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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.32 アルベリッヒ2 


月の港の冷たい廊下に、
硬い金属音が響いた。

「アルベリッヒ……!」
長曽禰少佐が目を見開く。
「お待ちしていましたよ」
黒いパワードスーツの優男。
アルベリッヒであった。
自分から姿を現したのだ。

「先手必勝だ!全軍突撃!」
【西シャンバラ・ロイヤルガード】にして、
【龍雷連隊】隊長の、
松平 岩造(まつだいら・がんぞう)と、
パートナーの
武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)
武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)
ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が一気に飛び出す。

「って、岩造さん!?
いくらなんでも、あのパワードスーツにいきなり接近戦はやめた方が!」
三船 敬一(みふね・けいいち)が思い留めるように叫ぶが、
それで聞くような岩造ではない。
「目的は倒すことではなく、
ブライドオブシリーズを収めるまでの時間稼ぎだと思うのですが」
白河 淋(しらかわ・りん)がつぶやく。

「まあ、むしろ、
ここは派手に動いてもらって陽動してもらって、
その隙にブライドオブシリーズを台座に辿り着かせればいいだろう」
ライオルド・ディオン(らいおるど・でぃおん)が言い、
ハングドクロイツ・クレイモア(はんぐどくろいつ・くれいもあ)もうなずく。
「私が興味あるのは、この月そのものでございますが……
あなたに倒れられては、元も子もありませんのでね。
攻撃は私の本分ではございませんから、
マスターの御身を守らせていただきますよ」

「どいていただけますか。
僕が用事があるのは長曽禰少佐です」
「黙れ!
鏖殺寺院はこの俺が許さん!」
ジェットハンマーをアルベリッヒに振るう岩造だが、
彼我の実力差は圧倒的だった。
アルベリッヒに一撃も与えることができない。
それでもなお、
弁慶と『鉄の龍神』、ドラニオとの
4人がかりで取り囲んでいるので、なんとか足止めすることができている。

「よし、隊長を援護するぞ」
ライオルドが、パワードスーツの関節部を狙い撃つ。

「こうなりゃしかたない。やるしかないか!」
イコンと単独で戦える戦闘力に加え、対人戦の武器を持っているだろうことから、
接近戦をなるべく避けたかった敬一だが、
自動小銃【ハルバード】で装甲の薄そうな部分を狙い撃つ。
淋も、ロケットシューズやアクセルギアで、
パワードスーツに対抗できるようにしようとしていた。

「雑魚に興味はないんですよ」
「そんなことをいつまで言っていられるかな!?
【龍雷連隊】の連携をなめるな!」
憤る岩造だが、
しかし、アルベリッヒはビームサーベルで、
『鉄の龍神』を弾き飛ばした。
「ぐっ!」
「貴様!」
岩造が吠える。

「おやっさん、やっぱり、あのパワードスーツはただ者じゃないね」
朝野 未沙(あさの・みさ)が、
長曽禰少佐に言った。
「さっきいろいろ聞いてたけど、
こちらで予想して考えられる構造はあれですべてなんだよね?」
「ああ。
だが、あのパワードスーツは、通常のものとは比較にならない。
それに、奴は、天才的な技術者だ」
「だいじょうぶ、おやっさんのことを信じてるから!」
未沙は、専門用語だらけの会話を長曽禰少佐と繰り広げて、
事前に黒いパワードスーツの弱点を調べていた。
「どんなものでもキレイにしてみせるよ、
この箒で!」
ラスターブルームで一気に近づき、弱点となるであろう箇所を狙う。
しかし、当然、アルベリッヒはとても素早い。

「これだけ強い相手だから燃えるってもんだぜ!」
【西シャンバラ・ロイヤルガード】ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が、
躍り出る。
「強い奴と戦うっつー訳でギア上げていくぜ!」
「ほう!」
ラルクの攻撃にアルベリッヒが感嘆の息をもらす。
「ふん、そんな機械に頼ってちゃまだまだって所だな。
その技術力はすごいが……な!」
アルベリッヒの攻撃をガードしながら、ラルクが言った。

(ラルクさんなら、たとえアルベリッヒであっても互角に戦えるでしょう。
あとは、数の多いこちらが押し切れるはず。
ですが……)
一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は、
リリ マル(りり・まる)とともに、
周囲の様子に警戒していた。
(アルベリッヒが危地に陥った時こそ、敵の妨害が……)
「来ます!」
アリーセがラルクに注意を促す。

シャルロット・ルレーブ(しゃるろっと・るれーぶ)
いや、試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)が、
六連ミサイルポッドをラルクに放ったのだった。
「邪魔が入っちまったか!」
「奇襲ヲ提案シタノニ、ボスガ必要ナイト言ウカラ、様子ヲ見テイタノデス。
充分、アリガタイト思ッテクダサイ」
回避するラルクにルレーブが言った。

さらに、
山田 太郎(やまだ・たろう)は、
遮光器で顔を隠して、
アルベリッヒの陰から、仕掛けておいたワイヤートラップで攻撃する。
「上手く事が運べば、ニルヴァーナに渡って麗しのパラミタを眼下に一服したいもんだな」
太郎は、指先でくるりと煙草を回して余裕を示した。
携帯灰皿は持参している。
喫煙マナーはよいつもりだ。

実は、太郎には、他にも気になることがあった。
「アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインと名乗る
ブラッディ・ディバインのリーダーは、本物のアルベリッヒなのか?
本当にあれは男だろうか?」
優男であることから、女である可能性も考えた太郎だが、
アルベリッヒの挙動からは、そうした要素は見受けられなかった。

