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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 胸に咲く笑顔
 
 
 
 そこはイタリアの僻地。
 観光地でも何でもない丘には人気もない。
 その丘の上にお世辞にも立派とは言えない墓がポツリと建っている。
 それが……クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)の大切だった彼女……育ての親であり、母で、姉で、同業者で、先輩で――そして初恋の人だったビャンカ・ミーテルーチェが眠る場所だった。
「もう5年になるのですね」
 供えるための花を抱え持ちながら、ルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)が呟いた。クドがビャンカを失い、同時にハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)と出会ったのが5年前。そして、ルルーゼがクドと出会い、心を救われたのが4年前のこと。
「生きてるほうの時間は、嘘みたいに早く流れますからね。お兄さんもあっという間におっさんになってしまいそうですよ」
 クドは冗談めかして笑う。
 その笑顔があったからこそ、大切な人たちを奪われたルルーゼは、奪ったものたちに対しての復讐の念に囚われずにいられた。クドが、真っ暗な人生の中で、新しく出来た大切な人を再び失ってもなお、誰かに憎しみを向けることなく強く生きていたから。
 クドの言葉に救われたからこそ、府の感情に囚われることなく、こうしてルルーゼは生きている。
 そしてクドにその強さを与えた人こそが……ビャンカなのだった。
 
 
 クドは戦災で親を亡くした。戦争の中、親を失った子供が生きていける道はそれほど多くない。選んだという意識もないままに、気づけば傭兵となっていた。
 そんなクドの傍らにいて、傭兵としての生き方、戦うすべ、その他諸々を教えてくれたのがビャンカだった。
 彼女もクド同様戦災孤児で、物心つく前から銃を手にして戦場を巡っていた。凄惨で真っ暗な人生を送っていたのに、まるで太陽のように底抜けに明るくて、満開の花のような綺麗な笑顔をいつも浮かべていた、傭兵らしからぬ傭兵さん。
 少々抜けていて、ドジっ子で、ぶっちゃけアホの子で。なのに戦場では不思議と運が強くて、とてもしぶとかった彼女。
 そんな彼女だから戦場でも生き抜いていけるのだと、感心して見ていた。けれど……。
(結局はおっ死んじまいましたけどもね……)
 死神も呆れて素通りする。そんな風にからかわれていた彼女は何があっても死なないんじゃないかと思ってた、ビャンカが死ぬその寸前まで。
 常に誰かが死んでゆく戦場で、彼女だけが死なない、なんてはずはなかったのに。
 
 
 ――何時だったか、クドはビャンカに尋ねたことがある。『こんな最悪な人生の中で、どうしてそうも笑顔でいられるのか』と。
 その問いにビャンカは、
「――免罪符、ってやつかな?」
 と答え、またひとつ、笑顔を浮かべた。
 けれどそれは、凄く、それはもう凄く哀しげな笑みで。
 自分のその手で命を奪ってしまった人たち。彼らは自分が殺さなければ今頃知らないどこかで笑顔で暮らしてたかもしれない。
 愛しい家族と、親しい友人と、小さな幸せの中で楽しく笑いあってたかも知れない。
 けれど、自分はそれを全部奪ってしまった。だから自分は彼らの分まで笑う。瞼を閉じるたびに聞こえてくる怨嗟の声に耐えて、奪った命の数だけ、ただひたすらに笑うのだと。
 けれどクドは思う。
 免罪符なんて言っていたけれど、彼女はそれを背負っていた。
 逃げないで。目を逸らさないで。
 自分の手で奪ってしまった命の分だけ笑顔を浮かべる。そのたびに襲いかかってくるであろう罪の意識と、怨嗟の声と、真正面から向き合って、受け止めて、背負っていた。
 そんな、強いビャンカにクドは憧れていた。
(ビャンカさんや)
 ささやかな墓石に向かい、クドは語りかける。
(死ぬ間際ですら笑顔だったお前さんが残した『叶うものなら、君にはせめて自由に生きてほしい』という言葉。その言葉通りお兄さんは今、自由に生きてますよ)
 そして視線を、墓参に同行しているハンニバルに、ついでルルーゼへと移してゆく。
 ハンニバルと契約して契約者になり、傭兵をやめてパラミタに行った。その後、大切な人を失って絶望の淵を彷徨っていたルルーゼと出会い、彼女とも契約を結んだ。
 戦場から解放された反動からか、今は妙に無気力になってしまっているけれど。
 今は亡き彼女の遺言だけはしっかりと心に抱き続けている。
 
 ――自由にさ、生きてますよ――
 
 それが許されなかった彼女の分までも。