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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



19.今日の主役は。


 小さな花嫁様には鯛焼形のジャンボクッション。
 読書家のお嬢さんには変な魔法書。
 酒好きの三十路には血の色のワイン。
 ついでに来る途中に見つけたよさげな人形工房で、ちみっこ共に可愛い人形を購入して。
「あと何があったかねぇ?」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、顎に手を当て考える。
「ああ、クリスマスグッズだ」
 プレゼントも大事だが、場を盛り上げるものだって欲しい。
 ――飾り付けだってしたいしねぇ。
「みーちゃんは? いいのあったかい?」
 それから、カガチの隣を歩いていた柳尾 みわ(やなお・みわ)に問いかける。
 あいつへのプレゼント買うのよ、と張り切っていた彼女は、少しばかりのお金が入ったがま口財布を握り締めて、こくりと頭を縦に振った。
「あれにする」
 指差した先にあったものは、青いミトン。
 指先がカバーになっていて、そのカバーを取ったら指が出る仕組みになったそれは、
「機械弄りが好きなあいつにぴったりだわ。いつも青い服だから、色も合うと思うの」
 得意そうに笑っちゃって、こっちまで楽しくなるし嬉しくなる。
「それじゃ、最後の目的地へ向かおーか」
 大荷物を抱えて向かう場所はヴァイシャリー。
 あほの子魔道書に、せめてそのあほさを隠せそうな小洒落たブックカバーを買ってやろうと、いざ向かわん。


 買い物を終え、みわは広場のベンチに座って一息ついた。隣には今までに買った大量のプレゼントやパーティグッズの袋が置かれている。
「重かったでしょ。ありがとね」
 荷物持ちを手伝ったみわの頭を撫でて、カガチが言った。
 べつに、とつっけんどんに返すみわに、「労い」とホットココアが渡されて。
 暖かいカップで手を温めてから、甘い甘いそれを飲む。
「……あれぇ?」
 と、カガチが少し驚いたような声を上げた。視線の先、見付けたのは自分たちと同じく大荷物を抱えた椎名 真(しいな・まこと)の姿。
 それから、
「『あいつ』も居るね」
 真の周りをちょこちょこと歩きまわる、彼方 蒼(かなた・そう)
「椎名くーん」
 カガチがひらひらと手を振って真に呼びかけるのを見て、みわは内心で慌てた。
 ――わ、わ。呼んだりしたら!
「あ! みーちゃんだー!!」
 ――ほら、見つかっちゃったじゃない!
 みわの姿を目に留めた蒼が、嬉しそうな声を上げて走り寄ってくる。
「なんであんたがいるのよ!」
 驚きすぎて、険のある声になってしまった。けれど蒼はにこにこ笑顔で、
「おかいもの!」
 と元気よく質問に答える。
 ――違くて! それが言いたいんじゃなくて!
 一人で勝手に悶えていると、
「椎名くん、大荷物だねえ」
「カガチもな。もしかしてクリスマスパーティか?」
「あ、そっちも?」
 カガチたちはどこぞの奥様よろしく井戸端会議を繰り広げてしまっていた。
「あ。きらきらおほしさまー」
「ちょ、ちょっと!」
 その隙に、蒼はふらふら歩いて行ってしまうし。
「どこいくのよ、まちなさいよ」
 思わず追いかける。
 イルミネーションを追いかける蒼。
 蒼を追いかけるみわ。
「きらきらきれーだよー」
「なんで光ってるの、これ」
「わかんないー、でもきれーだね」
 光るお星様に。
 蒼の、へにゃりとした笑顔が照らされて。
 ――ほんとうに、きれい。
 どっちが、かなんてわからないけど。
「みーちゃん、あのね」
 きらきら、お星様と同じくらい光る瞳を真っ直ぐ向けられて。
「な、なによ」
 思わず気圧され気味になる。
「えーっと、えーっと、」
 だけどだんだん、蒼の瞳が揺らいで。
 もじもじ、もじもじ。
 そんな態度じゃこっちまでなんだかもじもじしてしまうじゃないか。
「な、なによ! いいたいことあるならはっきりしなさいよね!」
「……あの、ね! これ!」
 意を決したように、蒼がずいっ、と渡してきたのは、
「……なにこれ?」
 ラッピングされた、四角い箱。
 開けてみると、小さなオルゴールがあった。
「プレゼント! にぼしとまよっちゃったけど……こっちでよかった?」
 不安そうに、問い掛けられて。
 ――べつにどっちでも、あんたからならうれしいわよ。
 なんてことは、絶対に言わない。
「貰ってやるわ」
 つんつんしたいつもの態度でそう言って。
「……ありがとう」
 だけどそれでも嬉しいから、この言葉くらいなら言ってやる。
「えへへ! みーちゃんがよろこんでくれたー、じぶんもうれしー」
「れ、れいぎだからいっただけよ! べつによろこぶところじゃないでしょー!」
「それでもうれしー」
 にこにこ、笑顔の蒼に。
「……あたしもこれあげる」
 例のミトンを、差し出した。
「ほえ。じぶんにもくれるの!?」
「ひ、拾っただけなんだからね! あんたのために、なにがいいかなってうーうーうなったなんてこと、ないんだからね!」
「あけていーい?」
「すきにしなさいよ、あんたにあげたんだからもうあんたのものだもの」
 言って、ぷいっとそっぽを向いた。
 ……だけど、ちらちら窺い見る。
 ――よろこんでくれる?
 ――ねえ、あたし、すっごくなやんだんだからね。
 ――あんたがなにをもらったらよろこぶのか、すっごく、すっごく。
 そこでふと、オルゴールに目を落とし。
 ――あんたも、すっごくなやんだ?
 やっぱりさっきの一言、言ってやるべきかしら、なんて。
「わぁー、ミトンだぁー!」
 思っていたら、蒼の声に驚いた。
 だって本当に嬉しそうに、大きな声で言うものだから。
「おにゅーのミトンだぁー、ありがとぅう!」
 尻尾をぶんぶん振っちゃって、嬉しそうに跳ねちゃって。
 ――あ、たしかに、だわ。
 蒼が嬉しがっているのを見て、同じく喜んでいる自分が居るから。
 喜ぶところじゃないでしょう、というのは撤回すべきだとみわは思った。
「みーちゃん、ありがとぉ!」
「……ツリー、きれいね」
 話はわざと逸らす。
 だって、恥ずかしいのだもの。
「うん。おっきーねぇー」
 ふたりで見上げたツリーは、なんだか嬉しくて、あったかで。
 それを蒼にも伝えたかった。
 尻尾を絡めようと、頑張って伸ばしてみるけど届かなくて。
 しゅん、とうなだれたところに、
「手、つなごぉー?」
 もっと近くの、もっと届きそうなものが差し伸べられて。
「……しかたないわね」
 その手を取った。
 ミトンを嵌めた蒼の手は、みわよりも大きくて、温かくて。
「ねえ、」
「なーにー?」
「……なんでもないっ」
「へんなみーちゃん」


