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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 私の大切な思い出の場所
 
 
 
 年末年始はどう過ごそう?
 そう考えていたところに四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)赤羽 美央(あかばね・みお)から、地球に行かないかと誘われた。
「地球? いいけどどこに行くの?」
 美央には地球に帰る場所はなかったはず……と訝る唯乃に美央は答えた。
「私がお世話になった大切な場所があるんです……。そこに唯乃ちゃんを招待したいなって……ダメですか?」
「ううん、そんな場所だったら私も行ってみたいわ」
 ぜひ行ってみたいという唯乃に、美央は良かった、と小さく息をついた。
 
「お世話になった場所って……下宿先とかかしら?」
 だったらお土産とか持っていった方が良いだろうと、唯乃はパラミタらしいものを見繕った。下宿先だったら、住人もいるだろうから人数が多くても大丈夫なものがいいだろう。食べる人の年代も分からないから、誰にでも好まれそうなお菓子にしよう。
 あと持っていくのは、自分の数日分の着替えと日用品ぐらいか。
 美央のお世話になったところだということで、失礼のないように気構えて唯乃は地球に行く準備を整えた。

 そしていざ地球へ。
 どこに連れて行ってくれるのだろうと唯乃がついて行くと、美央は公園に入っていった。
 春夏ならば緑の木々が、秋ならば色づいた木の葉が彩っていたのだろうけれど、今は冬枯れの寒々とした風景が広がっているばかりだ。遊んでいる子供の姿もなく、閑散とした印象の公園だ。
 ここを通り抜けて行くのかと唯乃は思ったのだが、美央は公園の真ん中で足を止めると懐かしげに周囲を見渡した。
「もう長い間経っていますが、あまり変わっていませんね……」
 そして唯乃に向かい、手で公園全体を指し示すようにして言った。
「ここは、私がパラミタに渡る前、1年ほど住んでいた公園なんです。家が焼けちゃってから、この公園には随分お世話になりました」
「えっ……?」
 ということは、ここが目的地なのかと驚いている唯乃には気づかず、美央は公園のあちこちを覗いて回る。
「ゴロー、ゴロー、猫五郎ー。……いないようですね」
 猫は気まぐれだから、と諦めて戻ってくると美央は箒を手にした。
「掃除する間、待っててくれますか?」
「だったら私も手伝うわ。2人でやった方が早く終わるから」
 美央がお世話になった公園ならばと、唯乃も手伝って掃除を始めた。
 
 
 しゃっ、しゃっ、と箒が地面を掃く音に、昔のことが思い出される。
 契約前、病弱だった美央はほとんど外に出ることなく生活していた。けれどある日の深夜に起きた火事で、美央以外の家族は全員命を落とし、家も燃え落ちてしまった。
 頭が回らないまま美央がふらふらと歩き、座り込んだのがこの公園だった。
 そこでジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)と出会い、話をしているうちにジョセフが『契約すれバ病弱なのも治るかも知れませんネ』と呟いたのを耳にして、美央自身が望んで契約したのだ。
 その後、美央はしばらくジョセフと一緒にこの公園で暮らした。
 どこにでもありそうな普通の公園だけれど、その頃の美央にとって初めての外であり、同時に図鑑以外で初めて出合った野良猫や毛虫などの友達がいた思い出の場所。
 だからこそ、唯乃をこの公園に連れてきたかったのだ。
 ふと、足下に柔らかいものが触れたのを感じ、美央は目を落とした。そこにいたのは白と黒の斑の猫。
「猫五郎……」
 だいぶ年老いた猫だから、もう会えないかも知れないと思っていた。けれど、美央に身体をすり寄せてくる猫五郎は前と変わらず元気そうに見える。
 どこかで日向ぼっこでもしていたのだろう。猫五郎の毛皮はほわほわと太陽の温もりを宿していた。
「猫五郎、ただいま……」
 この公園を出るとき、美央は猫五郎に『また帰ってくる』と約束した。それが守れたことが嬉しい。
「どうしました? 機嫌が良いですね。公園が綺麗になったのが嬉しいですか?」
 美央の言葉を理解しているかのように、猫五郎はすりすりと身体をすり寄せてくる。元々あまり人に甘えてこない猫だけに、その、まるで我が娘を迎えてくれているような歓迎ぶりが胸にしみた。
「もっと早く帰ってこようと思っていたのに遅くなってごめんなさい。でも、向こうでも元気にやっていますから。それに……大切な人も出来ました。紹介します。唯乃ちゃんです」
「ええっと……よろしくね」
 唯乃の返事に、猫五郎はあぁんと鳴いて答えた。
 
 唯乃を公園に招待することが出来、猫五郎との再会も果たし。
 地球に来た目的を果たした美央は、はた、と気づいた。
(これからどうしましょう?)
 ここに来ることばかりに気を取られて、その先のことを考えるのを忘れていた。
(泊まる場所……今から探せるでしょうか……)
 世間は年末年始。宿泊施設はどこも繁忙まっただ中のはず。どうしようか、と何とはなしに猫五郎を見ると、猫はひとつのびをして、以前美央が寝泊まりしていた土管のような筒状の遊具の中に入っていった。
「そうですね」
 その様子を見て、美央は心を決めた。
「唯乃ちゃんが良かったら、ここで泊まってみませんか?」
「ここって、この公園でってこと?」
「はい。野宿ですが……大丈夫、2人だとそんなに寒くはないですよ」
 いきなり野宿を持ち出されて驚いた唯乃だったけれど、それが美央がしていた生活だというならやってみたいと思い直す。
「うん、そうしてみるわ。だったらお菓子じゃなくてごはんになる食料品を持ってくれば良かったわね」
 そう言いながら今日のねぐらとなる土管をのぞき込む唯乃に、美央は荷物から新聞紙を出して渡した。
「はい、唯乃ちゃん、新聞紙をどうぞ。これがあるととても暖かいんですよ」
「何だか本格的ね」
 唯乃にとってははじめての、美央にとっては久しぶりの、猫五郎にとってはいつもの、土管生活。
 野宿するには寒い季節だけれど、寄り添い新聞紙にくるまって。
 2人と1匹は互いの体温と新聞紙のインクの匂いに包まれて、心地よい眠りに落ちてゆくのだった。