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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション公開中!

【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション

 ダイダル卿達がイレイザーに何とかダメージを与えようと攻める中、コア達がイレイザーの死角を突く。

「よし! 奴は立っている! 全員で腹を叩くぞ!」

 コアの合図で、一気にスキルを放つ。

「はあああっ!」

 永谷が【氷術】、

「おいおっぱい(向日葵)! 俺様のかっけーとこをよく見とけよ!」

 ゲブーの【七曜拳】、

「俺の真価を見るがいい!」

 マグナが二刀流で【ライトブリンガー】、そして、

「うなれ【アンガード・バンカー】! 新星! 轟天貫通撃いいいいっ【レジェンドストライク】!!」

 コアの一撃。

「あっ! あの人たち大技決めてるぅ! 鴉、さっき話してたアレいくよ〜っ」

 コア達の集中攻撃を見て、アスカが今こそと鴉を呼ぶ。
 鴉も待ってましたとばかり、

「ようやくおでましか。いいぜ、そのために暑い中我慢してきたんだからな。おい不憫野郎!」

 と、超人ハッチャンを呼ぶ。

「なに、どうしたの?」
「アレ、いくぜ!」
「え? アレって何?」
「アレよアレ、最近地味なハッチャンが輝く、私たちの連携必殺技ぁ!」
「えーっ、何も説明受けてないけど!」
「心配すんな! おまえはただ、俺たちを信じてればいい!」

 と言いながら、【鬼神力】を発揮するアスカと鴉。
 二人ともスキルの影響で身体が大きくなり、角まで生える。

「え、なに? なに? 何か嫌な予感するしすっげー怖い!」
『うおおおおおおーっ!』

 怯える超人ハッチャンを二人が抱え、足に力を込めて思い切り跳躍する。
 イレイザーを見下ろせる所まで飛び上がると、アスカと鴉はまた極限まで力を入れ、

「ハッチャン、あなたの鋼の身体でカッコよく逝ってねぇ!」
「あれアスカ? 『行って』じゃないの?」
「おまえの身体を見込んでの大技だ。万が一でも遺言は伝えとくぜ!」
「遺言って僕言ったことないからきっと鴉のねつ造だけど! もう大体何するつもりか分かったけど! ああもうツッコミおわんね―けどおおおお!」
『ハッチャン・L(レジェンド)・ストライク!!』

 そういうわけで、アスカと鴉が超人ハッチャンを【レジェンドストライク】に乗せて、イレイザーに投げつけた。
 二人分の【鬼神力】の加わったこともあって、超人ハッチャンの鋼の人間爆弾は、イレイザーの背中に突っ込み、触手を幾本も根こそぎにしながら爆発する。

「はちゃあああ〜〜〜〜ん……」

 ラルムが涙と共に超人ハッチャンの名を呼び、オルベールがそんなラルムの両肩に手を置き、共に関係ない方向の天井を見ている。

「うほー、さすが総帥。やることが派手じゃわい」

 ダイダル卿が額に手を当てて感心しつつ、超人ハッチャンの生死の心配はまるでしていない。

「いいなぁ、ハッチャン身体強くて……」

 あんな無茶ができる超人ハッチャンが、ちょっとだけ羨ましいクマチャン。
 そこに、口に手を当ててくすくす笑いながら、夜薙 綾香(やなぎ・あやか)がすり寄ってくる。

「んっふっふ〜。聞いたぞクマチャ〜ン。今回すっかり戦力外通告されたようではないか〜。今日も完全に説明係だったしな〜」
「べ、別に俺、もともと戦闘要員じゃねえし!」
「まぁまぁ、気を落とすな。今回も私がとっておきのアイデアを提供してやろうではないか」
「おお! さっすが綾香!」
「前々から思っておったのだ。クマチャンにも何か付けたいと!」
「おもちゃ扱いかよ」
「まぁそれはさておき、こないだおぬしのイコン操作を見て思ったのだ。やはりダークサイズの基本は力のハッチャン、技と力を兼ね備えるダイソウトウ。そしてクマチャン、おぬしの技なのだと」
「確かに俺、イコン操作の勘はよかった」
「うむ、これ以上キャノン姉妹やアルテミス、ダイダル卿の陰にかすむのは、忍びない」