「それで、蒼が『みーちゃんにあげたいー!』ってお皿洗いとかのお手伝い頑張ってさ」
 お駄賃をこつこつ貯めて、今日に至ったんだと。
 真はカガチに話す。
「良い子だねぇ、蒼くん」
「お皿とか結構割れちゃったんだけどな」
 それによって怪我をしたりしなかったのがせめてもの救いか。
 夜になったら貯まったお金を何度も数えて。
 どれくらいあれば足りるかな? と頭をひねっていたっけ。
 実際買う時になって、足りなかったのは御愛嬌。レジで蒼がどうしようどうしようと頭をひねっている時、こっそり店主に足りない分を渡したりして無事買えて。
 ――喜んでもらえたらいいなぁ。
 蒼からみわへのプレゼントだけじゃなくて、自分からのプレゼントも。
 ロボットおもちゃや、抱き枕。
 ――寝る時にぎゅ……ってしてたら、可愛いだろうな、京……。
 ――って。俺は何を想像しているんだ。
 自分で自分にツッコミを入れて、妄想を払う。
 日本酒だとか、ぬいぐるみだとか、どてらだとか。
 喜ぶ顔を想い浮かべながら買ったんだ。煩悩や妄想は退場願う。
「ここで会ったのも何かの縁かな。カガチ、一緒にご飯でも食べに行かないか? 俺奢るからさ」
「お、いいねぇ。おいみーちゃん驕り飯だってよ……あれ、みーちゃん?」
 カガチがきょろきょろと辺りを見回して首を傾げた。みわが居ない。
「蒼?」
 もしやと思って見渡すが、蒼の姿も見当たらない。
「お兄さん方! お食事どころをお探しですか!」
 そしてそれを、食事処を探していると勘違いしたらしいキャッチのお兄さんは、
「この近辺にイイお店があるんですがど」
「あ? 何? こちとら緊急事態なんだけど。わかる?」
 カガチに睨まれて即退散。
 その間に、真は二人を見付けた。
「ったく。察しなさいよ、まったくもう。
 おーい、みーちゃ、」
「カガチ」
 みわの名前を呼ぶカガチに、ちょいちょいと手招き。
「あらま」
 見つけた二人は、大きなツリーの前で小さな手を繋いで。
 きらきらのお星様を、見上げていた。
「こりゃ声をかけるのは野暮だねえ」
「いい雰囲気みたいだしな」
 遠目から見守るだけにしておこう。
 ――それにしても、蒼。積極的だな……俺も見習、いや、待て。いやいや。
 またも一人で心中にツッコミを入れて、頭を振った。
「なーにやってんの椎名くん」
「いや、うん。ちょっと、な」
「ま。あの子らはもうちょっとあのまんまにしておいて。
 こっちはこっちでホットワインでも頂こうか」
「お。いいなホットワイン……って、おーい高校生!」
「大丈夫俺成人してるし学生に見えないから」
「その自虐ネタ、笑えないぞ?」
「笑われても凹むねえ」
 などと言葉を交わしつつ。
「メリークリスマス。ちみっこたちに幸あれ」


 余談だが。
 この日の夜、眠りに就いたみわの枕元に、蒼とお揃いのミトンが置かれていたとか。