ロサ・アエテルヌム(ろさ・あえてるぬむ)も、太郎と同じように遮光器で顔を隠し、
配下の美女陰陽師軍団を率いる。
「アルベリッヒ様と太郎様を無事に脱出させるのが、私の役目です」
事が不利に運んだ際には、陰陽師軍団に力を借りて、
退路を確保しようというつもりだった。

【シャンバラ教導団中尉】の叶 白竜(よう・ぱいろん)と、
パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)は、
長曽禰少佐のパワードスーツで対抗しようとしていた。
「ラルクさん、チャンスがあればためらわず
私達ごとお願いします!」

少し前、白竜が、
医療班の
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)に、
「お世話になると思います。よろしくお願いします」とあいさつした際、
羅儀は、
「このスーツが棺桶にならないといいけどねえ」
とつぶやいていた。
「棺桶ではない。私たちは生きて帰る。アルベリッヒを倒して、だ」
白竜はそう答えていたが。

(ラルク氏の全力攻撃とか、勘弁してほしいよ)
テレパシーで軽口を叩いてくる羅儀の言葉は、
白竜はあえて無視する。

「くっ、さすがに人数が多いですね!」
「どうした、もうへばったのか?」
「その油断が命取りですよ!」
アルベリッヒを挑発するラルクだが、重い一撃が身体を襲う。
受け身で防いでいるが、イコンに殴られているような衝撃を受けた。
「そうこなくっちゃな!」

「皆さん……少しでもお役にたてればいいんですが」
ヒールなどを頻繁に使って、細かい傷もすぐ塞ぐようにして、
ローズが支援を行う。
ローズは、「人間救急車」として、徹底的に救護活動を行うつもりだった。
そのかいがあって、長曽禰少佐班のメンバーは、
ダメージを受けても、すぐ戦線に復帰できる状態になっていた。

ローズは、ブライドオブシックルを守る長曽禰少佐の横顔を見る。
長曽禰少佐は、普段とは違う、戦場の軍人の顔をしていた。
(長曽禰さんのためにも、作戦を成功できますように……!)
長曽禰少佐を慕うローズは、そう願う。

【西シャンバラ・ロイヤルガード】の
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、
パートナーの
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とともに、
アルベリッヒを攻撃する。

「今度こそ勝ってみせるわ、アルベリッヒ!」
プラヴァーを奪われた責任を取るためにも、美羽は雪辱を晴らそうとする。
美羽は、ベアトリーチェとサイコキネシスの同時攻撃で、
アルベリッヒを転倒させようとするが。
「その程度!」
アルベリッヒが回避する。
「まだよ!」
美羽は、アルベリッヒの足を狙い、ブライトマシンガンを撃つ。

また、コハクが、蒼炎槍を構え、
アクセルギアを使って加速した疾風突きで、アルベリッヒの腹部を貫こうとする。
「今度こそ止めてみせるよ!」
「甘いですよ!」
コハクは急所は外そうとしていた。
しかし、アルベリッヒは手加減してかなうような相手ではなかったのだ。

(なんとか後で尋問したかったけど……)
気絶させるだけというのは、無理かもしれない。
(でも、やるだけやってみせるわ!)
美羽は、気を引き締めなおした。

契約者たち一人一人の多くにとっては、
アルベリッヒは1対1では太刀打ちできない相手だった。
しかし、多勢に無勢で、アルベリッヒは徐々に追い詰められていく。

その時。
ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)の遠隔呪法による呪詛が、
アルベリッヒを襲った。
(イケメンの重要な要素の一つである、
歯をボロボロにしてやる。
二度と白い歯で笑えなくなるといいよ!)
アルベリッヒに嫉妬してそう考えたブルタの、虫歯の呪いであった。

しかし、アルベリッヒのパワードスーツは、
配下の陰陽師により、呪詛の備えも施してある。
だが、完全に効かなくすることはできない。

「呪詛をかけられたか!?」

一瞬の隙に、
ラルクや岩造が畳み掛ける。
「終わりだ!」
「観念しろ!」

ブルタのパートナー、
ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)は、
呪詛の結果を見届けた。
「やはり、どんなに強い人間でも、予想外の攻撃は命取りになるのですわね」
ステンノーラがつぶやいた。

アルベリッヒの黒いパワードスーツは、
弱点への攻撃で中破した。
そして、
アルベリッヒは、倒れる寸前、
長曽禰少佐の方を見て、つぶやいた。

「僕はあなたに認めてほしかった……」

「アルベリッヒ……」

気絶したアルベリッヒに駆け寄ろうとした長曽禰少佐だったが、
次の瞬間、
黒いパワードスーツが内側からはじけ、
巨大な何かが飛び出してきた。

「ドラゴン!?
……じゃない!?」
美羽が息を飲む。

それは、ドラゴンに似た姿だが、背中に無数の触手を生やした、
異形の怪物だった。

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

怪物はすさまじい咆哮をあげると、契約者たちに襲い掛かってきた。

「な、なんてパワーだ!
こりゃ、一匹でイコン数十機分はあるぞ……!」
ラルクですら、怪物の力に圧倒されてつぶやく。

ここにいる契約者だけでかなう相手でないことは明白だったが、
契約者たちはオクタゴンの内部に散らばってしまっている。

絶体絶命の危機が訪れていた。