 綾香がパチンと指を鳴らすと、アンリ・マユ(あんり・まゆ)がすすすとやってきて、

「説明いたします。クマチャン用パワードスーツ、名付けて『クマード・スーツ』」
「くまーどすーつ!」

 クマチャンの目が期待に輝く。

「外見は3等身ほどのクマの着ぐるみですわ。その愛らしい容姿の反面、両手には出し入れ可能な『クマ・クロー』、頭部の目は粒子砲になっていますわ」
「すげーじゃん!」
「ただ、威力は高いものの反動が強いので、使用の際はお気を付け下さい。防御面もこないだの反省を活かし、衝撃・斬撃はもちろん、対魔防御、属性耐性も高基準のものです。さまざまな環境で活動することも可能ですわ。注意点はリミッターを外さないこと。あなたの肉体が耐えられない可能性がありますから」
「機能盛り沢山じゃん! これならイレイザーとも渡り合えるね! で、それはどこに?」

 クマチャンのリアクションに綾香は満足げにうなずき、

「うむうむ。こういう素晴らしい物を今度持ってくるから、期待しておるのだぞ」
「……え?」
「実はな、現物を持ってくるのを忘れたのだ」
「はああああ!?」

 さすが気まぐれな綾香。
 クマチャンの感情を上げて落とす。
 そこに夜薙 焔(やなぎ・ほむら)がちょこちょこ歩いてやってきて、

「母様、そろそろ向こうに再度合流せねば。今でも戦力はギリギリで気は抜けぬ。イレイザーの前でも敵対せぬかと心配していた正義の味方たちも、ようやく共に戦っておるのだ。今を置いてイレイザーを倒す好機はあるまい」
「分かったぞ、ホム。ではクマチャン、後はゆっくり私たちの勝利の瞬間を見ているがよい」

 と、綾香はクマチャンの胸をポンポンと叩いて再度戦闘に赴く。
 最後にアンリが、

「いつでも操作できるよう、目を通して置いてください」

 と、説明書みたいな紙を渡し、綾香と焔を追う。

「うわーん! 今度嫌がらせしてやるっ! 焔とかほむほむしてやるっ!」

 クマチャンはよくわからない負け惜しみを言いながら、後ろへ走り去って行った。


☆★☆★☆


 一方で、戦闘に参加すればいいのに、何となく手持ちぶさたなダイソウ。

「うーむ、皆がんばっておるな。何だかタイミングを失ってしまった……」

 戦っている本人たちにしてみれば、タイミングとかそういう場合ではない。
 猫の手もダイソウの手も借りたい。
 だが、彼も悪人である以上、空気とかタイミングは大事にしなければならない。
 そこにまた、【光学迷彩】を一部解除した円が顔を出す。

「何してるの、ダイソウトウ」
「おまえこそ、何をしておるのだ……」
「ふっふっふ。ボクは止めの一撃を決める準備を終えたんだ。狙撃ポジションもばっちりだよ。イレイザーはダークサイズが倒したようにしてあげるから、ダイソウトウもイレイザーの体力削ってきてよ」
「しかしな、妙なタイミングで入ると逆に邪魔になってしまうのだ。大人数戦闘とはそういうものだからな」
「それって一人で後からいくからでしょ。大部隊が助っ人に入れば英雄だよ」
「大部隊か。だが皆出払っているぞ」
「しょうがないな。ボクのペンギン部隊を貸してあげるよ」
「……ペンギンか」
「あー、何その『大したことないなー』みたいな反応。ダイソウトウ、直接指揮したことないから分かんないんでしょ。300羽だよ300羽。それはもー、かいがいしく戦ってくれるんだからね」
「うむ、ペンギン部隊の活躍は分かっておる。では、それでいくか」

 ダイソウは違う意味で腹を決め、エメリヤンの上からペンギン部隊を率いる。

「くっそ! こいついつになったら倒れやがんだ!?」

 ゲドーが触手を払って悪態をつく。
 ヴェルデの罠に始まり吹雪やフィーアの一番槍から、タンポポ軍師の広範囲攻撃とコアなどのチーム・サンフラワーの一点攻撃、さらに超人ハッチャンの人間爆弾を終えてなお、傷ついたイレイザーは倒れない。
 あまり長引けば、全員のスキルも尽きてしまう。
 少しばかり焦りの色が見え始めたころ、

