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リアクション
仲直りへの一歩
裏口のドアノブをそっと回す。
カチャリ……。
打ち合わせ通り、鍵は解除されている。
音を立てないように細心の注意を払って咲夜 由宇(さくや・ゆう)は西洋風の屋敷の中へと侵入した。
抜き足、差し足、忍び足。
片手に手荷物、片手にパラミタまんじゅうの入ったおみやげの紙袋。
自分の実家なのに見つからないかとびくびくと、由宇は廊下を進む。
パラミタに行くのに、父親は最後まで反対していた。その上、最後には喧嘩して家を飛び出てしまったので、父親とは顔を合わせづらい。
厳格な父親は一度言い出したら意思を変えることは滅多にない。それも、自分がこれまで積み上げてきた実績を根拠にして話を詰めてくるので、由宇が父親に口で勝つのはとても難しいことなのだ。
けれど、喧嘩したままでいるというのも気まずいものだ。
なんとか仲直りの糸口を掴みたい。その為に、せめて母親から父親がどんな様子なのかをリサーチしておこうと、由宇はこっそりと実家に帰ってきたのだった。
うっかり使用人と顔を合わせたりしないように気をつけながら、由宇はそのまま母親の部屋へと向かった。
その頃。
由宇にメールで頼まれて、裏口の鍵を開けておいた母の方は自室でのんびりとお茶を飲んでいた。
そろそろ由宇が帰ってくると知らせてきた時間になる。
娘がどうしてこっそりと家に帰ってくるのかも、母にはすっかりお見通しだ。
「まったく、うちの素直じゃない馬鹿共はどうにかならんもんかねぇ。言い出したら聞かないところとか、どうでもいい部分ばっかり似ちまって、どうしようもないことこの上ないと言うか……」
自分から情報を得て父親との仲直りをしようとこっそり帰ってくる娘。そして、自分は出張に出かけていて屋敷には戻っていないと伝えておけ、と言って自室にこもっている夫。
どちらも根性だけはあると思うのだが、こんなところで発揮しなくてもとも思う。
「めんどくさいわ」
ついそう呟いたところに、部屋の扉が密やかにノックされた。
「お母さん、ただいま。これお土産のパラミタまんじゅうです」
「ちょうど茶菓子が欲しかったところだよ。気が利くねぇ」
母は由宇にも茶を勧めると、早速パラミタまんじゅうを食べ出した。由宇は湯飲みは手にしたものの、母にどう切り出そうかと迷う方が忙しく、茶を楽しむ余裕はない。
「あのね、お母さん……お父さん、今もまだ怒ってますかぁ?」
「そうさねぇ。あの人も頑固だから」
「宥めてくれると嬉しいんですけどぉ……」
「そんなのめんどくさいわー。で、向こうでは上手くやれてるのかい?」
「え? うん。上手くやれてるですよぅ」
さすがに、借金を作ってしまったとは言えないからそこだけはごまかしたけれど、後の色々なパラミタでの話を由宇は母に語って聞かせた。
「ま、楽しくやってりゃそれでいいけどね」
「お父さんにも、私は向こうでパラミタ生活を楽しく過ごさせて貰ってるって伝えたいんですけど……お父さんは?」
おそるおそる聞いた由宇に母は答える。
「出張に出かけていて屋敷には戻ってないと伝えとけ……って部屋でごねてるわ」
「部屋に行ったら……会ってもらえるでしょうかぁ」
「ま、行ってみればなるようになるだろー」
母の楽観に押されるように由宇は立ち上がった。その手に母がパラミタまんじゅうを持たせる。
「行くんなら辛気くさい顔するんじゃないよ。あの人がぐだぐだ言ったらまんじゅうでもぶつけてやる勢いでやってきな」
「うん……行ってきますぅ」
まだ不安ながらも由宇は父の部屋に向かって歩き出したのだった。
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