分けて壁に走った。
 一面を見渡し隙間を見つける。だんと壁を叩くと隙間が開き、中にある通路管理用の制御盤があらわれた。
「全員、人形から離れろ! 隔壁を下ろすぞ!」
 勢いよく閉まった隔壁に人形たちは押し潰され、あるいは向こう側に取り残され、敵の数は半数以下になった。
「ちっ、不粋な真似しやがる」
 十の剣はこの場を残りの人形たちに任せることにし、前方を走るダリルたちに標的を絞った。
 般若の黄色の瞳がフォーカスし、彼の手の中にあるヴァラーウォンドを確認する。
「ひひひ、お宝、見ぃつけた! 逃がさねぇよ、ひゃっひゃっひゃ!」