「皆の者、待たせたな!」

 後ろから山羊の蹄と地を唸らせる大人数の足音と共に、ダイソウの声が聞こえる。

「ダイソウトウか! 今まで何やってた!」
「この足音! 援軍を連れて来たんだね!」
「なるほど、いいタイミングだぜダイソ……ペンギンー!?」

 現れたのはペンギン大部隊を引き連れたダイソウ。
 ペンギン達はすぐさまイレイザーに立ち向かい、背中に差しているペンギン部隊のブレード『オディン』を抜き放つ。

「おでんじゃねーかー!」

 周囲の戸惑いをよそに、ペンギン達がイレイザーの足をぺちぺち叩く。

「ダメージ与えてねえええ!」

 3羽でスクラムを組んだペンギンはランチャーを担ぎ、引き金を引くと、

ぽーん

 と、おでんが飛び出す。
 その反動で、

ぽーん

 と、ペンギンも反対に飛ぶ。
 ペンギン達の眼は戦士のそれであり、真剣にイレイザー打倒にいそしむ。
 周りのメンバーはどう反応していいか分からず、イレイザーも若干リアクションに困っている。
 これにはずっと機嫌が悪かった美羽が怒り、

「ダイソウトウ! こんなときまでいいかげんにしてよ! みんな一生懸命戦ってるんだよ!」

 と食って掛かるが、ダイソウもダイソウで、

「私も必死なのだ! 違う意味で!」

 と、若干声を震わせて、妙な剣幕で言い返す。

「ま、まあまあ。美羽さんもダイソウさんも落ち着いて……」

 ベアトリーチェが慌てて取りなす。

「せっかくダークサイズとチーム・サンフラワーが協力してるのに、仲間割れしてどうするんですか」
「違うもーん。私スタンプ集めてるからダークサイズの敵だもんねーだ」

 美羽はどうやら、スタンプカードの件でへそを曲げているようだ。

「せっかく集めて来たのに、無しだって! そんなのないよ! ダイソウトウったら嘘つきなんだもん」
「美羽さん、そんな言い方……」
「だってそーじゃん! 集めてるの一人だけだったら無かったことにできるんですかー? そっちが言いだしたのに、全部揃いそうになったらなしなんて、ずるいずるいずるいっ」

 ちなみに言っておくが、イレイザーの目の前である。

「ほう、ならば美羽よ、活躍どうこうでなどとは言わぬ。私からスタンプを奪ってみるがよい。それならば叶えてやろうではないか」
「あー! 言ったねー! 今度嘘だったら針千本だからねー!」

 イレイザーに対してペンギンを引き連れたのがよほどプレッシャーだったのだろう、売り言葉に買い言葉とは、ダイソウの反応としては異例中の異例である。
 突然、イレイザーが苦しそうな声でわめきだし、上体を激しく振る。

「どわっ、何だ?」
「イレイザーが苦しんでる!」
「まさか……ペンギンの攻撃が効いたのか!?」

 皆がイレイザー討伐のゴールが見えたのかと思っていると、

「いえええええ、ファーック! やってやったぜーっ!」

 イレイザーを挟んだ反対側から、サンダー明彦の叫びが聞こえる。

「イレイザーの地獄門を制覇したのは俺だーっ!!」

 どうやらサンダー明彦はやったらしい。
 本当にイレイザーの肛門に潜り込み、中から【氷術】をかましたのだとか。
 サンダー明彦側からは見ない方がいい。
 残念ながら、というか、これはイレイザーには効いた。

うおごごごごおおおっ

 今まで聞いたことのない声でイレイザーはいななき、そして今までと違う力の入れ具合から、体内の全てを吐きだすように、さっきまでとは段違いの炎を放射状に吐く。

「いかん、全員退……」
「間に合わ、うわあああああああ!!」

 ダークサイズもチーム・サンフラワーも、その場の全員が炎を食らう。
 ダイソウは近くにいた美羽をマントで庇うが、もろとも炎を浴びて吹き飛ばされる。
 美羽が地面に叩きつけられ、ポケットからスタンプカードが落ち、美羽を抱えていたダイソウの胸元からスタンプが飛ぶ。
 そしてスタンプは、カードのダイソウの欄に綺麗に落ちる。

「皆、大丈夫か。美羽、ダメージは……」
「揃ったーっ! 揃ったーっ!!」
「……平気そうだな」

 炎のダメージをものともしないで、カードを抱えて飛び上がる美羽。
 しかし、状況は深刻である。

「だ、ダイソウトウさま!」

 思わずアルテミスも集中が途切れる。

「アルテミス! おまえは動くな! 俺がいく!」

 まずいと見たジャジラッドが、急いでダイソウ達を抱えて後ろへ下げる。
 ジャジラッドの巨体のおかげで、一度に何人も運べるが、のたうちまわるイレイザーがいつ動き出すとも知れない。
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は『ディスティン商会』のお得意様ダークサイズ、特にダイソウのダメージを見て、

「みんな死んじゃダメだよ! アジト作る時に発注してもらわないと元が取れないんだからー!」

 ジャジラッドが運んでくるメンバーを、手当たりしだい励まし、和泉 真奈(いずみ・まな)が【ヒール】をかけてまわる。

「バカじゃないの! 訳わかんない戦い方するから!」

 菫も叱りながら【命の息吹】をダイソウにかける。
 ノーンは泣きそうになりながら同じく【命の息吹】を使い、

「うわーん、おにいちゃんたちがんばってー」

 と、重ねて【龍玉の癒し】【歴戦の回復術】を放つ。
 ミルディアは体中に流れる汗も忘れて、

「手が足りない! 回復は出来るけどイレイザーを攻撃できないよー!」
「ダイダル卿、大丈夫ですか?」
「わしはいいから、ぱんだを頼むわい。さすがに炎を直はいかんかったのう」

 ダイダル卿は、真奈に煤けたぱんだの回復を頼む。
 そこに、今だ混乱気味にのたうつイレイザーが、炎の第二波を放つ。

「いかん!」

 アルテミスが蓄積した魔法を放ち、炎にぶつける。

「口惜しや、これではまだ足りぬ……!」

 本来攻撃には慣れないアルテミス、こと巨大な攻撃魔力の蓄積にはてこずったようだ。
 イレイザーの炎はやまない。
 むしろアルテミスの魔力を押し、ダークサイズ側に迫る。

「まずい……尽きる……」

 アルテミスが膝をついた直後、突然フレイムたんが炎を纏う。

「!?」

フレイムたんの不可思議な反応の後、背後から突然冷気が吹き込んできた。

「おや? まだ終わっておりませんでしたの?」

 冷気と共に、ネネの声が聞こえる。
 振り返ると、ネネと共にコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がおり、見れば休憩所にいたメンバーもそろい踏みである。
 さらにその中心には、台車に乗った『亀川』まで引っ張り出されている。

「コハク、ネネ。どうしたのだ」

 ようやく立ちあがったダイソウが尋ねる。
 コハクはティーカップを持ったまま、

「いやあ、せっかくのイレイザー戦だし、『第2回戦場のティーパーティをやらないか』って、ネネを誘ったんだ。そしてらネネが……」
「それならばイレイザーの目の前でやらなければ意味がないではありませんか。というわけで皆で見物に」

 ピンチを知らないネネとコハクは非常に悠長である。
 ダイソウは、

「で、なぜ『亀川』まで……」
「だって、こう暑くてはパーティも楽しめませんもの。フレイムたんさえいなければ、とても快適ですわよ?」
「今はフレイムたんが近いからしんどいわよーっ」

 後ろでセレンフィリティが叫ぶ。
 あげくリリが、

「さあ、今こそ目覚めよ、アイスたん!」

 とか言っている。
 グラキエスあたりも元気を取り戻して、『亀川』の傍から離れたがらない。
 氷藍とクレナが、

『フレイムたーん。助けに来たよー』

 と、ダークサイズは眼中にない。
 ダイソウは急ぎ指示を出し、

「『亀川』を前に出すのだ!」

 と、『亀川』をアルテミスよりも前に出す。
 『亀川』がフレイムたんに反応するのか、熱に反応するのか、今は解明している場合ではないが、イレイザーの炎が襲うと、『亀川』はそれと反比例に冷気を強化し、炎を相殺する。

「『亀川』ってこういう使い道だったのかよ……」

 これが『亀川』の正しい使い方なのかは分からない。
 しかし、イレイザーの炎封じに一役買った『亀川』。
 ただ、炎は吐き終わっても荒れ狂うイレイザーをどう攻めるべきか。

「あれ、なーんか大騒ぎしてると思ったら……またこいつらか……」

 やれやれ、とため息をつく桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)
 ニルヴァーナ捜索隊の別任務の終了後、

「イレイザーが関わる別任務があるらしい」

 というのを聞きつけて、この火山帯の遺跡にやってきた。
 エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)は何だか嬉しそうに、

「すっげ! みんなぼろぼろじゃん!」

 と言うのをエリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)が、

「人が傷ついてるのに喜んでるなんて……まったくどういう神経なの、エヴァ?」
「うるせえっ、別にそこを喜んでんじゃねえよ!」
「あの、戦闘中ですし人前ですし、もう少し仲良く……」

 桐ヶ谷 真琴(きりがや・まこと)はいつものように二人の間に入る。
 ダイソウが煉に向かい、

「お前はこの間助力をしてもらったな。今日も助けにきてくれたのか」
「いや、そういうつもりで来たわけじゃなかったんだけど……まあ似たようなもんだからいいか」
「うむ、助かる。では頼んだぞ」
「おいおい! 遠慮がない上にいきなり戦闘に立てって!?」

 ダイソウに無茶ぶりに慌てる煉を、エヴァがけしかける。

「あはははっ! いいじゃんいいじゃん。ちょうどギフトの力も試したかったんだろ?」
「ギフトだと?」

 ダイソウがエヴァを見る。
 煉は頭をかき、

「あーあ。早速ネタばらししちゃって……まあいい。じゃあ行くぜ、シロ、クロ!」

 と、従えた二頭の狼を呼ぶ。
 狼は遠吠えで煉に応え、【ウルフアヴァターラ・アーマー】【ウルフアヴァターラ・ソード】という、二つのギフトに姿を変えて煉がそれを纏う。
 そのまま【氷雪比翼】を展開して、吹雪をまきながら飛翔し、イレイザーに飛びかかる。

「よっしゃー、あたしたちも行くぜー!」

 飛び出すエヴァを追いながら、

「その言葉遣いは何とかならないのかしらね」

 またエリスがチクリ。
 エヴァはそれにカチンときて、

「っせー! 生まれつきなんだよ!」
「あら、生まれた時から話ができたの? すごいわねー」

 ケンカしながら二人は走る。
 そしてやはり真琴はあわあわしながら、

「ケンカしてないで父様を援護してくださいっ」

 と、【シャープシューター】で煉を襲う触手をはじく。
 イレイザーにしてみれば、体内を襲うストレスのはけ口に小さな人間がやって来た。
 叫び声をあげて、エヴァとエリスを手でたたきつぶそうとする。

「あぶ……っ!」

 真琴が声をあげかけた直後、二人は綺麗に分かれてそれを避け、

『邪魔すんなっ!!』

 と、【真空波】と【レジェンドストライク】で腕をきれいに挟み撃ちする。
 そして肝心の煉。

「さあ、お前たちの力を試させてもらうぞ……!」

 と言うと共に、ギフトの上に【怪力の籠手】と【チャージブレイク】で威力を高めた【グレイシャルハザード】を、イレイザーの左目付近に振りおろす。
 イレイザーの目から鮮血がほとばしる。

「……こいつはすごい。これがギフトの力か」

 煉は一撃で、手に入れたギフトの能力の高さを認識する。

「すげえ……つーかずりい……」

 さすがの歴戦のダークサイズも、驚きと嫉妬を隠せない。
 とはいえ、おかげでミルディアや真奈たちの回復が行きとどき、ダークサイズとチーム・サンフラワーは再び立ち上がる。

「もう……ひと押しだ!」
「ゆくぞ!」

 今度はダイソウも戦闘に立ち、全員で最後の総攻撃をかける。
 もはや広範囲攻撃よりも、一点を狙って倒れるまで攻撃するのみ。
 【氷術】を使える者はイレイザーの足を絡め取り、サーベルを使う者はさらに斬りつけてイレイザーに手をつかせようとする。
 高く跳びあがれる者は徹底的に頭部を狙う。
 麗華が右目、煉が左目を落としたことで、すでに的確な攻撃能力を失っているイレイザー。
 腕をふり、炎も吐くが、命中率は無きに等しい。

「ふっふっふ。これで終わりだよ」

 すっかり安全なところで隠れていた円が、【大魔弾『コキュートス』】を込めた【ドラグーン・マスケット】で狙いを定め、美味しいとこどりをしようとする。
 が、円が放った弾丸は、他の複数の攻撃と同時にイレイザーの脳天に決まり、

「……あれ? 今決まった? よね? ボクの一発だよね?」

 と、目を凝らす。
 そしてようやく、イレイザーはその巨大な体躯をついに地面に臥し、1万年間封じられた結界から、ものの数歩の位置で、その命を終えたのであった。